第十六話 桃色のの気刀
「……ひとまず、全員侵入は出来たか。次は私の番だが、こうも多いと……。だが何かがおかしい。“セレノム王国”は学問に突出した国の筈だが、このような機械が発達しているとは聞いた事が無い。これでは“ドータ帝国”そのものだが……、セレノムは中立国の筈だ。洗脳の事といい生物兵器の事といい……、“ルヴァン”で何が起きている? “カリア王国”の事もあるが、まさか……」
―
――
「……っ! 」
薄暗くて窮屈な小部屋に入ってしばらくすると、急に部屋の中が真っ暗になった。私は驚いて思わず声をあげそうになったけど、多分ファルツェアさんが電源装置を破壊したんだと思う。これが作戦開始の合図だから、私は慌てて気を持ち直し、気持ちを切り替える。辺りが真っ暗になって何も見えないから、私……、それから他の団員とルミエールも、持っている“記録水晶”とか“レコードクリスタル”で明るく照らし始める。どれも白くて強い光だから、密室って事もあって結構明るくなってる。
「じゃあ、いくわよ! 」
それでファルツェアさんからの合図が来たって事で、B班を仕切ってるリツァさんが威勢良く声をあげる。すると私はもちろんこの場にいる全員が、外に聞こえない程度のかけ声を上げる。確かこの前室があるのは居住スペースの真下の筈だから、大声を出すと上の研究員達を起こしてしまうかもしれない。それに起きてる下の研究員にも、気づかれる可能性が高い。
それでリツァさんは扉の前に移動し、三メートルぐらい距離を取る。
「……今から扉を破壊する、から、離れてて」
かと思うとリツァさんは、一度私達の方に振り返り、緑色の両目で私達に呼びかけてくる。声も変わってるから、リツァさんは02と交代したんだと思う。02はすぐに扉に向き直り、三本生えてる尻尾に“気”を集める。すると二股に分かれた部分に刃物状の何かができあがり、凄いスピードで回転し始める。02は生前は尻尾にカッターナイフみたいな刃を作れていたけど、リツァさんの体になって尻尾が三本になったからなのか、刃も三つ叉に分かれてる。数も三本の尻尾全部に出来てるから、もしかすると02はAB型のリツァさんの影響を強く受けてるのかもしれない。
「うわっ……! 」
と02は勢いを付けてその場で跳び上がり、腰をひねって前に尻尾を振りかざす。そういう風にして“気刀”……じゃなくて02の場合“気刃”を三つ同時に飛ばす。角度とか方向を調節しているらしく、02の三つの黒緑色の刃は地面と平行、斜めに傾いたもの、その二つと先端が重なるような感じで、扉の方に飛んでいく。すると金属が擦れたような音が部屋中に響き、扉に三角形の大きな穴がぽっかりと空いた。
「リツァが話したと思う、けど、行って! 今の、うちに! 」
鉄製の扉を破壊した02は、着地するとすぐにその穴をくぐる。すぐに私達の方に振り返り、こう強めに呼びかける。02は言語試験だけ不合格だったから仕方ないけど、リツァさんの体になっても、やっぱり変なところで言葉を切ってる。
それで作戦が本格的に始まったって事で、私達B班は次々に密室から跳び出していく。私とルミエールは最後に部屋から出たけど
「01、ルミエールも、作戦の事は聞いて、るよね? 」
穴をくぐったところで、リツァさんの姿の02に呼び止められた。
「うん。俺たちはフロルとリツァさんの操作端末を探せば良いんだよね? 」
「そう、だよ」
今はニンフィアの姿だから目線の高さが同じだけど、ルミエールはピカチュウで背が低いから、02は彼の方に視線を落としてる。それに02達も私達の特別任務を知ってくれてたみたいだから、多分その事を確認したかったんだと思う。だからルミエールはすぐに返事し、02にも作戦内容を伝えてくれてる。
「だけど02? 操作端末の場所、分からないんだけど……」
だけど生憎私は、その端末の場所を知らない。実験させられる時はいつも眠らされて運ばれてたから、“レコードクリスタル”で地図を見るまで、私は“ルヴァン”の施設がどんな構造になってるのか知らなかった。流石に私達が閉じ込められてた“大保管庫十六”、それから“研究室三の二”、私達が作られた“生産課”ぐらいは分かるけど……。
「それなら、僕達が閉じ込められ、ていた“大保管庫十六”の奥、の小部屋にあるよ。そこに操作端末がまとめて置いてある、から、フロルの端末はそこにある、と思うよ。……うん。今リツァから教えてもらった、けど、フロルの機体番号、は“AC612”で、リツァは“AB588”、みたいだよ。……だけどリツァは“研究二課”で改造、されてたみたいだ、から、そこに行かないと、無いと思う」
「二課だね? ありがとう」
「僕達は先にする事、が有るから遅れ、るけど、終わったら合流、するよ。それまでは01達だけで戦う、事になるけど、すぐ、行くから」
「分かった」
0私の“ルヴァン”の情報は全部02から教えてもらったことだから、当然彼はその事を覚えてくれていた。だからすぐに端末の場所を教えてくれ、それに合わせてリツァさんの事も知らせてくれた。多分リツァさんは脱出する時に知ったんだと思うけど、これだけ分かってたら、多分探すのは大分楽になると思う。02達がこれからすぐ何をするのか分からないけど、この感じだと多分、すぐに終わるのかもしれない。
「じゃあ01、ルミエール、また後で」
「うん。トゥワイスも」
「02、ありがとう」
そして場所を教えてもらったって事で、私達はお互いに顔を合わせ、お互いの健闘をたたえ合う。よく考えたら私は“騎士団”として何回も任務で戦ってるけど、02は実験だけで、実戦は初めて……。リツァさんも情報屋で戦う事なんて無かったはずだから、“戦闘乙型”とはいえ凄く心配。……けど02とリツァさんは二人で一人だから、そこは二人で助け合って戦う事になると思う。
それで私、ルミエールは、小さく頷き合ってから02と分かれる。02は居住区に上る階段の方に走っていったけど、私達はその逆。……今非常電源が作動して薄明るくなったけど、私達が行くのは、地下の研究区画。今頃激しい戦闘が始まってると思うから、私達はすぐに地下に降りる階段の方へと駆け出した。だけど――
「っ! マリー! 」
非常電源が作動したからなのか、地下に降りる扉のセキュリティが復活してしまってる。ルミエールが壁を押してもびくともしないから、彼は思わず声をあげてしまってる。このままだと端末を奪うどころか、研究区画にさえも降りる事が出来ない。
「……そうだ。ルミエール、下がって」
「えっ? うっ、うん」
私は思う事があって、慌て始めてるルミエールを呼び止める。すると彼は短く声をあげてたけど、すぐに扉から距離を取ってる私のところに戻ってきてくれる。それでルミエールが後ろに下がったのを確認してから、私はニンフィアが持ってる首元のリボンの先に、気を集中させる。右と左、両方に集め、それを一気に解放する。するとそこに黒紫色の刃……、“気刀”が出現する。いつもならここで止めてるけど、私は更にそこに“色”を混ぜていく。訓練の時にリツァさん、それからフィナルさんとかルミエールに教えてもらったけど、この“色”は“リフェリア王国”では“属性”、って言うらしい。ニンフィアはピンク色、フェアリーっていう属性らしく、私はそのイメージで体を満たしていく。そのイメージを“気刀”に流し込むと、刀身にピンク色のオーラが纏わり付く。その状態で隠し扉のところに走って行き――
「ルミエール、見てて」
体の前で交差させるような感じで、一気に振り抜く。すると刀身が厚い鉄板の扉を貫き、バツ印の切れ込みが入る。更にその状態で真上に振り上げ、更に切れ込みを広げていく。そしてそこで気を送り込むのをやめて、“気刀”を消滅させる。だけどまだ破れてはないから、私は何歩か下がり、一気に駆け出す。頭から思いっきり突っ込み――
「くぅっ! 」
無理矢理鋼鉄の扉を突破する。鈍い衝撃が来て頭がクラッとしたけど、SE型として強化されてるからなのか、切れ目が入った部分をへし折る事が出来た。ぐにゃりと外側に開くような感じで、大きな穴を開ける事に成功した。
「すっ、凄い……」
「ルミエール、行こう」
「うっ、うん! ]
着地する時に階段から転げ落ちそうになったけど、私は何とか、四段ぐらい降りたところで踏みとどまる。すると上の方からルミエールの感動したような声が聞こえてきたから、私はすぐに彼の事を呼ぶ。結構響いてるから下にも聞こえないか心配だけど、ルミエールは私が開けた大穴をくぐって、一段一段転ばないように気をつけながら降りてきてくれた。
「……マリー? 」
「ん? 」
「マリーって生まれてからずっと、檻の中に閉じ込められてたんだよね? 」
階段を降りきったところで、ルミエールがふとこんな事を訊いてくる。通路に出てから私達は走り始めたけど、ルミエールはどうしてもその事が聞きたかったらしい。私達が監禁されてた“大保管庫十六”まではまだ少しあるから、私はルミエールに知ってもらうためにも話してみる事にする。
「うん。作られてからどのくらいたってたのか分からないけど、実験が無い時はいつも檻の中だった。……だけど檻の中でも、03……、02以外の兄弟機三人に痛めつけられてた……」
思い出しただけでも凄く嫌になるけど、ルミエールになら、この事を話してもいいかもしれない。だから勇気を出して、彼に辛かった過去を打ち明けてみる。どんな反応をするか全然想像出来ないけど、ルミエールの事だから、結構ショックを受けるかもしれない。
「痛めつけられたって……、酷い。そんなの、酷すぎるよ! 」
だけど私の予想に反して、ルミエールは声をあげて怒ってくれる。私にとって痛めつけられる事は普通だったけど、こうして味方になってくれるのは凄く嬉しい。研究員は研究員で私達生物兵器の事なんてお構いなしだし、03は特に私への嫉妬が酷かった。04と05と束になって、私が血だらけになるまで毎日毎日痛めつけてきたからね……。
「……ありがとう」
それで話してる間にも、私達は例の扉の前まで来る事が出来た。確か操作端末が仕舞ってある部屋は、地図によると一つの通路につき三部屋ある“大保管庫”と中で繋がってたと思う。だから私達は、階段から一番手前、私が閉じ込められてた“大保管庫十六”から侵入しよう、って事になってる。
「ここが……、そうなんだね? 」
「うん」
それで右のリボンで扉のノブを掴み捻りながら、ルミエールの問いかけに小さく頷く。さっき私の過去を話したばかりだから、ルミエールの表情はどこか暗く沈んでしまってる。私もこの保管庫に入るのは出来れば避けたかったけど、任務の事を考えると、ココを通るのが一番効率が良い。だから自分の消し去りたい思い出を押し殺しながら、私達は実家って言えそうな檻がある監獄へと足を踏み入れた。
続く