4-4 丘陵の強者
―あらすじ―
予定通りニアレビレッジに着いた僕達は、改めて被害の深刻さを痛感する。
着いて早々復興活動を取り仕切っているリオナさんと再会し、彼女から村の現状を聞かされる。
その内容は“捌白の丘陵”の野生が強くなっているというもので、ゴールドランクのチームでは歯が立たない強さらしい。
なので僕達は、予定を切り上げて早急にダンジョンの調査に向かう事にした。
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[Side Flay]
「はぁ…、はぁ…、…フライさん…、この時代って…、本当にこんなところばかり…、なんですか…? 」
「全部が全部“ロードクラウド”ぐらいの難易度って事は無いんだけど、ダンジョンっていう事で考えるなら、そういう事になるね」
「そうですね…。…ですけどコットさん、ここを力尽きずに…、突破できたなら…、多少のダンジョンなら…、大丈夫な…、はずです」
「そうだね。ウルトラレベルは総合評価で上から三番目の難易度。環境とか野生の属性、広さにもよるけど、そういう基準で見れば問題ないと思うよ。…さぁ、ここまで来たらあと少しだよ。シードさん、ここを突破したら、すぐにカピンタウンに行くんですよね? 」
「はい…。今日があれから何日…、経ってるのかは…、分からないですけど…、そこでチェリーと、…合流するつもり…、なんです…」
「チェリー…、っと、目覚めるパワー! 」
「アシスト…、パワー…! シードさん…、左から来ます…! 」
「はい…! …自然の力! 」
――――
[Side Ratwel]
「…真空斬り! 」
「ヵァッ! 」
「…よしっと」
「とりあえず、この辺は粗方倒せたかな? 」
「気配もあまりないし、そうみたいだね」
遠くの方には何体かいると思うけど、今のところは大丈夫そうだね。予定を早めて“捌白の丘陵”に潜入した僕達は、リオナさんから聞いた事を確かめるためにまんべんなくエリアを捜索していた。潜入してから四十分ぐらい経ってると思うけど、今のところは前来た時と大して変わっていない。襲ってくる野生の種族もいつも通りだし、強さも通常攻撃を五、六発命中させれば倒せる程度…。今もタネボーを倒したところだけど、デマなんじゃないか、って思うぐらいいつも通りだから、僕は少し拍子抜けしてしまっている。ベリーとティル君はどう思ってるか分からないけど、とりあえず戦闘は終わったから、僕はふぅと一息つき、辺りへの緊張を少しだけ緩めた。
「うん。…だけど野生が強くなってるって、本当なのかな? リオナさんが嘘をいう事なんて無いと思うんだけど、私はまだ信じられないかな…」
「確かにね。これから頂上で戦う事を考えたらありがたいんだけど、俺もいまいちね…」
「やっぱりそう思うよね? 」
足場が安定しないと言えばしないけど、それだけだからなぁ…。この様子だと二人とも似たようなことを考えているらしく、ベリーは羽毛に付いた泥を払い落しながら呟く。戦闘自体は全く苦戦してないけど、聞いた事と違うから、表情だけはいまいちパッとしていない。ティル君も何とも言えない複雑な顔で首を傾げ、種族上持っている木の棒を懐に仕舞いながらこう言う。彼の言う通り体力を温存できるから良いんだけど、やっぱり、ね…。
「そろそろ丘の中腹だからいてもいいはずなんだけど、ここまで出逢わな…」
「ガァァッ! 」
「ラテ! 後ろ…! 」
「ええっ…! まっ、守る! っく…」
いっ、いつの間に? ここまで出逢わないと逆に不気味だよ、僕はこう言おうとしたけど、それは叶わなかった。何故なら僕の真後ろ、それも結構な近さから、急に野生の咆哮が聞こえてきたから…。この声、それとベリーに言われるまで気付けなかったけど、方向を教えてくれたからギリギリ間に合った。いつものクセで咄嗟に緑色のシールドを張ったけど、この一撃を凌いだだけで一気にひびが入る。攻撃された方向を見てないから分からないけれど、この手応えは物理技、僕はひびの広がり方から率直にそう感じた。
「火炎放射! 」
「火炎放射! ラテ君! 」
「ァッ」
一瞬遅れて、炎タイプの二人も応戦してくれる。ベリーとティル君、両方とも喉元にエネルギーを溜め、それを炎のブレスとして吹き出す。この間に僕はシールドを解除し、敵がいる方向に向き直る。ベリーが左、ティル君が右を炎で凪払ってくれていたけど、この感じだとあまりダメージを与えれてなさそ…。
「ガルルルッ! 」
「るっ、ルチャブル? 何でルチャブルがこんな所に? 」
「分からないよ! 」
「って事はベリーちゃん? ここにはルチャブルはいな…」
「ガルァァッ! 」
「くっ…! はっ、速い! 」
「ティル君! 」
炎が治まりそこにいたのは、このダンジョンにはいないはずのルチャブル…。ベリー達の迎撃を退く事で回避していたけど、ルチャブルは血走った眼で僕達三人を睨んでいた。いないはずの種族だから、僕は思わず声を荒らげて取り乱してしまう。ベリーも信じられない、っていう感じで声をあげてるから、多分同じ…。対して初めて“捌白の丘陵”に潜入するティル君は、取り乱す僕達を見てこう一言…。だけど言い切る間もなく、距離をとっていた敵の攻撃で遮られてしまっていた。
おまけにこのルチャブルの行動は、注意して視てなかったはずなのに捉える事が出来なかった。ティル君は咄嗟に枝を構えて防いでいたけど、引き抜き様に両手で横に構えるのが精一杯っていう感じ…。燕返しか何かだと思うけど、跳び下がったルチャブルのスピードについていけてないよ…。
「ティル君! あのルチャブル、何か変じゃない? 」
「グルルゥッ…」
「黒い眼差し! 」
「変…、俺もそう思うよ! 技の威力は大して強くなかったんだけ…」
「それもだけど」
もしかしてこのルチャブルが、リオナさんが言ってた野生なんじゃあ…。ベリーは何かに気付いたのか、僕達二人に対して急に声をあげる。僕は少しビックリしたけど、ベリーの言う通り、この野生は他とは何かが違う気がする…。だけどあの素早さだと話す暇もなくなりそうだから、僕は両目にエネルギーを送り込み、八メートル先に着地したルチャブルを凝視する。すると対象の動きはピタリと止まり、もがこうとはしてるけど襲いかかって来なくなった。
その間にティル君が、ベリーの問いかけに答える。僕も想う事があるから話したいんだけど、抵抗する力が強くて、気が逸れると拘束を振り払われそう…。だから相手から目線を一切逸らさずに、耳だけどベリー達の会話に傾ける。この感じだと多分、ベリーの疑問はティル君が言った事とは違うんだと思う。
「あのルチャブル、何か纏ってない? 上手く言葉にできないけど…」
「纏…、そっか、だから…! 」
だから変な感じがしたんだ!
「オーラ…、そうだよ! ウォルタの“加護”みたいなオーラだよ! 色は違うけど…」
ベリーに言われて気づいたけど、確かに僕が拘束してるルチャブルには、何かが纏わりついている。エネルギーレベルを上げて僕の拘束を解こうとしているんだと思うけど、あんな技は僕は知らない。技に詳しいベリーでさえこう言ってるから、もしかするとあれは技じゃないのかもしれない。ウォルタ君と違って濃いオレンジ色だけど、“か…”…。
「あれは“加護”か何かだって思っても良いかもしれないよ! それにあのルチャブルは、多分この世界のルチャブルじゃないよ! 」
「ええっ? ちっ、違う世界って…、ティル君、どういう事なの? 」
ティル君、今、何て言った?
「ベリーちゃんはシオンさんの事、知ってるよね? 」
「うん! ウォルタが保護したっていう、スバメの女の子の事だよね? 」
「そうだよ! ならシオンさんが異世界から来た元人間、って事は言わなくてもいいよね? 」
「それも大丈夫だよ! だけどシオンちゃんとあのルチャブルと何の関け…」
「濃さは違うけど、シオンさんもオレンジ色のオーラを纏ってたんだよ! 俺は“海岸の洞窟”で見て知ったんだけど、闘ってる時、俊足の種を使ってないのに倍速状態だった…。このルチャブルも凄く早かったでしょ? まだそうと決まった訳じゃないけど、そう考えるのが自然なんじゃないかな、って」
「たっ、確かにそうだけ…」
「ガルルルァァッ! 」
「くぅっ…! …来るよ! 真空斬り! 」
とっ、解かれた! だっ、だけど、僕とアーシアさん以外に人間だった人がいたの? 僕は黒い眼差しが解けないように注意しながら聴いていたけど、それでもティル君の話に驚いてしまう。それが原因で集中力が一瞬途切れ、その隙を突かれて完全に拘束が破られてしまう。この反動で少し目が痛んだけど、このまま怯んでいたら一気に攻められてしまうかもしれない。だから僕は痛みで目を閉じたまま、拘束していた時の覚えを頼りに、いるはずの一点を急激に減圧…。その気圧差を利用して、オレンジ色のオーラを纏ったルチャブルに斬りかかった。
つづく……