4-3 村の新たな異変
―あらすじ―
大急ぎでギルドに駆けこんだ僕とアーシアさんは、シルクが居なくなったことをシリウス、それから偶々いたティル君の二人に伝える。
話している間にライトさんも戻ってきて、彼女を交えていなくなった理由を考えていた。
だけど全く理由が考えつかなかったから、ひとまず僕達はする予定だった事に取りかかる事にする。
ギルドに残る事になったソーフの代わりにティル君が来てくれることになり、ベリーを入れた三人でニアレビレッジに向けて出発した。
――――
[Side Ratwel]
「とりあえず着いたけど…」
やっぱり、復興にはまだまだ時間がかかりそうだね。シリウス達のギルドを発った僕達は、二時間ぐらいかけて目的地へと向かった。ニアレは一昨日出たばかりだけど、この二日間で色んなことがありすぎて凄く昔のような感じがある。もしかするとベリーも想ってるかもしれないけど、壊滅状態とはいえ何故か懐かしくもあった。
それで村に着いた僕は、二日ぶりに感じる村の空気にぽつりと呟く。殆ど日数が経ってないから仕方ないけど、村を出る前とはあまり変わってない様に僕には見えた。集落の方は相変わらずだけど、それでも心なしか、倒壊した建物の撤去は進んでいるような気がする。農園跡の仮設住宅の方は…。
「話しでは聴いてたけど、酷いね…。元の時代でも救助活動をしてきたばかりだけど、やっぱりこう言うのを見ると心が痛いよ…」
「ティル君も? それに救助、って…」
「ううん、こっちとは少し違って、倒壊したり燃えてる建物から人を助け出す事。その活動中にライトは左目…」
「ん? 悠久の風のみな…、さんじゃないわね。でも戻ってきてくれて助かるわ」
「あっ、はい。今回は別の事で来たんだけど…」
やっぱりいつも、いいタイミングで来てくれるよね。ティル君はこの凄惨な光景に息を呑み、思った事を口にする。確かに僕も何回も見てるけど、簡単に慣れれるようなものじゃないと思う。少し暗い表情で言っていたから、もちろんティル君も慣れていないはず…。ベリーに訊かれて首を横にふっているけど、声にも覇気があまり感じられなかった。
それでティル君が元の世界であった事を話してくれていると、相変わらずのタイミングで村の住民の一人が気づいて僕達の方に来てくれる。前の時もそうだったけど、ラランテスのリオナさんが僕達三人に目を通しながら話しかけてきた。…だけど前とは違ってソーフの代わりにティル君がいるから、不思議そうに首を傾げてしまっていた。
「別の事? 」
「うん。前は救助隊員のハイドさんが大怪我して運び込まれたでしょ? あの犯人を倒すために、今回は来たって感じかな? 」
「ええ、リリー女医から聞いてるわ。エアリシアから来てたフローゼルよね」
「はい」
ハイドさんはチームが解散して廃業した事になったけど…、一応シリウス達のギルドに就く事になったからね。…だけど今の状況だと、あまり良いとは言い切れないのかな…。首を傾げるリオナさんに、ベリーが手短に事情を説明してくれる。ハイドさんの事は話始めると結構長くなるけど、この感じだと関係ある事だけを選んで話してくれている。だからだと思うけど、リオナさんのモヤモヤした表情はすぐに晴れ、納得したように頷いてくれる。おまけにハイドさんを施術してくれたリリーさんから聞いていたらしく、仮設の診療所がある方向に目を向けながらうんうん、と頷いていた。
「…だけど悠久の風って、ラツェルさん、ベリーさん、ソーフさんの三人のはずよね? …だけどマフォクシーの彼は…」
「俺? うーん、俺は臨時の助っ人、って感じですね」
「そうなるね。僕達の友達でティル、って言うんですけど、ハイドさんを看る事になったソーフの代わりに手伝ってくれることになったんです」
「ラツェルさん達の? …という事は、何かしらのチー…」
「ううん、俺は何のチームにも所属して無いです。この時…、諸島なら、保安官みたいなものですね」
ティル君達の職業? って、この時代だと説明しづらいからね。…だけど治安を守ってるなら、それが良い例えかもしれないね。リオナさんは初対面だから仕方ないけど、僕達のチームの事を知ってるからティル君の事が気になってたらしい。腕を組みながら、この中で一番大きい彼に訊いていた。その彼は少し油断していたらしく、小さく声をあげながらも何とか返事する。そこへ僕が補足をすると、リオナさんは僕達との関係を推測…。だけど多分これは違っているから、ティル君本人が少し考えながらも訂正していた。うっかり別の時代から来た、って言いそうになってたけど…。
「保安官ねぇ。だけどそれだと…」
「それなら大丈夫だよ。ティル君はラスカに来る前は、旅したりして鍛えてたんだって」
「そっ、そうなんです。災害支援とかもしたことがあるんで、役に立てると思います」
「旅だけじゃなくて色んな経験積んでるみたいですからね。…ええっとリオナさん、一つ訊きたいんですけど…」
僕達もテイル君の実力は分かりきってないけど、並のチームより強いのは間違いないね。一瞬リオナさんから返ってきた言葉に詰まったけど、そこはベリーが何とか誤魔化してくれる。別の諸島出身って事はもちろん咄嗟の嘘だけど、支援活動していた事は本当らしい。それに旅してる事も事実だから、上手く後述を合わせれば何とかなると思う。…だけど途中でボロが出たら元も子もないから、僕が適当なタイミングで話題を変える。
「僕達がいない間に、どれだけ進みましたか? 」
「そうね…、仮設住宅の方は粗方建て終わったけど、ダンジョンでの捜索は難航してるのが現状ね」
「だっ、ダンジョンが? だけど“捌白の丘陵”って、ブロンズレベルだから苦戦する事なんてほとんどないはずだよね? 」
「そのはず、なんだけどね…」
「って事はまさか…、ラテ君達が言ってた…」
うん、僕もそう思うよ…。仮設住宅の方は見たら分かったけど、まさか捜索の方が進んでないなんて思いもしなかった。“捌白の丘陵”はブロンズレベルのダンジョンだから、腕に自信のある一般人でも突破できる難易度。なのに捗ってないとなると、何かあったのかもしれない、僕は率直にそう感じた。心当たりはないことも無いけど、考えられる事のうちの一つは、ハイドさんにあんな怪我を負わせた、あの殺戮生物…。あの生き物が観光地になってる祠から下りてきて、ダンジョン内で暴れまわってる事が考えられる。それ以外にも、前に潜入した時、レベルに見合わない強さの敵が何体かダンジョン内で遭遇した。…そうなるとこれは僕の勘だけど、土砂災害の影響で異変が起きて、ダンジョン自体の難易度が上がった。それなら一般の人の操作で捗ってない事の説明がつくし、野生が強くなったことの辻褄が合う。
僕はこんな風に考えたけど、この感じだとティル君とベリーも似たようなことを思ったのかもしれない。ティル君とベリーが一番に考えた事は違うと思うけど、少なくともティル君は、あの生き物が一番の原因、僕を見て言ってきた事からすると、そんなような気がする。
「何故かは分からないけど、調査に行った人の殆どが揃って、野生が強くて勝てない、って言ってるのよ。あれからゴールドランクの二チームも調査してくれてるけど、口をそろえて同じことを言っていたわ」
「えっ…、でも確かゴールドランクだから、普通のチームだと勝てない、って事ですよね? 」
「うっ、うん」
ごっ、ゴールドランクでも? 僕はリオナさんの口から出た言葉に、思わず声をあげてしまいそうになる。ティル君の驚きの声でかき消されたけど、僕は一度聞いただけでは信じる事が出来なかった。ルデラとかデアナはどうなのか分からないけど、ラスカでゴールドって言ったら全体の二十パーセントを占めるランク…。そこまでを入れると七割ぐらいになるはずだから、ラスカでは一般的なチームと言われたらこのランクまでの事を指している。そのランクのチームでも勝てないとなると、ダンジョンで何か異常…、少なくとも環境、野生の強さ、そのどっちかのレベルが上がってることになる。それを入れて考えると、本来の“捌白の丘陵”はブロンズだから、総合的に考えても異常なぐらいレベルが上がってることになる。…だけどダンジョンの広さが変わる事はまずあり得ないから、もしかすると他の二つが同時に上がってるのかもしれない。
「それならラテ君、ベリーちゃん、今日中にでも潜入した方が良くない? 」
「だっ、だよね? 」
「どのみち頂上の祠に行く訳だし、ラテ君達も上位一割に入るチームだからね」
そう言われるとちょっと恥ずかしいけど…、確かにそうだよね。僕達のチームのランクを知ってるティル君は、パッと二人に目を向けて言い放つ。一応僕達のチームはウルトラランクだけど、レベルが変わったダンジョンを楽に突破できるとも限らない。ラスカのチームでは五パーセントしかいないランクに今いるけど、それでも僕達では潜入できないダンジョンは沢山ある…。自然豊かなラスカでは特にそうだから、未開の地を入れると数え始めたらキリが無いと思う。
「あの悠久の風なら、きっと大丈夫ね。ラツェルさん、ベリーさん、マフォクシーのあなたも、頼んだわ。村長には私から伝えておくから」
「助かるよ! じゃあラテ、ティル君」
「あっ、うん」
「もちろん、俺も全力でサポートするよ」
どのみち頂上まではダンジョンを登らないといけないから、目的は同じなのかな? リオナさんはランクを評価してくれているのか、期待の眼差しを僕達に向けてくる。頼ってくれるのは悪い気はしないけど、ランクだけが独り歩きしてるのはちょっと気が引ける…。だけどこの状況では僕達が行くしかないから、とりあえず僕はこくりと頷く。ベリーとティル君は気合十分っていう感じだけど、こんな感じの僕達は、予定を早めてすぐに問題のダンジョンに潜入する事にした。
つづく……