4-1 シルクがいない!
[Side Unknown]
「―――、お前は“月の次元”に戻り、――――。その後“月の笛”で連れて来い」
「はい、ですガ俺はま…」
「…いいな? 」
「…かシこマりました」
「お前はミナヅキを捜し、報告をさせろ」
「…御意」
――――
[Side Ratwel]
「…君、ラテ君! 起きてくださいっ! 」
「…ぅん? 」
…なに…? 何か凄く焦ってるみたいだけど…。シルクの病室で話し込んでいた僕とアーシアさんは、そのまま部屋に泊まってシルクの様子を見守る事にした。先に戻ったベリー達も知ってるから、交代で夜ご飯を食べに行ってからも苦労話で盛り上がって? いた。アーシアさんは
あの事件が解決してからも、しばらく事件の後処理とかをしていたらしい。その時に救助隊員になったみたいで、一人で活動していたんだとか。それで落ち着いた時にシルクがルデラ諸島に迎えに来て、シードさんの“チカラ”も借りて二千年代招待された、って言っていた。その先でニンフィアのテトラさんと仲良くなって、ライトさん達の仲間に加わった。そのままライトさんとシルクがしていた活動にも参加して、最終的に非社会的組織を壊滅させたんだとか…。
それで話を今の事に戻すと、夜通し話し込んでいた僕達は、いつの間にか二人揃って寝オチしていた。気づくと朝になっていて、声を荒らげるアーシアさんに叩き起こされた僕は、ベッドに突っ伏すような感じで眠っていたらしい。まだ頭がボーっとするけど、とりあえず僕は目を擦っ…。
「アーシアさん、焦ってるみ…」
「シルクさんがいないんです! 」
「シルクが…、ええっ? シルクがいない? 嘘でしょ? 」
ちょっ、ちょっと待って! シルクがいないってどういうこ? 急な事で頭がガンガンするけど、同族の彼女から聞かされた事で僕の意識は一気に覚醒する。僕も思わず声をあげてしまったけど、あり得ない事だったから僕は最初は信じられなかった。
「ほっ本当なんです! 私も何故かわからないのですけど、私も起された時にはいなかったんです」
「起こされた時にはって…、シルク、意識が戻…」
「お医者さまも二、三日は戻らない、て言ってたはずですけど…。ですけどラテ君、その時にはシルクさんの荷物も無くなってた、て…」
ほっ、本当だ…。だっ、だけど何で? シルクってまともに動ける状態じゃなかったはずだよね? 彼女の事を疑いながらも体勢を起してみると、確かにいるはずのベッドはもぬけの殻…。意識が戻ってなくて寝ているはずのエーフィの姿が、そこには無かった。シルクは人工呼吸器を着けられていたはずだから、仮に目が覚めていてもベッドからは動けない。それに主治医の人によると、多分喉の事だと思うけど障がいが残るとも言っていた。…それなのにアーシアさんの言う通り、シルクはもちろん彼女の荷物まで無くなっている。だから僕は、多分アーシアさんもだと思うけど、あり得ない事だから訳が分からなくなってしまった。
「本当だ…。だけど何で…」
「分からないけど…、何故か朝来た時に窓が開いていたみたいです。…だから何者かにさらわれたとしか…」
「だっ、だよね…」
「うん…。だからさっき出ていったのですけど、病院の人達も捜索願を出す、て言ってました」
まともに動けないんだから、そう考えるしかないよね…? アーシアさんが早朝の事を教えてくれたけど、それでもやっぱりシルクが失踪した理由が分からない…。窓が開いていたって事は、アーシアさんの言う通り誰かにさらわれたか、シルク自身が窓から抜け出したとしか考えられない。…だけど僕達がいるこの部屋は、総合病院の二階。飛行タイプとかゴーストタイプなら何ともないと思うけど、他の種族が跳び下りたら最低でも骨折は免れられない高さ…。おまけに今のシルクが跳び下りるとなると、無事では済まない。…だから後者の方は、あり得ないと思う。そうなると前者って事になるけど、それだと誰が何のためにさらったのかが分からない。…確かにシルクはルデラ諸島での事件の解決者として知られてるけど、そもそもシルクは五千年前の出身。僕もあの夜見かけた時に初めて知ったぐらいだから、それ以外の人がシルクが来ている事を知るのはほぼ不可能…。
「じゃないと僕もお手上げだよ。…だけどアーシアさん、シリウス達はまだこの事、知らないよね? 」
「はいです。今はそれどころじゃないけど、ラテ君を起してから私…」
「なら僕も一緒に行くよ。僕達はニアレビレッジ調査があるけど…」
「それなら大丈夫だと思いますっ。ライトさんとティル君がシリウスさんの所にいる筈ですし、ラテ君が寝た後にウォルタさんからも連絡があったのです。本当は昨日合流する予定だったけど、長引いたから今日中にアクトアタウンに向かう、て」
ウォルタ君とライトさん達が…? 僕達は手が離せないけど、ウォルタ君達がいるなら捜してもらえるかな…? 結果的に僕が遮ったけど、多分アーシアさんは私だけでも捜す、そう言おうとしていたと思う。だから僕はこんな風に言い、一緒にシリウス達のギルドに戻る事を伝える。元々そこでベリーとソーフと合流する予定だったから、どのみち行く事には変わりなかったけど…。だけどそれでも来るって分かってるみたいだから、任せる事になるけどシルクの事は何とかなるかもしれない、僕はうっすらと思いはじめてきた。
「ウォルタ君達も? 」
「うん。…ですけどハクさんという方には…」
「伝えない様にしないとね」
ただでさえ妹さんが殺されたばかりなのに、シルクが行方不明になったって知ったら、ハクは…。こくりと頷いたアーシアさんは、そのまま僕に目で語ってくる。アーシアさんはハクには会った事は無いけど、彼女の身に起きた事は昨日話してある。だから直接は言わなかったけど、暗黙の了解っていう感じで僕達は確認し合う。
「そうですね。…じゃあラテ君」
「うん! 」
そのまま僕達は、お互いに向けていた視線を部屋の出口の方に向かう。二人同時に部屋から飛び出し、まずはアクトアタウン…、シリウス達のギルドへと駆けだした。
――――
[Side Minaduki]
「…着いたわ。ここがラムルタウンよ」
「ここが、か。…という事は、パラムタウンとは異国という事だな? 」
「国…? あんたはおかしなことを言うのね? 国に分かれてたなんて話、この諸島じゃあ何百年も昔の話しさ」
「くっ、国が無い? だっだからここまで戦争も無く平和…」
「あっははは。戦争だなんて、あんた本当に面白いね! 職業柄色んな人と話すけど、あんたみたいな人は会った事はないわね。…でもあたしはあんたみたいな人、嫌いじゃないのさ。…気に入ったわ! 」
「はっ、はぁ…」
「…そうだ。折角だからしばらくラムルにいたらどうだい? カレー代ぐらいなら、あたしが奢るわ」
「それは助かる。…だが流石に、古い遺跡やら図書館への案内っつぅーのは…」
「遺跡? それならいい場所があるのさ」
「…ハァ? おいおい、まさかとは思ったが、そんな偶然…」
「それがあんたにピッタリな遺跡が近くにあるのさ! あんた、考古学者だって言ってたわね? ラムル近くの“―――”を越える必要があるけど、“漆・の・・”っていうダンジョンの先に“赤――”っていう観光名所があるのさ。だけどそこはあまり調査がされてなくてね、考古学者のあんたに最適…。そう思わないかい? 」
「未解明の遺跡、か…。面白そうじゃねぇーか」
「あんたならそう言うと思ったわ。…なら丁度明日定休日だから、ダンジョンの突入口までなら案内するわ。砂嵐さえ起きなければ、ギリギリあんたでも突破できると思うわ」
「明日か」
つづく……