3-3 救助報告
―あらすじ―
イベルダルのイグレクさんに乗せてもらえる事になった僕達は、そのまま大きな病院があるワイワイタウンまで向かってもらえる事になった。
その間僕とアーシアさんで、意識が無いシルクに応急措置をする。
シルクに胸骨圧迫をしている間に着いたから、すぐに背負って病院へと急行する。
時間外だけど受け付けてもらえたから、僕はシルクの事をアーシアさんに任せて、アクトアタウンに向けて駆けだした。
――――
[Side Ratwel]
「…シルク、頼むから…」
無事でいてよね…。シルクを病院に搬送した僕は、彼女の事をアーシアさんに任せてすぐにそこを発っていた。何か昨日から走りっぱなしな気もするけど、ここまでくるともう何とも思わなくなってしまっていた。昨日の夜、シルクを追いかけた事から始まって、死相の原、弐黒の牙壌の二つのダンジョンと、ワイワイタウンに着いた直後から病院までの道のり…。そして今の、ワイワイタウンからアクトアタウンへの復路。途中で乗せてもらってるとはいえ、ダンジョンの中と合わせるとフルマラソン以上の距離は走っていると思う。状況が状況だからそうも言ってられないけど、イグレクさんの背中でずっと心肺蘇生をしていたことも合わさって、前足の感覚が無くなってきている。疲れが溜まってるだけかもしれないけど…。
「…兎に角」
今は一秒でも早く、シリウス達に知らせないと…! 僕は今頃治療を受けているはずの親友の事を想いながら、目的地のギルド目指して突き進む。病院を出発してから一時間ぐらい経ってるけど、万全だった往路よりも時間がかかってしまっている。よく考えると真夜中に二つのダンジョンを突破してるから仕方ないんだけど、シリウスから頼まれたからには弱音を吐いていられない。それもアーシアさんから聴いた話だと、あのシルクとハクが喧嘩した事で今回の事が起きている。だから喧嘩しちゃってはいるけど、ハクもシルクの事が心配で気が気じゃないはず…。弐黒の牙壌の事はライトさんから聴いているはずだから、尚更心配してると思う。…もし僕がハクなら、心配過ぎて食事も喉を通っていないと思う。さっきやっとアクトアタウンに着いたけど、親友の安否を知りたがってるはずだからね、まだ完ぺきに助かった訳じゃないけど…。
「はぁ…、はぁ…。あと少し…」
ここまで来たら、もう二、三分で…。街に入って人通りが多くなってきたから、僕の走るスピードはさらに落ちてしまっていた。走りっぱなしだから疲れてるんじゃないの、って訊かれたら何も言い返せないけど、そういう事もあって通行人とぶつかる事は無かった。
「この時間だから朝ごはんを…、食べに行ってるかもしれないけど…」
フロリアさんなら、いるはずだよね…? 走る先に目的の建物が見えてきたから、僕はなけなしの力を込めて走るスピードを上げる。…けどよく考えたら、今の時間帯はハク達のギルドは朝ごはんを食べに行ってるぐらい…。僕達の出身のギルドは食堂があったけど、ハク達の方にはない。その代わり何軒かの店と提携してるから、僕達を含めたギルド関係者は格安で食べさせてもらえている。…そういう事を走りながら思い出したから、待つことになるかもしれない、僕はそう感じ始めていた。
「…けど」
この感じなら、誰かはいるかな? 入口まで二十メートルぐらいになったところで、僕は微かにだけどそこからの話し声を聞きとることが出来た。まだ何を話しているのかは分からないけど、この感じだと多分、三、四人ぐらいが話してはいると思う。…けどいつもなら扉が前回になってても良いはずだけど、今日はそうはなってはいなかった。半開きにしかなっていないから、まだ動き始めてないのかもしれない、僕は率直にそう感じた。だけど僕は…。
「はぁ…はぁ…」
「…っと」
「べっ、ベリー! シリウスは? 」
誰かはいるはず、そう信じて速度を緩めながらギルドの入り口をくぐる。危うく一番手前にいたデンリュウさんにぶつかりそうになったけど、慌てて体を捻ってかわしたからぶつからずに済んだ。それで向いた方向にベリーがいたから、その彼女に一言でこう問いかける。予定通りなら昨日の夜には着いているはずだから、これだけで分かってくれるはず…。
「ええっと、あなたは…」
「悠久の風のラツェルです! …シリウスは、いるよね? 」
「えっ、ええ」
この人達は誰か分からないけど…。僕が問いかけたベリーが答えるよりも早く、たまたま居合わせたキュウコンさんに訊き返されてしまった。偶然ギルドに依頼を受注しに来た人だとは思うけど、彼女は驚きながらも不思議そうに首を傾げていた。一秒でも早くベリーとシリウス達、それから偶然話していたらしいフロリアさんに伝えたかったけど、無視する訳にはいかないから手短に名乗る。つい早口になっちゃったけど、僕は気にせず、改めてフロリアさんに訊き直した。
「二階にいるわ。…という事はラテ君? シルクちゃんは…」
「ワイワイタウンの病院で診てもらってるよ! 僕の同族がついてくれてるから、詳しい事は彼女から聴いて! 僕も後で行くから」
二階だね? フロリアさんは慌てる僕に驚きながらも、何とかシリウスの居場所を教えてくれた。二階っていう事は多分、僕を待ちながら部屋の整理をしているのかもしれない。フロリアさんは僕が来た、っていう事だけで察したのか、僕が訊く前にシルクの事を尋ねてきた。だから僕は、出来る限りの短い言葉で、この場にいるベリーにも、二千年代の親友がいる場所を伝える。大分端折ったけど、シルクに付き添ってくれているアーシアさんが全部話してくれると思う。僕もすぐに戻るけど、シリウスに全部話さないといけないから、ね…。
「ワイワイタウンだね? …うん! 」
「私達も行くわ。ランベルも、それでいいわね? 」
「うん。キュリアがそのつもりなら、それで良いよ。僕も知りたいから」
「分かったよ! じゃあキュリアさん、ランベルさんも、私についてきて! 案内するから! 」
「ええ、頼んだわ! 」
…あれ? もしかしてこの人達、シルクの事、知ってる? 僕が教えた事にベリーが頷いてくれたけど、声をあげたのはパートナーの彼女だけじゃなかった。何故かは分からないけど、ベリー達と一緒にいたキュウコンさんも、意を決したようにデンリュウさんに呼びかけていた。ランベルって呼ばれた彼は頷いていたから、何かしらのチームメイトなのかもしれない。ベリーが知ってるみたいだから病院で聴くとして…。
「ベリー、任せたよ。僕はシリウスとソーフを連れてくから」
「うん! 」
誰か分からないけど、シルクの事を知ってるなら、この人達も心配してたのかもしれないね。ベリー達は回れ右をしてギルドを出ようとしていたから、そんな彼女達に一言、こう声をあげて見送った。
「ラテ君、シルクちゃんは無事なのよね? 」
「何とも言えないけど…、シルクなら大丈夫なはずだよ」
僕もまだ分からないけど、少なくとも命だけは助かってるはず…。先に発ったベリー達を見送ってから、僕はすぐに逆方向へと駆けだす。フロアの水路を跳び越えたところで、フロリアさんが心配そうに僕に迫ってくる。フロリアさんは今回シルクに初めて会う事になったはずだけど、普段からハク達が話しているから、十分に知ってくれている。だから僕は、二階への階段を駆け上がりながら知ってることとを彼女にも伝えてあげた。
「そう、よね…。ハクとシリウスの親友なら、ここでくたばるなんであり得ないわね。…シリウス、入るわよ」
「…あれ? 」
何か人が増えてるけど、誰なんだろう…? 階段を駆け上がっていると、フロリアさんは僕を抜いて前に出てきた。何でかは分からなかったけど、彼女が開けた部屋の扉ですぐに分かった。最初はシリウスの部屋かと思ったけど、彼女が開けたのは、向かいで階段から一番近い部屋…。ハクの部屋だけど、彼女の案内通り、確かにシリウスもこの部屋にいた。
だけどいたのは、彼だけじゃなかった。ハイドさんはいるって思ってたけど、僕が知らない人が三人…。一人はハクと同じドラゴンタイプの、ジヘッド。二人目は…。
「ブラッキーって事は、きみがラテさん? 」
ピンク色の部分が青いけど、僕のブラッキーとは別の進化先であるニンフィアの彼女。そして三人目は…。
「うっ、うん」
「シリウスさんから話は聴いています、チーム悠久の風のラツェルさんですね」
「はっ、はぁ…、はい」
性別は違うけど、ハクと同族のハクリュー。どこか親友と似てる気もするけど、多分気のせいだと思う。
「…ラテ君、ありがとうございます。…シルクは、大丈夫なんですか? 」
「分からない…。…けど、今ワイワイタウンの病院で診てもらってるから、大丈夫なはずだ…」
「ほっ、本当なんだよね? シルクは…、
シルクは…、本当に無事なんだよね! 」
「たっ、多分…。だけど、きみは…」
「ニンフィアのテトラ。シルクと同じ時代から来てる、って言えば分かってくれるよね? 」
「シルクと…、はい! 」
シルクと同じなら…、二千年代の出身だね?
「話は全部シリウスさんから聴いてるよ。シアちゃん…、アーシアちゃんと一緒に、シルクを助けてくれたんだよね? 」
「うっ、うん。そのアーシアさんが、今シルクに付き添ってくれてます」
「ライトさんが行ってたブラッキーの事ですね? 」
「うん。さっきも言ったけど、ワイワイタウンの病院で今診てもらってるよ。ベリー達は先に行ったけど、ハクは…」
「それがラテ君…、ハクの方もそうは言ってられない事態…」
「…シリウス、行ってあげて」
「ですけどフロリア、ハクが…」
「ハクの事は私とソーフ看てるから。もしハクがアタイの立場でも、同じ事を言うと思うわ」
「…じゃあフロリア、ハクの事は頼みましたよ」
「…話は決まったね。私なんかが、って思うかもしれないけど、私もいくよ」
「…うん! 」
続く……