1-3 再出発
―あらすじ―
ギルドでシリウスと再会した僕達は、お互いの情報を交換していた。
聴いた話によると、シリウス達のチーム、明星は、霧の大陸のチームと合同で最寄りのダンジョンの探索をするつもりらしい。
対して僕達は、十分な準備をしてから風の大陸に戻るつもりでいる。
救助活動とかも途中だから、すぐにでも復帰して活動を再開するために動き始めた。
――――
[Side Ratwel]
「ラテ、ソーフ、準備はできてるよね? 」
「うん。四日分は送ったから、多分大丈夫だと思うよ」
「はいでしゅ。ミーも準備出来てるでしゅ」
なら問題なさそうだね? 一夜明けて、僕達は朝早くから物資の調達のために行動を開始していた。ダンジョンに潜入するための物品もそうだけど、それ以外にニアレビレッジに向けた支援物資も準備していた。数が数だから時間がかかると思うけど、手分けして用意して、ペリッパー便に頼んで発送も完了済み。それが済んでからは、僕達それぞれの旅の支度。被災した人の支援とか、未だに行方不明になっている人とかの捜索をすることになるから、それの為の物も持ち合わせている。…それで準備が出来たから、僕達はトレジャータウンの入り口に集合していた。
「なら良さそうだね? ええっとラテ? ライルさんとはどこで待ち合わせだったっけ? 」
「そこの海岸のはずだよ、僕達が初めて出逢った、あの」
「海岸の洞窟の前の浜辺でしゅよね? 」
「うん」
アポは取ったから、あとは合流するだけだね。一応チームの三人は揃ったから、僕達は南側の海岸に向けて歩きはじめる。ベリーはうろ覚えだったらしく、左を歩く僕に訊ねてくる。すぐに僕は、彼女と出逢ったあの時の事を思い出しながら教えてあげる。あの場所は僕とベリーを語る上では、欠かせない場所。その時はソーフはいなかったけど…。
「話は通してあるから、パラムタウンまで乗せてくれるはずだよ」
「それなら、案外はやく着くかもしれないでしゅね」
「そうだね。…あっ、いたいた。ライルさん、久しぶり! 」
そっか、ベリーは二カ月ぶりぐらいだったね? 浜辺への坂道を下りながら、僕達は話を進めて行く。ニアレビレッジに赴くにはその街を通らないといけないから、彼にはその事を前提に話してある。本当はカピンタウンから定期便に乗らないといけないけど、それだと倍以上の時間がかかってしまう。だから僕は、ある事件をきっかけに知り合った人に、例の港町まで送ってもらうよう、昨日のうちに頼んでおいた。その人物は…。
「ラツェルさん、ベリーさん、ソーフさん、お待ちしていました」
“星の停止事件”の時に知り合った、ラプラスのライルさん。波打ち際にいる彼は、僕達の事を見つけるとすぐに呼んでくれて、そのままぺこりと頭を下げる。
「ライルさん、今日はありがとうございます」
「いえいえ、ラツェルさん達の頼みなら、喜んでお請けしますよ」
それに僕は、小走りで彼の元に行き、笑顔で答えた。
彼はちょっと特殊な“チカラ”を持っていて、技を何一つ使えない代わりに、“時の海流”に乗る事が出来る。その流れに乗れば幻の大地に行けるから、僕達はあの時にライルさんに乗せてもらっていた。それ以来ライルさんとは度々会っていて、一緒にダンジョンとかに行く事は無いけど、そのときはいつも色んな話に華を咲かせている。ウォルタ君とは何かしらの関係があるらしいけど…。
「本当に? それじゃあ、パラムタウンまで乗せて行ってくれる? 」
「風の大陸ですね? 了解です! それでは、僕の背中に乗ってください」
「はいでしゅ! 」
じゃあ、お願いしますね。期待の眼差しを向けるベリーに、ライルさんは快く答えてくれる。するとくるりと向きを変え、振り返るように背中の方を目線で示す。それにベリーは真っ先に乗ったけど、僕とそれからソーフは一言言ってからそこへ乗せてもらう。ソーフは僕達の師匠が創った“感謝の結石”で姿を変えれば飛べるけど、今日はお言葉に甘えて背中の上でゆっくりするつもりらしい。僕達が全員乗ったのを確認すると、ライルさんは広大な海原に向けて泳ぎ始めた。
「ベリーさん、ラツェルさんから聴きましたけど、これからニアレビレッジで救助活動をするのですよね? 」
「うん。本当はしばらく向こうにいるつもりだったけど、村長さんが一旦休んできて、って言ってくれたからそうした、って感じだね」
「そうでしたか」
「はい。まだ戻った後の事は何も聴いてないんですけど、着いたらすぐにでも捜索を再開するつもりでいます」
村長さんの話によると、まだ十人ぐらいが行方不明みたいだからなぁ…。沖合に出たぐらいで、ライルさんは背中の僕達にこう話しかけてくる。要件は昨日のうちに話したから、その事を話題に問いかけてくる。それにベリーは、のんびりと腰を下ろした状態で答える。時々跳ねる水しぶきに注意しながら、でもリラックスして話に応じていた。
そこに僕が、昨日会った時に伝えきれなかったことを彼に話始める。昨日は夜遅くに一人で会いに行ったから、殆ど時間が取れなかった。磯の洞窟の奥だからダンジョンを突破する必要があったけど、何回も突破しているところだから問題無く進めていた。
「でしたら、二時間ぐらいはかかると思うので、ゆっくり休んでいてください。着いたら起こしますので」
「じゃあ…、お願いしましゅね」
向こうでは何が起こるか分からないから、お言葉に甘えようかな? 多分これからの事を気遣ってだと思うけど、ライルさんは僕達にこう勧めてくる。乗せってもらってるのに僕達だけ寝ることになるから、僕はちょっと申し訳ないと思った。…だけどこれから色んな仕事が控えているから、ありがたい、心の別の場所ではこうも思っている。…だから今後の事で天秤にかけた結果、僕は彼の厚意に甘えることにした。
――――
[Side Berry]
「やっぱり、こういう光景を見ると、心が痛いでしゅね…」
「うん…」
昨日までの活動で慣れたはずだけど、やっぱりね…。ライルさんに乗せてもらった私達は、予定通りに風の大陸、パラムタウンに寄港した。着いた時私は寝てたんだけど、ラテ達に起こしてもらったからすぐに出発する事が出来た。
今回の私達の目的地、ニアレビレッジはパラムタウンの北東に位置する丘陵の麓に位置している。災害が起こる前に何回も来た事があるんだけど、本来なら白い草花が咲いてて綺麗な景色が広がっている。南にはエアリシアっていう大都市…、ハクの故郷があるって事で、小さい村だけど結構な数の観光客が訪れている。
…だけど今は、そんな光景は全く見られない。丘からの土砂が大量に流れ込んで、木造の建屋が壊滅的な被害を受けてしまっている。帰る前にそこを中心に活動していたんだけど、村の北西部にある農園も、跡形も無く流されてしまっている…。代わりにその場所には、家を失った村の人のために、仮設のテントがいくつも設営されている。村役場とかの公共機関も倒壊しちゃってるから、避難所の方にその機能をそのまま移設してきている状態。
「だよね…。ラテ、早いうちに村長さんに報告しに行こっか」
「そうだね」
「まだ二時ぐらいだから、何か一つぐらいは出来そうでしゅからね」
「うん、…だね」
戻ってからの事を訊かずに帰っちゃったから、急いでいかないとね。あまりパッとしない気分のまま、私達は壊滅的な元市街地を突き進む。農園跡まではあまり離れてないけど、休みをもらってるから急いだほうが良いとは思う。だから私が二人にこう言うと、ブラッキーの彼はすぐに頷いてくれる。彼自身もあまりパッとしない表情で、小さく頷く事しかしていなかった。
ソーフはソーフで、これからのことを考えているらしい。太陽の高さから時間を判断して、若干沈んでいる私達に話しかけてくれる。ちょっと明るめ? に話しかけてくれたから、彼女のお蔭で心なしか気持ちを切りかえれたような気がした。
「この時間だから、村長さんはテントの方かな? 」
「分からないけど、いつも通りなら…」
「あれ、悠久の風の皆さん? もう戻ってきてくださったんですか? 」
「あっ、はい。村の事を思うと、じっとしていられなくて…」
びっ、ビックリした…。でもこの人なら、案外早く復帰できそうだね。避難所の方に着いた私達は、目的の人物を探すために歩きはじめる。事態が事態だから忙しいと思うけど、村長さんはこの辺りで、事務作業とかをこなしているはず…。そう思いながら探していると、私達に気付いたのか、別の誰かが私達に話しかけてくる。驚きでとびあがっちゃったけど、私は思っていたことをその彼女にそのまま伝えた。
「こういう状況ですから…。リオナさん、僕達は何をすればいいですか? 」
「そうね…」
ラテの問いかけに、話しかけてきた彼女、ラランテスの彼女は顎のあたりに手をあて、上目遣いで考え始める。彼女は村の観光協会の会長で、忙しい村長さんの代わりに現場で指揮を執ってくれている。戻る前もこの人から仕事を貰っていたから、もしかすると村長さんに訊くよりも早く活動を再開できるかもしれない。
「避難所の方は人手が足りているから…、
捌白の丘陵に向かってくれるかしら? 」
「捌白の丘陵、でしゅか? 」
「ええ。今朝救助隊が一チーム向かったけど、探検隊のあなた達も向かってほしいのよ」
そっか。救助隊って事は、その人達には行方不明者の捜索を頼んでるんかもしれないね。考えていたリオナさんは、上げていた視線を私達の方に戻す。チラッと仮設テントの方を見てから、私達に考え付いた事を話してくれる。捌白の丘陵といえばここから最寄りのダンジョンだけど、土砂災害で荒れてるかもしれない、って村長から聴いている。丘の頂上も観光地として有名だから、もしかするとそこの確認を頼まれることになるのかもしれない、私は率直にそう思った。
「という事は、僕達も捜索ですか? 」
「いいえ、着いたところを悪いけど、丘と頂上の被害状況を見てきてほしいのよ」
「頂上も有名な所だもんね。うん、わかったよ」
もしかすると、観光中に巻き込まれた人もいるかもしれないもんね。私も最初はラテと同じ事を思ったけど、よく考えたらそれは先に依頼していると思う。人命がかかってるから、状況調査よりも最優先になる。今は一組しか調査してないみたいだけど、捌白の丘陵はあまり広くはない。だから多分、リオナさんはもう一つの事を頼んだんだと思う。
そうとなったら、私達が断る理由はない。そもそも探検隊っていうのはそういうのが専門だから、ある意味適任なのかもしれない。だから私は、彼女の頼みに大きく頷く。いつもの依頼とは少し違うけど、とにかく私達は、そのダンジョンへと早急に向かう事にした。
――――
[Side Unknown]
「…ハイド、ひとまずこれで全部だな」
「まんべんなく捜索はしたから、そうだと思うね。うんじゃあ、一通り探したし、一旦村に戻ろっか」
「だな。幸い被害者は誰も居…」
「ん…、げっ、ゲール! 後ろ! 」
「…? 」
「―――! 」
「なっ…! 」
「冷凍ビ…」
「っあァっ…! 」
「ゲール! しっかりしろ! …嘘…、嘘…だ…」
「――ッ―! 」
「…! アクアジェット! なっ、何なんだ…、一体…。ソニックブームっ! 」
つづく……