4-6 白艮の戦い
―あらすじ―
ダンジョンを抜けた僕達は、頂上までの道のりで特産品のハーブティーの話をする。
登りきって辺りを観察していると、予想通りあの生物が奇襲を仕掛けてきた。
僕の黒い眼差しで動きを止め、その間にどう戦うか作戦会議をする。
ある程度まとまったから、技を解いて戦闘を開始した。
――――
[Side Berry]
「シャドーボール! 」
「火炎放射! 」
「――ッ! 」
私だけじゃなくてティル君もいるから、きっと大丈夫だね! ラテが拘束している間にまとまったから、私達はあの殺戮生物とのバトルを開始した。前来た時に草タイプかな、って感じたって事もあって、今回の戦闘は私とティル君がメイン。技構成的にティル君は遠距離向きだとは思うけど、本人は接近戦が得意だって言ってた。シルクの戦い方をよく知ってるから、特殊技でどんな風に近距離で戦うのか、ちょっと楽しみかな。
…それでラテが黒い眼差しを解除してから、私達は一斉に行動を開始する。まず初めにティル君は、目を瞑って精神統一する。言ってた技から考えると、この動きは未来予知。ティル君がどのぐらいできるのかは分からないけど、少なくとも時間差で大ダメージを与える、そのつもりだと思う。その横でラテが即行で技を切り替えて、正面から漆黒の球体を一発撃ちだす。同じタイミングで私が、少し斜めにずらすような感じで炎のブレスを吹き出した。
「―――、―ッ! 」
「守る。ベリー! 」
「うん! 」
「そっちは任せたよ。マジカルシャイン! 」
向こうも動き始めたね。私達が一斉に攻撃を始めたから、向こうもこっちに合わせて急接近してくる。今の所十五メートルぐらいあるけど、向こうはエネルギーを活性化させて滑空してくる。飛ぶ方向からすると、多分狙いは正面のラテ。技の構えと相性の関係からすると、あれはきっと聖なる剣。真正面にいるラテは緑のシールドを走りながら展開し、この攻撃を受け切ろうとしていた。
ラテから合図をもらった私とティル君は、弧を描くように左右に分かれる。私は反時計回りに迂回し、相手の出方を伺いながらエネルギーレベルを高める。対してティル君は、時計回りに走りながら懐の毛に手を突っ込む。そこからさっきの木の枝を引き抜き、多分そこにエネルギーを集中させる。すると技が発動したらしく、その先端から激しい光が放たれる。私は咄嗟に目を閉じたけど、多分その時に衝撃波も放たれているはず…。
「――ッ――」
「オウム返し…、リーフブレード! くっ…、堅い…」
あんなに薄いのに、何でこんなに堅いの? ラテのシールドに完全に弾かれた相手は、反撃を食らうまいと後ろに飛び下がろうとしていたと思う。だけどそこへティル君の衝撃波が襲いかかってるはずだから、多分少し高い位置に退避していると思う。ここで私は目を開けたんだけど、その時の位置関係は、左にラテ、右にティル君がいて、私を入れた三人を結ぶ三角形の中心に、薄っぺらい生物。高さは私の目算で四メートルぐらいだから、スカイアッパーなら届くと思う。
だけど様子を伺っている間に、相手は次の行動に移る。相手は力を蓄えながら、ラテに向けて急降下する。半分ぐらい降下したところで溜め終えたらしく、手先と思われる部分から緑のエネルギー体を出現させる。細長く切れ味の良さそうな感じがするから、また近接攻撃でダメージを与えるつもりなんだと思う。そう感じた私は、予め活性化させていたエネルギーを基に、相手を強く意識する。そうする事で技をコピーし、若草色のブレードを右の爪に構える。その状態で相手とラテの間に入り、思いっきり斬り上げる。…だけどブレードから伝わってくる手応えは、全く無い。それどころか、薄いはずの相手の体に弾かれてしまった。
「黒い眼差し! ティル君、今のうちに! 」
「うん! ベリーちゃん」
「任せて! 火炎放射」
「サイコキネシス! 」
何をするつもりかは分からないけど、そういう話だもんね。下方向に弾かれた私は、すぐにバックステップで距離をとる。その間私は無防備になるけど、そこはラテがカバーしてくれる。もう一度相手を睨んで身動きをとれなくし、私が体勢を立て直す時間を稼いでくれる。ティル君も技の準備ができたみたいだから、燃え盛る炎を相手…、じゃなくてマフォクシーの彼に向けて解き放った。何をするつもりなのかは、聞いてないから分からないけど…。
「ラテ君、ベリーちゃん、サポート頼んだよ」
「えっ、うっ、うん! 」
「あんな使い方が…、シャドーボール! 」
炎が…、変わった…? 私の炎を見えない力で受け止めたティル君は、一度後ろに跳んで距離をとる。右手に持っている枝を両手で構えると、私の炎をその近くまで手繰り寄せる。二つに分けたそのうちの一つを、彼は枝の先端に纏わせる。…かと思うと、ティル君は何かをしたらしく、先端の炎が一瞬エネルギー体に戻ったような気がする。すぐに変化が現れ、枝の先端から延長されたような紅いブレードが完成していた。
予想外の変化だったから、私…、多分ラテもだと思うけど、思わず驚きで声を荒らげてしまう。そのせいで黒い眼差しは解除されちゃったけど、ティル君は全く構わずに相手に急接近する。拘束が解かれたって事もあって、相手はもちろんティル君に対抗しようと舞い降りてくる。立ち直るのが遅れて観察できなかったけど、相手はティル君の斬り上げを何かの技で受け止めていた。
「――ッ? 」
「俺の太刀筋を読ませはしないよ! 」
「―――ッ? 」
「隙あり! 」
「―ッ! 」
両者は逆方向に弾き合い、そのうちのティル君は左足で下がった位置で踏みとどまる。その足に力を溜め、思いっきり蹴る事で急にきり返す。前傾姿勢で敵に突っ込み、すれ違い様に紅いブレードで斬り上げる。丁度ラテのシャドーボールで退路を断たれれいたから、ペラペラの相手はかわすことが出来ていなかった。
だけど向こうも連撃を食らう訳にはいかないから、弾かれながらもエネルギーレベルを高めていく。…だけどこのタイミングでティル君の未来予知が発動したらしく、相手は一瞬硬直する。このタイミングをティル君は待っていたらしく、垂直に跳んで二メートルぐらいの高さにいる相手に合わせる。その高さで両手で持つブレードを振り下ろし、力づくで地面に叩きつける。更に右手だけに持ちかえ、起き上がろうとしている殺戮生物に業物を投げ飛ばしていた。
「ッ―、…! 」
『ラテ君、ベリーちゃん、相手の弱点が分かったよ! 』
「えっ、弱点が? 」
「本当に? 」
『うん! 』
ティル君、もうわかったの? ティル君が投げた枝付きのブレードは、相手に刺ささった瞬間元の炎に戻る。本当にどういう風にしてるのか分からないけど、あれから何の技も発動させてないから、多分サイコキネシスで操っているんだと思う。炎に戻ったブレードは枝の部分だけを残して消え、後者だけがふわりと浮いてティル君の手元に戻る。それを掴んだ彼は草地に着地し、ふらつき始めた薄い生き物との距離を詰めはじめていた。
その最中に、急に私達の頭の中にティル君の声が響いてくる。多分テレパシーで話しかけてくれてるんだと思うけど、そうしながらもティル君は右手に持った枝で絶え間なく攻め続けている…。これは話す時間を稼ぐための牽制らしく、パッと見さっきみたいなブレードは創り出していない。その代わりに彼はサポートに徹していた私達に、吉報とも言える事を教えてくれた。
『ラテ君達の言う通り、多分相手は草タイプ。それとこれは俺の技の手応えから感じたことだけど、この生き物は鋼タイプも持ってると思う』
「鋼タイプも? って事はティル君、このままベリーと中心に攻めれば良さそうだね」
『うん。…だけどベリーちゃんも感じたと思うけど、相手は物理技の耐性は異常に高いと思う。だからベリーちゃんのフレアドライブじゃなくて、火炎放射を軸に切り替えた方が良いかもしれないよ』
「火炎放射! 」
「――ッ…? 」
…だからコピーしたリーフブレードじゃあ歯が立たなかったんだね? 連続で突きながら話してくれていたティル君は、話しきったところで急に跳び下がる。それと同時に喉元にエネルギーを蓄え、炎のブレスとして一気に放出する。結果的にひらりとかわされていたけど、ティル君が退くだけの隙は出来ていたと思う。跳び下がった位置で私達の方をチラッと見、そのまま私達に作戦を話してくれた。
「…うん、分かったよ」
「それなら圧しきれそうだね。…ラテ! 」
「うん。ティル君」
「もちろん! 」
もしかするとティル君、私達よりも実力は上かもしれないね…。最低限の言葉でだったけど、ティル君の作戦で私は圧し切れそうな気がしてきた。だから私、それからシャドーボールで牽制し続けていたラテも、ティル君の提案に大きく頷く。その間余った私の炎を相手に向けて飛ばしていたけど、無くなったから下がってきた。そこで私達二人とアイコンタクトをし、一気に決着をつけるために同時に駆けだした。
「―……―! 」
「そうはさせないよ! 黒い眼差し! 」
「…ッ? 」
「火炎放射! 」
「サイコキネシス」
ティル君が先頭で走ってるって事もあって、相手は彼を狙って距離を詰めてくる。あの構えからすると、敵が発動させたのは辻斬り。エスパータイプのティル君にとっては弱点属性になるから、この選択は普通と言えば普通…。だけど相手が技を携えて斬りかかろうとした時、急に何かに縛られたように動きが止まる。この動きを止めたのは、もちろんラテの黒い眼差し。乱発すると目に凄く負担がかかるみたいだけど、それでもラテはティル君の斜め左後ろで相手を凝視し続けてくれる。その間に私が、相手から見て左斜め前の位置から、大量の炎をブレスとして解き放つ。それをティル君が超能力で全て受け止め、塊状に纏めていた。
「――……ッ! 」
「フレアドライブ! 」
「…―」
「ティル君! 」
凄い量…。あんな使い方があったんだ…。ラテの補助技で身動きを封じられた相手は、なけなしの力で抜け出そうとする。その間に私は、残ったエネルギーの大半を活性化させ、それを全身に行き渡らせる。イメージを膨らませながらその通りに変換し、私は燃え盛る炎を自らの体に纏わせる。これを走りながらやって、相手の背後から捨て身で突っ込んだ。
ティル君の言う通り手応えはそれほどなかったけど、草、鋼タイプならそれなりに通っているはず…。私は反動でかなりのダメージを食らったけど、その分物理技でも攻撃は通っているはず…。その証拠に、私に弾き飛ばされた相手は悲鳴みたいな言葉にならない声をあげてしまっていた。
この間にティル君は、見えない力で私の炎を細かく分ける。数え始めるとキリが無いけど、彼は半径一メートルぐらいはあった炎塊を三センチぐらいの大きさまでに小さくしている。その炎片の性質を無理やり変え、折ったカッターナイフの刃みたいなものを沢山作り出す。そして…。
「これで最後! 」
私がフッ飛ばした殺戮生物に向けて、無数の刃を雨の様に降らせる。それもそのまま降らせずに、相手に当たる直前にサイコキネシスの影響下から外す。そうする事で、元の炎として、全てを確実に命中させていた。
「………ッ…」
「これで倒せた、かな? 」
「…みたいだね」
この攻撃が決め手になったらしく、ペラペラの生き物は白い草原の上に崩れ落ちる。相当堪えたみたいで、相手はこれ以上浮き上がる事は無かった。
つづく……