4-2 捜索に向けて
―あらすじ―
シルクの病室で過ごしていた僕とアーシアさんは、疲れが溜まっていたという事もあり、気付くと二人揃って眠ってしまっていた。
一夜明け僕はアーシアさんに起こされたけど、その時にシルクの姿が消えていることに気付く。
同族の彼女と何故いなくなったのかを考えたけど、その理由が全く分からない。
けどずっとその場で固まる訳にも行かないから、僕達二人は大至急アクトアタウンのギルドに向かう事にした。
――――
[Side Ratwel]
「はぁ…、はぁ…。…シリウス…、シリウスは…、いる? 」
ワイワイタウンとアクトアタウン、全速力で走るのって、何回目だろう…? ワイワイタウンの総合病院を跳び出した僕達は、全速力で二つの街の間を駆け抜けた。僕自身は最近走り過ぎて見飽きてきたけど、この道はアーシアさんはシルクを追って走った一回しか通っていないと思う。事態が事態だから飛ばしたけど、緑豊かな森だから、僕達の気持ちとは違って穏やかな風が吹き抜けていた。
それで病院を出てから四十分ぐらいで、僕達はアクトアタウンに辿り着く。水路も通ってて広く、人通りも多いから駆け抜けるのに結構苦労した。この街に来るのが始めてなアーシアさんも何とかついてきてくれていたけど、最短距離を通るために水路を何回も跳び越えたから、先に着地する前足が結構痛い…。流石にシルクの安否を伝えた時よりはマシだけど、それでもやっぱり、ね…。
「はっ、はい。自分ならいますけど、二人揃っ…」
「シルクさんは…、ここに…、はぁ…、はぁ…、来てます…? 」
それで行き交う人の間をくぐり抜けて、僕達はひとまずシリウス達のギルドに戻ってくる事ができた。十時を過ぎてるから人影は疎らだけど、運よくシリウスは一階のロビーにいてくれた。だからすぐに気付いて答えてくれたけど、それは僕と同じで肩で息をしているアーシアさんに遮られてしまっていた。
「シルク? …ラテ君、アーシアさん、何を可笑しな事を言…」
「シルクさんがいなくなっちゃったのです! 」
「…アーシアさん、今何て…」
「朝起きたらシルクの姿が無くなってたんだよ」
やっぱり、そうなるよね…。もし僕がシリウスでもこうなると思うけど、彼は息を切らすブラッキーの問いかけに首を傾げる。シリウスからするとシルクはまだ目を覚ましてないって事になってるから、この反応は当然と言えば当然。…だけどいなくなってたのも事実だから、真っ先にアーシアさんが彼に向けて声をあげる。もちろんシリウスは耳を疑ってるけど、そこは僕が念を押すように、もう一度同じことを言い放った。
「シルクがですか? シルクはまだ動…」
「ラテ君、シリウスさんから聞いたよ。シルクが病院に運ばれたんだよね? 」
「はい…、そうなのですけど…」
シリウスが怪我した右前足を庇って三足でこっちに来てくれているところで、階段の方から一つの声が響いてくる。その声の主はシリウスから聴いていたのか、シルクの事を僕達に訊ねてくる。階段を降りきって助走をつけ始めた彼、マフォクシーのティル君はアーシアさんにも例の事を訊いてくる。その彼女は小さく頷いていたけど、ティル君が期待している事を答えれないから、かなり言葉を濁してしていた。
「その事なら知ってるよ。さっき聴いたばかりだけど、意識が戻ってないんだよね? 」
「うん。…だけどシリウスには言いかけたんだけど…、その前に、ハクはいないよね? 」
「朝礼終わりにすぐ草の大陸に向かったので、多分帰りは明日になると思います」
「それなら言えそうですね。…ええと何から話せばいいか分からないのですけど…」
僕達も全部知ってる訳じゃないからね…。ティル君はシリウスと並んで歩きながら、僕達の方に来てくれる。さっきって事はもしかすると、ティル君達もギルドに着いたばかりなのかもしれない。…そうなるとライトさんの姿が見えないけど、これは多分、まだ荷物を整理して下に降りてきてないからだと思う。パッと見ハクもいなさそうだったけど、アーシアさんはキョロキョロロビーを見渡しながら聴いてくれる。本当に不在だったらしく、パートナーのシリウスがすぐに教えてくれる。ハクがいないなら安心して…、と言っても安心できるような内容じゃないけど、僕達は分かる範囲でシルクの件を二人に話始めた。
――――
[Side Ratwel]
「…私達も何故なのか分からないのですけど…」
「大体は分かりました。ですけど、シルクを連れ去る理由が分かりませんね」
それが分かれば苦労しないんだけど…。ひとまずシリウスとティル君にも話したけど、だからといって状況は変わらなかった。ティル君は今日知ったばかりだから仕方ないけど、シリウスも訳が分からない、って言って首を傾げている。
「だよね…。私はシルクとは結構長いつき合いだけど、今までそんな事無かったからなぁ…」
この話の中にもう一人、説明してる途中で戻ってきた左目が見えないラティアス、ライトさんも困ったように呟く。他にもう一人、スバメの女の子が一緒に戻ってきてたけど、彼女は途中で様子を見に来たフロリアさんと地下の演習所に降りていっていない。その子が誰なのかはティル君かライトさんから後で聞くとして、ライトさんは今まで足りない物資を買いに行ってたらしい。ライトさんは話す前からシルクが“弐黒の牙壌”に落ちた事は知ってたけど、それでも意識不明、そして所在も分からなくなったって知って驚いていた。
「だよね…。…本当は僕達が捜すべきなんだけど、昨日“捌白の丘陵”の件を申請しちゃったからなぁ…」
「自分もメガ進化すれば動けなくはないですけど…」
「それなら、私もアーシアちゃんと捜すよ」
「えっ? ライトさんが? 」
「うん。バトルの方はまだ本調子じゃなけど、探すぐらいならできるかな、って思って」
そう言ってるけど、それなりに動けてたと思うけどなぁ…。何も予定が無ければ僕が捜すつもりだったけど、予定外の事だからそれが出来ない。ただでさえソーフが抜けてベリーと二人になるぐらいだから、申請した内容とは違う事になってしまう。そんな状態で申請を取り下げるとなると、僕達悠久の風の、連盟からの信頼度が落ちる事になる。
だから打つ手が無くて困ってたけど、話を聴いてくれたライトさんが名乗り出てくれる。ライトさん自身も左目が失明して…、それもいまいち状況が呑み込めてない状況なはずだから、僕は思わず彼女の方をハッと見てしまう。視界の端でシリウスも同じ動きをしてたから、彼もライトさんの進言は予想外だったんだと思う。思わず僕は問いただしてしまったけど、自分なりに考えてたらしくライトさんは即答していた。
「ライトさんが手伝ってくれるなら心強いですっ! …ですけどティル君はどうするつもりなのです? シオンちゃんの事もありますけど…」
「うーん…、俺は相性的にラテ君の方を手伝うつもりだけど、そういう事なら遅れて合流するよ。多分無いとは思うけど、風の大陸の方も捜せる訳だし」
「ティル君がですか? 」
「うん。ベリーさんが殺戮生物は草タイプかもしれない、って言ってたから、炎タイプの俺も戦力になるからね」
ティル君が来てくれるなら、あの生物が相手でも何とかなりそうだよ。右の前足を負傷してるシリウスは訊き返していたけど、僕は炎タイプの彼が手を貸してくれるから何となく勝てそうな気がしてきた。ベリーも炎タイプだから有利だけど、何しろ相手の事を何もわかってない状態だから少しでも有利に闘えるほうが良い。…ティル君の戦い方はあまり見た事が無いけど、それでも十分の実力を持ってるって事は分かってるつもり。確かマフォクシーは遠距離攻撃が得意な種族だから、接近戦が多いベリーとの相性が良いはず。ティル君自身はどう思ってるか分からないけど…。
「ティル君、ありがとう」
「じゃあ私は、ウォルタ君達と合流してから探し始めるよ」
「そうですね。予定通りなら、ウォルタさんは今日の夕方ぐらいには来ると思います」
「確か伝説の関係で話す事がある、って昨日の夜言ってたっけ? 」
本当は今頃ここにいるつもりだったみたいだけど、長引いた、ってメールで送られてきたからね。僕は名乗り出てくれたティル君に、ぺこりと頭を下げる。すると多分ライトさんは消去法で自分すべき事? を階段の方に目を向けながら言ってくれる。ライトさん達の間でどういう話になってるのかは分からないけど、これはもしかすると物資を調達しに行ってるらしいベリーが訊けばわかるかもしれない。…そういう訳でここにいる全員の予定が決まったから、僕達はそれぞれで行動を開始した。
――――
[Side Seed]
「何とか戻って来れたけど…。…――さん、お久しぶりです! 」
「えっ、シードさん? ――達と七…」
「ふっ、フ――さん? もっ、もしかしてセレビィとも知り合いなんですか? 」
「・ッ・君には話した事なかったけど、そうなんだよ。…だけどシードさん? ――達の様子を見ながらしばらく過ごすって…」
「それがそれどころじゃなくなったんです! とっ、兎に角、人手が欲しいのでフ――さん、キミも一緒に来てください! 」
「えっ? ぼっ、僕もですか? ですけど行くってどこに…」
「場所と訳は“時渡り”しながら話します! 」
つづく……