5-4 度重なる有事
―あらすじ―
アクトアの病院へウォルタ君のお見舞いに来た僕は、スパーダさんとキュリアさんに彼を紹介する。
見た感じ骨折しているみたいだけど、それ以外は元気そうだった。
スパーダさん達の紹介はまだだけど、話の流れでウォルタ君は何の躊躇いもなくウォーグルの姿に変える。
落ち着いてからシルクの事を訊いてみたけど、何故か“パラムタウン”には捜索願が届いてないみたいだった。
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[Side Ratwel]
「…それじゃあ、僕もシロに頼んでみるよ」
「ありがとう」
「ラテ君達も、そっちの方は任せたよ」
「うん」
…だけどまさか、ウォルタ君達がしてた事を僕達もしてたとは思わなかったなぁー。あれから色んなことを話したから順番に言っていくと、まず初めに、ウォルタ君が今調査している事について話していた。これは僕達が調べてる事と関係ある事だったみたいだけど、この世界に空いた沢山の“穴”? の事について。僕もいまいちよく分かっていないけど、今現在この世界は、対になる世界との境目が曖昧になってしまっているらしい。フライ達も同じ事を言っていて、この“穴”を塞ぐためには九ヶ所に出現してる、“ビースト”っていう未確認生物を倒す必要があるらしい。それでこの“ビースト”っていうのが、僕達が“捌白の丘陵”で倒したあの生き物。それからハク達が戦ったって言う生物もそうみたいで、分かってるだけでも二か所の討伐が完了しているみたい。それと合わせて話を聞いた感じでは、チーム火花が調査しに行ってた“陸白の山麓”も、出現ポイントの内の一つ。ウォルタ君も“漆赤の砂丘”は倒したって言ってたから…、あと五か所だね。
それでその事に関して、僕達はウォルタ君からある情報をもらった。その情報って言うのは、例の“穴”が出現する場所…、ウォルタ君が絞り込んだ、その可能性があるポイントについて。そのうちの一つ、“孤島”には昨晩ウォルタ君の知りあいとライトさん、それからウォルタ君の弟子を合わせた四人を向かわせた、って言ってた。…だけど肝心のウォルタ君がこんな状態だから、シリウスが中心になって調べてるって事で、残りは僕達が引き継ぐことになった。これにはキュリアさんも同意してくれているから、メンバーが決まり次第、明日にでも調査を始める事になると思う。…これだけ決定してから、キュリアさんとスパーダさんは、昼食ついでに先にハク達のギルドに戻っていった。
次に話したのは、今のウォルタ君の状態について。重い内容だからキュリアさん達の前では控えたんだと思うけど、詳しい診察結果、それから怪我をした時の状況とかを教えてくれた。…実は右の前足を折った時の事は全く覚えていなくて、ウォルタ君自身も弟子とか一緒にいた人から聴いただけらしい。話によるとウォルタ君は“ビースト”と戦っている時、“チカラ”を暴走させてていた。何とか倒せたみたいだけど、その時には抑えが利かなくなって暴れていた…。偶々遅れて到着したエーフィに止めてもらったけど、その人はやむなく、ウォルタ君の翼を折って身動きを封じた…。ギリギリウォルタ君は自我を失わずに済んだみたいだけど、“チカラ”を暴走させた影響で、技を発動させようとすると気を失ってしまいそうになるらしい。
それでこの話の流れで、助けてくれたエーフィの話になった。ウォルタ君も詳しくは訊けてないみたいだけど、そのエーフィは多分シルク。判断するには情報が少なすぎるって言ってたけど、ウォルタ君が弟子から聞いた事によると、白い服を着ていて水色のスカーフを身につけていたらしい。これだけを聞くとシルクっぽいんだけど、そのエーフィは眼鏡をかけてたらしい。他にも知らないユキメノコがいたみたいだから、ウォルタ君はその段階では断定できなかったみたいだけど…。…だけど僕達が知ってる事と照らし合わせてみたら、ある程度はこの事に納得が出来た気がする。…確かにウォルタ君がシルクらしき人に助けられた、って事には驚いたけど、ウォルタ君自身もシルクが行方不明になってる、って事には唖然としていた。シルクが“ワイワイタウン”の病院から消えたのに気付いたのは昨日の明け方で、ウォルタ君達が例のエーフィに会ったのは昨日の日中。それも砂の大陸にあるらしい“赤兌の祭壇”だから、水の大陸の“ワイワイタウン”と“アクトアタウン”を捜しても見つからなかった事にも納得ができる。それに一瞬の出来事だったみたいだけど、ほんの一瞬目を離した隙に例のエーフィとユキメノコは姿を消したらしい。この事だけは全く見当もつかないけど、もしそのエーフィがシルクなら、シルクが病室から姿を消した事の説明も出来る。…ただそうなると、何で暴走するウォルタ君を止めれるぐらい動けるのかが全く分からないけど…。
「…じゃあ、僕もそろそろ戻るよ」
「うん。ラテ君、今日はありがとね」
「こちらこそ」
相変わらず問題は山積みだけど、シルクの事は何とかなりそうだね。前フリがもの凄く長くなったけど、シルクの事はウォルタ君経由でシロさんに頼むことになったから、僕はここで席を発とうとする。色んなことを聞いて頭が重くなってるけど、ひとまず方向性はまとまったから僕はウォルタ君にこう言う。右の前足で引き戸を開けたところでウォルタ君も応じてくれたから、部屋を出てから軽く会釈する。引き戸を音がしないようにそーっと閉めてから、僕は階段の方に一人で歩き始めた。
「そういえば…」
キュリアさん達は先に出てったけど、昼ごはん、まだだったっけ? 一段飛ばしで階段を降りながら、僕はふとこの事を思い出す。廊下の時計を見るまですっかり忘れてたけど、ウォルタ君のお見舞いに来たのが丁度十時ぐらいだったから、五時間ぐらいずっと話していた事になる。だから当然僕は、朝食べてから何一つ口にしていない。だけどここまで話し込むなんて思ってなかったから、生憎財布はギルドの方に置いてきてしまっていた。
「だけど…」
まさか僕達の方が早く動き始めてたなんて思わなかったよなぁー。病院を出て水路の傍を歩きながら、僕はさっきウォルタ君から聞いた事を順番に思い出してみる。“エアリシア”の事の手がかりは何もないけど、今日だけであの生き物の事は凄く進んだと思う。それもウォルタ君が調べてた事…、この世界に関わる事に協力してることになってるから、あの時みたいな使命感も今更ながら湧いてきている。何かとこういう事に首を突っ込んでる気がするけど、そうこうしてる間にギルドに戻て来れたから、頭の中を整理しながら入り口をくぐった。
「ただいま」
「あっ、ラテさん。今戻ってきたところなんですね? 」
「うん」
…あれ? 昼には出発する、って言ってたはずだけど…。声をかけながらギルドのロビーに入ると、僕が全く予想してなかった人が出迎えてくれた。シリウスとハクがいないのは納得できるけど、そこには先に戻っているはずのキュリアさんの姿はなかった。その出迎えてくれた人は、僕の声に気付いてすぐにこっちに来てくれた。
「…だけどコット君、フライと一緒に出たんじゃなかたの? 」
「そのつもりだったんですけど、ここの代表の人に黙って出るのも申し訳ないので。ですから、入れ違いになるかもしれないから残る事にしたんです」
その人とは、シルクの従弟らしいサンダースのコット君。パッと見フロリアさん達と留守番してたみたいな感じだけど、僕の質問に丁寧に答えてくれる。…よく考えたらフライ達はハクと入れ違いになってるから、コット君は帰ってくるまで待つつもりなのかもしれない。奥には火花のランベルさん…、電気タイプの種族しかいないけど…。
「そうなんだ。だったら夕方ぐらいには帰ってくると思うん…」
「副代表のアブソルさんですよね? 何か凄く慌ててたみたいですけど…」
「らっラツェル君、大変なのだ! 」
「たっ、大変? スパーダさん、何かあったんですか? 」
びっ、びっくりした…。だけど、何があったんだろう…? 僕は夕方には帰ってくると思うんだけど、って言おうとしたけど、その途中でコット君が僕の言葉を遮る。この感じだとシリウスは戻ってきたのかもしれないけど、それにしては用事を済ませて“パラムタウン”を往復するには短すぎると思う。この事はずっとギルドにいたコット君も分からないらしく、あまりパッとしない表情で言葉を濁す。だけどその途中、急に僕の後ろ…、外の方から急に名前を呼ばれる。何かただ事じゃなさそうな感じで呼ばれたって事もあるけど、僕、それから僕で隠れて見えないコット君も、揃って変な声をあげてしまう。すぐにスパーダさんって分かったけど、僕はただ振りかえって彼に尋ねる事しか出来なかった。
「そっそれが、俺の方のギルドと全然連絡がとれないのだ! 」
「ええっ? 」
「確か“パラムタウン”でしたよね? “エアリシア”の近くだから心配ですけど…」
「そうなのだ! 何から言ったらいいか分からないのだけど、リオリナ…、パラムの副親方と連絡がとれなくて…」
“パラムタウン”と? スパーダさんはCギア、っていうアーシアさんが持ってたZギアの型違いの通信機を使ってるって言ってたけど、もしかするとその事を言ってるのかもしれない。確か電子メールでやりとりできる、ってアーシアさんが言ってた気がするから、スパーダさんはそれを使ったんだと思う。他にも起きたことがあるみたいだけど、スパーダさんは取り乱しながらも順番に僕とコット君に話してくれる。だけど僕、それからコット君も、その内容に言葉を失ってしまった。その内容は…。
つづく……