1-2 活動報告
―あらすじ―
風の大陸での活動を終えた僕達、探検隊悠久の風。
ヘトヘトになりながらもトレジャータウンに帰着した僕達は、報告を兼ねて古巣のギルドに立ち寄った。
丁度ギルドでは、僕達にとっての先輩の卒業記念パーティーが開催されていた。
そこで僕達は、親友のうちの一人で、別のギルドの副親方をしているアブソルのシリウスと再会した。
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[Side Ratwel]
「…噂には聞いてましたけど、そこまで酷かったんですか」
「うん。何日も動きっ放しだったから、もうヘトヘトでしゅよ…」
だよね…。そうも言ってられなかったけど、依頼をこなした直後だったからなぁ…。僕達が話さなくても、シリウスは風の大陸での災害の事をどこかで聴いていたらしい。その時に僕達の事も知ったらしく、話を端折っても粗方伝える事はできた。だけど今話している場所が場所だから、声を狭めて、だけど…。その中でもソーフは、ハハハ…、と小さく疲弊した笑みを浮かべていた。
「規模の大きな災害だ、って言ってましたからね」
「うん。…シリウス達は、確か近いうちに未開のダンジョンに再挑戦するんだよね? 」
「参碧の氷原? 」
「そうなりますね」
僕達は行った事無いけど、突破できなかった、って聴いてるからなぁ…。うっすらと笑うソーフを見たシリウスは、ご苦労様です、って言う感じで答えてくれる。確かにその通りだったから、そう分かってくれてすごくありがたい。一応救助活動は終えて帰ってきている身だけど、まだまだ復興に向け動き始めれていない、っていうのが現状…。だから疲れをとってから、また戻ってそれに復帰するつもり…。
それもそうだけど、ひとまず頷いてから、僕はシリウスにある事を聴いてみる。シリウス達のチーム、明星がそこに初めて挑戦した時、僕達はギルドの代表…。いや、留守番を頼まれた、って言った方がいいのかな? 会計士のフロリアさんに手助けしてもらいながら、ギルドの運営を任されていた。そういう訳で知っていたから、進捗を聴くっていう意味を込めて尋ねてみた。続けてベリーが問いかけると、彼は首を大きく縦にふってくれた。
「ハクに任せっきりになってますけど、霧の大陸の火花と組んで再調査する予定でいますね。多分今日中にも、依頼書がジョンノエタウンに着いているはずです」
「火花、かぁー。私達にとっては、く…」
「いやいやー、ラテにベリー、ソーフも、間に合ってよかった♪ 」
「ふっ、フラットさん、急に話しかけないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか」
シリウスはそのまま、僕達に話してくれる。探検隊火花といえば、霧の大陸では知らない人はいない、っていうぐらい有名なチーム。今ではシリウス達もそうだけど、マスターランクとしての地位も確立している。それに対して僕達は、ウルトラランク。結成した時期が違いすぎるから仕方ないけど、ベリーが言いかけた雲の上の存在、そう言っても過言じゃないかもしれない。
だけどその最中で、第三者に遮られてしまう。僕達の会話に割り込んできたのは、シリウスと同じ役職の副親方。ペラップのフラットさんが、相変わらずの弾けた声で僕達に話しかけてきた。祝賀パーティーだからって事で蝶ネクタイをしている彼は、飲み物の入ったグラスを片手にホッと一息ついていた。
「フラットの事だから、仕方ないよね。それにブラウンさんから聴いたんだけど、ヘルツさんがギルドを卒業するんだよね? 」
「その通りだ♪ 本当はすぐにでもペリッパー便を飛ばすつもりだったが、状況が状況だったからな♪ …で、私も情報屋として詳しく知りたいのだが、風の大陸の被害状況はどうだ? 」
「被害状況…、そうでしゅね…。ニアレビレッジで大雨と土砂災害があったのは、知ってましゅよね? 」
「ニアレビレッジ…、あまり聞かない名前だが…」
「
風蓮茶で有名な村、って言えば分かる? 」
僕はあの渋みが苦手だけど、ニアレビレッジといえばそれだもんね。相変わらずの事に呆れていると、ベリーが苦笑いを浮かべながらボソッと呟く。だけどそれを隠すように問いただすと、当の本人は全く気にすることなく答える。昔からそうだけど、フラットさんは自分に不都合、それから親方様に関する不満とかはあまり気にしないタイプなんだと思う。だけどその彼は一応、このギルドの副代表にして情報屋。祝賀パーティー中だけど、今一番注目されてると言えそうなネタだから、こう訊ねてきた。
だからソーフは、若干上の方に目をやりながら答える。村の名前としてはあまり知られていないから、案の定フラットさんは首を傾げていた。
「風蓮茶…、あぁはいはい! それなら私も知ってる♪ 」
「それなら話が早いですよ。風蓮草を栽培している庭園が、土砂崩れの被害を受けたそうです。僕達は潜入した事はないんですけど、最寄りの丘陵にあるダンジョンからの土砂が流れ込んだ可能性がある、って現地の救助隊が言ってました」
「特産品の畑がダメとなると…、販売価格に影響が出そうですね。ニアレビレッジとなると、エアリシアの事が心配ですけど…」
「エアリシアって、ハクの故郷だもんね」
僕もそう聴いてるけど、大丈夫かな…。特産品を言った事で、フラットさんはピンときたらしい。パッと弾ける声で、短く言い放つ。そうと分かれば説明しやすいから、僕はこんな風に被害状況を報告する。その近くに親友、シリウスのパートナーで親方をしているハクリューの故郷があるから、僕も凄く気になっている。シリウス自身もそうらしく、あまり表情には出してないけど気が気でないと言った様子…。ほんの少しだけ、そわそわとしているように僕には見えた気がした。
「そうでしゅよね。…だからミー達、疲れをとったらすぐに戻るつもりでしゅ」
「復興支援も含めて、エアリシアとか、周辺の様子も見てくるつもりだよ」
「助かります! …こうなると、ゆっくりしてられませんね。…フラットさん」
「はい何でしょう♪ 」
「折角ですけど、自分はこの辺で失礼します」
そっか。自然災害となると、別の大陸だけどギルドの代表だから、それについて話し合わないといけないからね…。僕達の話を改めて訊いて、シリウスはハッと声をあげる。僕達が来る前に何かを頼んでいたのかもしれないけど、申し訳なさそうに頭を下げているから、多分ここのギルドで一泊していくつもりだったんだと思う。こことアクトアタウンのギルド同士の繋がりは強いから、僕達も水の大陸に行ったときは、いつもお世話になっている。現に今も、僕達の後輩のリル君とフレイ君が向こうに出張しているし、僕達だって戦闘の技術指導をしに行った事がある。
「参碧の氷原もだけど、色々しないといけないもんね」
「はい。ですので…」
シリウスはベリーの問いかけに頷くと、すぐに目を閉じる。この様子だと多分、ある事の為に意識を集中させていると思う。すると僕の予想通り、身につけている虹色の宝石のネックレス…、覚醒の原石が強い光を放ち始める。その光はすぐにシリウスを包み込み、光が黒を呈する…。
「
また後日、改めてお伺いします」
バリンッ、とガラスが割れたような音と共に、黒い光が弾け飛ぶ。するとその場には、翼を得た親友、メガ進化したシリウスが、声を響かせてこう呟く。そのまま彼は、賑わう人々の上を一気に飛び越し、自分の拠点への帰路につく。その後ろ姿を、僕は彼らの代わりに自分達がすべきことをしよう、そう言う決意と共に見送った。
つづく……