P.3 Tet ひとちがい
Report of In Dust Record
『へぇ。じゃああんたはアタイ等のライバル、ってことになるねぇ』
「そうなるね。ええっと……」
『あっそっか。サンダースのコット君……でいいんだよね? ジョウトから来たなら、わたし達の種族、知らないんだよね』
「うん」
『じゃあアタイ等も名乗らなきゃいけないねぇ。アタイはクスネのボーラで』
『わたしがヒバニーのヒノカ。コット君、よろしくね! 』
「うん、よろしく」
Written by Tetra
『シアちゃん? 』
『ん、何です? 』
『さっきヘキサと何話してたの? 』
ほぼシアちゃんにせかされるような感じになっちゃったけど、私達は故郷のトキワの森を抜けて、待ち合わせ場所のニビシティに向かい始める。足が三本になっちゃったからペースは大分遅くなってるけど、このままのペースだと午後には着くと思う。けど道中にトレーナーとかがいて野生と間違われて挑まれたりもするから、もうちょっとかかるかもしれない。……足は一本途中までしかないけど、私は色違いだから尚更ね。それはそれで、いい運動になるから丁度良いけど。
それでまだ森を抜けたばかりだけど、私はふと思う事があってブラッキーだった彼女にこう声をかけてみる。私もちょっとだけ話しはしたけど、ジル兄と怪我の事とか、モノ兄の事しか話してないからね。
『んーと、ダンジョンの事は話してないけど、行った街とか見た景色の事かな。テトちゃんは来た事無いと思うけど、私がいる諸島の方は発展した街が多いんです』
『そうなんだ。あの時結局離れちゃってたから、今度行った時に見てみたいなぁ』
すぐにシアちゃんは答えてくれたけど、それはある意味仲良い子と久しぶりに会った時に話す事と同じかもしれない。シアちゃんを私の従妹とジル兄に会わせるのは初めてだったけど、私が見た感じだと結構打ち解けてたと思う。任務と“エクワイル”としての仕事が一通り終わってからもまた来るつもりだから、その時はヘキサとも一緒に話そうと思ってる。フルロはまだジル兄にも会った事無いから、ついでにね。
それにシアちゃんが向こうの時代で普段過ごしてる街も、結構気になってる。まだシアちゃんの話でしか聞いた事がないけど、こっちの時代だとコガネシティぐらい賑やかな街が多いみたい。
『じゃあ今度案内するね。シルクさんも来てるみたいですから、一緒に――』
それにそっちの諸島の方には、シルクも結構な回数行ってるみたい。最初に行った時にシアちゃんと出逢ったみたいで、他にも沢山の知り合いがいるらしい。そのうちのひとりのミュウ――
『ぅん? こんな所にニンフィアだなんて、珍しい事もあるもんだな』
『っ? 』
次に連れてってもらった時の楽しみに胸を躍らせながら話し込んでたけど、私はふと、ニビの方から歩いてきた陰に目を取られてしまう。私も特徴的と言えば特徴的だけど、向こうもある意味では目をひくものがあると思う。種族はどこにでもいる普通のブースターなんだけど、まずそこで私はハッとしてしまう。まさかこんなにも早く、モノ兄と同じらしいブースターに会えるなんて思ってかったから、その驚きで青い耳と尻尾がピンと立ち上がってしまう。多分私と同じタイミングで向こうも気づいたんだと思うけど、声的に彼は私が野生だって思ってるのかもしれない。そういうブースターもブースターだと思うけど、ね……。……で、割と近づけた今気づけた事だけど、彼の左耳は何故か真っ白になっていて、真ん中辺りから折れ曲がってしまってる。彼に何があったのかは分からないけど、ブルーみたいに遺伝子異常とか、そういう類が生まれつきあるのかもしれない。
『それに色違いだなんて、向こうで会って以来じゃん! 』
『えと……、ブースターさんも耳が――』
『あぁ俺の耳? 俺は生まれつきこうでね』
『えっ、そっ、そう……だったんだ』
私は驚きすぎて反応が遅れちゃったけど、ひとり大きな独り言を喋ってるブースターに、シアちゃんは恐る恐る声を掛ける。何か賑やかなブースターだね、率直にそう思ったけど、彼はシアちゃんが言い切るよりも前に、ペラペラと話し始めてくれる。確かに彼の耳の事は同じイーブイ系として気になりはするけど、そんなことよりも私は、彼が探し始めた兄なんじゃないか、って事で頭がいっぱいになってしまう。
『まぁね。それに――ん? そういえばニンフィアのきみ――』
『ひゃぃっ? 』
だからそういう事を考えてたんだけど、急に話しかけられたから、思わず声が裏返ってしまう。腰を下ろしてシアちゃんとの話を聞き流してたんだけ――
『色違いで顔に傷があって、足が三本……。もしかしてきみって、“エクワイル”のテトラちゃんだったりする? 』
『えっ、そっそうだけど、何――』
聞き流してはいたけど、当然私はそれどころじゃなくなってしまう。多分今凄い顔になっちゃってると思うけど、ブースターの彼は私の名前をぴたりと言い当てる。……確かに私は個性の塊みたいなものだけど、所属まで言い当てられたから本当にビックリしてる。そうなるとやっぱり、私は――
『知り合いからよくきみの話聞いててね』
彼が私の九つ上の兄なんじゃないか、って思えてくる。種族は同じブースターだし、特徴も全部知ってくれてる。それに所属まで知ってるって事は、ジル兄とヤマブキにいるトリ姉から聞いたって事も十分に考えられる。……とは言っても“エクワイル”以外にも知り合いはいるから不思議じゃないけど、途中までしかない右の前足のことまで知ってるから、尚更ね。だから私は、急に湧き出してきた胸の高鳴りを抑えながら――
『じゃっ、じゃあ、きみは弟と妹がいたりする? 』
モノ兄かもしれない彼に逆質問してみる。もし彼が本当にモノ兄なら、弟と妹、両方いるって返事が返ってくるはず……。
『まぁね。弟も妹もいるけど、もしかしてテトラちゃんも、俺のこと聞いてた感じだね? 』
『うん! ってことはやっぱり……、きみはモノ兄――』
すると私の期待通り、彼は私が思ってたとおりの返事をしてくれた。ここまで一緒なら、もう彼が探し始めたモノ兄だ、って言い切ってもいいと思う。左耳が白くて折れ曲がってるって事はジル兄からは聞けなかったけど、それは多分、妹の私なら知ってるって思って、わざわざ言う必要が無い、って感じてたからなのかもしれない。だから私は確信し――
『はぁ、はぁ……。やっと追いついた』
『フォル、気持ちは分かるけど、もうちょっとゆっくり行こうよ……』
『あぁごめんごめん』
確信して訊こうとはしたけど、その途中で別の誰かがこっちに走ってくるのが見えた。リーフィアとシャワーズの二人組なんだけど、方向からするとニビから走ってきたのかもしれない。リーフィアの方はぜぇぜぇと荒い息になってて、すごくしんどそう。シャワーズの方はリーフィアほどバテてはないけど、汗だくになって時々咳き込んでる。
『ええと……大丈夫です……? 』
流石にこれにはシアちゃんも心配になったみたいで、リーフィアの方を見上げて訊ねてる。
『はぁ……はぁ……。うっ、うん……。走るのに……あまり慣れてなくてね……』
すると声的にリーフィアの彼は、苦笑いを浮かべながら答えてくれる。そういえばリーフィアの彼、それからシャワーズの彼女も、左耳が真っ白で折れ曲がってるけど……。
『フォノは仕方ないよ。……ええっと、何かごめんね』
『だっ、大丈夫だよ』
『よ……よかった。フォル、いつもこうだから――』
シャワーズの彼女は曲がった耳を前足で払いながら、申し訳なさそうに頭を下げてる。何でこのシャワーズ、それからリーフィアもモノ兄らしきブースターと耳の特徴が一緒なのか分からないけど、ブルー達の世界の感覚だと誰かから耳を貰った事になるかもしれない。
『ええっと、フォルって……』
……何か今更な気きもするけど、リーフィアの彼にシャワーズの彼女も、ブースターの事をフォル、って呼んでた。野良の時と就きになってからで呼び名が変わることはよくあるから、そういう可能性もある。モノ兄はトレーナー就きだ、って言ってたからね。だから私はその確認って言う意味でも、彼に恐る恐る問いかけてみる。
『あぁ、俺の本名だね』
『本名……、てことはもしかし――』
『テレパシーを使えるか、トレーナーが“チカラ”を持ってるか、だよね? 知り合いにいるけど……ん? 僕達はどっちも違うね』
だけどブースターの彼は、ううんって小さく首を振る。本名だって言ってるから、ちょっとがっかりしたけどモノ兄じゃないってことになる。となるとフォルって言う彼は、偶々モノ兄と似たような感じだっただけ……。勝手に期待しちゃってたから耳も尻尾も下を向いちゃってるけど、よく考えたらそんな虫のいい話、ないよね……。そもそもジル兄から聞いたのはついさっきだし、トリ兄がいるヤマブキからカントーの西側に来てるとも限らない……。モノ兄のことが分かって舞い上がっちゃってたのかな、私って……。リーフィアの彼、私の左の前足見て首を傾げたけど――
『そう……。けど、ちょっ、ちょっと待って! 今“チカラ”って言った? 』
自然な流れすぎて聞き逃しそうになっちゃったけど、普通じゃあ絶対に知らないような言葉がリーフィアの口から出てきた。だから私は思わず三足で立ち上がって、ぴょんぴょんと跳ねるようにしてリーフィアの彼の元に詰め寄る。私の聞き間違えじゃなかったら、彼は確かに“チカラ”って言ったと思う。それにモノ兄のことで頭がいっぱいで今まで気づけなかったけど、リーフィアの彼、藤色の帯、首元に着けてるし……。
『うん! フォノが着けてるバッジで気づいてるかもしれないけど、私達、“エクワイル”のジョウト支部の所属でね』
『僕達も異世界の支部の方に出入りしてたんだけど、入れ違いになってたみたいだからなぁ』
まだ私自身落ち着けてはないんだけど、シャワーズの彼女はにっとりと笑いかけながら話し始めてくれる。シアちゃんも予想外だったみたいで目を丸くしてるけど、左の前足で指さしてるシャワーズの言うとおり、彼の帯に“エクワイル”……、私達が所属してる組織の紋章を模ったバッジが付いてる。私達は真ん中の位、“アージュ”だから銀色だけど、彼のは銅色だから下の“キュリーブ”。どこの所属かは斜めに描かれてる線の本数で分かるんだけど、彼は二本が右上がりになるように描かれてる。ちなみに私も同じ二本線だけど、異世界の支部だからって事で二本が交差したデザインになってる。
『じょっジョウトの所属なのです? それなら――』
『俺達の義理の姉弟……、支部長代理のシルクの事はよく知ってるね』
『それからテトラちゃん支部のふたりもね! 』
ちょっ、ちょっとビックリしすぎて何から驚いたら良いのか分からなくなってきたけど、ジョウト支部の所属なら納得できるような気がする。ジョウトの方はトレーナーのユウキさんが支部長だけど、支部の運営自体はエーフィのシルクがしてる、って事は組織の中では割と知られてる。そもそもシルクは本部に直談判して一番上の位、“オーリック”に就いてる、って事の方が有名だけど……。そっ、そんなことよりも、私は――
『そっ、そうなの? けっ、けどリーフィアさん……』
『フォノ、これ僕の名前で――』
『シャワーズの私がフォア』
『聞き間違いだったら申し訳ないのですけど、今シルクさんが義理の姉弟て……』
シアちゃんが聞き直したこっちの方が気になってしまう。これで聞き間違いじゃなかった、ってハッキリ分かったけど、それだとブースター、フォルさんはシルクの従妹……、一人っ子のはずのコット君のお兄ちゃん、ってことになる。今ふたりの名前を教えて貰ったけど、耳の特徴といい凄く似てる。性格はバラバラみたいだけど……。
『うん! 私達、一卵性の三つ子なんだけど――』
『フォノの奥さんがシルクだからな』
『奥さんって……ええっ? 』
『い、今何ていいました? 』
一卵性……、確か一つの卵から生まれてきた、って言う意味だったような気がするけど、それ以上に私、絶対にシアちゃんも、あまりのことに耳を疑ってしまう。一卵性なら三にんとも左耳が白くて折れ曲がってるのも納得だけど、シルクが結婚してたなんて、全く知らなかった。……確かにシルクとはもう半年以上、向こうの世界での任務以来会えてないけど、シルクなら支部が違ってもライトを通して知らせてくれるはず。そもそもシルクもブルーとは仲が良いから知らないはずはないのに、ブルー達からはそんなこと、一言も聞いてない。
あれ、言ってなかった?
流石に驚きすぎて……というより散々私の心の声が伝わってるからだと思うけど、私の中にブルーの声が響いてくる。この感じだとやっぱりブルー、シルクが結婚してたって事、知ってたのかもしれない。
『まだ子供はいないんだけど、フォノとシルク、結婚したんだよ! 』
シャワーズのフォアさんは凄く嬉しそうに……、それもハイテンションで言ってくれてるけど……、情報量が多すぎて……、頭の中がぐちゃぐちゃになってきてる……。ええっと最初から整理すると、ブースターフォルさんはモノ兄じゃなくて、リーフィアのフォノさんとシャワーズのフォアさんとは三つ子。三にんとも“エクワイル”だからトレーナー就きで、ジョウト支部の“キュリーブ”。そしてフォノさんはシルクの旦那さんで、子供はまだいない……。うーん……、何か考えすぎて頭痛くなってきた……。
To be continued……