5-1 入れ違う来訪者
[Side Ratwel]
「…初めて来たのだけど、やっぱりハク達の方も似たような感じなのだな」
「まぁ街は違うけど、同じギルドやでな」
「ですよね。細かいところは少しずつ違いけど」
結局“トレジャータウン”も似たような感じだったからね。昨日船でハクとリクさん、それから“パラムタウン”の親方のスパーダさんと会った僕達は、そのまま一緒にギルドの方に戻った。“ワイワイタウン”に着いた時にはもう日が暮れていたから、少し急いで“アクトアタウン”に帰ったけど、時間が時間だったから殆どの店は閉まっていた。ハク達のギルドと提携してる店は全部閉まってたから、ちょっとだけ飲食費がかさんだけど…。だけどティル君達も満足してくれたみたいだから、何とかなったと思う。
それで朝食を済ませた今日の朝礼では、ハク達が会議で決まった事を話してくれた。その関係でスパーダさんは来てるみたいだけど、ラスカのギルド全体で二つの事を扱う事になったらしい。そのうちの一つはハク達が中心になって動くことになったみたいだけど、“エアリシア”での殺人事件の事と、同じ街で沢山出てる捜索願について。後者は今日の朝礼で初めて知ったけど、同じ街で二つの事が同時に起きたとなると、どうしても関係してるって思えてきてしまう。スパーダさんも似たようなことを感じていたらしく、“パラムタウン”の方も二つの事を扱うつもりだったらしい。一つはハクと同じ事だけど、もう一つは捜索願の件。これは副親方がするみたいだから、スパーダさんはハクと同じ事を扱う事になる。…だから顔合わせも兼ねて、ハクもそうしてたみたいだから相手側のギルドに来ているんだとか…。
「そうやな。ラックさんとこは食堂あるけどウチらは無いし、代わりにウチらは水中演武場があるでな」
「そうだよね。私達は卒業してハク達を手伝うまで気付けなかったけど、案外ギルドって色んな事してるもんね」
そうは言っても、ハク達と“トレジャータウン”しか行った事ないけど…。時間を今の事まで進めると、朝礼が終わったから、僕、ベリーそれからハクとスパーダさんの四人でちょっとした雑談をしていた。シリウスとかティル君達は別の所で話しているけど、僕達は主にそれぞれのギルドについて…。本当は行方不明になってるシルクの事をスパーダさんに訊いてみたいんだけど、ハクだけには知らせない事になってるから、今は訊くことが出来ない。元々今日は休息を兼ねてシルクを捜索するつもりだったから、ベリーも何気なくこの場の会話を繋げることにしてる。
「なのだな。…ところでハク? シリウスは“パラムタウン”に行くって言っていたのだけど、ハクはどうするつもりなのだ? 」
「ウチ? ウチは…、そうやな…。リルを連れて“オアセラ”の方に行ってみるつもりやよ」
「ええっと確か、“オアセラ”のギルドが首謀者の捜索をするんだよね? 」
ハクは状況的に誰なのか分かってるみたいだけど、証拠とか証言とか…、色々揃えないといけないみたいだからね…。話していた話題が終わり始めたから、ゼブライカの親方はこの後の事を聞き始める。僕も気になってたから知れてよかったんだけど、僕が思っていた事と少し違っていた。流石に二日ぐらい経ってるから頭を冷やせてるんだと思うけど、早速“オアセラ”に乗り込んで調査をする…、ハクならそう言うような気がしていた。だけどいい意味で予想が外れたから、僕は内心ホッとしている。だから僕は思っていたことを顔に出さないように注意しながら、それらしい事を言って会話に引き続き参加した。
「確か砂の大陸にある街だよね? 」
「そうなのだ。俺達は数えるぐらいしか行った事が無いのだけど…。…それならハク? そろそろ出ないと船に乗り遅れると思うのだけど…」
「船…、あっ! そうやん、すっかり忘れとった! すまへんけど、ウチはこの辺で行くで! …リル! 待たせて…」
船の時間は覚えてないけど、リル君がいるなら、飛ぶわけにはいかないよね? “オアセラ”には行った事が無いからベリーは訊き返していたけど、スパーダさんはこくりと頷いてあっている、と教えてくれる。リストバンド型の端末を着けた左の前足の蹄で軽く地面を叩いて数えてるから、もしかするとスパーダさんもあまり行った事が無いのかもしれない。言われてみれば“オアセラ”は行きにくい場所にある都市なような気がするから、もしかすると僕達もそれで行く機会が無かったのかもしれない。…だけどその一言で何かを思い出したのか、スパーダさんはハクに対してこう声をかけていた。
するとハクは最初はいまいちパッとしない表情だったけど、すぐに大事な事を思い出したらしい。ハッと小さく声をあげてから、一緒に行く予定だったらしいリル君をキョロキョロと捜し始める。案外早く見つかったらしく、ハクは僕達の元を這って去りながら軽く謝る。相当時間が迫っているみたいで、僕達の反応を見る間もなく、リル君と合流してギルドを出ていった。
「…相変わらずハクは、夢中になると周りが見えなくなるのだな」
「って事はスパーダさん、昔からそうだったの? 」
「なのだ」
「やっぱり、そうだと思いまし…」
そう言うところがハクっぽいけどね。残された僕達三人は、つい嵐の様に立ち去ったハクの事を話し始めてしまう。ハイドさんもそのうちの一人だけど、ハクの交友関係の広さには凄く驚かされてしまう。“エアリシア”関係だけでもリクさんを入れた三人もここに来てるし、多分“パラムタウン”にも知りあいは沢山いるんだと思う。スパーダさん達と過ごしたらしい見習い時代も気になるけど、今のところは…。
「…よかった。ここがそうみたいだね」
「という事は、この施設に…」
「そうだよ。…あっ、ラテ君! 」
「ぅん? …えっ? 」
ちょっ、ちょっと待って! ここにいるって事は、来てたの? 三人で話し始めていたけど、僕はふと、入り口の方からの声が耳に入る。最初はどこかで聞いたような声だなー、って感じであまり気にしてなかったけど、途中で名前を呼ばれた気がしたから、僕はついその方にチラッと目を向ける。だけどその視界の端で捕えた人影は、僕…、いや僕達にとっては欠かせない存在の一人…。一緒にいるもう一人は分からないけど、僕を呼んだその人は…。
「ふっ、フライ? この時代に来てたの? 」
「うん。本当は昨日から居たんだけど、色々忙しくてね」
その場所にいたのは、僕達悠久の風の師匠のうちの一人で、フライゴンのフライ。彼は僕が声をあげた事に気付くと、小さく右手を挙げて会釈してくれる。シルクとかティル君がいるからシードさんが導いているのは知ってたけど、ベリーが教えてくれた中にフライの名前は無かったから、僕は凄くビックリしてしまった。
「フライ! 久しぶりだね! シルク達が来てるのは知ってるけど、フライも来てたんだね? 」
「まぁね」
「ええっとフライさん? この人達は…」
「ラツェルさん、この二人は…」
会えるって思ってなかったから嬉しいけど、一緒にいる人は誰なんだろう? フライとは知りあいみたいだけど…。ベリーとフライ、二人はほぼ同時に駆けだして、久々の再会を喜んでいる。二人とも握手を交わし合ってるから、本音を言うと僕もその輪に参加したいと思っていた。だけどスパーダさんを置き去りにする訳にも行かないから、はやる気持ちを抑えて彼と少しずつフライ達の所に向かい始める。だけどその途中に、スパーダさんとサンダースの彼が、ほぼ同時に同じことを尋ねてきていた。
「ええっと、何から話せばいいか分からないんですけど…」
「私達の親友のうちの一人で、フライゴンのフライ。見習い時代に色んなことを教えてくれたんだよ」
「という事は…、悠久の風の師匠ということなのだな? 」
「傍から見ると…、そういう事になるね。ボクは探検隊でも救助隊でもないんだけど…、この時代で言うなら考古学者兼活動家、って感じかな」
「“エクワイル”って言っても、伝わらないかもしれないですからね」
「考古学者…、中々いない職業なのだな」
「連盟の公認なのはウォルタ君を入れても数えるぐらいしかしかいないみたいだから、そうなるね」
「だよね。…だけどフライ? 一緒にいるサンダースは誰なの? 」
「僕の事ですよね? ええっと職業は何て言ったらいいか分からないんですけど、コットといいます。十三でまだまだ経験は浅いんですけど…」
「これを言うと驚くかもしれないけど、コット君はシルクの従弟なんだよ」
「ええっ? ちょっ、ちょっと待って! シルクの従弟って…」
要するに、そういう事だよね? フライは自分の事を紹介してから、簡単に僕達のと関係を話してくれる。この流れでサンダースの彼も話し始めてくれたけど、その彼は僕が予想していた事と違っていたから物凄く驚いてしまった。フライと一緒に来たから、僕はフライ達の仲間のうちの一人、だから二千年代からシードさんに導かれている、最初はこう思っていた。後者は十三歳って言ってたからあってたけど、コットっていう彼はフライの仲間…、じゃなくてそれ以上。おまけに今は行方不明のシルクの従弟って言ってるから、僕は聴いただけでは全然信じられなかった。…だけど雰囲気とか丁寧な所とか…、似ている部分もある気がするから、本当なのかもしれない、フライが嘘をついてるとも考えられないから、僕は親友が言った衝撃的な事を信じてしまっていた。
つづく……