6-1 攻略法のおさらい
[Side Ratwel]
「…あっ、いたいた」
日程的には今日戻ってくる事になってたけど、予定通りに来てくれてたんだね。昨日のあの後僕は、スパーダさんから“パラムタウン”であったらしい事を聞かされた。話によると、何者かに襲撃されて街が壊滅してしまったらしい。シリウスとアーシアさん、それからテトラさんの三人が巻き込まれたみたいで、シリウスはアーシアさんと街を脱出…。だけど毒を盛られたみたいで、アーシアさんはイーブイに退化してしまったんだとか。それでアーシアさん自身はチーム火花のキュリアさんに連れられて“ワイワイタウン”に行っていて、知りあいに何かをしてもらっていたらしい。詳しくは聞いてないけど…。
それで話を僕の事に戻すと、話を聞いた後はスパーダさんとギルドに残っていた弟子達と一緒に受け入れる準備。途中でキュリアさん達も戻ってきて、部屋の掃除とか部屋割りとか…、そういう事に追われていた。だから気付いた時には夕方になっていて、そのぐらいの時間にベリーとランベルさん達が帰って来た。それで僕だけ抜けさせてもらって、次の日…、今日の為の申請をしに行った。
そして今日は朝起きてから、僕だけ先に“アクトアタウン”を出発していた。少し前に“ワイワイタウン”の港に着いたところだけど、ある人と会うために波止場の方まで出てきている。それで一通り周りを見渡したところでその人を見つけれたから、僕はその人に声をかけながらその方へと走る。すると案外早く気付いてくれたらしく…。
「あっ、ラツェルさん。今日は一人ですか? 」
「ううん、今は一人ですけど、後でベリー達も来る事になってます」
僕達悠久の風専属の航海士をしてくれているラプラス…、ライルさんが頭を高く上げて声をかけてくれる。だけど今は僕一人だけだから、上げた頭を不思議そうに右に傾けていた。
「という事は、今日も依頼か何かですか? 」
「うーん、依頼っていうより、調査って言った方が良いかな」
「調査…、もしかして風の大陸か何かとか…」
「それとは関係ないと思うよ、草の大陸だから」
“パラムタウン”の方も心配だけど、やっぱりライルさんも知ってたみたいだね。続けてライルさんは僕に訊いてきたけど、ちょっと違うから首を横にふる。風の大陸って事は“パラムタウン”の事件のことだと思うけど、違うからちゃんとそう言っておく。それに調査とはいえ今風の大陸に行く事は、凄く危ないことだからやめた方が良いと思う。スパーダさんとシリウスから聞いた事しか分からないけど…。
「そうでしたか。…という事は、今日も“トレジャータウン”ですね? 」
「うん。…あっ、言ってたら来たよ」
「ラテ、お待たせ! 」
もしかしてベリー、走ってき…、あれ? 草の大陸に行く時はいつもそうだから、ライルさんは僕の言葉を待たずに例の町の名前を言う。その町の方が今日行くダンジョンからも近いから、混まないっていう意味でもいつもそうしている。…だけどそうこうしている間に、僕は街の中心部の方から幾つかの話し声が聞こえてきたのに気がつく。だからその方に振りかえりながら、僕は遅れて出てきているパートナー達の名前を呼びあげる。
「早かったけ…、あれ、キュリアさんじゃなくてソーフ? 」
「そうなんでしゅ」
「キュリアとの間に手違いがあってね、代わりに彼女に入ってもらう事になったから」
…だけどその先にいたのは、一人は僕が予想してなかった人物。ベリーの事は省くけど、二人目はデンリュウのランベルさん。昨日準備中にベリーと話した時に、偶々ランベルさんも近くにいたから協力してくれる事になっていた。…だから今日の調査に行くことにしたんだけど、そう言う訳でランベルさんは右手で会釈しながらベリーと駆けてくる。その彼らに続いて、もう一人のチームメイトでシェイミのソーフも一言呟いていた。
「そうなんですか? 」
「うん。…ですけどラツェル君、ソーフさんも同じチームなんですよね」
「そうだよ。ええっと確か…、アーシアちゃん達と“壱白の裂洞”に行くって言ってたかな? 」
「アーシアさんと? 」
「でしゅ。依頼と場所が同じだから、みたいでしゅ」
アーシアさんとキュリアさんは昨日一緒にいたみたいだから、その時に決めてたのかな? 僕がランベルさんに尋ねてみたら、ランベルさんはすぐに頷いてくれた。そのままソーフの事を質問し返されたけど、それにはベリーが答えてくれていた。話題に乗り遅れたライルさんは耳を傾けてくれているけど、そんなライルさんに構わずベリーはアーシアさんとの事も教えてくれる。その名前は昨日ウォルタ君からも聴いたような気がするから、もしかするとキュリアさん達も僕達と同じ目的なのかもしれない。
「依頼、かぁ…」
「…ええっと、ラツェルさん? 水を差す用ですけど、デンリュウのこの方は? 」
「あぁすみません。チーム火花のランベルさんです。今日の調査の事と関係あるんですけど、一緒に同行してもらう事になってたんです」
「ひっ、火花って、あの火花ですか? 」
「あっ、はい。今日は一人ですけど、チーム火花として活動させてもらってます。ラプラスさんは…」
「ライルといいます。歳はあなたの方が近いんですけど、ラツェルさん達専属の航海士をしています」
「せっ、専属? 」
あっ、そっか。今時チーム専属って、滅多にいないんだっけ? 控えめにライルさんに訊かれたから、うっかりしてたけどランベルさんの事を紹介する。本当はベリーの方が良く知ってるけど、とりあえず僕はランベルさんが来た経緯を簡単に説明する。だけどランベルさんは諸島を代表するチームだから、当然ライルさんは驚いて声を荒らげてしまう。珍しく緊張していそうな感じだったけど、ライルさんはいつものようにぺこりと頭を下げていた。
「数年前に縁がありましてね。…ラツェルさん、“トレジャータウン”まで少しかかりますから、そろそろ行きましょうか」
「そうでしゅね。じゃあお願いしましゅ」
「うん! 」
そっ、そうだね。ライルさんも大分説明を省いていたけど、思い出したように話を切りかえる。僕もうっかりしてたけど、ライルさんは一通り僕達に目を向けてから、自分の背中を横目で見て促してくれる。だから僕もソーフとベリーに続いて、ライルさんの背中に跳び移った。
「ランベルさんもどうぞ」
「ですけど、僕も乗れますか? 」
「大丈夫です、僕は特別なので」
「じゃあ…」
ちょっと違うかもしれないけど、ライルさんも伝説の当事者みたいなものだからね。一番小さいソーフは定位置の頭の上によじ登ってるけど、ランベルさんからしてみればライルさんの背中の上は満員。まだ乗り移ってないランベルさんは、少し心配そうに訊ねていた。だけど乗せる側のライルさんは、心配ないとでも言いたそうに即答する。僕達はライルさんの事情を知ってるけど、それでもランベルさんは遠慮気味に跳び移っていた。
「…ラツェルさん、さっき訊きそびれたんですけど、今日はどこの調査に行くんですか? 」
「もしかしたら知らないかもしれないけど…、“弐黒の牙壌”です」
「“弐黒の牙壌”? 」
「“弐黒の牙壌”って、シルクさんが救助されたダンジョンだよね? その時から訊きたかったんだけど、確かスーパーレベルのはずだよね? 」
「あっ、それミーもきになってました」
そういえば、シルクの事で一杯いっぱいで話せてなかったっけ? 四人全員乗って泳ぎ始めてから、ライルさんはふと僕に質問してくる。僕も言いそびれたから丁度良かったんだけど、今日の目的地のダンジョンの名前を口にする。だけどそのダンジョンは公にはされていない危険なダンジョンだから、当然ライルさんは首を傾げる。ランベルさんにはシルクの事で話しはしたけど、救助した時の事だけしか話してないから気になっていたんだと思う。だから僕は、あの日の事を思い出しながら順を追って話し始めた。
「結局ソーフにも話せなかったからね…。ランベルさんの言う通り、“弐黒の牙壌”はスーパーレベルのダンジョン。だけど僕達のチームはまだウルトラランクだから、昨日あの後で連盟から呼び出しがあったんだよ」
「そっ、そうだったの? 」
「うん。戻る前にアクトアの支所に寄ってたんだけど、緊急だったとはいえ規約違反した事になったからね…。本当は二週間の謹慎処分になるところだったんだけど、突破したのと救出に成功した、って事で大目に見てもらえたんです」
「私も聞いた時はビックリしたんだけど、病院の人達がかけあってくれたんだって」
シルクの主治医が話を通してくれてなかったら、もしかすると一昨日の“捌白の丘陵”にも行けてなかったかもしれないね。
「みたいです」
「そんな事があったんだね。…って事はもしかすると、近いうちに昇格試験の便りが来るかもね」
「かもしれないでしゅね。…でしゅけどラテ? スーパーレベルのダンジョンをどうやって突破したんでしゅか? 」
最初は一人で、イグレクさんに教えてもらったから何とかなったけど、もし会えなかったら突破できなかったかもしれないね。僕があの日あった事を一通り話すと、今度はソーフが僕に質問してくる。確かにソーフの言う通り、自分達のランクよりも上のレベルだから、救助する事はもちろん突破することも難しい。ソーフは同じチームだから特にそうだと思うけど、難易度の高いダンジョンを突破したんだから気になる事は普通。だから僕は、これから潜入する方法の説明も兼ねて、ランベルさんとベリー達のも話し始めた。
「一言で言うなら、あまり戦わずに走り抜けた、って感じかな? 」
「走り抜けた…? 」
「うん。連盟が公開してないから知らないと思うけど、“弐黒の牙壌”は自然に体力が奪われるダンジョン。何も対策をしないと命を落とす事になるけど、シルクの回復薬と音速の種を使えば突破できたよ」
「シルクさんの? 」
「あっ、だから昨日その二つを沢山作ってたんだね? 」
「うん。イグレクさんに教えてもらったんだけど…」
「って事はもしかして、“死相の原”にあるんでしゅか? 」
「そうなんだよ。聞くまで僕も知らなかったんだけど…」
イグレクさんだから教えてもらえたけど、もし違ったら無理だったかもしれないね…。
つづく……