7-2 草水の協力者
―あらすじ―
“弐黒の牙壌”から戻った僕達は、保護したサンドラさんを連れてギルドへの帰路に就く。
着いてからシリウス達と合流し、ダンジョンであった事を彼らに話す。
そのうち赤黒い鎖はキュリアさん達も情報を持っていたらしく、その事について知っている事を教え合う。
その最中ティル君とコット君の思いつきで、サンドラさんに付けられている鎖を断ち切る事になった。
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[Side Flay]
「…“緑巽の祭壇”、ですか? 」
「確かそこって…、“――”を抜けた先の中継点になってたわね」
「そのはずだよ。ボクは行った事ないけど、プラチナレベルだからあまり難しくないはずだよ。…だけど・ル・? どうしてそこに? 」
『“緑巽の祭壇”が最期の出現地点だからよ』
「え? けれどそれだと数が合わない気がするけれど」
『・
・・アから聞いた事だけど、壱と弐、伍、陸、捌は討伐されてるらしいのよ。参、漆、玖は私も確認してるから、残ってるのは肆だけって感じね』
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[Side Ratwel]
「…ねぇラテ? 」
「ん? 」
「さっき訊きそびれたんだけど…」
他に言い忘れた事、あったっけ? 断ち切る事になった赤黒い鎖は、ティル君達の予想通りの結果になった。ライトさんは“チカラ”を使ったから暫く動けなくなってたけど、切れたって事は感情とか…、そういうものに作用してるんだと思う。切った鎖は専門の機関に持っていって検証してもらう、ってシリウスが言ってたから早くて二、三日ぐらいしたら結果が出ると思う。サンドラさんの方も特に問題なかったから、夜も遅かったって事でそこでお開きになった。
それで一夜明けた今日は、朝早くにギルドを出発して別の“ビースト”を討伐しに行く事になった。シリウス達は一日休間日にするって言ってたけど、今から行くダンジョンは草の大陸だから、“非常事態宣言”が出てる今は僕達が主になってしか行けない。だからって事で、今からライルさんが待ってくれている港の方へ向かってる最中。そんな中隣を歩くベリーが、眠そうな目をこすりながら僕に対してこう話しかけてきた。
「さっき言ってたシャワーズさんと、どこで待ち合わせなの? 」
「ライルさんの所だよ」
場所は伝えてあるから、あとは合流するだけだね。僕は昨日寝る直前に話した事を思い出しながら、まだぼーっとしてるベリーに話す。ちなみに今側にいるのは、ベリーだけ。本当は相性と環境の事を考えるとソーフがいた方が良かったんだけど、サンドラさんの事があるから今日は一緒じゃない。保護したサンドラさんを病院で診てもらう、その付き添いを頼んでる。サンドラさんの状態を一番知ってる僕達かランベルさんがいた方が良いからね。
ちなみにその代わりに、成り行きだけど今日は別の二人に協力してもらう事になってる。僕もその人達の事はよく分らないけど、昨日の話を聞いた感じだと、少なくともシリウスとスパーダさん達の知り合いなんだと思う。その時に粗方直近の活動方針も相談したから、その事もまとめて話すと…。
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[Side Ratwel]
「…“肆緑の海域”なら…、そうなのだな」
「そうだね。シリウス君達が行くのが一番だけど、草の大陸ではそうはいかないからねー」
「そうね」
サンドラさん、ティル君達が上に上がって言ってから、僕は明日…、じゃなくて今日行く予定の“肆緑の海域”の事を話した。その前に一通りシリウス達の予定を聞いたんだけど、パラムのスーパーランク以上のチームで動ける何チームか、それからランベルさん達、ティル君達で“エアリシア”に行くらしい。詳しい事は聞けてないけど、多分殺人事件とか、“ルノウィリア”の事を調査しに行くんだと思う。
「うん。だけどシリウス? この二人は? 」
話しに集中しすぎて気づけなかったんだけど、いつの間にか僕が知らない二人が話しに参加してた。だからその人達、シャワーズとリーフィアの二人にチラッと目を向けてから、アブソルの親友に尋ねてみた。
「自分とハク、スパーダの見習い時代の先輩です」
「そういえばブラッキーのあなたははじめまして、だったわね」
「そうだねー。まぁ僕は元、だけど」
僕がシリウスに訊ねると、落ち着いた感じのリーフィアさんが話しかけてくる。パッと見の印象では、落ち着いてはいたけどどこか疲れの色が見えてるような…、そんな感じがした。その彼女に続いてシャワーズさんがぽつりと呟いていたけど、その人はウォルタ君と似たような感じ、かな? のんびりとした雰囲気があって、穏やかで大人しそう。その時ふと目に入って、左の後ろ足だけ脱力したような感じで座ってたのが気になったけど…。
「そうなのだ」
「自己紹介が遅れたけど、僕はリヴァナの村長秘書をしてるシャワーズのヒュルシラ。それからこっちのリーフィアが、村で唯一の探検隊員のリフィナ」
「救助隊員なら二人いるけど、そうなるわね。ちな、私のランクはウルトラ。シラは引退する二年前まではスーパーランクだったのよ? 」
のんびりした雰囲気があったけど、意外すぎる経歴でその時凄くビックリした。リヴァナって事はハク達と一緒に避難してきたんだと思うけど、引退したって事は、ぱっと見の年齢を考えても二年前に何かあったのかもしれない。それにリーフィアのリフィナさんには、何故か親近感が湧いたような気がする。多分同じランクだから、だと思うけど…。
「そうなんですか? 」
「そうです。引退する前のヒュルシラさんは、次期親方候補、って言われるぐらい凄い方でしたからね」
「シリウス君、高く評価しすぎだよー。…そうだ。きみは明日“肆緑の海域”に行く、って言ってたね? 」
「えっ? はい。そうです、けど…」
「もし枠が空いてるなら、僕も連れてってくれるかな? 」
「シラっ? なんでまた急に…」
「僕も思いつきだけど…、強いて言うなら引退して鈍った感覚を取り戻すためだね」
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――
――――
[Side Ratwel]
「…何か思い詰めたような顔をしたけど、こんな感じで決まったんだよ」
「そうなんだー。だけど引退して結構経ってるみたいだし、大丈夫かな…? 」
「うーん、どうだろう? 」
多分いつもの案内の依頼よりは簡単になると思うけど、ちょっと心配だよね。足を止めずに進む僕は、その時思った事を交えながら話した。幅が狭い水路を跳び越えながら言い切ると、聞いてくれていたベリーが心配そうに後に続く。一応ヒュルシラさんは探検隊だったみたいだけど、二年間もブランクがあるから心配なのは確か。だけど海のダンジョンだから、水タイプのヒュルシラさんが協力してくれるのはありがたい。そん名風に色んな考えがあって、僕はすぐには返事する事が出来なかった。
「水タイプだから僕達よりは動けるはずだから、多分大丈夫だ…」
「ごめんごめん、待たせたかなー? 」
「あっ、あの人がそ…あれ? 」
もしかしてヒュルシラさん、近道とか知ってたのかな? 多分大丈夫だと思うよ、そう言おうとしたけど、それは言い切れなかった。少し低い位置から聞こえた気がしたけど、後ろの方から昨日初めて聞いた声が僕を呼び止める。ちょっと驚きながらも振り返ると、そこには丁度水路から上がったシャワーズ…、とリーフィア。多分ベリーもそうだと思うけど、聞いていた人と違う人がもう一人いて、僕は思わず首を傾げてしまった。
「ラツェ…」
「ふぅ、やっと追いついたわ」
「りっ、リフィナ? リシルはどうし…」
「ハク達に頼んできたから、問題ないわ! 」
リフィナさんも? この感じだとヒュルシラさんも知らなかったらしく、ハッと振り返って素っ頓狂な声をあげてしまう。昨日の話だとリフィナさんは残る事になってたから、当然僕も同じように声をあげてしまう。一方のフィリナさんは走ってきていたらしく、若干切れた息を整えながら溌剌とした様子で言い切る。途中で出てきた名前は誰か分らないけど…。
「ハクに? …けどリーフィアさんも来てくれ…」
「やっぱり同じランクの探検隊として気になるじゃない? アポ無しで悪いけど、私も協力させてもらうわ」
「リフィナさんも? それなら心強いですよ」
どういう関係かは分らないけど、リフィナさんもいるなら安心だね。途中で遮られてたけど、ベリーはリーフィアの方を見ながら何かを言おうとする。結局言い直すタイミングを逃したみたいだけど、言いたい事は何となく分った気がする。一方のリフィナさんは興味津々、って感じで話しかけてきてくれたけど、ある意味僕も探検隊として興味がある。シリウス達の先輩って言うのもあるけど、それ以上にどんな戦い方をするのか凄く気になる。…言い始めたらキリが無いけど、草タイプって事もあって相性的にはかなりいいと思う。だから同ランクの彼女に対して、僕は素直な気持ちをこんな感じでぶつけた。
「それは光栄ね」
「リフィナは一応ウルトラランクだけど、機会に恵まれなかっただけで実力はスーパーランクぐらいあるから、大船に乗ったつもりでいるといいよ」
「すっ、スーパーランク? だけど機会って…」
「私とシラの間に子供がいるからね、育休って感じかしら? 」
「お子さんもいたんですか? 」
って事はもしかして…、ヒュルシラさんとリフィナさんって、夫婦? 同行者って事になってるヒュルシラさんは、誇らしそうに声をあげる。…だけどそれ以上に、僕はヒュルシラさん達が夫と妻の関係って事に驚いてしまった。そうなるとさっき出てきたリシルっていう名前は、もしかすると二人のお子さんなのかもしれない。昨日は夜遅かったから会えなかったんだと思うけど、聞いた感じだとシリウス達のギルドにはいるんだと思う。…だけど今ギルドはあんな状態だから、誰がその子を面倒を見るのか分らないけど…。
「今年で五つになる一人息子がね。…だけど何でだろう? 二年ぶりだけどダンジョンってなると、凄くワクワクするよ」
「やっぱりシラも探検隊員ね。血が騒ぐといった感じかしら? 」
「あはは、そうかもしれないね」
「それとハクから聞いたけど、あなた達はあの有名なチーム悠久の風だそうじゃない? 」
「ええっ、悠久の風? 悠久の風って、三年か四年前に“星の停止事件”を解決した、草の大陸のチームだよねー? 」
「そっ、そうだけど…、私とラテだけじゃないから、ちょっと違うのかな」
「パラムにいた頃、明星も協力した、って聞いたけど、違う感じ? 」
「はい。トレジャータウンの先輩達と僕達の師匠がいなかったら、解決できなかったって思ってます」
何か一人歩きしちゃってるけど、シルクとフライ達、ウォルタ君もいなかったら今頃どうなってたんだろう…? あんな暗い世界になってたかもしれないけど、出来れば想像したくないよね…。
続く……