5-2 もう一つの事案
―あらすじ―
ハク達のギルドの朝礼に参加した僕達は、終わった後でスパーダさんと四人で何気ない雑談を楽しんでいた。
その途中で今日の予定の話しになり、船の時間が迫っているからハクは慌てて跳び出していった。
残された僕達はそんなハクの事を話し始めたけど、入れ代わるような形でフライとサンダースのコット君が訪ねてきた。
そのコット君も五千年前の世界から来ていて、その彼はシルクの従弟らしいという事が分かった。
――――
[Side Ratwel]
「…ごっ、五千年前? そんな事がありえるのだ? 」
「そうみたいです。僕のやっと実感が湧いてきたんですけど、フライさん達は今までに何回も来てるみたいなんです」
「そうだよ。初めて来たのが…、四年ぐらい前かな? 」
もうそんなに経つんだ。懐かしいよ。サンダースのコット君がシルクの従弟ってことには驚いたけど、それでも何とか、スパーダさん達にも紹介する事ができた。その中で僕は話すつもりは無かったんだけど、コット君が十三…、僕も十八なのにブラッキーだけど、歳と姿がかみ合ってないって事で、もう少し詳しい事を話すことになった。その話すことは、フライ達は五千年前の世界から来てる、っていう事。過去の世界とは事情が違って説明をするのが大変だったけど、フライが歴史も交えて話してくれたから、多分分かってはくれていると思う。…だけどスパーダさんはこんな風に声をあげてしまってるから、僕が思ってるよりも理解できていないのかもしれない。
「私達がまだブロンズランクの時だったから、そのぐらいだね。ハク達ともまだ会えてなかったし」
「四年前となるとハクもシリウスもパラムにいたのだけど…、そんな事が本当にあり得るのだな」
「みたいですね。…そういえばフライ? 」
「ん? ラテ君、どうかした? 」
自己紹介とかで訊きそびれたけど、フライ達って…。四年前となると僕にとっては始まりの年? になるけど、凄く懐かしくもある。僕はそこから少し前からの記憶しかないけど、ベリーにとってもあの日は凄く思い出に残っているって言っていた。それにベリの言う通り、あの時の僕達はまだ駆け出しのブロンズランク。あの日フライ達に会えたから、今の僕達、それとハクとシリウス達にも会えたんだと思ってる。
…そんな感じで思い出に浸りながら話していたけど、この感じだとスパーダさんは話題に乗り遅れてしまってるかもしれない。だから僕は、丁度訊きたい事もあったから、話題を変えてフライにこう声をかけてみる。コット君はへぇー、って感じで耳を傾けてるみたいだけど、いきなり声をかけたから、フライは不思議そうに首を傾げて見下ろしてくれる。
「さっき今回は来るつもりじゃなかった、って言ってたけど、それならどうして来ることになったの? 」
「あっ、それ、私も気になってた」
そのまま僕は、目線を上げた状態でこう訊ねてみた。
「うーん、ボクもやっと状況を飲み込めたところなんだけど、シードさんに人手が欲しい、って言われてね」
「シードさんが? 」
「はい。僕はその時偶々一緒にいたから流れで来ちゃったんですけど、“月の次元”? っていう所から沢山の人が侵入したみたいで、その人たちを探すのを手伝ってほしい、って頼まれたんです」
「“月の…”? 月って、夜の空にあるあの月の事なのだ? 」
僕もそうかと思ってるんだけど、どうなんだろう? フライはすぐに話してくれたけど、僕はまさかシードさんの名前が出てくるとは思わなかった。いつもフライ達が来てくれる時は逆だから、僕はまた驚いてしまう。コット君が補足で説明してくれはしたけど、五千年前の世界でしかない単語なのか、僕にはそれが何なのか分からなかった。…だけどコット君もいまいちパッとしない表情だから、余計に訳が分からくなってしまった。
「その月じゃなくて…、何て言ったらいいんだろう…。…あっ、そうだ。詳しく説明するとしたら世界の成り立ちの話しもしないといけないんだけど、一言で言うなら、違う世界から大勢の人が侵入した、って感じかな? 」
「違う世界…。という事は、“導かれし者”、みたいな感じなのだな? 」
「えっ、そっ、そんな感じです…。アーシアさん達が元々いたところとは、別の世界みたいですけど、そう考えていいと思います」
「うーん…、私にはよく分からないけど…」
コット君、アーシアさんの事も知ってるんだ…。スパーダさんがアーシアさんの事を知ってる理由は何となく分かる気がするけど、僕はコット君まで知ってるとは思わなかった。コット君自身もスパーダさんが知ってて驚いてるみたいだけど、逆に説明する必要が無くなったみたいで、結構説明を省いていた。僕もウォルタ君達の本を読んで、その後アーシアさんと会って話したから知ってたけど、それでもベリーにはいまいちピンときていないらしい。モヤモヤしたような感じで、首を横に捻っていた。
「今のベリーちゃん達から見た、チェリーの出身の世界、って思ってたらいいんじゃないかな? …話を戻すけど、シードさんが言…、シードさんも人伝に聴いただけみたいだけど、“月の次元”から侵入したのは一回だけじゃなくて、この何日かに何十回も入られてるみたいなんだよ」
「えっ、そんなにも? 」
「そうみたいです。その影響でこの世界…、“太陽の次元”って言うみたいなんですけど、“太陽”と“月”の二つの世界の境が曖昧になりはじめてるみたいなんです」
「二つの世界が…。ルデラの事件の時も別々の世界が干渉してた、って訊いているのだけど、今回も似たような感じなのだな? 」
「…だと思うよ。空間の軸が乱れてきてるせいで時間の軸にも悪影響が出てる…。ボクはそう考えてるんだけど…、これはウォルタ君に相談した方が良いかな…? 」
ハク達の方もそうだけど、フライの方も大ごとになりそうだね…。
「フライさん? その人って、昨日言ってた人ですか? 」
「そうだよ」
「その名前、どこかで聞いたような気がするのだけど…」
「私の幼馴染みの考古学者で、三年半ぐらい前に“幻の大地”を発見した…。でも“導かれし者の軌跡”の共同執筆者で、“ルデラ諸島”の事件の解決者の一人、っていう方が有名かな? 」
「導かれし…、そっ、そうなのだ! 号外も出てたから聞いた事があったのだ」
「それが一番だね。他にも、“光の雲海”を一人で何十回も突破してる、っていう噂もあるけど…。…だけど、一緒に行動してたウォルタ君がこんなに凄くなるなんて、昔は思わなかったよなぁ…」
今では完全に抜かれたけど、あの時は五分五分だったからなぁ。今では弟子もいるみたいだし。ベリーはこの間会えたみたいだけど、今頃何してるだろう?
――――
[Side Altair]
『…アルタイル? そっちの方はどう? 』
「とりあえず、デネブには会えたわ」
「ぅん? アルタイル、一体誰と…」
「ちょっとした通信機で、チェリーとね。あと他には…」
『一応俺も聴いているが…、うん』
「この声は、“属性”のサードさんね? 」
『そのようね』
『アルタイル、そちらには他に誰かいるようだが…』
「さっきも言った通り“意思”のデネブと、“虹”のアークさんもいるわ」
『ええっ? 』
「…アルタイル、何て言ってる? 」
「アークさんもいるって知って、凄く驚いてるわ」
「やはりな。アルタイル、拙者との経緯を伝えてくれ」
「ええ。私も合流してそれほど経ってないけど、アークさんはデアナの“会員”に“会議”の件を伝えてくれていたらしいのよ。ベガは先にラスカに向かってくれてるみたいだけど、デネブは今さっき聴いた…、そうよね? 」
「うん」
『そう…。それなら、案外早く足並みがそろうかもしれないわね』
『そうだな、うん』
「…それでチェリー? 連絡入れてきたって事は、何か進展があったのよね? 」
『ええ。昨日やっと、シードに会えたわ。それでフライさんだけじゃなくて、もう一人助っ人で連れてきたって言ってたわ』
「助っ人で…」
『それでシードと相談して、二人にも侵入者の件にあたってもらう事にしたわ』
「フライ…、懐かしい名前ね。そういえばアークさん、“会議”の時に五千年前の“絆”の世話になった、って言ってたけど、フライさんもそうなのよね? 」
「如何にも。貴殿がいるとなれば、心強い限りだ。…しかしアルタイル? “原初”もラスカにいると聞くが、貴女はどうしている? 」
「“会議”には出てなかったみたいだけど…。デアナにもいなかったし、アルタイル、チェリーにサードも、何か知ってる? 知ってるんだよね? 」
『確かに知っているが…、“意思”、そう焦るな』
「私は反対したんだけど…、一緒に行動しているもう一人が“エアリシア”に潜入する、って言って…」
「“エアリシア”か。しかし、そのもう一人というのは…」
『これを聞いてる全員が知ってるから本名を出すけど、十八代目の“絆”のシルク』
「ここにいるって…、サードまで知ってる感じ? 」
『そうだ、うん』
『…だけどシルク、今回は自分の身を削ってまで“エアリシア”の件にあたってる、って“原初”様が言ってたわ』
「ミウもそうだけど、あの二人ってルデラの時も無理してたからね。…そのお陰で、ぼくら四人は助かったんだけど…」
「…しかし“エアリシア”か。ソレイルも“エアリシア”周辺の“枠”が安定しないと言っていたが…」
「流石にこれとそれでは話が別なんじゃない? 」
『だといいけど…、何か胸騒ぎがするのよね…。アルタイル達“三神”と“水”がルデラで囚われた時みたいに…』
つづく……