8-3 “英雄”は遅れてやってくる
―あらすじ―
“エアリシア”に着いた僕達G班は、着いて早々街の空気に違和感を感じる。
不安要素はいくつかあるけど、僕達はひとまず各班で行動を開始した。
僕達悠久の風はまず始めに、別で来ているらしいウォルタ君と合流するためにギルドに向けて動き始める。
だけどその途中で敵グループと鉢合わせになってしまい、僕は集中攻撃を受けて危機的な状態に陥ってしまった。
――――
[Side Ratwel]
「…
ラテ君! ゴッドバード! 」
「おい、嘘だぁぁっ…! 」
「不意打ちだなんて卑きぃっ? 」
「熱風! 」
「っく…! 」
…あれ? 隙を突かれて…痛手を食らった僕は、ワルビアルの重撃を…受けそうになる。僕は開始早々の…離脱を覚悟して…堅く目を閉じたけど…、いつまで経っても…その痛みが襲ってこない。恐る恐る目を開けてみると…、そこには凄い早さで…僕の目の前を横切る一つの陰…。立て続けにルチャブル、ワルビアルに翼を叩きつけ…、そのまま急浮上…。間髪を開けずその翼に…エネルギーを送り込み、力一杯羽ばたかせる。すると僕が相手していた…三人に向けて…、焼け付くような突風が…吹き始める。一瞬何が何だか…分からなかったけど、この二つの技…、それからなじみのある声で…、誰なのかすぐに分かった。その人物は…。
「ウォルタ…君? 」
パートナーのベリーの幼馴染みで…、“真実の英雄”のウォーグル…。大ダメージを受けた…僕に敵を近づけまいと…、その大きな翼を…羽ばたかせてくれていた。
「そうだ…」
「くっ…。…だが一人増えたところで…、数では私達が有利なのには変わらないわ…。あんた達…」
「貴様に言われなくとも…そのつもりだ…! 」
「っ? 」
「…シロ! 」
…もっ、もしかして…シロさんもここに来て…。ウォルタ君は僕の問いかけに頷いてくれたけど、それはフラージェスの言葉に遮られてしまう。状況的に当然と言えば当然だけど、相手三人はウォルタ君も敵だって認識したらしい。だけど例のフラージェスの言うとおり、人数では九人いる向こうが有利なのには変わりない。急にウォルタ君に掴まれて飛び下がられたからビックリしたけど、彼は青い空を見上げて大声で…。
「…
青い炎! 」
「なっ…! 」
「えっ? これって…」
ウォルタ君の呼びかけが合図だったのか、急に上空から蒼い炎が降り注いでくる。この時初めてウォルタ君の行動の意味が分かったけど、それは僕達がついさっきまで居た場所で燃え上がり始める。それも赤じゃなくて青色をしているから、普通の炎よりも遙かに高い温度で…。横目でチラッと見た限りではベリー達には当たってないみたいだけど、その二人が相手している敵にも容赦なく降り注いでいた。
「シロさん? シロさんも来ていたのですか? 」
「ああそうだ」
シロさんも動いてるって事は…、やっぱりそれだけとんでもない事件なんだよね、今回のは…。空からの炎が止む頃には、敵方九人全員が意識を手放していた。こういう終わり方もどうかと思うけど、敵が倒れたって事で、ベリーとソーフも僕達の方へと来てくれる。この時にはもうウォルタ君には地面に下ろしてもらってたんだけど、シルクの回復薬を飲みながらもう一度見上げてみると、ちょうど雲がかかってる辺りから白くて巨大な龍…、レシラムのシロさんが舞い降りてきているのが見えた。同じく滑るようにして地に足を着けたソーフの問いに、彼はこくりと頷いた。
「だけどほんとに助かったよ。ありがとね! 」
「うむ」
「ですけどラテ? 凄く攻められてましたけど大丈夫です? 」
「ウォルタ君達が来てくれなかったら危なかったけど…、何とかね。ベリーとソーフは? 」
「一人しか倒せなかったけど、私は平気だよ」
「ミーも問題ないです! 」
なら良かった。回復できたから大分楽になったけど、一応チームメイト二人にもこう尋ねてみる。見た感じ大きな怪我とかはなさそうだけど、そう言ってくれたから結構安心できた気がする。ベリーは心配しないで、って感じで満面の笑みを浮かべ、ソーフはソーフで元気よく微笑んでくれる…。この二人の様子に安堵したのか、シロさんもホッと肩をなで下ろしていた。
「ならば安心だな。…だがウォルタ殿、本部への連絡をすべきだと拙者は思うのだが…」
「あっそうだった! うっかりしてたよ」
僕達全員が持ってたら一番良かったんだけど、G4はウォルタ君がしてくれる事になってたからなぁ…。
「こちらG4のウォルタ。フィリ…ア? 悠久の風の三人と合流できたよ」
『あぁはいはい。B1のヒュルシラ。彼女の代わりの僕が応対するよ。…それで予定通り、合流できたんだね? 』
「えっ、うん」
ヒュルシラさん、そういえばB1でネットワーク管理のサポートをする、って言ってたっけ? シロさんに言われるまで忘れていたらしいウォルタ君は、Zギアで本部の方に連絡を取ってくれる。僕は横から覗くような感じで画面を見てるんだけど、その画面に映し出されたのは、グレイシアの彼女じゃなくてシャワーズの彼。面識が無いウォルタ君は一瞬首を傾げそうになってたけど、ヒュルシラさんはすぐに訳を話してくれたから、何とか状況は理解できたみたいだった。
「ですけどヒュルシラさん。その少し前に敵九人と鉢合わせになって…」
『ラツェル君の方も? 連絡が無かったから心配だったけどー、やっぱりG4もそうだったんだね』
「うん。だけど私達
も、って…」
『ラツェル君達が一番多かったんだけどー、他の班からもそういう連絡がさっき入っててねー…。今S2が全滅したって連絡が入って、G3に向かうように指示したところだよ』
えっ…、S2って、確かスーパーランクの人が四人で組んでるチームだよね? それなのに全滅って…。
「拙者も噂には聞いていたが…、デアナ側といい“月”といい、油断ならないな」
『本当にその通りだよー…。だけどきみは…』
「レシラムのシロ。以後お見知り置きを…」
『れれれれっ、レシラム? 何であのレシラムが…』
「ちょっとした訳があってね。後で話すよ。…それでヒュルシラさん…、だったっけ? フィリアからのメール、見たよ」
『あっ…うん』
「S1からの情報は僕から伝えておく、ってフィリアに言っておいて」
ってことはランベルさん達、協力してくれる、って言ってた人と合流できたんだね? どんな内容かはウォルタ君が教えてくれるとは思うけど、まずは…。
『了解したよー』
「それからヒュルシラさん? ウォルタ君達にも言っておきたいんだけど、僕達G4はこれから“エアリシア”のギルドに行ってみるつもりなんですけど、そこって何かありますか? 」
『ギルドに? なら話が早いよー。送った文書の方にも書いたんだけどー、ギルドが市民を収容してる監獄になってるらしいんだよ』
「ええっ? ぎっ、ギルドが? 」
「僕も読んでビックリしたんだけど、パラムとか他の町の人達もまとめて捕まってるみたいだね」
『何かそうらしいね。…だからラツェル君、G4は予定通りギルドの方に向かって、G3以外にも指示したんだけど、出来れば敵の殲滅の方もしてくれるかなー? 』
「はい! そういう事だけど、みんなとシロさんも、それでいい? 」
「御意」
「うん! 」
「ミーもそのつもりです! 」
「…決まりだね」
情報は向かいながらウォルタ君から聞くとして…、方針は固まったのかな? って事はランベルさん達のS班が救出で、僕達のG班が敵との戦闘がメインになるのかな? …そうなるどできるだけ体力とエネルギーを温存しながら戦いたいところだけど…、さっきみたいな事があるといけないから、そうも言ってられないよね。…心配と言えば、全滅したっていうS2の事も気になるけど…、無事なのかな…?
続く……