8-2 出会い頭に
―あらすじ―
“エアリシア”の作戦当日、早朝のロビーに集まった僕達は、潜入前最後の最終会議に参加する。
大まかに四つのグループに分けられて、その中でも僕達はG班の配属になる。
G班のリーダーはスパーダさんで、僕達はいわゆる遊撃的な役割になるらしい。
S班の情報待ちだからすぐには動けないけど、スパーダさんの号令で十一人で現地へと向かい始めた。
――――
[Side Ratwel]
「転送完りょ…っ? 」
「親方、この感じ、まさか…」
「ってことは、エンペルトさんも? 」
普通の街のはずだけど、これって…。潜入前の最終ミーティングが終わって、僕達はZギアの機能を使って“エアリシア”に向…、転送された。もしかしたらウォルタ君ならよく知ってるかもしれないけど、スパーダさんが作動させた光の線? それに囲われたら、経ってる場所がアクトアのギルドじゃなくて古い石造りの街になっていた。僕は初めて来るんだけど、この感じだと多分ここがハクの故郷、“エアリシア”なんだと思う。僕から見える範囲では石畳になっていて、建物も切り出した石のブロックを積み上げたような…、そんな構造になってる。古都っていうだけあって区画整備もされていて、独特な空気がこの場を満たしてる…。…ただ最近この辺りで何かがあったかのように、建物の至る所に傷、欠け、凍りついたり破壊されたような跡がいくつも残ってる。僕達はハイドさんとかリクさん達から聞いて知ってるけど、何も知らずに見ると経年劣化でできた跡、って思ってしまうかもしれない。
「ああそうだ。ワカシャモもお前も感づいてると思うが…」
だけど他の街とは明らかに違うことが一つ。この感じだと僕以外、パラムの人達、ベリーとソーフも同じ事を思っているような気がする。転送が終わった一瞬は気のせいかと思ったけど、九人が同じように首を傾げたり驚いたような表情をしてるのみると、そうじゃないって思えてくる。何故なら…。
「気配は薄いですけど、ダンジョン化してませんか? 」
古風な雰囲気に混ざって、ダンジョン特有のピリピリとした空気が僕達十一人を出迎えてきたから…。パラムのチームのエンペルトさんが言いかけてたけど、僕は確認するっていう意味合いも込めてこう呟いた。
「まだそうと決まった訳じゃないのだけど、そう考えてもいいかもしれないのだ。…けど俺達の目的は変わらないから、この状態では迅速、且つ確実に目的を達成してほしいのだ」
「そうよね。“ヴィシリア島”の時もそうだったけど、さっさとこなさないとアタイ等も巻き込まれるかもしれないわね」
ヴィシリアって、確か“伍黄の孤島”の本当の名前だったよね? 真顔のスパーダさんが僕達一人一人に目を向け、それぞれの気を引き締めてくれる。初めて会ったときはどこかほんわかとした印象な人だなって思ったけど、こう言うところをみるとやっぱりギルドマスターなんだなー、って思えてくる。そんな感じのスパーダさんの呼びかけに、“ルデラ諸島”出身かもしれないロズレイドさんがぽつりと返事していた。
「なのだ。…じゃあ、これよりG班、任務開始なのだ」
「うん! 」
「はい! 」
こういう作戦に参加するのは初めてだから、凄く緊張してきた…。彼女の言葉に頷くと、班長のスパーダさんは一度咳払い…。すぐにこう呼びかけて、僕達もすぐにそれに応じる。これといって明確な内容は決まってないけど、ひとまずはって事でパラムの五人、G2とG3のメンバーはこの場から出発していった。
「ラテ、いよいよって感じでしゅね」
「うん」
「あっ、ラテ君」
「ん、ライトさん? どう…」
「スパーダさんからの伝言なんだけど…」
そういえば、ティル君とライトさんも同じG班だったよね。班長のスパーダさんが本部…、じゃなくてB班のフィリアさんに連絡を取り始めたから、その間に僕はチームメイトの二人に目を向ける。見た感じソーフは緊張で顔が引きつってるけど、ベリーはそうでもなさそう。そんなソーフが自分に言い聞かせるように話しかけてきたけど、頷いたところでラティアス…、G1のライトさんが僕達に気づいて声をかけてくる。色々あってティル君とも話すタイミングを逃していたから、ある意味ちょうど良かったのかもしれないけど…。
「ライトさん、伝言って? 」
「ウォルタ君の事なんだけど、Zギアのスキャン機能で探せるから動き始めてもいいよ、って言ってたよ」
「Zギアで? 」
「うん」
他にもいろんな機能があるみたいだけど、何種類あるんだろう?
「そういえばそんなこともできる、って言ってたっけ? うん、わかったよ」
「型によって違う、ってアーシアちゃんが言ってたけど…。じゃあラテ君、ベリーちゃんにソーフちゃんも、また後で」
本当はもう少し話したいけど、今はそうは言ってられないからなぁ…。凄く後ろ髪を引かれるけど二言三言話してから話題を切り上げる。少し離れたところでティル君はスパーダさんと話してるけど、もしかしたらテレパシーでライトさんとも話していたのかもしれない。ライトさんは話の途中でそっちの方をチラッと見てたから、多分そうだと思う。じゃあ後でね、ってベリーが一言言ってから、ライトさんもスパーダさんが居る方へと飛んでいった。
「…とりあえず歩き始めたけど、どうする? 」
「うーん…。一応ランベルさん達の情報待ち、って事になってるけど、ギルドの方に行ってみる? 」
「ギルド、でしゅか…。でしゅけどベリー? 場所は分かるんでしゅか? 」
「うろ覚えだけどね。小さいときにお父さんに連れてきてもらったことがあるから」
それならどんな建物かぐらいは分かるのかな? ひとまずライトさん達を別れた僕達は、行く宛てがないけどとりあえず歩き始める。作戦とかじゃなかったから観光したい気分だけど、今はそんなときじゃない。そもそも事件があったせいで、人影もなくて街も静まりかえってるけど…。
それで何か無いか探すためにもキョロキョロと見渡しながら歩いてるけど、何も思いつかないから二人にも尋ねてみる。腕を君見ながら上目遣いで考えてるから、この感じだとベリーも僕と同じ…。だけどふと何かを思いついたのか、古都にもある主要機関のことを口にする。僕も言われるまで気づかなかったけど、そこの親方のサンドラさんでさえ捕らわれてたぐらいだから、もしかするとそこへ行けば何かあるかもしれない。
「十何年も前だけど、多分だ…」
「おぃ貴様、ココで何している? 」
「見かけない顔だな? さては侵入者だな? 」
「…えっ? 」
いっ、いきなり? ベリーが経緯を話してくれようとしていたけど、角を曲がったところで何人かと鉢合わせになってしまう。急だったから思わず変な声が出そうになったけど、多分向こうも同じ…。だけど向こうは僕達を見るなり、荒々しく声をあげ始める。いかにも敵意むき出しって感じで、僕達三人に問いかけてきた。
「よりにもよってこんな時に…。はぁー。見つけたものはしゃあねぇか。お前ら、殺るぞ」
「おう! 」
「らっ、ラテ! 」
「うん! どっちかは分からないけど、戦うしかなさそうだよ」
だけどこの数、分が悪いよね…。リーダー格らしきユキノオーが呼びかけると、後ろの八人がそれに答える。“デアナ諸島”の殺し屋か異世界の人か…、どっちかは分からないけど、見た感じ種族と属性はバラバラ。だけど戦闘は避けられそうにないから、慌てた様子のベリー、何とか驚きから立ち直ったソーフに、僕はこう呼びかける。まさか分かれて早々、それもウォルタ君と合流できてない今こうなるなんて夢にも思わなかったけど、僕は半ば無理矢理気持ちを戦闘に切り替える。
「一人三人相手は厳しいでしゅけど…、っやるしかないです! 」
向こうがどれくらいの実力かも分からないけど、これからの調査のことも考えると、極力時間と体力の消費は抑えたい。だけど抑えすぎてもやられるから、加減が難しいと思う。…けどソーフはシルクから貰った“感謝の結石”を使ってスカイフォルムになってるから、最初から全力で戦うつもりなんだと思う。
「やっぱりそうだよね? …火炎放射! 」
「エアスラッシュ! 」
「うん! だけど手早くいくよ! シャドーボール! 」
ふわりと浮き上がったソーフを先頭に、ベリー、僕も牽制のための技を発動させる。僕は相手を分散させるのが狙いだけど、ベリーは右方向に向けて、ソーフはその反対側に向けて特殊技を放つ。僕も一歩遅れて口元に漆黒の球体を創り出し、三発連続で解き放つ。距離をとっていたから命中しなかったけど、三カ所に散らせれたから…
「手早くとか…、私等もナメられたものね。ムーンフォース! 」
「シザークロス! 」
「守る! …っく! 」
咄嗟に防いだけど…、一筋縄ではいかなそうだね。僕達三人の牽制を交わした三つのグループのうち、運悪くフラージェスの一団が僕の方に向かってくる。相性でいうと当然と言えば当然だけど、その方が向こう側は有利に戦える。薄ピンク色の球体を二発撃ちだしてきたフラージェスを先頭に、翼で斬りかかってきたルチャブル、ワルビアルが僕の方へと駆けてくる。相性は最悪で後から当たった前者で破られたけど、何とか緑色のシールドで防ぐことはできた。
「…真空斬り! 」
「ちっ…」
破られた反動で隙を作ってしまったけど、僕は無理矢理四肢に力を込めてその場から左に跳び退く。右耳の先がルチャブルの翼を掠めたけど、直撃だけは避けることができた。着地する頃には立ち直れたから、空気を圧縮した斬撃で反撃を仕掛けた。
「下等種族に防がれるようじゃあ、“太陽”の貴様等もまだまだだなぁ! 見てろ、戦争とはこうするもんだ! 」
「まっ、守る! くぅっ…! 」
なっ、何? この威力…。それにあのオーラ…。ってことはもしかして、これが“術”? ルチャブルだけは弾き飛ばす事はできたけど、この隙にワルビアルが攻撃を仕掛けてくる。今までに何回か見てきたオレンジ色のオーラを体に纏わせて、低い位置から殴りかかってくる。このオーラですぐに異世界の人、って分かったけど、それよりも先にシールドを通してとてつもない衝撃が僕に襲いかかってくる。技とは性質が違うのか、そもそもワルビアル自身の力が強いのか…、考える暇なんて無いけど、物理に強いはずの僕のシールドが、あっさりと音をあげて崩れ落ちてしまった。
「ココに来たことを後悔す…」
「…黒い眼差し! 」
「なっ…! 体が…」
振り上げた右手から両手で握り直す間に、僕は一歩跳び下がる。すぐに目の前のワルビアルの眼を見、思いっきりその相手を睨む。エネルギーを送り込んで発動させたから、これで異世界のワルビアルの動きは封じることができた。だけどその代わりに他に目を向けられな…
「背中がガラ空きだぜ? フライングプレス! 」
「えっ…、くぅっ…! 」
ワルビアルに
目を向けていた事が仇になり、僕は他の接近を許してしまう。黄がそれている間に真上をとっていたらしく、滑空してきたルチャブルが一気に急降下してくる。当然僕はかわすことができず…、っまともにその攻撃を…食らってしまう。
「勝負あったわね。…トドメのムーンフォース! 」
「っあぁっ…! 」
これは…やられた…。でもまさ…か…、こんなに…早く…、やられ…るな…んて…。
「
死ねぃっ! 」
ベリー…、ソーフ…、ごめん…。
悠久の風の…リーダーの僕が…
二人を…守っ…ていかな…いと…
いけな…
「
ラテ君! ゴッドバード! 」
「おい、嘘だぁぁっ…! 」
「不意打ちだなんて卑きぃっ? 」
「熱風! 」
「っく…! 」
…えっ?
続く……