8-1 作戦当日(悠久)
[Side Ratwel]
「…こんで全員やな」
正直言ってよく分かってないけど、大丈夫だよね? 結構時間が経ってるからまとめて話すと、あの後僕達はリフィナさん達と一緒に“肆緑の海域”であったことをシリウス達に知らせに行った。次の日…、今日の準備とかで忙しかったみたいだけど、シルクのことを言ったら何とか時間をとってはくれた。僕達もまさかフライが隠し事をしてるなんて思わなかったけど、シリウスも確かに今回はフライの行動は分からない事が多かった、って言ってた。いつもなら結構な時間一緒に居るはずなのに、今回はずっと出かけたりしてまともに話せてない。だから余計に信じられないけど、フライが無理矢理連れ出して、シルクに無理をさせてる…、そうとしか思えなくなってくる。一緒に居た二人は誰かは分からないけど…。
それで今も凄くモヤモヤしてるけど、ひとまず今は目の前の事を何とかしないといけない、って事で一端シルクの事は保留になった。今日の事と関係あるけど、その後でハク達がしようとしている事の説明をしてもらった。話してくれた事は後でまとめて言うとして、今ちょうど朝礼でロビーに集まったところ。見た感じ全員では無いみたいだけど、今いない人はもしかすると救援物資の搬入の方の担当なのかもしれない。
「全員集まった訳やし、潜入前の打ち合わせを始めるで」
今日の予定、“エアリシア”潜入のメンバーが揃ったみたいだから、前に出ているハクがロビー全体に呼びかける。ハク達のギルドの朝礼には何回か出席した事があるけど、今日はいつもとは少し違う気がする。いつもは連絡事項とか…、そういうのが殆どだけど、今日は凄く空気が張り詰めてる。事件の犯人グループの拠点に潜入するからだと思うけど、前に出てるハクの表情も凄く強ばってる。
「ですね。…昨日予めお知らせしたとおり、今回は大きく四つのグループに分けて潜入します」
「そのことに関して、私から補足させてもらうわ」
最近ここのギルドに出入りしてるみたいだけど…、あの人は誰なんだろう? いつも以上に堅い表情のシリウスに続いて、その隣にいるグレイシアが話し始める。この人が誰なのかは分からないけど、何日か前からここのギルドで見てるような気がする。その時にスパーダさんと話してたのを見かけたから、もしかするとパラムの人なのかもしれない。
「四つに分けたチームのうち、一つは私と行動してもらうわ。…名乗るのが遅れたけれど、私はウォズの副責任者のフィリア。今回は作戦全体のオペレーターとして参加させてもらうわ」
どこかで聞いたような気がするけど…、どこだったかな? グレイシアの彼女、フィリアさんはこう名乗ると、左の前足に着けてる端末にちらっと目を向ける。確かウォルタ君が似たような端末を持ってたような気がするけど…。
「…話を元に戻すけれど、四つのグループは便宜上、
A、
B、
G、
Sと呼ぶ事にするわ。そのうちの私はB班、ギアの通信拠点のリーダーを務めさせてもらうわ。…何となくチーム編成で気づいてるかもしれないけれど、作戦中の連絡はギアを通して行うわ。一応私達の方でもモニタリングはしているけれど、何かあったらすぐに連絡して」
ええっと確か…、僕達のチームはウォルタ君だったよね?
「ちなみに連絡入れる時は、用件を伝える前に班名から言ってほしいのだ。例えば俺のチームなら、G1、これを先に言うことになるのだ」
「…ってことはラテ? 私達はG4だよね? 」
「そのはずだよ」
意味は確か…、遊撃、だったかな?
「ちなみにA班はウチらチーム明星、S班はチーム火花がリーダーやから、覚えといてな」
って事はもしかすると、班長はマスターランクのチームがするのかもしれないね。
「そういう事になってたね。初めて話す人が殆どだと思うけど、S班班長のチーム火花、リーダーのランベル。連絡自体はメンバーのもう一人がしてくれる事になると思うけど、よろしく」
ランベルさん達のチームは…、アーシアさんが入るんだよね、確か。もの凄くあっさりと終わった気がするけど、それぞれの班のリーダー達が、前に出て一言ずつロビー全体に呼びかける。今回はリーダーのランベルさん、スパーダさん、ハクとシリウスとグレイシアの彼女しか前に出てないけど、ギアの関係でアーシアさんが入る、って言ってたと思う。アーシアさんなら二人と“壱白の裂洞”に潜入してるはずだから、連携とかそういうのは問題ないと思う。
「…と、そういう訳で、延々と喋っとっても仕方ないし、全体の打ち合わせはここまでにするで。このままグループごとの打ち合わせ、終わり次第潜入に移るで、何か質問があったらそれぞれのリーダーに聞いてな」
…えっ? これだけ? 何かもの凄く短い気がするけど、全部話し終わったらしくハクは一度咳払いをしてからこう締めくくる。これだけ大きいプロジェクトだからもっと詳しく話すのかと思ってたから、正直言って拍子抜けした気がする。横目でチラッと見てみると、ソーフとベリー…、特にソーフがえっ、って感じで短く声をあげてしまっていた。
「…結構見知った顔なのだけど、俺がG班の班長を務めるスパーダなのだ」
「親方〜、そんなの言わなくても分かってるよ」
そんな気はしてたけど、やっぱりパラムの人達が殆どだね…。全体の打ち合わせが終わったって事で、ロビーで集まってた人達が四散する。僕達のG班はスパーダさんがリーダーだから、僕達三人を合わせて十一人が彼の周りに集まる。そのうちの一人、多分パラムのチームのエンペルトが緩い感じで声をかけていた。
「だけどスパーダ? アタシ等は今日はどうすれば? 」
「どうするのかと聞かれたら困るのだけど、俺たちの班はいわゆる遊撃隊。だから戦況に応じて臨機応変に立ち回る事になるのだ」
「ってことはスパーダしゃん? ミー達はS班の情報待ち、ってことになるんでしゅか? 」
「要はそういう事なんじゃねぇーの? んだけど、あんたは…」
「G4、チーム悠久の風のソーフでしゅ」
S班だから…、ランベルさん達次第、ってことになるよね?
「方針は分かったけど…、その二人は? パラムでは見かけなかったけど…」
ソーフが名乗ってくれた後で、確かG3のバリヤードがスパーダさんの方に目を向ける。僕達はよく知ってるからスルーしてたけど、よく考えたらパラムの人達はみんな初対面だと思う。何故なら…。
「二人には俺と来てもらうつもりなのだけど…」
「アクトア側の関係者、ってことにしてくれますか? 」
「そうだね。ええっとスパーダさんが言ったけど、俺はG1でマフォクシーのティルで、こっちがラティアスのライト」
五千年前の世界から来てくれている、ティル君とライトさんだから…。僕達は“弐黒の牙壌”から帰ってきてから知ったけど、二人だけでは行動できないからって事で、元々一人だったスパーダさんと一緒に行動する事になったらしい。だからって事で、はずはじめにライトさんがG班のメンバーに一言。過去の世界出身っていう訳にはいかないから、一番身近なシリウス達の事を出したんだと思う。続いてティル君が、ライトさんのと合わせて自己紹介していた。
「俺達は探検隊でも救助隊でもないけど、作戦全体のサポートができるよう頑張るよ」
「うん! 何の隊にも入ってないのは私達と、今はいないG4のウォルタ君の三人だから、よろしくね」
そういえばウォルタ君、姿が見えないけどどこに行ったんだろう…?
「んーとスパーダさん? そのウォルタて人は…」
「連盟公認の考古学者。考古学者なのだけど、“光の雲海”を突破できるぐらいの実力者なのだ。今は席を外してるのだけど、現地でG4に合流する予定だから安心してほしいのだ」
「確か“トレジャータウン”の方に寄ってから行く、って言ってたかな? 」
そっか。だから朝からいないんだね?
「そういう事だから、よろしく頼んだのだ。…他に何か質問は…、なさそうなのだな? それじゃあ、G班、これから目的地、“エアリシア”に向かうのだ」
続く……