第十五話 いつもと違う戦闘実験
「……こちらは“フィルシア”家の商店でよろしいですね? 」
「そうですけど、お客様方は一体……」
「これは失礼しました。私達、こういう者なのですが……」
「ええっと、きし……騎士団? 何であの騎士団が俺の店に? 」
「捜索願が出されておりました貴方の妹様、“リツァ・フィルシア”を無事保護しました」
「リツァ……、良かった」
「ですが……」
「ん? 」
「リツァ・フィルシア様は――」
―
――
「……じゃあ01、久しぶりに組み合って、みる? 」
「……え? 」
01が所属している騎士団に、僕とリツァも全面的に協力することに、なった。協力って言っても“生物兵器”の情報を体を張って提供するだけ、だけど、僕はそれでも構わない、って思ってる。実験なんて僕が生きてる時は毎日だった、けど、リツァの一部になったこれからは、違う。……僕はここの研究室? にリツァがみんなと一緒に入って驚いた、けど、ここにあのエネコロロがいる。“リフェリア”の街にいることは知ってた、けど、まさかこのフライゴンの研究室にいることまでは考えて、なかった。一瞬無理矢理また実験させられるって考えた、けど、よく考えたらここは“ルヴァン”じゃ、ない。だからエネコロロがいても、強制的に戦わせられることは、無いと思う。
だからって事でリツァに交代してもらった僕は、前にいる01に提案してみる。急に提案したから驚かせちゃった、けど、僕は本当にやるつもりで、いる。今の僕はリツァの体、だけど、そもそも僕達は“生物兵器”。リツァもAB型の生物兵器にされてる、けど、リツァの体ではまだ戦ったことがない。脱出する時はリツァが戦ってたから、ね。
「だけど02? エネコロロがいるんだけど……」
「やっぱり私の事が気がかりみたいね。……だけど01、ここは“ルヴァン”じゃなくて“ラクシア”。捕虜の私にそんな権限はないし、二人の動きを強制する端末もない」
「仮にあったとしても、私がさせないがね」
もちろん僕もそうだ、けど、エネコロロがいるのはやっぱり気にくわない。ファルツェアさんがそうはさせないって言ってくれてる、けど、それでもまだエネコロロを完全に信用した訳じゃ、ない。エネコロロ自身そんな気はなさそうだ、けど、今までのことがあるから、ね……。
「僕もだよ。一応僕の“縫合魔法”で傷口は塞がってるけど、リツァとトゥワイスは病み上がりだからね。けど、僕はいいと思うよ、戦っても」
ファルツェアさんは少しピリピリしてる、けど、ヒバニーの彼はそうでもなさそう。確かビアンカは僕達の主治医って言ってた、けど、彼がこう言ってくれてるなら大丈夫なような気がする。
「ビアンカもこう言ってくれてるから、どう、かな? 」
『そういえばトゥワイスが戦ってるところ、一回も見たこと無いわね』
主治医の彼のお墨付き? ももらえたから、僕はもう一度01を誘って、みる。裏にいるリツァも興味ありそうな感じだ、から、一人でも身のこなしとか生前使えた機能を確かめてみるつもり。
「うーん……。02がそう言うなら」
あまり乗り気じゃないみたいだ、けど、01は小さく頷いてくれる。だから僕は三本の尻尾を高く掲げ――
「じゃあ01、“気刀”、出して? 」
01に機能を使うよう頼んで、みる。僕はこの機能を使うのはあまり得意じゃない、けど、今のところ僕達“SE型”の攻撃手段はこれ、だけ。そもそも探査型は戦う事を目的に作られてない、から、“騎士団”として戦ってる01の方が凄すぎるんだ、けど……。
「……うん」
二つ返事、とまではいかなかった、けど、01はとりあえず頷いてくれる。すると彼女は右の前足を挙げそこに精神を集中する。するとそこに彼女を象徴する黒紫色の気塊が、出来、それが細長く変形、する。下に向けて作り出していた、から、床と触れて金属音が響いていた。
「じゃあ、いくよ」
「ちょっと待って。地上だと振れないから、飛んでいい? 」
そういえば今思い出した、けど、“気刀”の機能を使う時、01はいつも空を飛んでた。僕達SE型は全員“気刀”を出せる、けど、中でも01は特に刀身が長い。逆に僕は下手で短すぎる、けど、そういうわけでいつも01は飛んで使ってた。
「うん」
その事を言われて思い出した、から、僕はすぐに頷く。すると01は目を閉じ、いつも通りなら首筋に力を込める。すると01のもふもふの部分から、一気に黒紫色の翼が広がる。空を飛べたのは01と僕、それから03だけだ、けど、01は作られた時に遺伝子……、っていうのかな? それを操作されてピジョットみたいな羽の翼が、生えてる。……だけどいつもは凄く邪魔になるから、小さくして首元のもふもふに、しまってる。僕達SE型のベースはAA型で、余分にある部位は体の中にしまえる、からね。
「凄い……。やっぱりマリーの翼、見間違いじゃなかったんだ」
この感じだと初めてじゃ無いのかもしれない、けど、ルミエールは圧倒されたように声をあげる。普通なら翼が生えて怖がりそうな気がする、けど、ルミエール、それからフィナルさんとビアンカ達も、そんな様子はなさそう。
「改めて見ると、中々美しいものだな」
「うっ美しいって……」
だけどファルツェアさんがぽつりと言った、一言で、01は急に顔が真っ赤になる。多分美しい、って褒めてもらって照れちゃったんだと思う、けど、僕はそれより、01がこんな反応をしたことに驚いてしまった。僕が生きてる時01はずっと暗かった、から、照れるどころか笑った顔さえも見たことが、なかった。……だからもしかすると、01は騎士団に入って……、ルミエールと出逢って、色々と変わったのかも、しれない。
「01、そろそろ、いくよ! 」
「あっうん」
01は凄く取り乱してるけど、このままだときりがなさそうだ、から、もう一度彼女に呼びかけてみる。三メートルぐらいの高さで羽ばたいてる01は、ハッと声をあげて気を持ち直す。それでも乱れずに“気刀”を維持……、それも左の前足にも作り出した、から、本当に凄いと思う。
そういう訳で僕も、尻尾を高く掲げ直して精神を、高める。リツァの体だから出来るか分からない、けど、僕はいつも尻尾に作り出してた。イーブイからエーフィに進化して細長くなった、から、一メートルぐらいの高さで作り出せると、思う。
『……トゥワイス? もしかしてこの感じが……』
「そう、だよ! 」
するとイーブイの時と同じ感じになった、から、僕はその通りに溜めた気を実体化させる。今横目で見上げて確認した、けど、二叉に分かれた部分の真ん中に黒緑色の気塊が現れる。それがいつも通りに、五センチぐらいの刃物状に変形する。刃物って言うよりは、僕の“気刀”は折ったカッターナイフの刃、って言った方が良いかも、しれない。
『トゥワイスって、こんな事もできたのね? 』
「うん! でもこれもリツァのお陰、なのかな? 」
……だけど生前の僕とは違うことが、あって、出来ている“気刀”は一つじゃなくて、三つ。リツァは改造されて尻尾が三本になってる、から、その関係で三本ともに作れたんだと、思う。
『私の? 』
「そう、だよ。僕は生前、一つしか作れなかった、からね」
「……あれ? もしかしてトゥワイス、リツァと話してる? 」
「リツァさんの……? 」
確かに僕も遺伝子を操作されてた、けど、01みたいに僕に余分に多くなってる部位は無かった。強いて言うなら……、心臓とかの一部の臓器が、一つずつ多かったぐらい、かな? だけど今はリツァの体だから、僕の尻尾も三本ってことに、なる。だからリツァには実感無いと思う、けど、やっとまともに戦えるようになった、って思えてる。確かに戦闘実験で03達にはいつも勝ってた、けど、いつも眠らせてた、からね。
「僕もリツァもそう、だけど、元々一本、だったからね。……じゃあ01、いくよ! 」
「うっうん! 」
とりあえず僕は、ずっと維持している尻尾の“気刀”を高く、振りかざす。01に呼びかけて注意を、促し、腰をひねって尻尾を、しならせる。最高速度になったところで“気刀”を突き出して、尻尾から解き放つ。そうして三つの“気刀”をを撃ち出し、羽ばたいてる01を、狙う。
「三発……」
それに01はすぐに反応し、右、左、右の順に黒紫の“気刀”を、振り下ろす。するとキーンと甲高い金属音が、響き、僕の黒緑色の“気刀”が弾き落とされる。地面に落ちた僕のソレは、最初から無かったかのように消滅した。
『凄い……凄いわ! トゥワイス、こんな事も出来たのね! 』
「うん。リツァは尻尾を硬くできるみたい、だけど、僕はこれしか出来ない、からね」
僕の“気刀”は01に完封された、けど、今はそれでいい。僕は一人の時に他の実験体相手にさせられて知ってる、けど、僕達の“気刀”は異常なぐらい鋭い。飛ばして命中した相手はAC型の生物兵器だった、けど、それでも相手の左腕を切り落としてしまった。僕の“気刀”はSE型の中では一番短い、けど、その分切れ味は一番鋭い、からね……。
『ってことは、私にも出来るかしら? 』
「分からない、けど、ちょっと待って。もう一つ試したいことが、あるから」
『試したいこと? 』
「うん」
丁度この間に01は下に降りてきた、けど、リツァはやっぱり“気刃”の事が気になったらしい。僕の“催眠”がリツァにも使えた、からこれも行けると思う、けど、入れ替わる事になるから、二度手間になる。だからって事で僕は、その前に声に出して頼んで、みる。
「試したいこととは、他に何かあるのかね? 」
「ええ。02、“浮遊”を試すのね? 」
多分消去法だと思う、けど、僕達の研究をしてたエネコロロは、僕がしようと思ってたことを言い当てる。流石と言えば流石だ、けど、その相手がエネコロロだ、からあまりいい気はしない。だからエネコロロの言葉は聞かなかったことに、して――。
「01なら分かると思う、けど、“浮遊”をね。リツァの体だ、から出来るか分からない、けど……」
エネコロロ以外に、こう答える。同時に僕はいつも通り、“浮遊”するために精神を高め、始める。途中までは他の機能と同じだ、けど、意識するのは、自分の前足と後足。いつも通りなら足に緑色の光を、纏って、軽く跳んだらふわっ、って浮ける。
「……あれ? 」
だけどいつまで経っても、僕の……じゃなくてリツァの足に光が、灯らない。
『何も変わらないけど……、失敗、かしら? 』
「なの、かな……? 」
裏にいるリツァも何も感じてないみたい、だから、彼女の言うとおり、失敗だと思う。心当たりはあるにはあるけど、これは多分、僕の足じゃないから、だと思う。だかといって、リツァを責めたりは、しないけど。
「……浮けないね」
『……トゥワイス? 原因は分からないけど……、そろそろ代ってもいいかしら? 』
「うん」
この感じだとリツァも考えてくれてるのかもしれない、けど、それ以上にリツァは“気刃”を試したい、って思ってる、んだと思う。SE型の中でも“浮遊”は僕しか使えなかったからショック、だけど、僕はそもそも解体されて死んでる、から、これ以上の我が儘は言えないと、思う。ショックが大きすぎて立ち直れてない、けど、リツァが頼んできたから、流されるような感じで、頷く。すると急にフワッと浮くような感じに、包まれて、僕は――
―・―・―・―
『――そろそろ代ってもいいかしら? 』
「うん」
能力が使えなくて少し落ち込んでるみたいだけど、ひとまず私は表に出ているトゥワイスに頼んでみる。彼の暗くて沈んだ声は初めて聞くけど、もしかすると相当ショックだったのかもしれない。だから私も何か声をかけてあげようとは思ったけど、すぐには浮かばなかった。……だから交代してもらおうって思ったんじゃないの、って言われたら何も言い返せないけど……。
「私も何でかは分からないけど、私の体だから、なのかしら……? 」
それでトゥワイスに入れ替わってもらったから、自分の声でこう呟く。あとでトゥワイスを慰めるつもりだけど、ひとまず私は、目の前に居るマリーを左右で色が違う目で見る。少し前にビアンカに言われて初めて知ったけど、トゥワイスが表に出てる時は緑色の目、私の時は左だけが元の色のままになってるらしい。俗に言うオッドアイっていうものだけど、確かこれは目の色素細胞の欠落で起きる、ってビアンカが言ってたような気がする。……だけど元々私は普通のエーフィだったから、私の場合トゥワイスと同じ体を使ってるからだと思う。
「リツに代ったようね? 流石に私も分からないわね」
「シャサも? 」
「ええ」
トゥワイスはずっと無視し続けていたけど、三本尻尾のエーフィが私に代ったことに気づいたシャサが、自分の考えを話してくれる。私はトゥワイス達のことに一番詳しい彼女に期待したけど、どうやら彼女でさえ理由は分からなかったらしい。そうなると何で眠らせる能力が使えて浮き上がる事が出来ないのか分からないけど、もしかしたら私達が知らない何かがあるのかもしれない。
「そうなるとお手上――」
「ファルツェアさん、失礼しますよ」
お手上げね、私は彼女の続いてそう言おうとしたけど、その途中で誰かが私達がいる部屋に入ってくる。この人が誰なのかは分からないけど、地下に入ってくるって事は、多分騎士団の団員なんだと思う。マリーは翼を出したままの状態でルミエール君と話してるけど、私はひとまず入り口の方に目を向けてみる。するとそこには二人……、エルレイドとブース――
「リツァ! 本当に……、本当に帰ってきてたんだ! 」
「おっ、お兄ちゃん? 」
私がよく知ったブースターが、我慢できずに駆け込んできた。まさか彼がここに来るなんて……、今の私が会うことになるなんて夢にも思わなかったけど、彼は私の二つ上の兄。
『リツァ、知り合い、なの? 』
「リトさん? でっ、でもお兄ちゃんって……、ええっ? 」
トゥワイスとビアンカは全く別の反応をしてるけど、私はまさかビアンカがお兄ちゃんのことを知ってるとは思わなかった。ビアンカは私とブースター、二人の間を視線で行き来してるけど……。
「まさかビアンカが知ってるなんて思わなかったけど、私のお兄ちゃんよ」
「てっ……って事はリツァ? リツァって青果店の家系だったの? 」
「あら、言ってなかったかしら? 」
完全に取り乱してるけど、よく考えたら一度も言ってなかったような気がする。私は情報屋としての仕事でビアンカのセカンドネームは知ってたけど、言ってないから私のは知るはずがないと思う。そもそも私とブースターの彼、リトと兄妹って事も誰にも言ったことが無いから、当然知る由もない。それに横目で見た感じだと、ファルツェアさんも意外そうに声をあげている。ビアンカはスイーツ好きだから、驚きは相当のものだったのかもしれないわね。
「私のフルネームは、“リツァ・フィルシア”。“リフェリア”の青果店の次子で、情報屋の生まれじゃないのよ」
「フィルシア……、ということは街の東の果物屋かね? 」
「そう。ファルツェアさんにはひいきにしてもらっててね、いつも俺の店の葡萄を買ってくれるんだよ」
ファルツェアさんは心当たりがあったらしく、私の実家の店のことをピタリと言い当てる。私は一時“リフェリア”を離れてる時があったけど、多分そのときからの常連なんだと思う。お兄ちゃんも嬉しそうに話してるから、もしかすると客と店員の関係を越えてるのかもしれない。
「……そうだ。リツァ? リツァに大変なことがあった、ってさっきの騎士団さんから聞いたんだけど」
「……ええ。私が“セレノム王国”の方に行ってたのは知ってるわね? 」
「うん。ビアンカが教えてくれたから」
「流石ビアンカね。もう気づいてると思うけど、私はもうエーフィじゃなくなった……」
騎士団の行動力の高さは流石だと思うけど、私は一応、お兄ちゃんの目をまっすぐ見て話し始める。見ただけでパッと分かる違いだから気づいてると思うけど、正直に言って私のお兄ちゃんに限っては自身ない。私のお兄ちゃんは商売に関しては凄く冴えてるけど、それ以外はほんとにダメ。昔から凄く鈍感で、いつも私と弟に言われないと気づかない。だから話した今も、ちゃんと目を見て話したのにえっ、って声をあげてる。
「あまり言いたくなかったけど、潜入中に捕まって生物兵器にされた。それに尻尾も三本になって、この体も私だけのものじゃなくなったわ」
「えっ、それってどういう……」
まさかとは思ったけど、この感じだと本当に気づいてなかったらしい。生物兵器って言うことは言われないと分からないと思うけど、せめて三本も生えてる尻尾だけは気づいていて欲しかった。だから手短に言ってから、私は後ろを向いて尻尾を見せてみる。見せたらやっと気づいてくれたけど……。
「見たそのままよ。三本とも自由に動かせるんだけど、縫い目が無い真ん中が私の尻尾。一本は誰のか分かってるけど、もう一本は分からないわ」
試しに私は左側の尻尾を振ってみたり、右側でお兄ちゃんの頭を軽く撫でてみたりする。左と右に挟まれて元々の私の尻尾は使いにくくなったけど、その分使える尻尾が増えたからある意味得したって言えるかもしれない。私はテレキネシスで浮かせられるけど、三本生えてるから持てる数も三倍になるからね。
続く