§5 Hyn レッツクッキング!
Report of Shirube
『ラプラスのあんたはガラルにもいるから分かるけど、黒いあんたは初めてだねぇ』
『俺もお前の種族は知らねぇな』
「って事はヘクトの種族はガラルにはいないのかな」
『そっ、そうかもしれないね。ええっと、私はラプラスのネージュで――』
『俺がヘルガーのヘクト。属性は悪と炎タイプだ。お前は? 』
『悪タイプ? じゃあアタイと一緒だねぇ! アタイはそこのヒバニー……、白い種族の仲間だけど、クスネのボーラ。属性はあんたと同じ悪タイプ。まぁあんた達とは争う事になるだろうけど、よろしくねぇ』
――――
Written by Hynoka
あの後わたし達はポップ達のチームとバトルになったけど、前のとは少し違ったね。ポップ達の家で戦った時はダンデさんだけだったけど、今回はコット達のチームもいたからね。結果はボーラとサルノリ、わたしとウールーが戦って二戦二勝。圧勝っていう感じではいかなかったけど、気分良く戦えたよ。……ダンデさんがわたし達のバトルに乱入してきそうになったのは、流石に焦ったけどね。
「じゃあ早速、出てこい! ウールー、サルノリ! 」
「ヒノカ、ボーラ、出てきて」
「イグリー、ネージュ、ヘクト、オークス、お待たせ! 」
それで無事にダンデさんから推薦状をもらえたから、少し離した後でブラッシータウンの駅へ……。そこからはわたし達はボールの中だったんだけど、思ったより早く出してもらえたから、何かあったのかもしれない。本当はエンジンシティ行きの電車に乗る事になってたはずなのに、目の前に広がってるのは街中の景色じゃなくて大きな湖。ミロカロ湖かどこかだと思うけど……。
『あれ? エンジンシティじゃないの? 』
『わたしもそう聞いてるけど、何かあったのかな? 』
『まぁそこまで気にする事無いんじゃなぁい? 』
サルノリもわたしと一緒でキョロキョロと見渡してるけど、見た感じウールーはそんな感じは無さそう。多分ボールの中で寝てたみたいで大きなあくびをしながら、前足で目を擦ってる。
「カナさん、そのポケモンってバンギラスだよな? 」
「うん」
「それに見た事無いポケモンもいるし――」
『ん? 君達、もしかしてあの二人のメンバーだったりする感じかな? 』
『そうなんじゃね? 』
で、わたし達が話してるところに、まさかとは思ったけどそのバンギラスが気づいて歩いてくる。もうひとりの飛行タイプは初めて見る種族だけど、そのひともバンギラスについてきてる。……こうしてみるとふたりとも凄く大きいから、進化してないわたし達は見上げなきゃいけないけど。
『まぁね。ぼくはサルノリのヒスイで、こっちのモフモフはウールーのキルト』
『で、わたしはヒバニーのヒノカ。わたしだけ違うチームだよ』
それで聞かれた訳じゃないけど、サルノリ――ヒスイ達が名乗ったからわたしもこの流れで自己紹介してみる。ここだけの話ヒスイ達の固有名は今初めて知ったけど、多分ヒスイも同じだと思う。……だってダンデさんのところにいた時は、同族がいなかったから呼び分ける必要なかったもんね。
『白い君だけだね? 』
『うん。ええっとバンギラスさん達って、コット君の仲間なんだよね? 』
『あぁ! っつぅことは、もうコットの奴とは話したんだな? 』
『ぼく達は話せてないけど……、あのサンダースの事だよね? 』
それで消去法……、っていうよりは見た事無いのがこのふたりと向こうのラプラスさん達ぐらいだったけど、一応こんな感じで訊いてみる。するとバンギラスさんは種族に似合わない豪快な笑顔で頷いてくれる。バンギラスっていう種族って凄く厳ついイメージがあったけど、バンギラスさんは凄く話しやすそう。
『そうそう。俺達のチームはコットがリーダー。相性の関係もあるけど、俺達四にんともソロでは勝てた事ないね』
『確かにな。アイツがアローラに行く前でそうだったからなぁ、今じゃ俺等四にん束になっても勝てねぇんじゃねぇか? 』
『それはあるね』
それに飛行タイプのこのひととも凄く仲よさそうだし、もしかするとバンギラスさんに対してわたしの中ではキャラ崩壊が起きちゃってるかもしれない。……でもチームの中でコット君が一番強いって、ちょっと意外かも。見た感じバンギラスさんの方が大きいし強そうな見た目だけど、そういう事なら凄く気になる。わたし達とそんなに歳も変わらなさそうだし、コット君の属性相性ってバンギラスさんに対してはあまり良くないよね、確か。
『へぇ、やっぱり見た目だけじゃないんんだねぇ』
『だよね。……そういえばすっかり忘れてたけど、飛行タイプの君ってどんな種族なの? 』
『あっ、それわたしも気になってた』
わたしもヒスイに言われるまでうっかりしてたけど、飛行タイプのこのひとがどんな種族なのか訊くのを忘れてた。バンギラスさんの名前も聞いてなかったから、わたしは思わず小さく声をあげてしまった。
『そういゃ話してなかったな。俺が今んとこ新参になるが、バンギラスのオークスだ』
『で、この感じだとガラルにはいないんだろうけど、ノーマルと飛行タイプのピジョットのイグリー。俺は逆にコットがイーブイの頃からの付き合いだね』
『ピジョットっていう種族なんだ。じゃあガラルだとココガラみたいな感じなのかな? ブラッシータウンの方で結構見かけたし』
さっきは変な声出しちゃったけど、バンギラス――、オークスさんがしゃがんでくれたからそのまま握手を交わす。バンギラスは凄く大きいから指を両手で握る事になっちゃってるけど、種族差があるから仕方ないよね?
『そのココガラっていう種族は知らないけど、コットにとって初めての仲間ってのは間違いないね』
『だな。んだけどイグリー。前から気になってたんだが――』
それにわたしにはまだボーラしかいないけど、仲間って本当にいいものだよね。こうしてオークスさん達を見てると本当に楽しそうだし、バトルとかでも苦手な――
『ねぇねぇヒスイ?何か良い匂いしなぁい? 』
『ぅん? 』
それでオークスさんはまだイグリーさんに何か言おうとしてたけど、それを遮ってキルトがふと呟いてる。わたしもキルトに言われて気づいたけど、美味しそうな匂いが急にしてきたような気がする。そういえば今日のお昼ご飯、まだ食べてないけど、それを抜いても凄くお腹が空いてくるような……、そんな感じ。
『そういえばそんな気がする』
『ねぇ、行ってみようよ! 』
『うん! 』
ヒスイは美味しそうな匂いに誘われて先に走って行っちゃったけど、わたし達もヒスイの後を追いかける。マサキとポップ、それからカナさん達がいるほうからしてるみたいで、三人で何かを作ってるように見える気がする。湖の波打ち際にいたボーラとコット君達も気づいたみたいで、わたし達と同じように走ってきてる。イグリーさんは飛んでるし、ラプラスさんは陸に上がって這ってきてるけどね。
『マサキ、あんた達何してるんだぃ? 』
「カナ? 凄く美味しそうな匂いしてきたけど、何作ってるの? 」
「あぁコット、さっき言ってたカレーをね」
『カレー……、これがそうなんだね? 』
近くまで来るとさっきよりも強い匂いがしてきて、ちょっと油断するとよだれが出てきそうになってくる。カレーはリザードンから聞いて知ってはいたけど、実際に見たのは初めて……。スパイスの良い匂いに混ざって、オレンの実、かな? 木の実の爽やかな香りも入ってて、どんな味がするのか凄く楽しみになってきた。
『へぇ、これが噂の』
『だっ、だけど、三人だけだと多すぎない? 』
『だよなぁ。一番デカいオークスならひとりでいけそうだけどなぁ』
ボーラもクンクン、って匂いを嗅いでるし、黒いあのひとも興味津々、って感じで尻尾を大きく振ってる。ラプラスさんも気になってるみたいだけど、多分わたし達ポケモンには食べられない、って思ってるのかもしれない。……確かに黒いあのひとが言うとおり、オークスさんなら全部食べられそうだよね。
「だよね。……ねぇカナ? マサキ君達も、僕達に何か出来る事ない? 」
『わたしもやってみたい! 』
で、ポップ君が鍋をかき混ぜてマサキが火加減を見てるけど、そんな三人にコット君がこんな風に訊いてる。それに便乗してって言う感じになるのかもしれないけど、わたしもこの流れに乗ってみる。四足の種族のコット君に何が出来るか分からないけど、二足のわたしなら出来る事も多いしね。
「それじゃあ……、コットは他に何か作って、ヒノカはコットを手伝ってくれる? 」
ペットボトルに汲んだ水で食器を洗ってるカナさんはキョロキョロとわたし達を見てから、こんな風に指示してくれる。何か凄くざっくりしてるけど、コット君に訊けば何とかなるよね?
「うん。じゃあカナ、ヘクトとネージュと包丁も借りていい? 」
「そこはコットに任せるよ。食材はマサキ君がたくさん持ってきてるみたいだから、好きに使ってって」
「うん、ありがとう」
この感じだとコット君は何か作りたい料理があるのかもしれないけど、わたしはこれだけだと全然ピンとこない。視線を送ってたラプラス……、ネージュさんは水と氷タイプで細かい作業とか苦手そうだし、そのそも黒いひと……、ヘクトさんはどんな種族かも分からないし……。それにコット君、包丁で何するんだろう。
『おっ? 俺等かぁ。っつぅことはコット? 肉とか野菜使うんだよなぁ』
「うん、具材としてね。凄く簡単だから、包丁さえ気をつければヒノカにも作れると思うよ? 」
『本当に? 』
『うん。わっ私は鰭だから掴めないけど、きみなら、ね』
『だな。それに白いお前は炎タイプなんだよなぁ? 』
『うん! 』
これでもまだ何なのか分からないけど、コット君の仲間のみんなが言うなら、本当に簡単なのかもしれない。そうなるとネージュさんの役割はさっぱり分からないけど、水タイプなら食材を洗う、って事のような気がする。コット君はコット君で電気タイプだから、家電の電力……? 何か凄く楽しそうに、耳をピクピク動かしてるけど。
「……あったあった。それじゃあまず、ネージュは氷でまな板作ってくれる? 」
『おっ、大きさはいつもぐらいでいい? 』
「うん。ヒノカの作業台も作ってくれると嬉しいかな」
『じゃあ……、これでいい? 』
話してる間に荷物の中を漁ってたコット君は目当ての食材を見つけたみたいで、そのうちのいくつかをわたし達の方に持ってくる。草地にいて大きめの石があるから、コット君は持ってきた食材をその上に置く。包丁使うなら石の上で切った方が良いような気もするけど……。でそのまますぐに、コット君はネージュさんとヘクトさんに指示を出していく。こう言うところを見ると、やっぱりコット君ってチームリーダーなんだね、って思えてくる。
それでこう言う事になれてるのかもしれないけど、ネージュさんはコット君の指示で技を発動させる。多分冷凍ビームだと思うけど、四角くて大きい氷のブロックを作り出してる。……けどコット君が使うにしては、掴まり立ちしないと届かないぐらいに大きい。四足の種族だから、包丁も口に咥えて使わないといけないし……。
「ありがと。それでヘクトは、ソーセージに軽く火を通しておいて」
『あぁ! 焼き加減はどうすりゃいい? 』
「うーん、お腹壊すといけないから、ウェルダン寄りのミディアムぐらいかな」
続けてコット君は、パックに入ったソーセージを咥えて持ってくる。コット君達はジョウト地方から来てるから知らないと思うけど、やっぱりマサキはよく分かってるね! おいしんボブのあらびきヴルストは安くて簡単に手に入るし、何よりジューシーで凄く美味しい。わたしは木の実とかハーブの方が好きだけど、お肉は料理には欠かせないよね!
「それから僕がパンとか野菜を切ってくから、ヒノカはパンに野菜とかソーセージを挟んで」
『うっ、うん』
そしてコット君は氷の台の上にレタスとかマトマの実とかの野菜を乗せると、掴まり立ち――じゃなくて後足だけで立ち上がる。前足で掴まらなくてもキレイに――、二食の種族みたいにまっすぐ立ってるから、思わず見とれちゃったけど……。自由になった前足で包丁の柄の部分を持ってマトマを切りながら、最後にわたしにも指示を出してくれる。わたしだけ二足の種族だからもっと難しいことする事になるのかな、って思ってたから、ちょっと安心。ヘクトさんがやいたヴルストも小さく切って、レタスも丁度良い大きさに分けて、ベーグルにも切り込みを入れていく。
「マトマは辛みが結構強いから、一枚だけでいいよ」
『こう、かな? 』
コット君が渡してくれた食材を、わたしは分からないなりに適当に挟んでいく。これといって意味は無いけど、試しにレタスを一枚のせてから、その上にヴルストと薄切りのマトマを乗せてみる。
「良い感じだよ! 本当はソーセージの代わりにハンバーグがあったら良かったんだけど、試しに食べてみて」
『うん』
これであってるのか分からないけど、言われたままにベーグルにマトマとレタスを挟んだコレにかぶりついてみる。思ったより大きくてあごが外れそうになっちゃったけど――
『っ! 』
するとわたしの口の中に、予想通りマトマのピリッと刺激的な味が広がる。……けどレタスの水分とかベーグルで和らいでるからなのか、火を吹くぐらいの辛さがない。うまく例えれないけど、辛さはクラボの実ぐらい、かな? この料理だけだと少し辛いぐらいだけど、カレーは香りからすると甘口なような気がするから、一緒に食べると丁度良いかもしれない。
『ちょっと辛いけど、おいしい……』
「カレーに合わせて作ったからね。サンドイッチ、って言うんだけど、野菜とかをパンに挟むだけだから、簡単でしょ? 」
『カレーしか知らなかったけど、これならわたしにも作れそうだよ! 』
『包丁が無いならトレーナーに頼んで最初から切られてる野菜買ってもらえばいいしな』
「そうだね。野菜だけじゃなくて、卵焼きとか、モモンと生クリーム使っておやつ風に作っても美味しいから、試してみるといいよ」
To be continued……