本編
「僕は悪くない。悪くないのに」
ハリウオの海岸の片隅で、僕は独り呟く。空は青く澄み渡り高く広がるが、どこか霞んで見える。強い日差しが僕を照らし陽気に励まそうとしてくれているけど、とてもじゃないけどそんな気にはなれそうにない。視線を下に降ろし地面を弄る前足は、砂がついてジャリジャリしている。その足下には赤と白の半球が一つずつ、現実を突きつけるように転がっている。……そう、僕はトレーナーに逃がされた、捨てられたんだ。僕は何も悪くない、不慮の事故だって言うのに……。
「おや、こんなところでどうしたんだい? 」
だけど僕の気持ちなんてお構いなしに、太陽みたいに明るい声が遙か上の方から聞こえてくる。相当背が高いのか、声の主は下を向き、頭で日陰を作っている。
「折角こんな良い天気なんだ。君は水タイプなんだから、泳がないのかい? 」
正直なところ放っておいて欲しいけど、つきまとわれるのも面倒だから視線を上に上げてみる。このとき初めて気づいたけど、僕に声をかけたのは、見上げるほど背が高いナッシー。彼は僕の見た目だけで判断したらしく、それらしいこと訊いてくる。こういうステレオタイプなポケモンは嫌いだけど、逆に思われたくもない。
「気分じゃないし、泳いだこともない」
だから仕方なく、僕はナッシーの問いに答える。だからといって何か変わる訳でもなく、ナッシーは僕のプライベートにズカズカと入り込んでくる。ほんとに不快以外の何でもないけど、ひとまずそっぽを向いて答える。
「へぇ、泳いだことないなんて、きみは変わってるんだね」
だけど無配慮な彼は、寧ろ興味があるとでも言いたそうに声をあげてくる。確かに僕は変わってると思うけど、ひねくれてないし、悲観的でもない。
「何とでも言ってよ。僕なんか、いても何の意味も無いんだから」
自分への皮肉を込めて呟き、僕はもう一度ナッシーの方を見上げる。相変わらず眩しくて顔は見えないけど、それはそれで見ないで済むから気にならない。沈むところまで沈んだ僕に太陽は眩しすぎるから、このぐらいが丁度良い。ほんの数時間前までこんな気分になってるなんて、夢にも思わなかっただろうけど……。
〜――――
僕は元々、こんなに暗い奴なんかじゃなかった。メレメレ島には島巡りのために来た訳で、そもそもこの島の出身じゃない。トレーナーに捕まったのもそれよりも少し前のことで、トレーナーの事さえあまり深くは知らなかった。だけどそんな中僕は、トレーナーに連れられてこの島を訪れる。島に来て早々バトルを申し込まれ――
『One for all . all for one . イーブイ、ルカリオ、いけ! 』
僕は相方のルカリオと同時にボールから跳び出す。この時は沈み込んでなんかおらず、純粋に事の成り行きを楽しんでいた。
「うん! ルカリオ、いくよ」
「ええ! イーブイ、ついてきて」
跳び出した僕は相方の彼女の方を見上げ、大きく頷いた。すると彼女も僕を導くように、笑顔で答えてくれていた。
『アブリボン、キュウコン、頼んだ』
「任せて」
「おぅよ」
ほんの少し遅れて、相手のトレーナーも自身のメンバーを出場させた。この時相手はどういうつもりかは分からなかったけど、早々にルカリオを凍らせて一気に攻めるつもりだったのかもしれない。
『ほぅ、雪降らしでない辺り攻め。アブリボンが補助か』
僕達のトレーナーは相手のメンバーを見、独り言のように呟いた。僕は割と最近ルカリオから聞いたばかりだったけど、僕達のトレーナーは他の地方を十年以上旅していたらしい。捨てられた今となってはどうでもいい話だけど、それ故のプライドと誇りがあったのかもしれない。
対峙する僕達は互いににらみ合い、主人の指示をじっと待った。長閑で平穏な空気が一気に張り詰め、バトル特有の雰囲気が辺りを支配する。
『イーブイ、アブリボンにつぶらな瞳、ルカリオはしんそく! 』
『むしのさざめきとだまし討ちで迎え撃て! 』
静寂を破り、二人のトレーナーが同時に指示を出す。向こうも歴戦のトレーナーだったらしく、今思うと気迫が僕達の方と五分五分だったと思う。
「いつもの作戦ね」
「アブリボンだね? 」
真っ先に指示をもらった僕達は、相手よりも早く動きだした。真っ先に動いたのは、相方の彼女。彼女は軽い身のこなしで一気に加速し、一瞬のうちに相手との距離を詰める。
「っく」
特に詳しい指示は出していなかったけど、ルカリオは目にもとまらぬ早さでキュウコンに突っ込んだ。僕はアブリボンの方に集中していたから分からないけど、多分シュッ、と風を切るような音がし、相手が気づいた時にはもうダメージを与えていたのかもしれない。
その間にも僕はアブリボンをまっすぐ見つめ、攻撃力を一段階下げる。僕もルカリオも先制技を指示されたから、当然相手を的確に捉える。
「っやったな」
「踏み入ったことを後悔すると良いわ」
だけど相手も負けじと攻撃を仕掛けてきた。キュウコンの方は密接してるからすぐに頭突きを食らわし、アブリボンは耳を塞ぎたくなるような音波を出してきた。多分距離の関係だと思うけど、相性はいまいちだけどルカリオの方を狙っていた。
『ルカリオは距離をとれ』
「っこの程度で倒れるほど私は弱くは無いわ」
これをルカリオは軽く受け止め、最小限のダメージに抑える。そのまま指示を受け、バックステップで後退し始めた。
『させるか! 神通力と花粉団子で追撃』
「そうでないと戦い甲斐がないね」
「けど、これで決めるよ」
隙だらけの状態で後退していたから、相手二匹も一気に攻勢に移った。多分相手のトレーナーはこのターンでルカリオを倒し、未進化の僕を適当に屠るつもりだったのかもしれない。
相手のキュウコンは指示に大きく頷き、技の影響範囲に入るためにルカリオを追いかけ始めた。アブリボンも少し高めに浮上し、手元に丸い何かを作り始めた。
『イーブイ、まもるで庇え』
「僕の出番だね? 」
だけど僕がいることを、相手は忘れていたのかもしれない。僕は指示を受けて一気に駆け出し、ルカリオとキュウコンの間に割り込む。技のエネルギーを高めて一気に解放し、緑色の壁を作り出す。それでルカリオもまとめて包み込み、二つの技を凌いだ。
「っ? 」
『コメットパンチで迎え撃て! 』
「はいはい、いつものね」
その間に彼女は右の拳に力を溜め、目の前にいるキュウコンに狙いを定める。緑のシールドが消えてから背が低い僕を跳び越し、そのままの勢いで鋼タイプの拳を振りかざす。ブンッと風を切る音が僕の耳元を掠め――
「くぅっ」
寸分の狂いなく標的の脳天を捉える。
『キュウコン! っもう一度かふんだんごで回ふ――』
『スピードスターで撃ち落とせ』
アブリボンがさっきの球体を作り始めたのが見えたけど、僕のトレーナーは命令口調で指示を出してきた。捨てられた今は訊きようが無いけど、僕のトレーナーはいつもこうだった。さも当然のように指示を飛ばし、思い通りにいかないと不機嫌になっていた。だからって言う訳じゃなかったけど、僕はルカリオのために、口元に技のエネルギーを溜める。それを咳をするような感じで放出し、いくつもの星に変えて迎え撃った。だけど――
『ちっ』
この時はトレーナーの思い通りにはいかず、一つだけがアブリボンの球体に命中する。残りは二つずつ相手に着弾していたけど、威力が足りずキュウコンを回復させてしまった。
結果に対し不服そうに舌打ちをしてたけど、全部を技に命中させるなんて無茶ぶりはしないで欲しかった。確かにスピードスターは必中技だけど、狙った相手に命中させられるわけじゃない。今思うとこの事も原因だったのかもしれないけど、不確定要素に機嫌を損ねるのだけは勘弁して欲しかった。だけどバトル中の今は、そういうわけにもいかない。
『絶対零度、ムーンフォース』
一方の相手はなりふり構わなくなってきて、むちゃくちゃな指示を出してきた。密接してる今、絶対零度は有効だと思うけど、相手は冷静さを欠いていたと思う。外れた時のためのムーフォースのような気もしたけど、今考えても敵ながら浅はかな判断だったような気がする。
『みきり』
相変わらずルカリオの方を狙わせていたから、当然僕達のトレーナーは回避技を指示していた。
「なっ……」
指示を受けたルカリオは立て続けに向けられる技をひらりとかわし、凍てつく冷気でさえも軽々と回避してみせた。
『ふっ、捨て身タックルで終わらせろ』
満足のいく結果だったのか、横目で見た限りでは口元を緩めていたと思う。だけど僕はそんなことには構わず、ありったけの力を込めてキュウコンに突っ込んだ。
「うっ――」
「くぅっ」
隙だらけのところに突っ込めたから、キュウコンにかなりのダメージが入っていたと思う。だけど技の中でも結構な大技だから、それ相応の反動が僕にも襲いかかった。ダメージはもちろんそうだけど、前足から着地した時にかなりよろけてしまう。
『うっ、嘘だろ? 』
『理想個体A極振りのタックルをなめるな! 』
『もっ、戻れキュウコン! 』
だけど回復したとはいえダメージが溜まっていたらしく、僕の目の前でキュウコンは崩れ落ちる。だからふらつく僕がキュウコンに襲われることは無かった。
「ルカリオ、やったね! 」
「ええ。でもイーブイ、まだ気を抜かないで」
まだアブリボンが残ってたけど、ひとまず僕はルカリオの方を見上げ、短く声をかけた。これに彼女はこくりと頷いたけど、相手から目を離さず、寧ろ僕に注意を呼びかける。戦い始めたら彼女は無口になってたけど、異性だけどこういうところが格好よくて逞しかった。ある意味異性として意識していたのかもしれないけど、彼女には長年寄り添っているトレーナーがいる。だから新参者の僕なんかが、彼女たちの関係に水を差さない方が良い、って思ってた。ルカリオに想いを伝える前に捨てられたけど、こればっかりはどうしようもなかったからね……。
「もちろんだよ」
『かっ花粉団子』
『スピードスターで追い詰めろ』
そんな僕の気持ちなんて関係なしに、バトルは終盤を迎える。相手はさっきの技で攻めるつもりだったんだと思うけど、今思い出しても完全に戦意を喪失していたと思う。それでもバトルは続き、僕は少し躊躇いながらもいくつもの星を放ち続ける。アブリボンには殆ど攻撃してなかったけど、必中技だから徐々に追い詰めていく。指示通り攻め続けていた僕が思うのもどうかと思ったけど、ここまで徹底的にするとかわいそうになってくる。
『インファイトでトドメだ』
攻められ続けていたアブリボンは、ダメージに耐えきれずに地上に降りてくる。そこへ無慈悲な指示が飛び、パートナーの彼女が戦いを終わらせた。
〜・――――
「……はぁ」
時は現在に戻り、楽しかった瞬間を思い出してしまい、思わずため息を一つついてしまう。憂鬱に満ちた吐息は僕の悲しみを連れ、真夏の海岸へと溶け込んでいく。暑くて僕自身も蒸発してしまいそうだけど、好奇心の塊のナッシーが許してくれなさそうな気がする。
「意味が無いなんて、そんな悲しい事言うもんじゃないさ。何があったのか知らないけど、気楽にいこうよ、気楽に」
僕の予想が悪い方向で当たってしまい、影の中の僕は太陽のような彼に嫌というほど照らされてしまう。アローラっていう風土がその気にさせているのか、捨てられた僕の事なんてお構いなしに、呑気な声で語りかけてきている。
「……少し黙って」
ここまでずっと我慢してきたけど、流石にもう堪忍袋の緒が切れそうな気がしてきてる。ギラギラと照りつける太陽を遮る雲があればすぐにでも来てくれれば良いのに、心の中で僕は、有りもしない助け船を恨めしい目の前の景色……、僕と同じ色をしている海に求めてしまう。
「そんな事言いなさんなって。ほら、よく見てごらんよ。向こうの方で楽しい声が――」
「うるさい! 」
多分ナッシーは自分なりの言葉で、深海の奥底まで沈んだ僕をすくい上げようとしてくれたんだと思う。直接見た訳じゃ無いけど、影の位置が変わったから、きっと長い首を上げて賑わうビーチを目で指してるんだと思う。
だけどそんな彼のさざ波を、僕は荒れ狂う大波ではね除けてしまう。自分でも驚くぐらいの大声だったから、近くにいたコソクムシ達が怯えて逃げていってしまっていた。
「君に僕の何が分かるって言うの! 僕の気持ちも知らないで……、偽善者ぶらないでよ! ナッシーの君には分からないだろうけど、なりたくもない種族に進化した僕の気持ち、ちゃんと考えてる? 望まない進化をしたせいで、トレーナーに捨てられた僕の気持ちを……! 」
〜〜―――
『お預かりしたポケモンは元気になりましたよ。またのご利用をお待ちしていますね』
圧倒的なバトルを繰り広げた後、僕達はトレーナーに連れられてポケモンセンターを訪れた。バトルは僕達の圧勝だったけど、反動がある捨て身タックルを使ったから、もちろん無傷、って言う訳じゃない。それに長年トレーナーのパートナーとして旅しているルカリオの彼女も、相性で有利だったとはいえ、ダメージを食らってた。そういう事で回復してもらってから、ジョーイさんに見送られながらトレーナーの元に駆け寄った。
『ルカリオ、ご苦労だった』
「あの程度、勝って当然よ! 」
僕達を迎えてくれたトレーナーは、真っ先にパートナーのルカリオに声をかけた。僕達のトレーナーには他にも何匹もメンバーがいる、って聞いてるけど、彼がアローラの地に連れてきていたのは、ルカリオの彼女だけ。当然一緒に過ごしている時間も一番長いらしくて、人間とポケモンで言葉は通じないけど、心のどこかではつながり合ってるような感じはあった。これは多分リオルが進化する条件もあったのかもしれないけど、ルカリオの彼女は放漫でプライドの高いトレーナーを心の底から慕ってるんだと思う。
現に回復してもらったこのときだって、僕には一度も見せた事のない笑顔を彼女に見せていた。優しく撫でてもらっていた彼女も、どこか嬉しそうに身を委ねていた。捨てられた今はもう何とも思わないけど、端から見てもそんな一人と一匹の関係が羨ましくもあった。
『イーブイ、いくぞ』
「あっ、うん」
トレーナーの彼は満足したのか、いつもの仏頂面で僕の事を呼んだ。ルカリオの彼女が撫でてもらってる間、僕は上の空で他ごとを考えてたけど、呼ばれたからすぐに彼女たちの方に駆けた。まだ新入りだったからそれほどの信頼関係じゃなかったってこともあって、彼の思い通りにならないとすぐにキレられた。今思うと捨て身タックルよりもやつあたりの方が威力は出そうな気がしたけど、キレると面倒だから、慌ててルカリオの側を歩き始めた。
「そういえばルカリオ? さっきは何話してたの? 」
ポケモンセンターを出た僕は、ふと仲間の彼女にこう問いかけてみた。干からびそうな日差しの中僕達は二匹揃ってボールから出てるけど、彼女の出身の地方では割とこういうことが多かったらしい。確かに僕がいる今もトレーナーに就いているイワンコとかヤングースはよく見かけるけど、どのトレーナーもせいぜい一匹しか出さない。ライドポケモン、とか言う役職持ちのポケモンもいるにはいるけど、彼らは別枠だからね……。
「これからの予定についてよ。何を買うのかまでは言ってなかったけど、ショッピングモールに行ってから、マンタインサーフィンをしにいくそうよ? 」
僕に問いかけられた彼女は、ウキウキとした様子で答えてくれた。バトルでは敵無し、っていうぐらい強い彼女だけど、こういうメスっぽいところを見るとちょっとホッとしていた。それにバトルに関してはストイックで完璧主義なトレーナーだけど、それ以外はごく普通だと思ってた。
「サーフィン? なら僕達はビーチでお留守番だね」
「きっとそうなるわ」
行楽シーズンで賑わうメインストリートを歩きながら、僕達は目当てのショッピングモールを目指した。時間帯的にも海の売店が営業し始める頃だったから、人通りもかなり多い。シーズン中だから環境客ばかりなのかもしれないけど、どのトレーナー達も浮き足立っているように見えた。もちろんポケモンの僕達もそうだったけど、このときの僕は、すぐ後で悪夢が起きるなんて、夢にも思ってなかった。
『流石にここなら、あれも売ってるだろう』
ポケモンセンターからはあまり離れてないから、僕達はすぐに目的地に到着した。自動扉をくぐると、外とは違い快適な空間が僕達を出迎えてくれた。僕は種族上モフモフだったから余計にそうだったけど、ガンガンに冷えた空気が火照った体を冷やしてくれた。僕はブルブルと体を振るってフサフサの毛をかき乱し、こもった熱を外へ逃がした。
「ほんとここに来るとホッとするわね」
「だよね。ルカリオって鋼タイプだから、やっぱりアローラの暑さは辛かったりするの? 」
「多少はね。でも鍛錬だと思えば、案外平気なものよ? 」
目的の売り場までまっすぐ歩くトレーナーの背中を追いかけながら、僕達はたわいない会話で盛り上がり始めた。この時の僕はイーブイだったから影響されやすかったけど、ルカリオの彼女はそうじゃない。だから彼女が外の地方の出身って事もあって、僕はちょっとした興味からこんな事を聞いていた。するとやっぱり長年連れ添ったポケモンはトレーナーに似るらしく、ストイックな返事が返ってきた。
「そういえばイーブイ? 」
「ん? 」
「彼はブースターにするつもりみたいだけど、イーブイはなりたい種族とかって、あるのかしら? 」
この流れで彼女は、今度は僕に対して質問してきた。僕は野生の時からよく訊かれたけど、進化先が八つもあるイーブイにとっては避けられない道だと思ってる。もちろんルカリオの彼女も例外なく、僕にお決まりの台詞を投げかけてきた。
「うーん……、一番は黒くてかっこいいブラッキーなんだけど、何か彼の事は好きになれなくてね……。だから、二番目のサンダースかな? 」
いつもなら迷わずブラッキーって答えてたけど、このときの僕は素直に答えられなかった。普段の彼ならそうでもないけど、バトルの事になると物凄く厳しくなる。もちろん捨てられた今もそうだけど、その一面が、僕は大嫌いだった。
『……ここだな』
と話している間に、トレーナーの目的の売り場にたどり着いた。このとき僕は何となく予想は出来ていたけど、その売り場には、傷薬とかモンスターボールとか……、トレーナーズアイテムが所狭しと並べられている。その中でも僕達は、戦闘用アイテムとか進化の道具とか……、そういう道具が並んでいる列に立ち入る。このとき僕はすぐにでもモンスターボールの中に戻してもらうべきだったんだけど、行楽シーズンで浮かれててそんな考えは微塵も無かった。
「こうして見てみると、道具って沢山あるんだよね……」
完全に油断しきっている僕は、そびえるように並ぶ商品棚はまじまじと見上げる。僕はどれがどんな効果があるのかまでは覚えられなかったけど、下から二段目に並んでる進化の石ぐらいなら知ってるつもりでいた。
「ほんとにね。中には売ってない道具もある、って聞いてるけど、Z……、何だったかしら? 」
「Zクリスタルのこと? あれは試練を突破したり、島の守り神から授けてもらったりするんだよ」
これまでルカリオが何をしてたのかは分からなかったけど、彼女はふと、黄色い石を見上げている僕に話しかけてきた。Zクリスタルはアローラ生まれの僕達にとっては常識だけど、彼女たちはそうじゃない。だから視線を外の方に向けてから、ストイックな彼女に話してあげる事にした。
「守り神? 」
「うん。確かメレメレはカプ・コケコっていう伝説のポケモンだったと思うけど、島の事を見守ってくれてるんだよ」
僕はこの島の出身じゃ無いけど、守り神がいるのは同じだから教えてあげた。確か島ごとに違う種族だったと思うけど、この島は確か、電気タイプの種族だったと思う。野生生まれで普通のトレーナーのポケモンだった僕は、もちろん噂だけで会った事も見た事も無かったけど……。
「島のことをって、それだけ偉大な種族なのね」
「うん」
今思うとこの話をしてどうにかなる訳でもなかったけど、このときの僕は、トレーナー以上に慕っていた彼女に、島の事をもっと知って欲しい、って思ってたような気がする。この事は隣の通路にいる人間の子供も知ってる事だから……。
「ルカリオ達がいた地方にも、守り神みたいな種族、っているの? 」
「ええ。確か……ん? 」
僕は彼女の出身地の方に興味があったから、この流れですぐに問いかけてみた。僕はこの地方から出た事がないから興味があったけど、僕、それから彼女も、それどころじゃなくなってしまう。
「……え? 」
ガンッ、と急に鈍い音が場の空気を遮り、この通路にいる二匹と一人を注目させる。この時は何が起こったのかさっぱり分からなかったけど、隣の通路に子供が何人かいたような気がするから、騒いだり暴れたりして商品棚にぶつかったんだと思う。その反動で棚が大きく揺れ、陳列されている商品も大きく乱れ始める。これだけだと唖然としなかったけど、運悪く下から二段目の商品の一つが僕の真上に落ちてきた。あまりに急な事だったけど、僕は今でも、この瞬間の事が目に焼き付いて頭から離れない。
「いっ、イーブイ! 」
『なっ……嘘だろ? 』
他の道具だったら何ともなかったけど、よりによって落ちてきたのは、陳列されていた進化の石……。あまりの事に僕は棒立ちになってしまっていて、体が言う事を聞かず、ただ事の成り行きを見守る事しか出来なかった。トレーナーとルカリオが慌てて何かをしようとしていたけど、その甲斐も虚しく、落ちてきた進化の石がコツン、と僕の頭にぶつかった。すると僕は急に眩い光に包まれ、その石に応じた進化が始まってしまった。
僕に落ちてきた石が赤色なら、トレーナーの思い通りだから何事もなく終わったと思う。もし黄色だったら、トレーナーの思い通りじゃ無いけど、僕がなりたい種族だから何が起きても我慢できたと思う。……だけど僕の頭に触れたのは、そのどちらでもない“青”色の石。光が収まった僕は、青い体で尻尾が長い種族、シャワーズに進化してしまった。
「嘘……。僕、進化して……」
思いがけない形で、それもなろうと思ってなかった種族になってしまって、僕は唖然として青くなった前足を見つめた。この間にルカリオは何かを言ってくれてたような気がするけど、今でも何を言ってたのかは覚えてない。覚えてる事といえば――
『はぁ? イーブイ! 貴様、よりによってシャワーズに進化しやがって……! 』
色違いのギャラドスみたいに顔を真っ赤にし、怒り狂うトレーナーの姿。僕が見てきた中でも一番恐ろしくて、捨てられた今思い出しても恐怖で竦み上がってしまう。そんな彼は感情に身を任せて、僕に対して感じた怒りを矢継ぎ早に解き放ち始める。
『ブラッキーとニンフィアならまだしも、H逆Vのシャワーズだなんて、冗談じゃない! 』
「ちょっと、落ち着いて……」
『大体A極振りのシャワーズなんか、使えねぇー。第一三ヶ月厳選してお前を見つけ、努力値を振ってきた時間を返せ! 』
このとき僕は罵倒され続けてそれどころじゃなかったけど、パートナーのルカリオが何とか宥めようとしてくれてた。だけどそんなパートナーの声なんて気にもとめる事なく、トレーナーは僕への暴言を吐き続ける。HとかVとかって意味は何なのかさっぱり分からなかったけど、我を忘れたギャラドスみたいに怒り狂ってたのだけは分かってた。その証拠に、彼は公の場にも関わらず大声をあげ続け、他のお客さんに迷惑をかけている事にも気づいていなかった。
「返せって言っても……、ぼっ、僕はなりたくてなったんじゃあ――」
『うるせぇ! しゃわしゃわって何言ってるか知った事じゃねぇが、口答えするな! あぁー、もういい! 貴様の顔なんか二度と見たくねぇ! 』
「ちょっ、ちょっと! 落ち着いて! 」
僕はなりたくてなったんじゃない、この時は伝わらないって分かっていてもそう言おうとしたけど、怒り狂う彼は聞く耳を持ってはくれなかった。ルカリオが彼の腕を必死に押さえようとしていたけど、それすら効いてなかった。それどころか彼は何を思ったのか、腰のベルトにセットしているモンスターボールを手に取った。手に持ったそれ……、僕のボールを強く握り、それを高く上に掲げる。
『俺の前から消えてなくなれ! 』
それを床に思いっきりたたきつけた。かなり強く投げられたから、ぐしゃり、と機械が壊れる音がショッピングモールのフロアに響き渡る。そのせいでフロアの床に傷が入ったかもしれないけど、トレーナーとポケモンの絆の証でもあるソレは真っ二つに割れ、カランと虚しくそこに転がり落ちた。
「……」
「ちょっと! いくら何でもそこまでする事ないじゃない! 」
今となってはどうでも良い事だけど、目の前でボールと壊された僕は、進化してしまった事も相まって、何も言葉を発せなくなってしまう。今思うとショックを受けてしまって、青い目元を涙で赤くしてしまっていたのかもしれない。
だけどショックで打ちひしがれている僕とは対照的に、ルカリオは彼の暴挙に声をあげてくれる。この時の僕はショックが大きくて何も聞こえてなかったけど、流石の彼女も怒って彼を問いただしてくれていたのかもしれない。
『気分悪い。ルカリオ、行くぞ』
「まっ、待ちなさいよ! まだ話は……、イーブイは。イーブイはどうするのよ! 」
抗議するルカリオなんてお構いなしに、僕を逃がした彼は、彼女の手を引いてスタスタと歩いて行ってしまう。為す術がなく引っ張られるルカリオは、僕の方にも何度も目を向けてくれる。どんどん遠くなっていく彼女の怒ったような悲しいような表情は、捨てられた今でも忘れる事が出来ない。残された僕は、そんな彼女の姿を、まるで他人事のように見る事しか出来なかった。
〜〜〜――
「はぁ。これだから見た目だけで決めつけてくるポケモンは嫌いなんだ」
思い出したくも無い事がフラッシュバックしたせいで、僕の機嫌はすこぶる悪くなる。何であの場から足下に転がってるコレ……、壊れた僕のモンスターボールを持ってきたのかは分からない。捨てられた今は開き直ってるけど、口に咥えて持ち出した時は受け入れられてなかったのかもしれない。
「ごめんよ。流石に俺も訊きすぎたね。何があったか知らないけど」
「コレを見れば分かるでしょ、話さなくても」
流石の彼も突っ込みすぎたと反省してくれたらしく、申し訳なさそうに頭を下げてくる。心なしか日差しが弱まったような気がしたけど、落ちるところまで落ちた僕にとっては、それは何の意味も成さない。僕の心は冷涼で心地良い海の青ではなく、ジメジメと気持ちの悪い憂鬱な青に染まっているから……。
「モンスターボール? 壊れてるみたいだけど」
そんな僕は一度彼の方を見上げ、すぐに足下の方に視線を落とす。太陽に雲がかかってきたから初めて見えたけど、種族上三つあるナッシーの顔はどれも、今の空模様と同じに見えた気がする。シャワーズの僕は白い半球を転がし、捨てられた虚しさを適当に誤魔化す。
「うん。ショッピングモールで人間の子供がはしゃいでいてね、棚にぶつかって落ちてきた――」
「イーブイ! よかった、ここにいたのね」
僕は自虐の意味も込めて話そうかと思ったけど、虚無感に満たされた浜辺に別の声が響き渡る。今更助け船が来ても遅いような気もするけど、僕はこの高い声の主の事をよく知っている。シャワーズの僕をイーブイと呼んだ内陸の方に振り返ると、そこにはよく見知ったルカリオ……。僕の嘗ての仲間の彼女が、砂に足を取られながらも気にせず駆けてきているところだった。
「ルカリオ……。僕なんか捨てて彼とサーフィンに行ったんじゃなかったの? 」
予定通りなら海で楽しんでいるはずだけど、何故か彼女は存在意義のない僕、それもかなり焦った様子でここに来てる。本音を言うとまた彼女に会えて嬉しくはあったけど、この気持ちを聞く余裕なんて、今の彼女には無いように見える。その証拠に普段は身だしなみとか毛繕いを入念にしている彼女は、巻き上げた砂で薄汚れてしまっていた。
「ええ、私は気が進まなかったけど、確かにあの人は沖へ出て行ったわ。だけど……、だけど……! 」
「まぁまぁお嬢さん、少しは落ち着いたらどうだい? 」
あまり取り乱す事のないルカリオにしては珍しく、僕の肩を両手で掴んで訴えかけてくる。捨てられてなくていつも通りだったら、多分これで僕は想っている人の顔が目の前にあってドキドキしてる。だけど今は深海の水みたいに、僕の心は暗く冷え切っている。切羽詰まった様子の彼女をナッシーは宥めようとしていたけど、僕にはどうしても他人事のようにしか見えなかった。
「そっ、そうよね」
「で、何があったの? 」
ナッシーが宥めてくれたから、彼女は徐々にだけど落ち着きを取り戻す。シャワーズに進化してしまって彼女との目線の高さが近くなってるけど、種族の体格差で見上げなければならない事には変わりない。ずっと見上げ続けていて首が痛くなってきたけど、聞き流す訳にもいかないから彼女に尋ねてみる。
「結論から言うと、彼が流された」
「流された? 何かの冗談じゃないの? 確か泳げたと思うんだけど」
彼女はすぐに話してくれたけど、どうも嘘っぽくて信じられない。確かに彼は人間だけど、それでもサーフィン好きなぐらいだから、泳ぎの一つや二つ出来るもんだと思ってる。それなのに僕が信頼している彼女は、その真反対の事を言ってくる。だから僕は思わず、そんな気分でもなかったのに訊き返してしまった。
「離岸流。浜から見ただけだけど、それに流された」
彼女は無力感に打ちひしがれているのか、暗い表情で呟く。この感じだと浜辺で留守番してたんだと思うけど、彼女がすぐに駆けつけられなかったのも無理ない気がする。僕は捨てられる前に彼女から聞いたけど、ルカリオはどうしようもないほどのカナヅチ。それも水というものに全く慣れていないらしく、彼女は自分では泳いでいるつもりでも、アローラ生まれの僕からするとジタバタと溺れてるようにしか見えない。そんなだから、ルカリオは海で泳いだ事なんて無かったのかもしれない。
「それは大変だね。だけどお嬢さん、それならお嬢さんが――」
「そうしたかったけど、私は泳げないし頼れる知り合いもいない……。だからイーブイ、いえ、シャワーズ、あなたしか頼れないのよ! 」
「……」
無神経なナッシーは何かを言おうとしてたけど、多分彼女は彼の事なんて眼中に無いのかもしれない。確かに外の地方から来た彼女にとって、知り合いと呼べるポケモンは僕以外にいないのかもしれない。それも想い慕ってるパートナーのピンチだから、彼女自身かなり追い込まれていると思う。僕の肩を掴んで揺すりながら訴えかけてきていて、涙ながらに訴えかけてきている。
だけど僕は、望まない進化をして捨てられた哀れなシャワーズ。数時間前までは彼のポケモンだったけど、逃がされた今はただの野生。それも種族のステータスに合わない能力バランスみたいだから、きっと野生の世界からも見捨てられて飢えていくだけ……、そうに決まってる。
「彼の事は許せないかもしれないけど、けど……! 私にはシャワーズと彼しか……、いないのよ! だから……、だから……っ! 」
僕は何も出来ない、そうは思ってるけど、想い慕ってるひとを悲しませたくもない。強くて憧れてた彼女の弱い部分を見てしまった、って言う事もあるけど、子供みたいに泣きじゃくる彼女に何も言えなくなってしまう。心なしか空が暗くどんよりとしてきた気がするけど、こんなモヤモヤした気分を晴らしたい。こう思っている自分がいるのも事実。だけど彼女が助けたいって思っているのは、僕を捨てた、大嫌いなトレーナー。その彼女は僕が一番慕っていて、憧れ想っているルカリオ。
「だけど僕、野生だし泳いだ事もない。僕なんかに――」
「シャワーズにしかできないのよ! 」
「っ! 」
自信が無いのに板挟みになっている僕は、彼女の心の底からの叫びに、思わずハッとさせられてしまう。今まではずっと自分よがりな考えしかしてなかったけど、よく考えなくても、彼女は極限まで追い詰められてしまっている。すがる思いで僕のことを探して見つけたのに、僕がこんな状態だと、彼女は何を頼ったらいいか分からなくなる。唯一の頼みの綱が脆くボロボロだったら、僕なら心配すぎておかしくなるような気がする。……そんな状態になってしまっているのが、今の彼女。涙ながらに声を荒らげられて、僕はようやくその事に気づく事が出来た。確かに僕はトレーナーだった彼が大嫌いだけど、それを我慢できるぐらいに彼女の事が大好きだ。彼女を悲しませたくないはずなのに、今の僕はその逆の事をしてしまっている。
「分かったよ。ルカリオ、泳いだ事無いけど、僕がなんとかする」
「シャワーズ……、ええ! 」
意を決し僕がこう言った瞬間、厚い雲に覆われていた雲から太陽が顔を覗かせる。ひかりの筋が差し込んで幻想的だけど、そうと決めたら、今の僕にこの景色を楽しんでいる暇なんてない。やっと笑ってくれた彼女の方を見上げ。
「ルカリオ、案内してくれる? 」
「当然よ! 」
どうなるか分からないけど、自分を奮い立たせるためにも大声で言い放つ。それにルカリオは、目が赤くなってるけど、いつもの頼もしい笑顔で応じてくれた。
〜〜〜〜―
「シャワーズ、こっちよ! 」
「うん、今行く! 」
トレーナー就きのルカリオの先導で、僕は夏の浜辺を駆け抜ける。ついさっきまで僕は深海の奥深くまで沈み込んでいたけど、今は心なしか、浅瀬まで浮上できているような気がする。暗くて自分の事しか見えてなかったけど、今は想い慕ってる彼女、ルカリオの彼女の事まで考える事が出来ている気がする。考える事は出来てはいるけど、それでもやっぱり、どうしても僕を捨てたトレーナーの事は好きになれそうもない。だけど彼女の事を思うと、そうも言ってられない。だから自然と駆ける四肢にも力がこもり、浜辺の砂を巻き上げる。丁度この辺りは俗に言うプライベートビーチから離れてはいるけど、彼女によるとこの辺りでトレーナーは流されたらしい。先を走っていた彼女は、少し後ろの僕に必死に手招きしていた。
「だけどルカリオ? どうやって泳げば良いの? 」
追いついた僕は、走り始めてから聞きたかった事を彼女に尋ねる。彼女の知り合いで泳げるのが僕しかいない訳だけど、生憎僕は進化してから一度も泳いだ事がない。一応イーブイの時は水遊び程度にはした事があるけど、今はそれとは訳が違う。鋼、格闘タイプな上にカナヅチの彼女に訊くのもどうかと思うけど、十年以上の旅で得た知識だけはあるはずだから、迷わず彼女に問いかける。
「時間が惜しいから、入りながら説明するわ」
すると彼女は僕の答えを待つ事無く、バシャバシャと水しぶきを上げながら海へと入っていった。
その彼女に僕も続き、波打つ海に飛び込む。水タイプだから水中でも息が出来ると思うけど、正直言って窒息しそうで怖い。そもそも泳ぎ方自体もイーブイの時と違う気がするから、底に足が付く浅瀬で、彼女がしがみつくのを待つ。
「うん! 」
「普通に歩く時みたいに足で水をかいて」
すぐにルカリオは、僕の前足の脇の辺りを抱え込む。こんなに密着するのは初めてだから緊張するけど、僕はすぐにその気持ちを頭の中から追い出す。泳ぎ方を話してくれたから、僕はその通りに左の前足で海水をかいてみる。
「っ! 」
すると僕が思った以上に進み、緊張で火照った僕の体を新鮮な水が撫でる。試しにもう一度右でもかいてみると、今度は勢いも乗って二メートルぐらいは進んだと思う。
「そうそう、そういう感じよ! 」
僕にしがみついてうつ伏せに浮くような感じになっているルカリオは、思い通りになって嬉しそうに声をあげてくれる。まさかこんなに喜んでくれるなんて思ってもいなかったから、僕の心の中は明るく陽の光に照らされ始める。軽く水をかいただけなのに凄く進んだから、何故かそれが凄く面白く楽しくなってくる。泳いだだけでこんな気持ちになるなんて思わなかったから、シャワーズの姿を悲観的に思っていた僕にとっては衝撃的だった。
「仲間のフローゼルはそうしてたんだけど、尻尾で舵を取るのよ」
「こう、かな? 」
後足でも連続でかくと、凄い早さで進む事が出来た。左前、右前、右後ろ、左後ろ――。リズムよくかいていくと、どんどん僕のスピードが速くなる。地上と比べたらいけないような気がするけど、もしかすると電光石火よりも早いスピードが出てると思う。顔を水面から出して泳いでるけど、周りの景色が凄い早さで後の流れていっていた。
更にルカリオは、もう一つ大事な事を教えてくれる。僕はその仲間のフローゼル? っていう種族には会った事も見た事も無いけど、その種族は多分水タイプなんだと思う。どんな姿なのかは気になるけど、僕は興味に後ろ髪を引かれながらも、ルカリオが教えてくれた事を実践する。ざっくりとしか教えてくれなかったけど、僕はその方法を何となく、本能的な何かでイメージ出来たような気がする。力を抜いている尻尾を右に振ってみると、泳ぐ方向が右に変わる。逆に左にしならせてみると、水の抵抗を受けてその方向に体が流れる――。初めて尻尾も使って泳いだはずなのに、シャワーズとして覚えているからなのか、凄く体に馴染んでる。
「そうよそうよ! じゃあコレをもっと早く出来る? 」
「うん! やってみるよ! 」
不思議な感覚に包まれながらも、僕はリズムよく水をかいていく。ルカリオに褒めてもらえて凄く嬉しいから、より一層四肢に力を込める。好きな人に褒められて張り切ってる、って言われたら何も言い返せないけど、それはそれで良いような気がしてきた。だからって事で水をかくリズムも二、三倍ぐらいまで早くした。
「流石シャワーズね。……ええとそこのきみ! 」
「ん、なーに? 」
どのくらい浜辺から離れたか分からないけど、僕は一心不乱に夏の海水をかき続ける。もはや水タイプをしての本能に染まりきってる、って言った方が良いような気もしてきたけど、流れる水が気持ちいいから気にしてない。それで僕の泳ぎがある程度形になったって事で、しがみついているルカリオはどこかに向けて声をあげる。視線だけを上に上げてみると、丁度沖合の方から二、三匹ぐらいのキャモメが飛んできているのが見えた。呑気な感じで返事し下降してくれているから、多分ルカリオはこの三匹に呼びかけたんだと思う。
「ちょっと訊きたいんだけど、ここに来るまでに人間が浮いているのをみかけなかったかしら? 」
旋回して僕達と平行して飛び始めてくれてから、ルカリオは一番近くのキャモメに問いかける。このキャモメ達がどこから来たのかは分からないけど、確か飛行タイプはどの種族も目が良い、っていうのをどこかで聞いた事がある。ルカリオが呼んだ時は結構な高さを飛んでたけど、もしかすると一匹ぐらいは気づいてるかもしれない。
「あぁ人間? それならこの先に浮いてたと思うよ」
「あれはサーフボード? って言ったようか気がするけど、それに掴まってぷかぷか浮いてたね」
翼を広げて滑空している彼らは、少し考えてから教えてくれる。どこか気楽そうな声だから、本人達は見かけただけなのかもしれない。仮にどうにかしようとしてくれていたとしても、キャモメと人間とでは体の大きさが違いすぎる。三匹いるからギリギリ掴んで飛べそうな気もするけど、水の中と空とでは重さも全然違う。だからもしかすると、自分達でどうにかせず、誰かを呼びに行こうって事になっていたのかもしれない。
「ありがとう。助かるわ」
「ってことは、あと少しだね? 」
「うん、どういたしまして。じゃあ陸に行ったら、大きい誰か呼んでくるね」
「ありがとう! 」
教えてくれた三匹のうちの一匹は、にっこりと笑いかけてくれてから急浮上する。この感じだと大して離れてなさそうだから、もしかするとすぐにでも見えてくるかもしれない。だけど僕は水面から顔を出して泳いでるから、波しぶきとかが邪魔で凄く見にくい。なら潜って水中を泳げば良いんじゃないの、って言われそうだけど、やっぱり水中は怖いし、そもそもルカリオがいる。ひとまずキャモメ達を見送ってから、遅くなっていた泳ぎを更に加速させた。
「……うっ! 」
「ん? シャワーズ、どうかした? 」
「ううん、何でもないよ」
順調に泳げてはいたけど、僕は思わず、声をあげてしまいそうになる。心配をかけたくないから何とか誤魔化したけど、両方の後足がピンと張ったような感覚に襲われる。よく考えたら慣れてもないのにいきなり海を泳ぎ続けているから、後足が悲鳴を上げてつってしまったのかもしれない。だけどここで僕まで溺れたら、嫌いなトレーナーを探すどころかルカリオまで巻き添えにしてしまう。
「ならよか――ああっ! 」
「見つけた」
痛すぎて後足の感覚がなくなってきたけど、僕は泳ぐ先に一つの影を見つける事が出来た。ルカリオも同じタイミングで視認したらしく、僕とは違って嬉しそうに声をあげる。今にも僕から手を放して彼の方に行ってしまいそうだけど、流石に海のど真ん中だから放す事は無い。それでやっと見つけられたから、彼の側まで泳いでいき――
「気を失っ――」
「早く、早く運びましょ! 」
「うっ、うん」
サーフボードにかろうじてしがみついていた彼は、そのまま気を失ってしまっている。僕が前足で彼の足を触ってみると、氷みたいに冷たく冷えてしまっている。ルカリオが僕を探し始めた時間の事を考えると、結構危ない状態かもしれない。
嫌いとはいえ死んで欲しいとは思ってないから、僕達はすぐに、彼を運ぶ準備を始める。少し大きめのサーフボードだから助かったんだけど、まずルカリオがそれに乗り移り、彼の事を引き上げる。乗せた後しっかりとサーフボードを足で挟み込み、両手は僕の肩をしっかりと掴む。何か凄く泳ぎ辛そうだけど、大変なのはルカリオも同じ。
「ルカリオ、いくよ」
だからって事で僕は、結構疲れてるけど再び泳ぎ始めた。
「シャワーズ? 」
「ん、なに? 」
「彼が何て言うか分からないけど、私達のところに、戻ってくる気、ある? 」
しがみついている関係で凄い態勢になってるけど、長時間泳ぎ続けている僕に、ルカリオは耳元でこう訊いてくる。唐突だったから少しビックリしたけど、僕は振り返らず横目で彼女の事を見る。彼女は僕の様子を伺うように聞いているけど、やっぱり彼が気を失ってるからなのか、その表情はどこか不安そう。確かにこの体勢だとしっぽが彼に触れてるはずだから、冷え切った彼の体温をまともに感じているのかもしれない。
「うーん、彼の事は好きになれないけど……、ルカリオと一緒なら」
「ほんと? 」
「うん」
本との気持ちを言おうか少し迷ったけど、僕はこの時を逃すともう無いと思い、思い切って言ってみる。僕は捨てられる時、トレーナーには「もう見たくない」って言われてるから、彼女が言ってくれても復帰することなんて無いと思う。だから彼とルカリオを浜まで送り届けたら、僕は野生に戻ってひとり孤独に生きていこうと思ってる。
だけど僕がこう答えると、彼女は予想外の反応を見せてくれる。嬉しそうに訊き返してきた彼女は、何故か頬を赤く染めてしまっている。これがどういう照れなのかは分からないけど、僕の答えを聞いて、どこか嬉しそう。すると何を思ったのか、彼女は僕の耳元で、優しく語り始めた。
「シャワーズが逃がされてから、何故か心にぽっかりと穴が開いたみたいになって……、彼が話してた事も何も頭に入ってこなかったのよ。虚無感というか喪失感というか……、上手く言葉に出来ないけど、まさか私もこんな気持ちになるなんて思わなかったね。それに一匹で待ってる時も、思い浮かぶのはシャワーズの事ばかり。それで気づいたのよ、私は笑ってくれているシャワーズの事が好きなんだ、って」
「ルカリオ……」
まさか僕は、彼女が僕の事を想ってくれてたなんて夢にも思わなかった。彼女の事を疑う気なんて無いけど、今話してくれた事が嘘とも思えない。こういうのを吊り橋効果、って聞いた事がある気がするけど、そんな事は関係無しに凄く嬉しい。僕はてっきり憧れて好いているのは僕だけかと思ってたけど、もしかすると両思いだったのかもしれない。心なしか真夏の海水が、急に温度が上げたような気が――
「くぅっ……! 」
「しゃっ、シャワーズ! 」
思ってくれて物凄く嬉しかったけど、僕は後足の痛みで現実に引き戻されてしまう。確かに今までも痛かったけど、遠くの方にメレメレの浜辺が微かに見え始めたところで、とてつもない激痛が駆け抜ける。海水で体が冷えてるからだと思うけど、後足の真ん中から引きちぎられたような……、今までに感じた事のない痛みが、両方の後足にしている。たまらず僕は掴んでるルカリオの手をふりほどき、前足だけで向きを変える。上半身だけをサーフボードの上に乗せて、前足でそれにしがみついた。
「うぅっ……」
「だっ、大丈夫? 」
僕がたまらずしがみついたって事で、ルカリオは凄く心配そうに僕に声をかけてくれる。僕が離れたから彼女は、サーフボードの上で正座して場所を空けてくれていた。僕は一匹で乗った事がないから分からないけど、こんなアンバランスな板の上で正座できるなんて、凄いと思う。
「大丈夫じゃ……ないかも……くぅっ! 」
だけど彼女の気遣いに感謝するほど、今の僕に余裕がない。もう後足が痛いのを通り越して何も感じなくなってきた。だけどたまに痺れが断片的に消え、えげつない痛みが僕の後足を刺してくる。
「大丈夫じゃないって、ほっ、ほら、シャワーズ! 向こうからさっきのキャモメが戻ってきてくれたから! 」
「あれ、は……」
彼女の言うとおり遠くの空に何かが飛んでるのが見えるけど、僕の意識は海の底に沈んでしまいそうになる。もうろうとした意識の中で陸地の方に目を向けてみると、あまり離れていない空に、三匹のキャモメが見えた気がする。それだけでなく、本当に大きな種族を連れてきてくれた。視界がぼやけてよく見えないけど、黄色とかオレンジとか――、そういう色の種族だとは思う。オドリドリみたいな飛行タイプじゃないような気がするけど、薄れる意識の中、僕は確信する。
「カ――」
だけど本当にそれがその種族かを確認する前に、僕は意識を海の中に放り投げてしまった。
〜〜〜〜〜
「……うぅっ」
「いっ――シャワーズ! よかった、無事で……」
意識が暗く深い海の底に沈んだ僕は、不自然に襲ってくる揺れで目を覚ます。薄目を開けてぼんやりと見てみると、鼻の先にまで迫った相棒の顔……。これに僕は驚いてとびあがってしまい、彼女の額と正面衝突してしまう。ごつんと鈍い音が響き、遅れて体の奥底までじジーンと揺れる衝撃がやってくる。思わず前足で頭を押さえ顔を歪めてしまったけど、そんな僕にルカリオの彼女は思いっきり抱きついてくる。直接彼女の顔を見た訳じゃ無いけど、嗚咽が混ざってるから、もしかすると涙を流してくれているのかもしれない。
「うっ、うん。だけど、ここは? 」
想っている彼女に抱きつかれて鼓動がうるさくなってきたけど、ここで僕はある事に気づく。僕が気を失ったのは彼のサーフボードの上のはずだけど、何故か今は広く安定した何かの上にいる。波で上下に揺れているのは相変わらずだけど、振れ幅はさっきとは比べものにならないぐらい激しく大きい。おまけに海面から少し高い場所に移り、景色は電光石火のように後へと流れている――。
「偶々通りがかった漁船の上よ」
彼女に言われて初めて気づいたけど、どうやら僕達は何故か船の上にいるらしい。抱きつくのをやめて、彼女は僕の肩に手を添えたまま、まっすぐ僕に顔を合わせる。本当に泣いてしまっていたらしく、彼女の両目はクラボの実みたいに赤く色づいてしまっている。そんな彼女は嬉しそうに口元を緩め、にっこりと僕に安堵の笑みを見せてくれた。
「船の……? でも何で」
彼女の気持ちは嬉しかったけど、僕はこれとは別の事が気になってしまう。今僕達がいるのは海のど真ん中に変わりないけど、プカプカと浮かんでいた筈なのに船上にいる理由側からない。だから僕はたまらず、目元から大粒の雫をこぼしている彼女に問いかけてしまった。
「それは――」
「呼ばれた某が運んだからだ」
彼女は涙でぐしゃぐしゃになりながらも話し始めてくれていたけど、ここで知らない誰かが乱入してくる。少し離れた場所にいたみたいだけど、声の主は僕の方にすぐに飛んでくる。オレンジと黄色、黒の三色の彼は古風な言い回しで結論を言ってくる。だけどその彼は言い伝えで聞いた姿そのものだったから――
「とっ、土地神様? なっ、何で土地神様が僕達のことを――」
「悪いか? 」
思わず声を荒らげてしまう。この声は昼間の潮風に紛れ、アローラの大地へと旅立っていく。そんな僕に黄色い土地神様は、全く表情を変えずに言葉を返してきた。
「そんな、悪いだなんて、ちっとも思ってないわ。私は泳げないしシャワーズは倒れるしで、本当に困ってたから」
「るっ、ルカリオ! もっ、もうちょっと畏まっ――」
「構わん」
彼女は知らないから仕方ないけど、あまりに無遠慮に話しかけてしまってる。ため口で今にも背中をバシバシと叩きそうな勢いだったから、僕はそれどころじゃなくなってしまう。土地神様にそんな事をしたら、罰が当たってしまうかもしれない。恩を仇で返すようなものだから、僕は慌てて彼女を止めに入る。だけど僕の心配は杞憂に終わり、土地神様は無愛想に僕を制してくる。表情が全く読めないから分からないけど、出来れば彼女の無礼を気にしてなければありがたい。本当にそうであってほしいけど、そんな僕の心配を余所に淡々と語り始めた。
「シャワーズ、貴殿等の行動は把握済みだ。貴殿の主には少々目に余るものがあるが、某が灸を据えておいた」
「……どういう、事ですか」
威厳がありすぎて萎縮しそうになってるけど、僕は土地神様が述べた事に耳を疑ってしまう。もし言う事が本当なら、ポケモンなのに人間の彼に言葉が伝わった事になる。無礼だとは存じてはいるけど、僕は想わず土地神様に訊き返してしまった。
「貴殿等の主は“ One for all . all for one ”などと申しておったが、言と動に矛盾が生じておった」
「矛盾、ですか」
「ええ。シャワーズは知らないと思うけど、あの言葉の意味、仲間を思い各々がそれぞれのために行動しよう、というものなのよ。今はあんなだけど、旅を始めた時はちゃんと仲間の事も考えてくれてたわ。……でもいつからかしら? 勝ちに拘るようになってね。今の彼みたいに、データしか見なくなった。私にだけはそうじゃなかったけど、シャワーズもよく知ってるでしょ? 」
「うん」
土地神様の言う事の意味は最初は分からないかったけど、ルカリオの彼女の言葉を聞いてからは、何となく理解出来たような気がする。確かに土地神様の言うとおり、彼はそう言ってた割には自分の……、自分が勝つ事しか考えてなかった。それにAだとかHだとか、訳の分からない事も言ってた。これだけは何のことかさっぱり分からないけど、もしかするとコレが、ルカリオの言うデータなのかもしれない。やっぱり分からない事だらけで頭が痛いけど、さっきよりかは分かってきたような気がする。だからって事で、まだ若干雲がかかってるけどこくりと頷く。
「貴女の述べるとおりだ」
すると本当にあっていたらしく、ここで彼は一瞬だけ口元を緩めているように見えた気がした。
「……灸を据えてはおいたが、貴殿等の主は述べていた、怒りに身を任せてとんでもない事をしてしまった、と。またこうも述べていた。シャワーズに進化してなければ、死んでいたかもしれない、と」
「……」
彼は何を思ったのか、僕が気を失っていたときのことを語ってくれる。にわかには信じられない事だけど、土地神様が言う事なら、少しは信じても良いのかもしれない。それにもし僕がシャワーズ以外の種族に進化していたら、ルカリオの彼女は誰にも助けを求める事が出来ず、長年連れ添ってきたパートナーを失っていたかもしれない。確かにシャワーズになんてなりたくなかったって思ってたけど、こう考えると、少しはシャワーズになれて良かった、って思える気がする。もちろん想い慕ってる彼女が悲しまずに済んだのもそうだけど、ここだけの話、思い込んでいた事に反して泳ぐ事の楽しさを実感した僕がここにいる。これじゃあステレオタイプが嫌いなのに、僕自身がステレオタイプなシャワーズになって――。
『シャワーズ』
「……ん」
土地神様の言葉を受け考え込んでいたけど、一つの声が僕に話しかけてくる。大嫌いな僕の元トレーナーの彼だからすぐに分かったけど、今まで聞いた事がないぐらいに沈み込んでる。シャワーズの僕が訊いてみても言葉は伝わらないけど、とりあえず僕は彼の方を見上げてみる。
『お前が俺を助けてくれたんだってな』
「うん」
彼の表情は海に入る前の僕みたいに真っ暗で、消え入りそうな声で囁いてくる。本当に小さい声だから、もしかするとルカリオと土地神様には聞こえてないかもしれない。そんな状態だけど、彼は目元から光を流しながら語り始めた。
『俺があんな酷い事をしたというのに、俺は……。あのポケモンに諭され気づいたが、何が“ One for all . all for one ”だ。お前の事を考えず感情に身を任せ、初心を忘れて逃がして……、済まない』
「……」
光はいつしか大粒の雨に変わり、見上げる僕の顔に降り注ぐ。いつもの彼からは考えられないけど、多分これは本心なんだと思う。嫌いな彼だけど、こんな表情をされるとこっちまで悲しくなってくる。だから大嫌いなはずなのに、何故か僕は彼の言う事が心に響いてきてるような気がする。自分よがりな人間だって思ってたけど、本当はちゃんと心があるトレーナーだって分かったから――。
そんな彼は僕にハッキリと聞こえる声で、涙を流しながら僕に謝ってくる。だから僕は、何も言わずにこくりと頷いた。
『……シャワーズ』
「なに」
何を思ったのか、彼は徐に僕に声をかけてくる。暗い表情には申し訳なさも混ざってるような気がするけど、それでも彼は、自分に言い聞かせるように言の葉を連ねてくる。
『我が儘な願いだと分かっているが、また俺と来てくれないか』
そのまま彼はその場でしゃがみ、僕に視線を合わせてこう頼み込んでくる。その彼に放漫な態度は一切無く、寧ろ雰囲気的に腰が低いように見える。その彼の右手には言葉の意味を表すように、赤と白――ではなく青、水色、白で波打つような模様が描かれたボールが握られている。
「……うん」
僕は一度ルカリオの方に目を向けてから、何も考えずに小さく頷く。
『ありがとう』
すると彼は手の中のボールを作動させ、ふわりと僕に向けて軽く投擲する。放物線を描くそれは、何にも邪魔される事なく、僕の頭の上に落ちてくる。今度の“青”は僕が意図したものだから、呆然とはせずにそれを待つ。コツンと軽い音がすると、僕は数時間前とは異質の光に包まれた。今この瞬間の彼がこのまま続けば、少しは好きになれるかもしれない、って思いながら……。
心のアオ 完