3-4 親友の現状
―あらすじ―
水の大陸を駆ける僕は、同族のアーシアさんに任せたシルクの事を想いながらシリウス達のギルドを目指す。
何とか辿り着いて、僕はギルドの入り口でベリーとフロリアさん、それからデンリュウさんとキュウコンさんにシルクの事を伝える。
シルクの事を知っているらしい二人をベリーに連れてってもらい、僕自身はフロリアさんの案内でギルドの二階へ…。
その時にハクの身に起きた事も知ったけど、僕はシリウスとニンフィアのテトラさんを連れてワイワイタウンへと引き返した。
――――
[Side Ratwel]
「…ラテさん、本当に大丈夫なの? 」
「正直言ってキツイけど…、今はそんな事…、言ってられないよ…」
シルクか大変なんだから、このぐらいで弱音を吐いてはいられない…! ハクの部屋を跳び出した僕、シリウス、ニンフィアのテトラさんは、一度も足を止めずに午前の街を駆け抜けていた。正確に言うとシリウスはメガ進化して飛んでるから違うけど、周りの風景からすると、ワイワイタウンが見えてきたから三十分ぐらいは走っていると思う。…だけど丸一日走りっぱなしの僕の足は、多分限界をとっくに超えてると思う。今は俊足の種を食べて誤魔化してるけど、前足と後ろ足、両方がおもりを着けたぐらい重くてまともに動かせない状態にまでなってる…。そういう事もあって後れをとってるから、多分心配性のテトラさんがこう声をかけてくれる。けど僕は、半ば痩せ我慢をして首を横にふった。
「
…ですけどラテ君、自分が言えた事じゃないですけど、足を痛めるっていう事だけは避けてくださいよ」
「うん…、分かってるけど…、今は…」
シルクの命がかかってるから、のんびりしてられないよ! 息を切らす僕に、シリウスも僕に声をかけてくれる。翼を得たシリウスはもっと早く飛べるけど、今は僕のスピードに合わせて斜め後ろを飛んでくれている。けど飛行タイプじゃないから、永遠に飛び続ける事は出来ないらしい。今丁度したところだけど、時々地面に降りて、助走をつけて再び飛び上がったりしていた。
「そう、だよね。シルクなら大丈夫だと思うけど、今も頑張ってるはずだから、早く行ってあげないとね」
「
はい! 」
時間的にもベリー達はもう着いてると思うけど、やっぱりね…。言い切らなかった僕の答えに、テトラさんは何となく、っていう感じで返してくれる。どんな風に考えてたのかは分からないけど、続けて言った事を聴いた限りでは、シルクの為にも早く傍にいてあげたい、こんなニュアンスで言ったんだと思う。そのまま僕達二人に呼びかけてきたから、シリウスと同じタイミングで大きく頷く。けど今のシリウスの声は凄く響くから、僕のは彼のでかき消されてしまっていた。
「
おそらく手術の方は終わっている頃でしょうね」
「…だと思うよ。もう三時間以上は経ってる…、はずだから…」
「あっ、ラテ! シリウスにテトラちゃんも、待ってたよ! 」
「…ベリー! 」
「ベリーちゃん! 」
病院を出て結構経つから、流石に終わってるよね? そうこうしている間に、僕達三人は目的の街に辿り着く。僕にとっては復路を完走する事になるけど、その終着点の総合病院の入り口で、先に着いていたベリーが待ってくれていた。まだ七十メートルぐらいはあると思うけど、今のシリウスの姿は結構目立つから、流石にこの距離でも僕達だって気付いてくれたらしい。ベリーは大きく手を振りながら、僕達に大声で呼びかけてくれた。
だから僕達も、そんな彼女に一言で応じる。そうしながら徐々に速度を弱めていき、早歩きぐらいまで緩めていく。多分シリウスも完全に地上に降りてきて、右の前足に体重をかけないよう注意しながら減速してると思う。それに対してテトラさんは、首元のヒラヒラで手を振るようにベリーに返事していた。
「
ベリー、シルクはどうなりました? 」
「無事手術は成功して、今病室に運ばれたところだよ」
「よかった…。病室って事は、三階か四階…」
「ううん、個室がある二階。アーシアさん達もそこにいるよ」
個室…、って事は、やっぱり重症なんだね…。普通に歩くスピードまで落とせてから、シリウスは真っ先にベリーに迫る。こんな事を思ってる場合じゃないけど、シリウスは殆ど取り乱す事は無いから、結構貴重な瞬間を見れた気がする。…そんなシリウスにベリーは、少しビックリしながらもすぐに教えてくれる。病院に入ったから、階段がある左手の方を目線で示しながら、親友がいる場所を手短に教えてくれた。
「シアちゃんも? 」
「うん。私はまだ詳しく聴いてないんだけど、とりあえず峠は越えてるみたいなんだよ。まだ安心はできないけど…」
そっか…。それなら、このままいけば回復しそうな感じなんだね? 二階への階段を駆け上がりながら、ベリーは更に情報を付け加えてくれる。声のトーンはいつも通りだから、シルクは無事、多分そういう事だと思う。だけどホッとしたのも束の間、ベリーは多分表情を曇らせながら小さく呟く。だから一瞬安心したけど、危ない状態が続いている、そう思わざるを得なくなってしまった。
「…だけど、あのシルクなら大丈夫なはず…、そうに決まってるよ」
「
自分もそう信じたいです」
「私もだよ。…アーシアちゃん、三人を連れてきたよ」
うん。あのシルクに限って、ここで逝くなんてあり得ないよね? 階段を登りきったところで、テトラさんは自分に言い聞かせるように声をあげる。テトラさんはシルクとどういう関係があるのかは分からないけど、少なくとも友達かそれ以上、だと思う。僕にとっては親友であって師匠みたいな感じだから、テトラさんの気持ちは凄く分かる。
それに僕が知る限りでは、シルクは今までに二回ぐらい死にかけてる。どれも無理をし過ぎたりダメージが多すぎたりしたからだけど、一回目は後遺症が残ったけど回復出来ている。だから今回も、状況は違うけど、いつもみたいに元気になってくれる、僕はそう強く信じてる。…けど病院で手術を受けるぐらい酷い事は無かったから、あのシルクでもタダでは済まないかもしれない、そういう思いも心のどこかには残ってる。…今ベリーがノックしてから引き戸を開けたけど、僕は何とも言えないモヤモヤした思いに満たされてしまっていた。
「ベリーさん、ラテさんもありがとうございます」
「アーシアさんも、助かりました」
多分僕だけだったら、シルクは助けられなかったかもしれないからね…。ベリーに続いて部屋に入ると、そこには予想通りの三人…。六畳ぐらいの部屋の真ん中のベッドを囲うように、アーシアさんとデンリュウさん、それからキュウコンさんが眠るシルクの様子を見守っていた。ここからだとデンリュウさんで見えないけど、多分シルクは横向きに寝かされていて、人工呼吸器とか心拍数を測る機械につながれていると思う。ピッ、ピッ…、って規則正しい機械音が聞こえるから、今のところシルクの容態は安定しているんだと思う。僕は内心ホッとしながら、気付いてくれたアーシアさんにぺこりと頭を下げながらこう返事した。
「彼女から聴いたわ。シルクさんを二人で助けてくれたそうね? 」
「あっ、はい。ですけどお二人は…」
ベリーは知ってるのかもしれないけど、この人達は誰なんだろう? 僕が下げていた頭を上げたところで、眠るシルクを挟んで反対側にいるキュウコンさんが僕に話しかけてくる。多分待ち時間でアーシアさんが話してくれたんだと思うけど、紅いリボンを右耳に着けている彼女は続けて僕に訊いてきた。だから僕は、誰なのか分からないけどとりあえず頷いた。その後でデンリュウさんにも目を向けてから、ギルドで見た時から思っていたことを尋ねてみる事にした。
「ベリーさんには話したけれど、あなたはまだだったわね」
「シリウスさんから聴いているかもしれませんけど、チーム火花のランベルとキュリアと言います」
「ひっ、火花ですか? 」
火花って、あの火花だよね? 僕の一言で、キュウコンさんは自己紹介がまだだってことを思い出してくれたらしい。彼女はそのまま名乗ろうとしてくれていたけど、ほんの少しの差でデンリュウさんに先を越されてしまっていた。彼女に背を向けているデンリュウさんは、もの凄く簡単に名乗り、その後で後ろをチラッと見てから言い切る。これで二人が誰なのかは分かったけど、シリウス達以上に有名なチームだったから、僕は思わず声を荒らげてしまった。
「ええ」
「確かマスターランク、だったよね」
「うん」
「…だけどシアちゃん? シルクは…、大丈夫なの? 」
「命は助かったみたいだけど…、障がいが残るかもしれない、て…」
「うっ、嘘だよね? シルクに障がいが、って…」
「私も最初は驚いたけれど、多分問題はないと思…」
「
だっ、大問題ですよ! 今までもシルクは大声を出せなかっ…」
「って事はシアちゃん? お医者さんは喋れなくなる、って言ってたの? 」
「ううん。…だけど、この時代に来る前からだから、そうなのかなーて思ってるよ」
「来る前から、って…」
「…ラテ、私もビックリしたんだけど、シルクは今回来てくれる少し前には喋れなくなってたんだって…」
ベリー、それって本当? 途中で話題が変わったけど、ずっと看てくれていたアーシアさんが、僕がいない間に聴いたらしい事を教えてくれる。だけどその内容は、できれば信じたくはないぐらい、残酷なものだった。命が助かった事は唯一の救いだけど、最悪の場合、シルクはもう歩いたり戦ったり出来なくなることになる。まだそうと決まった訳じゃないけど、障がいが残るって事は、そういうこと…。だから僕は、大丈夫だ、って言いかけたキュリアさんに対して、堪えきれず感情的に声をあげてしまった。
…だけどこの声は、僕とは対照的に落ち着いてるテトラさんに遮られてしまう。予想なのかもしれないけど、この問いにブラッキーの彼女は首を横にふる。その後も話を続けていたけど、僕はその内容に絶句してしまう。ベリーが補足してくれたけど、それでも信じられない事だったから、僕はこれ以上何も言い出せなくなってしまった。
続く……