P.4 Arc 一年の間に
Daily of Kizashi
『旅? うん。今日旅だったばかりだけど、そこにいるトレーナー……、ユイと一緒にね』
『やっぱり! あたしヘキサ、って言うんだけど、ずっとずっと旅してみたかったんだー』
『そうなんだ。じゃあぼく達も自己紹介しないとね。カントーでは珍しいと思うけど、ぼくはロコンのセプタ。アローラの出身だよ』
『ぼくは何て言ったらいいか分からないけど、ヌフっていう名前だよ』
『セプタとヌフだね? これからよろしくね! 』
『うん! 』
――――
Written by Archia
『ええっと、フォノさん達は三つ子で、ジョウト支部の“キュリーブ”なんだよね? 』
『うん、あってるよ! 』
『それから、シルクさんとフォノさんが結婚してる……。これであってます? 』
『その通りだよ! 』
リーフィアのフォノさん達の事で色々とありすぎて訳が分からなくなっちゃったのですけど、私とシアちゃんは何とか、教えてもらったことを整理して落ち着く事はできました。そこそこの時間使っちゃったけど、“チカラ”と半分無くなっちゃった右の前足のことを思うと丁度良かったのかもしれないです。なのでもう一回三にんに確認してみると、三にん……、特に左耳が白くて曲がってるフォアさんがにっこりと頷いてくれました。フォアさんとフォノさん、それからフォルさんの左耳が白いのは、遺伝子の異常でイーブイの頃から白い、て言ってましたね。―――フォアさんの笑顔、カワイイ、て思ったのはここだけの話ですけど。
『――そういえば聞くのが遅くなったけど、イーブイの君は? 』
『あ……』
で、シルクさんの旦那さんがあって小さく声をあげてから、私の方に視線を降ろしてそのまま訊いてきます。私もうっかりしてて――ていうよりフォノさん達の事で頭が一杯になってて、忘れちゃってただけなのですけど……。
『私もずっと気になってたけど、誰なの? テトラちゃん達のチームにイーブイっていなかったと思うけど』
『んーと、今はイーブイなのですけど、ブラッキーだったアーシア、て言います』
なので私はいつもの――、こっちの時代に来た時にしてた自己紹介を、久しぶりにしてみます。フォノさん達がシルクさん達の支部の所属って言っても、流石に私が未来の世界から来てる――、それも元人間だ、て言わない方が良いような気もします。テトラちゃんが別で所属してるらしい異世界の支部にも行った事があるのなら――
『シアちゃんは未来――五千年後の世界から来ててね。向こ――』
『て、テトちゃん! その事は……』
流石に突っ込んだ事を言わない方が良いと思ったのですけど、私がぺこりと頭を下げて上げてから、テトちゃんが口を滑らせてしまいます。だから私は思わずテトちゃんの方をハッと見上げて、大きく声をあげちゃいました。だって未来から来てるなんて、絶対に信じてもらえないですよね? 向こうの世界でも、私は大きな事件を解決したメンバーのひとり、て事は隠して活動してたぐらいですから……。
『フォルさん達なら大丈夫だよ! さっきブルーに訊いて確認したんだけど、フォノさん達、私と同じ支部のふたりの主治医なんだって! 』
『そっ、そうだったの? 』
『うん! それにシアちゃん達の時代にいたルガルガンのキノト君、覚えてる? 』
『んーと、たそがれの姿のルガルガンですよね? 』
『そうそう! ブルーちゃんのお姉ちゃんとお母さんがそうなんだけど、お姉ちゃんの方がキノト君とつきあってるんだって! キノト君の時代から来てる、みたいな言い方してたから、知ってそうな気がしたんだけど――』
凄く不安になったのですけど、てテトちゃんが満面の笑みでそんなことないよ、て言ってくれます。他の方からならこうはならないのですけど、凄く慎重なテトちゃんが言ってくれるなら安心できます。それにテト達が言ったルガルガンの子には、私も向こうの世界で会った事があります。なのでその事をフォアさん達に言ったら、フォアさんが凄く得意げに話し始めてくれます。何か気分が上がってるみたいで、両方の耳をパタパタと動かして、大きい尻尾も地面に打ち付けちゃってます。私がその――テトちゃんと同じ支部の方とお付き合いしてる、て事に拍子抜けしちゃってるような感じですけど……。
『あの二人もシルクも言ってなかったみたいだから、仕方ないよ。アーシアさん……、だったっけ? 向こうの時代から来てるなら、何か納得できる気がするし。それに――』
「あぁいたいた。フォノ、フォア。フォル、見つかったみたいね」
『けど今回は結構早かったんじゃない? 』
フォノさんはフォアさんと違って凄く落ち着いた様子で、小さな笑顔を浮かべて頷いてくれる。未だにフォノさんがシルクさんの旦那さん、ていうのが信じられないけど、リーフィアていうのは親近感が沸いてきます。未だに行方が分かってないのですけど、向こうでは私もシルクさんも、リーフィアのあの方にお世話になりましたからね。
そしてまだ話の最中だったのですけど、ニビシティの方からまた別の二つの声が三つ子に呼びかけてきます。一人は人間さんで、もうひとりは大きな籠を足で掴んで飛んでいるのですけど、そのひとりは――
『うん。このふたりと話してたみたいでね』
『スーナさん! 久しぶり! 』
こっちの世界の知り合いのひとりで、シルクさんの仲間のスワンナ。スーナさんとはあまりお話しした事は無いのですけど、そのときは凄くよくしてくれてます。スーナさんも私達に気づいてくれて、飛びながら大きく翼を振ってくれます。テトちゃんもスーナさんに会えた事が嬉しいみたいで、耳がピンと立って青い尻尾も細かく振っちゃってます。こういう私のモフモフの尻尾も、大きく揺れちゃってますけど。
『うん! 久しぶりだね! アーシアちゃんも、こっちの世界に来てたんだね? 』
『はいです! ですけどスーナさん? この人間さんは――』
スーナさんは籠を下に降ろしてから、にっこりともう一度笑いかけてくれる。今の私はイーブイだから中は見えないのですけど、これだけ大きな籠だから、それだけ大きな荷物を運んでいたのかもしれないです。……けどそれよりも私は、スーナさんと一緒に来た人間さんの事が気になってしまいます。スーナさん達のトレーナーのことは知ってますけど、同じ白衣を羽織ってる、てだけでそもそも性別も違う。今はフォノさん達三つ子と話してるのですけど、私は視線であの方を示して、スーナさんに尋ねてみました。
『あっ、それ私も気になってた』
『あぁレンカの事? まさかテトラちゃん達がフォノ君達と話してるなんて思わなかったけど、フォル君達のトレーナー。もっと言うなら、ユウキの奥さんだね』
『え、そうだったのです? 』
すぐに答えてくれたのですけど、流石に今度は……、何となく予想は出来ましたね。シルクさんとフォノさんが結婚してるなら、ふたりのトレーナー同士も知り合いじゃなきゃおかしいです。野良の方とならそんな必要はない、てテトちゃんが言ってたけど、就いてたらそうはいかないですからね。生まれた子供の事もありますし……。
『うん! 』
『けどスーナさん? フォノさんのトレーナー、普通に話せてるみたいだけど……』
それから私もテトちゃんが訊くまでうっかりしてたけど、フォノさん達。トレーナーさんと話してます。私達の周りはライトさんとかユウキさんみたいに、ポケモンの言葉が分かる方が多いのでつい忘れちゃうけど、ポケモンの言葉は人間には伝わらないのが普通ですからね。
『あぁその事? レンカは何の伝承にも関わってない普通の人間だけど、フォノ君が文字の読み書き出来るからね。……ほら、シルクの従弟のコット君も、喋れるようになるまで筆談してたでしょ? それと一緒だよ』
『あっ、そっか』
スーナさんはすぐに教えてくれたから、多分テトちゃんは納得したように大きく頷いてる。そういえば前にこっちの時代に来た時……と言っても私はシルクさんの従弟とはアシストパワーを教えてもらった時ぐらいしか話さなかったけど、話せるようになる前は字を書いてた、て言ってたような気がします。こっちと未来の世界では使ってる文字は違うけど、一応私はこっちの文字も読み書きすることが出来ますね。――といっても、私は元々異世界の人間で、訳あってこっちの五千年後の世界に導かれ――
『――ママ? 』
『おねぇちゃん、だぁれ? 』
『ん? 』
とこんな感じで話していたのですけど、スーナさんが持ってきていた籠の中から二つの何かがひょこって顔を出します。まさか誰かが中にいるなんて思わなかったのですけど、小さな二つが眠そうに目を擦りながら、私達ふたりとスーナさん、両方に訊いてきてます。籠のふちに掴まってスーナさんに声をかけたのが、多分声的に女の子のツタージャ。それからふちに飛び乗って私達に興味の眼差しを向けてきているのが、多分男の子のコアルヒー。あまり見ない組み合わせだけれど、コアルヒーとツタージャなら、スーナさんに限ってはあり得そうな組み合わせなようなきもします。
『あぁ起きちゃったかぁ』
『んーとスーナさん? もしかしてこのふたり、て――』
だから今日ここまでの流れもあるような気もしますけど、この子供達が何なのか、言い当てられる自信があります。だから私はあやし始めたスーナさんの方をまっすぐ見上げてから――
『スーナさんのお子さんです? 』
自信を持って訊いてみます。今はこの場にいないのですけど、シルクさんの仲間にジャローダがいます。なのでシルクさんが結構してる、て事を思うと、スーナさんも結婚していてもいい歳だと思います。そもそもスーナさんはシルクさんの二つ年上、リーフさんもスーナさんと同い年だったような気がしますからね。
『あっそっか。私は会うのは一年ぶりなんだけど、シアちゃんは知らないんだよね? ツタージャとコアルヒーだから気づいてるかもしれないけど、私がこっちの時代に戻ってすぐ後ぐらいにスーナさんとリーフさんが結婚してね。そのときにスーナさんが産んだのがこの子達。……で、ブルーがママ友って言うのかな? 向こうの世界での任務の時に、私も一緒にお世話したんだよ』
流石にここまで続いたから、私の予想はぴったりと合う。テトちゃんはニコニコ笑いながら、この子達の事を教えてくれる。そもそも私はまだ、テトちゃんの精神の一部が入ってるらしいブルーさんには会った事ないけど、こんなふうに嬉しそうに話してくれてるのを見ると、ちょっと会いたくもなってきますね。……それと今気づいたのですけど、思い違いじゃなかったら、スーナさん、子供が出来たばかりの時に、向こうの世界での任務に参加した事になりますよね? 流石に子供がいるからそうじゃないとは思いますけど、ちょっと気になってしまいます。けど訊く前にテトちゃんもお世話してた、て教えてくれたから安心しましたね。向こうの世界の方とか、“エクワイル”の方達が、この子達とかブルーさんのお子さんの面倒を見てたのかもしれませんね、きっと。
To be continued……