3-5 出逢いのはなし
―あらすじ―
ハク達のギルドを出発した僕、シリウス、テトラさんの三人は、一時間ぐらいかけてシルクがいる総合病院に辿り着く。
一晩中走りっぱなしで体がボロボロだったけど、シルクの事を考えると何とか走り通すことが出来た。
それで入り口で待ってくれていたベリーに連れられて、シルクが入院する事になる個室に入る。
けどそこでシルクの事を聴いた僕は、あまりの事に何も言えなくなってしまった。
――――
[Side Ratwel]
「…けどやっぱり、シルクさんらしいですよね」
「うん。シルクって、昔からそういうところあったからなぁ」
そういう所を聴くと、やっぱりシルクはシルクなんだな、って思えるよ。あれから結構時間時間が経ったから順番に話すと、まずはシルクの事をアーシアさん、それからニンフィアのテトラさんから聴いた。これはアーシアさんとライトさんの事と少し関係があるけど、シルクは僕達の時代に来てくれる少し前、元々傷を負っていた喉を更に傷めてしまったらしい。話し始めると物凄く長くなるけど、任務中? に操られた伝説の種族と戦う事になって、その時にライトさんが瀕死の重傷を負ってしまって、この時に左目が見えなくなってしまったらしい。それでトドメを刺されそうになってた所にシルクが駆けつけて、操られたその人と交戦…。だけど相手が強すぎたみたいで、シルクは無理をして限界以上のエネルギー量でハイドロポンプを発動…。そのせいで声帯が完全に断裂して、喋れなくなってしまったらしい。…だからこう言う訳で、シルクは今回の事と喉の事は何も関係ない、ってアーシアさん達がそう言ってくれた。
…次に話したのは、シルクの事を含めた今後について。まず初めに僕達、悠久の風は、明日から行動を開始するつもり。本当は今日からでも動き始めようと思ってたけど、流石に疲れが溜まって動けそうにない…。アーシアさんもヘトヘトみたいだからそのつもりって言ってたけど、今日は完全にオフにして休むつもり。…それで明日からは、もう一度ニアレビレッジに戻ってそこで調査をするつもり。もちろん土砂災害の事もそうだけど、今回のメインはあの殺戮生物…。今度は万全な準備をして、ハイドさんにあんな大怪我を負わせたあの生き物を討伐して、あわよくば身柄を拘束して保安協会に調べてもらう…。…だから明日にはベリーとソーフの三人で、この街を一旦発つつもり。
そしてその後に話…、聴いたのは、僕と同族のアーシアさんの事について。その頃には一旦解散になってて僕しかいなかったけど、やっと二人で話しはじめることが出来た。僕はウォルタ君とシルクが共同で書いた本で知ってるけど、その後の事までは流石に知らなかった。この事はウォルタ君から聴いていたけど、
あの事件の後、アーシアさんは救助隊として活動していた。…それで何か月か何年か…、アーシアさんはあまり覚えていないみたいだけど、一段落ついたところでシルク達の時代に招待されたらしい。それでシルクの紹介でライトさんと会って、ライトさんとテトラさん…、多分ティルさんの旅の仲間に加わった。…旅というよりは所属してる組織の任務で、みたいだけど、非社会的な組織を壊滅させるための活動をしているんだとか。立場上シルクが支部長の補佐的な役割をしているみたいなんだけど、その過程で例の伝説の種族との一件があった。最終的に解決したみたいだから、アーシアさんはシルクとライトさんの付き添いで、ティルさんとテトラさんとこの時代に戻ってきたんだとか…。
「私もよく言われるのですけど、無茶しちゃう事多いですからね」
「うん」
…それで話を今の事に戻すと、シルクを入れた三人だけになった病室で、僕達はさっき言ったみたいな身の上話をしていた。まだアーシアさんの方しかしてないけど、僕達は別々で会ったシルクの事で華を咲かせていた。時々シルクの様子を看ながらだったけど、シルクを含めてアーシアさんの最近の事を少しは知れた気がする。同族って事で前から気になってたから、シルクを挟んで反対側にいる彼女と充実した時間を僕は過ごせていた。
「…だけどそうして無茶する事、僕にも分かる気がするよ」
「ラテさんにも、ですか? 」
よくよく考えてみると、僕もシルク達と似たようなところがあるのかもしれないね…。僕は話しの途中で、ふと自分の今までの事を思い返す。アーシアさんも結構な事を経験して来てるみたいだけど、多分傍から聴くと僕自身にもアーシアさんぐらいの事があったと思う。だからこうして呟くように言ったから、アーシアさんは不思議そうに首を傾げ、僕に訊ねてきた。
「うん。…あまり
他人には話さないんだけど、実は僕も、アーシアさんと一緒で人間だったんです」
「えっ…、ラテさん、今何て…」
アーシアさんになら、話してもいいかな…?
「僕も元々人間だったんです」
「ほっ本当なのです? …て事は、もしかしてラテさんも“導かれし者”…なのです? 」
「ううん。時期的にはアーシアさん達と近いんだけど、僕は千九百年前…、“終焉の戦”ぐらいの出身らしいんです」
「ウォルタさんから聴いたのですけど、この世界の人間さんが絶滅した戦争ですよね? …けど出身らしい、ていうのはどういう…」
「うーん…、僕にはアーシアさんと違って、人間だった頃の記憶が無いんです。今も何一つ思い出せてないんだけど、四年前…、十四歳の時にブラッキーに進化したからそうなのかなー、って。…だけどシードさんが大分昔、…って言ったらいいのか分からないけど、人間だった頃の僕を七千二百年代に導いたみたいなんだよ。それでその時代でちょっとした使命を背負って活動してて…、そのために来たのが七千年代。…だけど別のセレビィの“時渡り”の時に事故に遭って、気付いたら記憶を失くしたイーブイになってた。ベリーに見つけてもらって探検隊になったんだけど、最終的にその使命…、“星の停止事件”を解決したって感じかな? 」
「そうだったのですか。…て事はもしかして、その時にシルクさんとウォルタさんと会ったのです? 」
「うん。シルクともう一人いるんだけど…」
「その一人って、フライゴンのフライさんですよね? 私はあまりお話しした事はないのですけど、二千年代で何回か会った事があるんですっ」
「それなら話は早そうだね。僕達がまだブロンズランクになったばかりの時に逢ったんだけど、その時から色々教えてもらってね。ウォルタ君もそうなんだけど、傍から見るとシルクとフライは、僕達にとっての師匠になるのかもしれないね」
シルク達と会えたのは本当に偶然だったけど、もしかするとそういう運命だったのかもしれないね。気付くと僕は、アーシアさんとの間で眠っているエーフィとの出逢いまでの事を話していた。何で話し始めたのかは分からないけど、多分僕は、僕と似たような境遇のアーシアさんと重ねていたんだと思う。僕はシルクとウォルタ君の本を読んだから知ってるけど、アーシアさんは元々別の世界の人間で、一時記憶を失くしていたらしい。今は全部思い出せてるみたいだけど、アーシアさん自身も元々、使命を背負ってこの時代のこの世界に導かれた。…だから僕は、実際に会って話せた今もそうだけど、アーシアさんに凄く親近感が湧いている。イーブイになって同じブラッキーに進化した、っていうのもあるけど、何より人間だった、ってことが大きいかもしれない。
「師匠…。私にも師匠て言える人がいるのですけど…」
アーシアさんのって事は…、本に出てたリーフィアの事かな? 何かこういう流れになってたのか、同族の彼女も自分の事を話し始めてくれる。流石にその人の名前は出してなかったけど、僕は本を読んでたから、それが誰なのか何となく分かった気がする。そのまま僕達は、二人で身の上話で時間を過ごすこととなった。
――――
[Side Chatler]
『うーん、有給取ったけど、結局はそれどころじゃなかったからなぁー。…だけどウォルタくんに凄い所に連れてってもらえたから、まぁいっか』
『…だけどシャトレア、“承伝の回廊”で聴いた事を後回しにしたのは、流石に某には…』
『ウォルタくんから話はいってると思うから、大丈夫なんじゃない? それに折角の休みだったんだから、思う存分楽しまなきゃ損でしょ? 』
『それはそうですけど…』
「シャトレア、休暇は楽しめたかな? 」
「はい! …だけど先輩、ちょっとしたことを聞…」
「そのことだけど、シャトレア、代表がお呼びだよ」
「ええっ? だっ、代表が? でっ、でも何で代表が二等保安官のあたしに? 」
「俺も何も聞かされてないけど、極秘で話があるんだとさ。第一小会議室にいるみたいだから、早めに行った方がいいと思うよ? 」
「はっ、はいっ! 」
『…シャトレア、凄く驚いてましたけど、何かあったようだね』
『うん。代表が第一小会議室に来い、って』
『代表が? …まさかシャトレア、とうとう不良をいたぶってた事がバレたんじゃあ…』
『最初はあたしもそう思ったんだけど、多分そうじゃないと思うよ? 何か極秘の話しがあるみたいなんだけど、ヴィレーはどう思う? 』
『極秘、か…。凶悪犯の捜索は二等保安官だから任せてもらえないはずですから…、某には分からないですね』
『やっぱりそうだよね。…でも訊けばわかるんじゃない? 』
『…でしょうね』
「…失礼します、二等保安官のシャトレアです」
「…うん、来たな」
「はい! ええっともしかしてき…」
「その通りだ。俺が保安協会代表の、サードだ。二等保安官…、いや、“志の賢者”のシャトレアと言うべきだな。貴女の事は…」
「ちょっ…、ちょっと待って! なっ、何であたしが“志”だって知ってるの? 保安協会の誰にも…、履歴書にも書いてない筈なのに…」
「…うん、貴女が知らないのは無理ないか…。俺は“伝下統領会議”の“半常席員”、と言えば分かるな? 」
「はっ、“半常席員”って…」
つづく……