8-4 語られる絆の真相
―あらすじ―
シールドを破られて危機的な状況になっていたけど、間一髪の所でウォルタ君に助けてもらった。
最初は彼だけかと思ったけど、レシラムのシロさんも駆けつけてくれていた。
それでウォルタ君とも合流できたって事で、僕達は彼に本部への連絡をしてもらう。
壊滅したっていうS2が心配だけど、ひとまず僕達は予定通り“エアリシア”のギルドに向かう事にした。
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[Side Ratwel]
「…殆どがシロに調べてもらった事だけど、こんな感じだね」
前にも何回か聞いた事はあったけど、そんなに昔からあったなんてね…。予定通りギルドの方に向かい始めた僕達は、その道中でウォルタ君…、がシロさんに頼んで調べてもらった事を聞いていた。その内容はデアナの殺し屋のことで、規模は小さくなってるけど三十年以上前からあったらしい。デアナだから僕達にとってはあまりなじみがない事だけど、エムリットのアルタイルさんとか、ランベルさんのチームメイトのキュリアさんがその事件に巻き込まれた事があったらしい。
「ですけどこうして聞いてみると…、凄く身近で怖くなりますよ」
「だよね…」
「うん。だからなのかも知れないけど、敵は恐怖とかでラスカを支配したいのかもしれないね」
ソーフの言うとおり、僕も聞いただけで背筋がゾッとしてきてる…。それも最近お世話になったランベルさんにも凄く関係ある事だし、現に今もその組織? 集団を相手に戦ってる真っ最中。今までに何度も危ない事に巻き込まれたり関わったりしてきたけど、直接
死と隣り合わせの状況になってるって言う意味では初めてなのかも知れない。
「こうなってくると戦そ…」
「ただ者じゃないって思ってたけど、やっぱり違うね! 」
「ん? あれってもしかして…」
絶対にそうだよね? 緊迫した状態で滅入りそうになってきたけど、僕はふと、行く先の人影が目に入る。距離的に路地二、三本分ぐらいだと思うけど、その人の種族に思わず二度見してしまう。丁度ベリーが何かを言おうとしてるところだったけど、僕はつい、その言葉を遮ってしまう。何故ならそこを通りかかったのは…。
「フライ! 」
「らっ、ラテ君? 」
「ここにいるって事はもしかして、フライも“ルノウィリア”の事で来てるんだよね? 」
行方不明になってるシルクの事を知っている、フライゴンのフライ。僕に呼び止められた彼は凄く驚いていて、他に三人いるけどハッとこっちの方に振り返る。彼とは“緑巽の祭壇”で偶々あったけど、あのときは不自然な感じで入れ違ったから凄くモヤモヤしてる。おまけにシルクの事を全部知ってるような話し方をされたか…。
「えっ、ウォルタ君? 入院してたんじゃなかったの? 」
「おとといまでね。シャトさんとハンナさんとヴァースさんも、何でここに? 」
「保安協会の代表から個別に呼び出しがあってね、その作戦に参加してる感じかな? 」
「…ウォルタ、知り合い? 」
向こう側の三人…、特にエネコロロの彼女も凄く取り乱してるけど、この感じだとベリーの言うとおり、三人はウォルタ君の知り合いなのかもしれない。多分ウォルタ君の目線的にエネコロロがシャトって人、オドシシがハンナさん、オンバーンがヴァースって言う人だと思うけど…。
「うん。三人とも“英雄伝説”の当事者なんだけど、エネコロロが“志”の賢者のシャトレアさんで、オンバーンが“友情の賢者”のヴァースさん。それから今はオドシシだけど、フレフワンのハンナさんが“絆の賢者”だよ」
「って事はウォルタ君? この人達が言ってた人なんだね? 」
「そうだよ」
確かウォルタ君の代は“理想”だけが欠けてるって言ってたから、一応揃ってる事になるんだよね? 種族と名前が合っててホッとしたけど、ウォルタ君は順を追って紹介してくれる。まさか“英雄伝説”の当事者とは思わなかったけど、ウォルタ君と同じって事は、三人とも違う種族になれるんだと思う。聞いた感じだとオドシシの彼女が変えてるみたいだから、多分間違いないと思う。
「それでウォルタ君? この三人は? 」
「あぁごめんごめん。ブラッキーがラテ君で、ワカシャモが幼馴染みのベリー。それからシェイミっていう種族のソーフ」
「もしかすると“星の停止事件”を解決したチーム悠久の風、って知られてるかもしれないね」
あれは僕達だけって事が一人歩きしてるけど…。入れ替わりみたいな感じでオンバーンのヴァースさんが聞くと、今度もウォルタ君が思い出したように紹介してくれる。今はウォーグルの姿だから翼で、だけど、一人ずつ指して話してくれたから分かってくれてると思う。最後にフライが付け加えると、ピンときたらしく三人ともあぁーって感じで声をあげていた。
「それなら聞いた事があるわ! あなた達が活躍してなかったら、今頃世界が滅んでいたのよね? 」
「君たちの事はデアナでも有名だよ。何しろ世界を救った英雄だからね」
「あははは…。でも私達だけじゃなくて、ギルドの先輩達とかフライ、シルクた…そっそうだよ! すっかり忘れてたけど、フライ! 」
あっ、僕も今思い出したよ! 例の事が一人歩きしていて少し歯がゆいけど、まさか“デアナ諸島”でも知られてるなんて思わなかった。言ったって事はヴァースさんはデアナ出身の人なのかも知れないけど、英雄っていうのは少し言い過ぎなような気がする。だからって事でベリーがやんわりと違うって言おうとしてたけど、その途中で凄く重要な事を思い出す。僕はベリーがその名前を言って思いだしたんだけど…。
「シルクの事、知ってるんだよね? 」
行方不明になっている親友…、何故か“緑巽の祭壇”で気を失っていたエーフィの事を問い詰める。
「ええっとシルクって、あのエーフィの事だよね? ハンナさんの先代みたいだけど、その人がどうかしたの? 」
「…分かったよ。シルクが何て言うか分からないけど、いつかは言わないといけないから正直に話すよ…」
この感じだとエネコロロの彼女も知ってるのかもしれないけど、問い詰められたフライは観念したかのようにため息を一つ…。その後意を決したように顔を上げ、神妙な様子で話し始める。
「ラテ君達がどこまで知ってるか分からないけど、シルクは自分の意思で病院を抜け出してるらしいんだよ」
「じっ、自分乗って、何で? それなら普通側にいたラテ君達が気づくはずだよね? 」
「そうだけど…、シルクは多分、話すと意地でも止められる、って思ったんじゃないかな? 」
「うん。もしあのとき気づいてたら、そうしてたよ」
あのときはアーシアさんもいたから気づけたはずなんだけど…、揃って居眠りしちゃってたから…。結局僕は疲れて朝にアーシアさんに起こされるまで気づけなかったからなぁ…。
「それで脱走した後偶然チェリーと会って…、確か四日前って言ってたかな? その日に保安協会の代表と会ったみたいだね」
「四日前って…ええっ? その日ってウォルタ君? 私達が代表に呼ばれて“ビースト”の事を教えてもらった日だよね? 」
「そっ、そのはずだよ! 」
四日前って事は、僕達が“捌白の丘陵”の“ビースト”を討伐しに行った日だよね?
「って事はもしかすると、入れ違いになったのかもしれないですね」
「…だね。それでその後は、ウォルタ君は聞いてるかもしれないけど“漆赤の砂丘”で“ビースト”の討伐」
「それはキノトから聞いたよ。暴走した僕を止めてくれたんだよね? 」
「そうらしいね。…でここからは知らないと思うけど、シルクはその日のうちに“エアリシア”に行って、傭兵として“ルノウィリア”に潜入してたらしいよ」
「せっ潜入って…」
「言葉のとおりだよ。それで潜入中は“ルノウィリア”の情報収集をしていて、“パラムタウン”の事件にも同行していたらしいね」
「ぱっ、パラムって…、嘘でしょ? 」
「本当だけど…、安心して。気づかれないようにギルドの副親方とか…、要人を保護して逃がしてたみたいだから。“エアリシア”に戻ってからも捕らわれた人をこっそり逃がしたりしてたみたいなんだけど、一部の探検隊員とかはボク達側で協力してくれてるよ」
ってことはええっと…、病院から脱走した後で保安協会の本部に行って…、“漆赤の砂丘”で“ビースト”…じゃなくて暴走したウォルタ君を倒してから“ルノウィリア”に行ったんだよね? それから“パラムタウン”とかで捕まった人達を解放して…。
「ぼく達側…? フライさん、どういう事ですか? 」
「そういえばボクの事も話せてなかったね。コット君と別れた空の事なんだけど、三日前から、シルク達の方にアクトアの情報を流してた…。一昨日からはフィリア、っていう内通者もいたんだけどね」
「ええっ、フィリアも? 」
「うん。フィリアさんは偶然シルクと連絡がついて、ボクと同じで口止めされてたみたいだけど…。それで話をシルクの事に戻すと、三日前からは今日のために動いてた、って感じだね。“紫離の海溝”に“ルノウィリア”の実力者をおびき出して、“ビースト”を討伐するついでに拘束…。同じ日には別の協力者…、パラムの副親方が幹部の一人を捕らえたみたいだね。それで後の事は、ラテ君達が知ってる事の通りだよ」
「…ありがとう。だけどフライ? シルクって昏睡してたはずだよね? なのに何でそんなに…」
「それはボクにも話してくれなかったんだけど、いつも通り無茶してるから、だと思う。シルク自身は隠してるつもりだと思うけど、一昨日から結構頻繁に血を吐いてるからね…。今日もボクは止めたんだけど、今もいつ倒れてもおかしくない状態のはずだよ…。シルクが無茶をするのはいつもの事だけど、流石に今回は無傷では済んでないからね…。度が強いメガネが無いと殆ど見えなくなってるみたいだし…」
…えっ? 嘘でしょ?
続く……