第十四話 作戦会議
「……おっ、ルミエール! マリーも、次の任務に参加するんだよな? 」
「うん。俺はまだ何も聞かされてないんだけど……」
「ん? 意外だな」
「私達、昨日まで休みもらってたから。……ドロップ? フロルの様子はどうなの? 」
「あぁフロルか……。まだ起きないな」
「ええっと確かリツァさんの能力で眠らされてる、って聞いてるけど……」
「02の機能だから、リツァさん達が起こさないと起きない。……多分今起こしたら、“狂化”されてるから暴れると思うけど……」
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――
「それじゃあ時間になったから、そろそろ始めるよ−」
あれから何日か経って、とうとう“ルヴァン”に攻める作戦の当日になった。それまでの間私達は休暇、って言う事になってたけど、私もルミエールも、中々落ち着けなくていつも通り過ごしてた。この生活は凄く久しぶりだったけど、それで私はやっと、“ラクシア”に戻ってこられた、って実感できた気がする。いつも通りと言っても、街に出て散歩したり、演舞場で稽古をつけてもらったり……。そんな事をして過ごしてた。だけど“ルヴァン”に戻される前とは変わった事もあって、“騎士団”のみんながちゃんと知ってくれているから、機能を使った特訓も出来るようになった。流石に“気刀”だけは、02とリツァさん相手にしか出来ないけど……。
それで作戦当日の朝になった今、私達“騎士団”員は一階のロビーに集められる。私が見た限りでは、班も階級もバラバラ。そこまで詳しい訳じゃ無いけど、“記録水晶”を見た感じでは、私達よりも上のシルバーとかゴールドばかりだと思う。団を挙げての任務の時はいつもこんな感じみたいだけど、ルミエールが言うには、滅多に無い事らしい。
「シルバー以上の団員には事前に知らせてあると思うけど、もう一度今回の要件をおさらいするよ」
と集められた団員の前に立っている何人かのうち、一番小さくて浮いている彼、ミュウのデュランさんが大声で呼びかける。彼とは何回か話したことがあるけど、ああ見えて“騎士団”の中でもかなりの重役らしい。フィナルさんが入隊した時には既にいた、って聞いてるけど、私が今まで会ってきた中で、彼が一番謎が多い人物かもしれない。
「前もって言っておくけど、今回の作戦に命の保証は出来ない。無理強いはしないし、降りても罰則は科さないから、降りても構わないよ」
いつもは明るくて無邪気なデュランさんだけど、今だけはどこか真剣で、重役らしく凄いプレッシャーがかかってきてるような気がする。表情に笑顔も一切無くて、私達団員に、真顔で訴えかけてくる。確かに彼の言うとおり今回の任務は、下手すると命を落とす事になる。もしかしなくても私みたいな“生物兵器”、それから“ルヴァン”の職員との戦闘は避けられない。兵器っていうだけあって、丙型でも簡単に殺められるぐらいの殺傷能力があるから……。
一応彼は念のため呼びかけていたけど、決心してるのか、この前の襲撃の事を思ってるのか……、誰一人この場から立ち去ろうとしない。この戦いは私が起こしたようなものだから、余計に申し訳ないような……、微妙な気持ちになってしまう。
「……本題に移るけど、今回“セレノム王国”の政府には見学の名目で申請してあるから、ひとまずは安心して? 」
「その事に関してだが、情報屋の話によると、“セレノム”政府も“ルヴァン”の事を調査する予定だったそうだ。そのため今回の作戦は、名目上当方との共同任務となる」
デュランさんは咳払いをすると、淡々と今回の事を話し始める。私は今この場で初めて聞いたけど、セレノムの認可が下りてるなら、最悪のケース、戦争にはならないと思う。それで別の班の団長も言ったけど、政府も危険視する気持ちは分かるような気がする。私は探査型で“狂化”の機能が無いから、リツァさんのAB型よりも劣った性能だけど……。
「そこで今回の作戦の流れだけど、大まかには、二班に分かれてセレノムの“キルトノ”に向かう。そこで情報屋の三人、それから政府の関係者と合流して、夜にアタックする」
「機関の見取り図だが、先日私が渡した“レコードクリスタル”を見てくれたかね? 」
彼に続いてファルツェアさんも話し始めたけど、彼は自作らしい水晶を手に持ちながら説明する。あれは多分リツァさんが持ってた透明な水晶と同じだと思うけど、それ自体も私はよく分かってない。昨日の夜会った時、ルミエールと二人分渡されたけど……。それでファルツェアさんが言ったって事で、周りの団員達の何人かが例のクリスタルを取り出し始める。私はそこで作られたからよく知ってるけど、あまり複雑な構造じゃないから、地図はいらないような気がする。
「中の情報で示した通り、三つの通用口から分かれて潜入する。A隊とC隊のリーダーには鍵を渡してあるが、B隊は尻尾が三本あるエーフィと合流。合図が出次第、潜入してくれたまえ」
ファルツェアさんが言ってるエーフィは、02とリツァさんで間違いないと思う。確か私とルミエールもB隊だったと思うけど、“ルヴァン”には社員証が無いとは入れない。そうなると私とリツァさんを助け出してくれた時の事が謎だけど、もしかすると、リツァさんが予備をファルツェアさんに前もって渡していたのかもしれない。
「あっ、そうそう。現地に向かう編成について補足だけど、空を飛べる種族、泳げる種族がいるチームが先発隊、そうじゃないチームが後発だから、よろしくね」
「で、潜入し次第、リストに載せた人物を捜索、討伐する。先の襲撃にもいた“生物兵器”との戦闘は避け、対象だけを討つように。いいな? 」
その“生物兵器”の私とリツァさんは別だけど、例え丙型でも普通の隊員が戦って勝てるような相手じゃない。私は実験させられてよく知ってるけど、ベテランと団長クラスでも無い限り、丙型とリツァさんの乙型は倒せないと思う。仮に倒せたとしても、丙型でもそう簡単にはいかないはず。改造されて異常な攻撃力になってるのはもちろんだけど、傷の治癒、耐久もグレードが上がるにつれて異常になる。私の治癒力は試験で甲型並みって分かってるけど、乙型でも、例え尻尾とかを切り落とされても二、三日すれば元に戻る。切られても切られてもまた生えてくるから、自分でも凄く気持ち悪いけど……。
「以上だが、質問のある者はいないかね? うむ、では各自、準備にとりかかってくれたまえ。……あとルミエールにマリー、二人は別で伝える事がある。なので私の元に来てくれないかね」
「えっ、俺達だけ? 」
「何だろう」
これで一通り済んだみたいで、いつの間にか仕切っていたファルツェアさんが、ロビーにいる隊員達に呼びかける。一通り見通してから、全員に対してこう呼びかける。結局何人いるのか分からないけど、これを合図に一斉に散り散りになる。集合場所とかは何も言われてないけど、もしかすると事前に知らされてるのかもしれない。
それで私達だけファルツェアさんに呼ばれたから、他の団員達の間を縫って前の方に行く。私もルミエールも小さい種族だから、他の人たちの足の間とかをくぐり抜けて……。
「俺にもさっぱり分からないけど、リツァさん達の事かな? 」
「どうだろう? 」
「うむ、来たな? 」
途中でルミエールとはぐれそうになったけど、何とかひとの林を抜ける事が出来た。そのときには疎らになってたっていうのもあるけど、私達は何とか、右目に亀裂が入ってるフライゴンの元にたどり着く。彼は腕を組んで待ってくれていたけど、体格が違いすぎるから、見下ろすような感じになってるけど……。
「ええっとファルツェアさん? 俺達に話があるって言ってたけど……」
それで見上げる感じで、ルミエールが彼に問いかける。私も何で呼ばれたのか気になってはいるけど、少なくともこれからの任務のことだとは思ってる。そもそも私達の階級はブロンズだけど、“ルヴァン”で作られた生物兵器の私がいるから参加する事になってるはず。それに私達だけ作戦の詳細を知らされてないから、それもあるのかもしれない。
「あぁそうだ。今回の作戦だが、ルミエールとマリーには先発隊で向かってもらう」
「先発……、あっ、そっか」
「ていう事は、私がルミエールを乗せて飛べばいいんですよね」
すぐに教えてくれたけど、これは何となく予想できた気がする。いつもは首元のモフモフにしまってるけど、“進化”して翼を生やしたら、ルミエールぐらいなら乗せて飛べると思う。そもそもファルツェアさんが“騎士団”の中で私の事を一番知ってくれているから、真っ先に私達を先発隊に入れたんだと思う。だからルミエールもすぐに気づいたらしく、パッと彼の方を見上げて声をあげていた。
「流石物わかりが早くて助かる。そこでマリーには、ブラッキーでなくニンフィアで任務に向かってもらいたい」
「……何でですか? 」
私はいつも通りブラッキーの姿で飛ぼうと思ってたけど、まさかファルツェアさんに指定されるなんて思わなかった。一応他の種族にも“進化”したことがあるけど、やっぱり一番なってるブラッキーが一番しっくりきてる。それにブラッキーは私らしい種族だって思ってるし、何より私の紫にも一番近い。
「演習を見た限りでは、確かにブラッキーが最もポテンシャルが高いようだ。……だがマリー? ブラッキーでは“ルヴァン”に顔バレしている。そうは思わんかね? 」
「顔バレ……」
「そうだ。マリーの実力は計り知れないものがあるが、同時に保護対象でもある。マリーに頼る事もあり矛盾しているが……。で、本題に移るが、マリーとルミエール。フィナルからの伝言だが、二人には私と特別任務に向かってもらう」
「おっ、俺達が? 」
顔バレしてるって言うのは、確かに一理あると思う。あの日初めて研究員の前で“進化”したけど、あの日も慣れたブラッキーに姿を変えてた。それに翼も生やして戦わされてたから、完全にあの姿はバレてる。目と翼の色でSE01って分かりそうな気がしなくも無いけど、着いてから翼を仕舞えば、なんとかなるかもしれない。
こんな事を自分なりに考えてたけど、私はファルツェアさんが言った一言に、思わず耳を疑ってしまう。多分フィナルさんはあの日一緒に潜入してたファルツェアさんに頼んだんだと思うけど、それでもやっぱり、ブロンズの私達にとってとんでもない事だとは思う。探査型とはいえ私も“生物兵器”だけど、それでも入隊して数ヶ月の新人、って言う事に変わりは無い。そもそもルミエールが団長のフィナルさんの子供で優遇されてるような気がするけど……。
「ルミエールとマリー、二人にしか頼めない事だからな。任務の内容だが、フロルとリツァ、二人の“制御端末”を回収することだ」
「制御端末? 」
「うん。02……、トゥワイスが昔教えてくれたんだけど、私達“生物兵器”には、型によるけど機械が埋め込まれてる。リツァさんとフロルは多分頭の中に埋め込まれてると思うけど、それが受信機になってて、無理矢理言う事を聞かせる。“狂化”のそのうちの一つなんだけど、端末を使えば、“生物兵器”に好きな事をさせられる。例えば重い荷物を無理矢理持たせたり、誰かを殺させたりもね……」
ルミエールは普通のピカチュウだから仕方ないけど、いまいち分かってなさそうだから、すぐに教えてあげる。頭の受信機以外は取り除いた、って聞いてるけど、“生物兵器”にはいくつかの機械が埋め込まれてる。大体が首元に埋められてるけど、確かその殆どが“狂化”させるものだったと思う。他にも稼働を強制的に止める機能もあるけど、確かそれは頭の中の受信機に内蔵されてたような気がする。そもそも“制御端末”は好き勝手させられる機械だから、フィナルさんとファルツェアさん、それからビアンカは、フロル達を完全に治すためにも、“制御端末”が必要なのかもしれない。
「だからファルツェアさん、私は請けます」
だから私は、フロル達のためにも、ファルツェアさんの頼みに大きく頷いた。
続く