Day1 故郷の森で
P.2 Tet もうひとりの兄の行方
Diary of Kizasi



「――。わかったよ。まずロコンの彼がセプタで、イーブイのこの子がヌフ」
『えっ? 』
『じゃあ、本当に……』
「セプタと、ヌフ……。ヌフって――」
『そうだ。そういえば君達って、これからジム戦やんね? 』
『うっ、うん』
『どのみち監査で見る事になるんやけど、君達の初戦、見せてくれへんかな? 』
『はっ、はぁ……』





Written by Tetra



『――それでそれで? 』
『んーと、入る度に地形が変わる――』
『ヘキサ、何かシアちゃんに凄く懐いちゃったね』
『まぁヘキサは僕達以外のイーブイ系のひとに会うの初めてだから、仕方ないよ』
 ジル兄達と再会してからまだあまり時間は経ってないけど、私が思ってた以上に話が盛り上がってる。多分私達以外にイーブイ系の種族がいないからだと思うけど、ヘキサ、シアちゃんに凄い興味を持ってる。今は退化しちゃってイーブイに戻ってるけど、元のブラッキーとか……、向こうの時代でなってたシャワーズとかブースターの事を訊いたりもしてた。……確かに私も他の種族になるのはどんな感じなのか気になるけど、やっぱりニンフィアがいちばんだね。強いて言うなら、親友のひとりと同じグレイシアになってみたい、かな。
 それでシアちゃんとヘキサがふたりで盛り上がってるから、私は私でジル兄と一緒に話し込んでる。たまにふたりの様子を見ながらだったけど、やっぱり途中で切れた右の前足の事訊かれたね……。親の顔を知らないから私とヘキサ達は次男のジル兄に育ててもらったようなもだから、心配してくれる気持ちも分かるけど……。完全に塞がった切断面を触るのは、ちょっとやめて欲しかったかな……。切れた部分、触られると凄くくすぐったいんだよ……。
『……それでジル兄? さっきは聞きそびれたけど、話って何』
『あぁそうそう。そういえば――』
 それでたまたま話題が切れたって事で、私はジル兄にこんな風にこえをかけてみる。私も怪我の事を話すのに必死でうっかりしてたけど、ジル兄も私に話す事がある、って言ってた。だから私がこう声をかけてあげると、耳をピンと立たせる。この様子だときっと、ジル兄も忘れてたのかもしれないね。
『昨日トリがトレーナーと一緒に帰ってきたんだけど』
『えっ、トリ姉が? 』
 すぐにジル兄は教えてくれはしたけど、その途中の事も私は気になってしまう。トリ姉は私より三つ上のお姉ちゃんで、種族はエーフィ。トリ姉も私と同じトレーナー就きなんだけど、シルク達と同じ、って言ったら良いのかな。仲間にサンダーがいるんだけど、トレーナーはその関係でいくつか能力を使えるんだよ。
『うん。トリから聞いたんだけど、今カントーにモノが来てるみたいだね』
『モノ兄が?』
『僕はまだ会えてないけど、そうみたいだね』
 ジル兄も伝え聞いただけだと思うけど、私はいまいちピンときてない。そもそもモノ兄と会った事も覚えてないし種族も分からないから、どうしようもないんだけど……。だから私はただ首を傾げる事しか出来ず、ジル兄もあまりパッとした表情をしていない。
『テトラは知らないと思うけど、モノもイーブイの時に就いて、カントーを出てる。昨日聞いて初めて知ったんだけど、モノはカロスに行ってたみたいだね』
『そうなんだ』
 進化する前に就きになったっていうのは同じだけど、それでもやっぱりピンとこない。カロスと言えばティルの故郷だけど、当然私は行った事が無い。いつかは行ってみたいなぁ、って思ってるけど、任務とかで忙しくて中々行けないんだよね……。そもそも私自身、何ヶ月か前に配属が変わって、暫くライト達の元から離れてたし……。
『それでジル兄? モノ兄は何でカントーに? 』
『野良の僕にはよく分からないけど、トレーナーの出張に着いてきた、って言ってたかな。お互いに進化してて最初は気づけなかったみたいだけど、バトルした時の癖で気づけたらしいね』
『……癖? 』
『うん。僕はいまいち分かってないから、トリに会って聞いた方が早いと思うよ』

  テトラ、何かモヤモヤしてるみたいだけど、何かあった?

 折角教えてくれたのに私がこんな感じだから、私の精神が入り込んじゃっているブルーにも伝わってしまったらしい。確かにブルーの言うとおり、モノ兄のことがイメージ出来なさすぎて凄くモヤモヤしてる。精神が入り込んでても聞いてる事までは伝わらないから、多分ブルーは私以上に訳が分からない状態だと思う。だから私はジル兄の話に耳を傾けながら、何でこんな気持ちになったのか、簡単に心で伝えてあげる。

  そう、テトラのお兄ちゃんねぇ。あたしは何も出来ないけど、会えるといいねぇ。あたしもお姉ちゃんに会えたんだから、きっと会えるよ。

 すると出来ないなりにこう言ってくれたから、凄く嬉しい。ブルーのお姉ちゃんとは配属先で一緒になったんだけど、再会にはシルクが一役買ったらしい。今度向こうの支部……、ブルー達の世界に行った時に訊いてみるつもり。
『トリ姉だね? 今回の任務、特番の警備でその時に会えるから、訊いてみるよ』
『その方が良――』
『ねぇねぇテトラ姉』
『ぅん? 』
 それで多分ジル兄は、その方が良いかもね、って言おうとしてたんだと思うけど、その前にぴょんぴょんと跳ねてきたヘキサに割り込まれて言い切る事が出来てなかった。私はすぐに振り返ったんだけど、いつの間にか離れてたみたいだから、シアちゃんが追いかけてきてる。もこもこで大きな尻尾がいつも以上に大きく揺れてるから、もしかしたら良い事があったのかもしれない。
『アーシアお姉ちゃんから聞いたんだけど、旅ってそんなにたのしいんだね? 』
『えっ? うん。最近新しい場所には行けてないんだけど、本当に楽しいよ! 』
 それでヘキサは目をキラキラ輝かせながら訊いてきたから、すぐに私はこう教えてあげる。話し始めるとキリがないからやめておくけど、あのドキドキとワクワクはいくつになっても癖になるね。私は生まれ育ったカントー、所属してるホウエン、それからシルク達のジョウトぐらいしかこの世界では行った事無いけど……。
『そですね。私は向こうの時代が殆どなのですけど、私も旅するのは好きですね』
 シアちゃんは多分向こうの事を話してくれてたんだと思うけど、確かに向こうは向こうで凄く刺激的だった。向こうとブルー達の時代、どっちでも怪我してるけど、それはそれで思い出深いかなぁ。……そもそも何でブルー達の世界に自由に行き来できるのかは分からないけど。
『いいなぁー。ねぇジル兄、わたしも旅したい! 』
『いいかもね! 私もトリ姉も大分特殊なケースだけど、仲間も沢山増えるし、自分も代われるんだよ』
 私はあまり話せてないけど、ヘキサは旅する事に興味を持ってくれたみたい。私もトリ姉もトレーナーは私達の言葉が分かるけど、普通はそうじゃない。そもそもライトはラティアスで人間ですらないけど、何となく気持ちが伝わるぐらいみたいだからね。それに実力的に強くなれるのはもちろんだけど、精神的にも強くなれる、って私は思ってる。元々私は他人不振でジル兄とかヘキサ達……、家族の事しか信じられなかったけど、ライト達とシルクと出逢えて、そういう所を克服できた、って思ってる。ティルとかラグナは私の事を慎重な性格だ、って言ってるけど、そこは自覚ない、かな……。
『確かにね。……けどヘキサ、人間には僕達の言葉は通じないのが普通なんだよ。中には捕まえても捨てたり虐待するようなトレーナーもいるみたいだし、色違いだと特に、見せ物にされる事もある、って聞いた事があるよ』
『そうだね。私達はそういうトレーナー達を取り締まる立場だけど、いつになっても減らないんだよね……』
 ジル兄は野生だから触れた事はないんだけど、私とトリ姉が話してるから、トレーナー事情は一応知ってる。それにこの森を挟んで二つのジムがあるから、割とトレーナーの行き来も多い。それにトキワの森はカントーでは虫タイプの種族が多い事で有名だから、私が野良だった頃から割と多く見かけてた。……まぁ私とヘキサは色違いだから、ジル兄とトリ姉が見つからないようにしてくれてたけど。
 それに今話題にも出てるけど、本当にそういう不届き者には困ってる。呆れてついため息ついちゃったけど、私達が所属してる組織、“エクワイル”は国際警察の傘下の組織だから、そういう小悪人から反社会的集団まで幅広く相手してる。警察じゃないから拘束するぐらいしか権限はないけど、その代わりに各地のジムの水準とかを視たり、たまに次のジムリーダーを推薦したりも出来る。
『どの時代にも、そういう方はいますからね……』
 そういえば今思い出したけど、シアちゃんは向こうの時代でも、そういう人達を捕まえる事に関わってたと思う。遭難したひとを救助するのが専門だったような気がしたけど、そういう団体、向こうの時代に結構あったような気がする。だからって訳じゃないと思うけど、やれやれ、って感じでシアちゃんも表情をゆがませてる。
『うーん……、よくわかんないけど』
『うん。けどそういう人は、ほんの一部だからね』
『そですね。――そだ。テトちゃん? 』
『ん? 』
 ヘキサには少し難しかったのか、口をへの字に曲げて首を傾げてる。私はエクワイルに入ってからしかそういうトレーナーに接する機会がなかったけど、同時に二組も相手にする事はないから、そこまで心配する必要はないと思うけど……。
 それでちょっとタイミングが無理矢理な気もするけど、シアちゃんは何か思いついたように小さく声をあげる。若干耳がピンと立ったような気がするけど、他のイーブイに比べたら控えめな感じはする。
『この後ティル君達と合流する、て言ってたけど、時間は良いのです? 』
『ティルと……、ああっ、そうだった』
 シアちゃんがこくりと首を傾げながら教えてくれたから、私は思わず小さく声をあげてしまう。話しに夢中で忘れてたのはここだけの話だけど、この後ニビでみんなと合流する事になってる。私はひとり別行動だったから詳しくは知らないけど、確かラグナとラフが先に現地入りしてる、って言ってたような気ガする。だかから本当はちょっと顔を見たら出発するつもりだったんだけど、ジル兄とヘキサに会うの、久しぶりだったからね……。だから凄く慌ただしくなりそうな気がするけど
『じっジル兄、ヘキサも、そろそろ行くね』
『えっ、もう行っちゃうの? 』
 何か急になっちゃったから凄く申し訳ないけど、ヘキサが残念そうに私の方を見上げてくる。私はジル兄と話してたからヘキサにはあまり構ってあげられなかったから、尚更ね……。
『うん。ごめんね。……でも暫くカントーにいるつもりだから、今度は他の仲間も一緒に連れてくるよ』
『……ほんとに? 』
 ヘキサは私が出発するって事がショックだったのか、今にも泣きそうな顔で訴えかけてきてる。若干嗚咽も混ざってきてるから、何か凄く申し訳なくなってくる。けどこれでお別れって訳じゃないから、機嫌を直してもらうためにも、それらしい事を従妹の彼女に言ってみる。首元のリボンで抱きしめるような感じで撫でてあげると、彼女は鼻をすすって見上げてくる。首元のモフモフが少しくすぐったいけど
『うん! 』
 私は満面の笑顔で答えてげる。
『……絶対だよ』
『アーシアさんも、今回はあまり話せなかったけど、次はゆっくり話したいね』
『ですね』
 ジル兄とシアちゃんも一言ずつ言葉を交わし合ってから
『うん。じゃあ、また来るよ』
 後ろ髪を引かれながらも、故郷の森を後にした。




  To be continued……


Lien ( 2020/06/25(木) 20:45 )