第十七話 監獄の戦い
「マリー……、マリーってこんなところに閉じ込められてたんだね……」
「うん」
他の団員達から一歩遅れて“ルヴァン”の研究区画に潜入した私達は、製造中の“生物兵器”を閉じ込めておく“大保管庫”に足を踏み入れる。“大保管庫”は私とルミエールが潜入してる三課の区画には六つあるけど、階段から一番近い“大保管庫十六”……、私と02が閉じ込められてた部屋を通り抜けようとする。本当は入りたくなかったけど、ファルツェアさんから言われた特別任務を遂行するにな一番の近道になってる。ここには嫌な思い出しか残ってないけど……。
それで入る前に私の過去を話したって事もあって、ルミエールはショックで黙り込んでしまってる。前にどんな場所にいたのか話したつもりだけど、それでもルミエールは、通路の両脇に張り巡らされた鉄格子に言葉を失ってしまっている。丁度真夜中の潜入っていうこともあって、閉じ込められてる“生物兵器”達も寝ていて静まりかえってる。だから今聞こえてるのは、ぽつりと呟いたルミエールの声と、私達二人分の足音だけ……。コンクリートで冷たい床だから、凄く反響してるけど……。
「脱走する前は、02の他にも三人と一緒の檻に閉じ込められてた。ルミエールと会うまではこれが普通だったけど……、ここがそう」
それでいくつかの檻の前を通過するごとに、ルミエールの表情はどんどん暗くなってる。……というよりは青ざめてきてるから、少しでも早くここを通り抜けた方が良いような気がする。これでもルミエールは一度見てるはずだけど、助けてもらってから何日も経ってるから、ここの兵器達の改造は最終段階まで進んでると思う。戻された時は向かいの檻しか気にかける気にもならなかったけど、見た感じ簡単な処理を済ませただけだった。だけど今は、頭が二つあるグラエナとか爪の本数が多いドリュウズとか……、最終段階まで終わってる機体が殆ど。
……で見るからに体調が悪そうなルミエールを気遣いながら歩いていくうちに、私は実家とも言えそうな檻の一つの前を通りがかる。つい立ち止まってしまったけど、そこは私が作られてから閉じ込められていた檻。鉄格子の端に四つのタグがかかっていて、そのうちの一つ……、“SE01”だけが赤色で表示されている。その檻の中には、私の兄弟機達が、すやすやと寝息を立てている。他の檻の中の機体と違って、ここに閉じ込められてる三人のイーブイは――
「ここが? ってことはマリーとトゥワイスの……」
「うん。私と同じ“SE型”」
「マリー達と? だから普通なんだね」
ぱっと見余分な部位が何も無い。本当は私は首元に翼が生えてるけど、体の中にしまえるから普通に見えると思う。だけど完全にはしまえないから、いつもの姿なら首元のモフモフに隠してる。
で私がこう言ったから、ルミエールは一変して興味深そうに声をあげてる。どこかホッとしたような表情をしてるから、多分彼は私と違って奇形だって思ってたのかもしれない。
「見た目だけはね。私もそうだけど、“SE型”は体の中の作りが少し違う。生前の02は心臓が二つあって、私も二つ心臓がある……。今のトゥワイスは“AB型”のリツァさんの体だから、心臓と尻尾も余分に二つ移植されてるけど……」
「えっ……」
この事は一度も話した事が無かったから、当然ルミエールは唖然としてしまう。“生物兵器”として作られた私にとってはこれが当たり前だったから、私は一つって言う事が普通って知った時は凄く驚いた。だから多分、ルミエールは知った時の私と同じ状態かもしれない。
「……多分だけど、心臓がいくつもあるから力が異常――」
「ぅん……、誰……? 」
力が異常なんだと思う、自分なりに考えていた事を言おうとしたけど、その間にルミエールじゃない声が割り込んできた。凄く寝ぼけたような声だったけど、あまりに急だったから、私、それからルミエールも、ビックリしてとびあがってしまう。今の私はニンフィアの姿だから、慣れない首元のリボンでルミエールの顔を叩きそうになったけど……。一瞬研究員に見つかったかもしれない、って心配になったけど、それは多分大丈夫だと思う。何故なら――
「06、起こしてごめん……」
目の前の檻の中のイーブイ……、私の兄弟機の中の一人だったから。とりまきの二人は爆睡して起きる気配が無いけど、多分私達の話し声で起こしてしまったんだと思う。彼は眠たそうに橙色の目を擦り、ぼんやりと檻の外の私を見つめてくる。
「ニンフィア……? ニンフィアが何で僕の名前を……」
当然見知らぬニンフィア、それも自身の機体番号を呼んできてるから、不思議そうに訊き返してきた。
「機能使って姿変えてるけど、“SE01”。……目、見れば分かるよね? 」
このまま口で説明しても良いけど、あまり長い間立ち話をする訳にもいかないから、一番効率の良い方法をとる。紫色の目を閉じて意識を研ぎ澄ませ、同時に白色を強くイメージする。ノーマルタイプ、っていう属性みたいだけど、そのイメージで全身を満たしていく。すると私は黒紫色の霧を纏い、それごと大きさが小さくなっていく……らしい。霧が晴れてから、元のイーブイの姿の私は、06の橙色の目をまっすぐ見て話しかける。
「マリーの変身、やっぱりまだ慣れないね……」
「え……“退化”して……。目も紫色だから、本当に01……」
するとやっぱり06は、小さい声ながらも驚いたような声をあげる。流石にルミエールはもう慣れてるみたいだけど、06はそうじゃないから仕方ないと思う。そもそも“退化”自体あり得ない事だけど、目の前のニン……、イーブイが私だった事に驚いてると思う。その表情は驚きながらも、どこか嬉しそうな感じがあるから……。それで起きた06は私達の方まで来てくれたから
「うん。私よりも機能適正が高い06も出来ると思う」
私も鉄格子の側まで近づいてあげる。後でルミエールの足音も聞こえてるから、多分彼も側に来てくれると思う。
「僕にも? 」
「マリーの兄弟なら出来そうだね。ええっと06……、でいいんだよね? 」
「うん。だけど君は……」
すると興味を持ってくれたらしく、ルミエールも06に話しかける。真夜中の潜入だから声は小さいけど、私の顔を見てから問いかけていた。だからって事で06は控えめに話そうとしてたけど、何者か分からないみたいだから言葉を詰まらせていた。
「私のパートナーのルミエール」
「よろ――」
だから私が彼の事を紹介してあげる。06は“ルヴァン”にいる種族しか会った事無いけど、流石に割と多い種族だから聞いた事ぐらいはあると思う。私も脱走した時はすぐにルミエールがピカチュウだって分かったから、彼も分かってくれているはず……。で二人は簡単に自己紹介を済ませてから、鉄格子越しに握手を交わ――
「お前等、そこで何してる? さては侵入者だな! 」
握手しようとしてたけど、この場に荒々しい声が響き渡る。こんな大声でも04と05が起きないのは不思議だけど、私、ルミエール、それから06もその方に目を向ける。驚きすぎて二つある心臓が早鐘を打ってるけど、その方を見ると三つぐらいの人影……。逆行で種族までは分からないけど、この感じだと多分、一人はここの研究員だと思う。
「嘘、まっ、まさか見つかった? 」
「見つかったって……、01、どういうこと? 」
私もこんなに早く見つかるなんて思ってなかったから、思わず短く声をあげてしまう。“探査型”なのに気づけなかった、って03に笑われそうだけど、私の“探査型”らしい機能は“自由進退化”しかないから、そんな事言われても困るけど……。で訳が分からないっていう感じで取り乱しながら06が訊いてきたから
「聞いての通り。今の私は“SE01”じゃなくて、“騎士団”員のマリー。だか――」
「何ごちゃごちゃ言ってる! お前等、殺っちまえ! 」
簡単に状況を説明しようとする。だけどその途中で研究員に阻まれて、最後まで話す事が出来なかった。……どのみち潜入中の私達にそんな暇は無いけど、私は気持ちを切り替え、研究員のナゲツケザルの方に向き直る。その後には前足が四本あるギャロップと耳が四つあるレントラーがいるけど、この“二機”は多分、AC型だと思う。その二機とも血走った目でうなり声を上げてるから、もう“狂化”処理は最後まで終わって自我を奪われてるのかもしれない。
文字通り飢えた獣のように涎をだらだら垂らして走ってきたから
「ルミエール、私が食い止めるから、先に行って」
ルミエールの前に跳びだし、彼に短くこう頼む。私もつい目的を忘れそうになってたけど、そのそもここにはリツァさんとフロルの操作端末を奪いに来てる。けどこのままだとそれもできなくなりそうだから、普通のピカチュウの彼を逃がすって言う意味も込めて……。
「うん! マリーも、無理だけはしないようにね」
すると小さく声を上げてから、私を置いて奥の方へと駆け出してくれた。
「ガァァァッ! 」
けどその間にもAC型のギャロップに距離を詰められてたから
「……」
「ッ! 」
咄嗟に真上に跳び、腰の捻りを利かせて尻尾を思いっきり振りかざす。この方法は“騎士団”に入ってから覚えたけど、生憎私も生物兵器だから、それだけでも加減しなかったら簡単に首の骨を折るぐらいの威力が出てしまう。……だけど今の相手は私と同じ生物兵器、それも量産型の戦闘丙型だから、ありったけの力を込めてギャロップの顔面を叩く。同時に首筋に力を込め、しまっていた翼を生やす。思い切り空気を叩いて飛翔し、続けて噛みかかろうとしてきたレントラーの追撃を回避。
「紫の翼……、まっまさかSE01か! 」
と流石に特徴的な見た目をしてるから、私の正体が研究員にばれてしまう。この研究員は三課の課員じゃないと思うけど、“ルヴァン”をあげてのプロジェクトって事で、多分私達の事は他の課にも伝わってるんだと思う。特に当時の私は五人の中で性格試験以外は一番成績が良かったから、結果と一緒に情報共有されていたのかもしれない。そうじゃなくても戦うつもりだから、天井スレスレで羽ばたきながら
「そう。けど私は“リフェリア王国”のマリー。そっちは私を捕まえるするつもりかもしれないけど、そうはさせない」
自由になった両方の前足に気刀を作り出す。本当はブラッキーの方が戦いやすいけど、元のイーブイの姿の方が小回りが利くし、狭い通路でも飛び回れる。奥の方で扉が閉まる音が聞こえたから、この間にもルミエールは操作端末が置いてある小部屋に入れたんだと思う。
「ふっ、分かってるなら話が早い。三課の連中に貸しを作るためだ。お前等、殺すなよ? 」
と研究員もその気らしく、声を荒らげ、二つの操作端末で指示を飛ばす。生物兵器の私には使い方は分からないけど、小さなモニターで生物兵器の中に埋め込まれてる受信機に指示を飛ばすんだと思う。
「ガァァァッ! 」
とそれを受けて強制的に操られ、耳が四つあるレントラーが私に跳びかかってくる。
「……」
だからって事で私も急降下し、右の黒紫色の気刀を振りかざす。“進化”できるようになってから気づいたけど、私の気刀は姿によって色が変わるらしい。だからもしかすると、姿と同じ属性? になってるのかもしれない。
「ッ! 」
で私はレントラーの顔に斬りかかったけど、すんでの所でかわされてしまう。けど刃先がこの機体の左手前の耳を掠め、半分ぐらいを切り落とすのに成功する。だからその瞬間傷口から大量の赤い液体があふれ出し、私の茶色い毛並みをその色に染め上げる。ここで強く羽ばたき急浮上し、向きを変えて天井の方に飛び下がる。
「アァァッ! 」
「くっ……」
けどこの間に別の指示を飛ばしていたらしく、私はギャロップに先回りされてしまう。左の腰のあたりを角で突かれたから、私のそこも抉れて出血してしまう。
「けどこのくらい……」
だけど私は一切気にせず、浮上しながら口元にエネルギーを溜め始める。このぐらいの傷なら、私なら四時間ぐらいで元通り再生してると思う。それに実験中は何度も尻尾を切り落とされたりもしてたから、正直に言って切断される痛みになれてるからどうって事無い。だから私は、最近習った技っていう攻撃方法を発動させてみる。口元に作り出した白いエネルギー体を咳をするような感じで打ち出すと、それは五つに分かれてAC型に飛んでいく。これはスピードスターって言う技、ってルミエールが言ってたけど、星形のそれには追尾性能があるらしい。
「ッ! 」
「01、まさかそんな能力まで隠し持っていたのか? 」
「そんなつもりはない。……」
私が“ルヴァン”にいる頃には無かった攻撃方法だから、当然研究員は驚きで声を荒らげる。能力って言われると少し違う気もするけど、僕達が生まれつき持ってる攻撃方法、って言ってた。あのエネコロロは知らなそうな感じだったし、“騎士団”の団員ぐらいしか使ってるのを見た事がないから、もしかすると“リフェリア”だけの方法なのかもしれない。
で浮上した私は一度二機の位置を確認してから、そのうちの片方に狙いを付ける。この間にも私の星が着弾してるから、両方ともほんの少しだけ怯んでる。威力はあまり無さそうな感じだけど、遠距離攻撃として牽制には使えるかもしれない。だからもう一回発動させながら、今度はギャロップの方に攻撃を仕掛けてみる。急降下して地面すれすれを滑空し……
「グルァッ? 」
六本の足に狙いを定める。途中レントラーに攻撃されるような気もしたけど、さっき発動させたスピードスターが上手く効いてくれてるのかもしれない。邪魔される事なく接近できて、四本の前脚で蹴りかかってきたギャロップの真下に滑り込む。横回転しながら前足を思いっきり広げ――
「ッガァァァアァァ……ッ! 」
高さを合わせながら回転斬りを食らわせる。丁度当たるように調節したから、私の気刀に斬られて五本の脚が宙に舞う。赤い水しぶきをあげ、切断された五本脚がドスンと音を上げ床に落下する。私に脚を奪われたって事もあって、断末魔の叫びをあげるギャロップは着地できず派手に転んでしまっている。コンクリート製の床には、生物兵器の血液で真っ赤に染まってしまっていた。
「グルルゥッ……」
「なっ……! 」
「これで……」
この連撃でギャロップは立ち上がれなくなったけど、これでは完全に機能を停止させたとは言えない。通り過ぎた私はすぐに折り返し、一本足になったギャロップにトドメを刺そうと急接近する。転がって動けないギャロップに向けて五つの流星を放ちながら、血濡れた気刀を体の前で交差させる。体を起こそうとしているギャロップ、その首に触れるように勢いよく両前足を外に開く。そうする事で、ギャロップの首だけを保管庫のチュウに舞い上がらせる。……相手がAC型だからここまで戦えてるけど、いくら脚とか尻尾を切り落としても、生物兵器は修復にかかる費用を抑えるために治癒能力が桁外れに強化されてる。型によって差があるけど、このままだと何週間後には、このギャロップの脚も元通り生えそろってると思う。……だけど唯一の弱点が、頭を切り落とされる事。もう一つ全部の心臓を潰す、って言う方法があるけど、こっちの方が手っ取り早いし確実。じゃないとまた何日かしたら、修復されて襲ってくる。……もちろん“探査型”の私も、それは変わらないけど……。
「まずは一た――」
「ゥガァッ! 」
「え……くぅっ! 」
ひとまず一体だけは倒せたけど、そう上手くはいかせてくれない。ギャロップの首を撥ねた先で待ち伏せされていて、一瞬気が抜けた私に噛みかかってくる。咄嗟に左に急旋回してかわそうとしたけど、ほんの少し反応が遅れて、右耳の先の方を食いちぎられてしまう。そのせいで軌道がかなり逸れ、06がいる鉄格子に叩きつけられてしまった。
「痛っ……」
「01! だっ、大丈夫? 」
「平気。この位かすり傷だから……」
腰を強く打って痛くなってきたけど、ここで倒れる訳にはいかない。それに相手が量産型の“AC”型に対して、私は“AA”型がベースになってる探査型。確かに向こうは二機……、で今一機まで減らせたけど、戦うのは苦手とはいえ性能差で劣る相手に負ける訳にはいかない。こんな事を考えてると、私も根っからの生物兵器なんだな、って思えてくるけど……。
で私が耳の一部を食いちぎられて血がダラダラと流れてるから、06は心配そうに声をかけてくれる。06も同じSE型だから知ってるはずだけど、もしかするとこの感じだと、自分にも同じ能力があるって事を知らないのかもしれない。
「だっ、だけど……」
「二、三日すれば治る」
残った耳を伝って顔に血が流れてきたけど、私はすぐに気持ちを切り替える。AC型だから仕方ないけど、ただ戦うだけしか機能が無いレントラーは、まっすぐ私の方に向かってくる。このレントラーが“狂化”されてなかったらもう少し違ったかもしれないけど、されてるから噛みつく事しか出来ないはず。やっぱり今もそうで、鉄格子にもたれかかってる私めがけてまっすぐ走ってきてる。それも口を大きく開け涎を溢れさせてるから、多分間違いない。
だからって事で私は、左の気刀だけど解除する。その前足にエネルギーを溜め、すぐに下から上に思いっきり振り上げる。玉を投げるような感じでスピードスターを放ち、五発全てを相手にぶつける。
「ァッ? 」
レントラーの顔面を狙って解き放ったから、その痛みで目を逸らしてくれる。それでも尚まっすぐ走ってくるから、ここで私は右の白い刀を両前足で構える。刀を右下の方に下げ、右の後ろ足も少し後ろに下げる。前足に力を溜め――
「っ! 」
刀の届く範囲に来たところで、一気に振り上げる。それと同時に地面を思いっきり蹴り、翼でも大きく羽ばたいて跳び上がる。そうする事でレントラーを縦に真っ二つに切り裂き、息の根を止める。丁度真上で羽ばたいてるから、中身が見えて凄く気持ち悪くなってきたけど……。
「……」
「クソッ……! 」
連れていた生物兵器を破壊され、研究員は悔しそうに舌打ちする。その相手はもちろん、返り血を浴びて赤く染まってる有翼のイーブイ。数で勝ってたつもりだと思うけど、多分研究員は全滅させられるなんて思ってなかったんだと思う。
「……」
これで一応AC型の方は倒せたけど、私の戦いはこれで終わりじゃ無い。二メートルぐらいの高さを維持してる私は、滑空して研究員との距離を一気に詰める。
「くっ、来るなぁっ! 」
当然生物兵器、それも二体を倒したばかりの私が迫ってるから、ナゲツケザルは自分も殺されるんじゃないか、って思ってると思う。だけどいくら潜入先の研究機関とはいえ、見境なく殺めるほど私も落ちぶれてない。
「大丈夫。痛いのは一瞬だから」
慌てふためきなりふり構わず逃げ出す研究員の先に回り込み――
「っ! 」
首筋を軽ーく左の前足で叩く。ほぼ撫でるような感じで叩いたつもりだけど、それだけで研究員は気絶してしまう。まさかここまであっさり倒れるなんて思わなかったけど、これが普段から戦闘に身を置いてない人との違いなのかもしれない。……けどあっさり気絶してくれて、ある意味では助かってる。確か今回の任務は、元々“ルヴァン”の研究員の洗脳を解くこと……。あのエネコロロの話だから信憑性は低かったけど、こうして気絶させると解けるらしい。そんなあっさり解けるのもどうかと思うけど……。
「01……」
「大丈夫、気絶してるだけだから」
でずっと間近で観戦していた06が、若干青ざめた表情で私に話しかけてくる。言葉を失ってるような感じだけど、私はひとまず彼の方に向き直ってから、こう呟く。私自身と生物兵器の血で赤く染まってるから、信憑性に欠けると思うけど……。
続く