第十三話 真か偽か・・・
遙か昔、ある国に煌めきの水晶あり。
その光国を照らし、繁栄をもたらす。
しかしその光失せ、暗雲立ちこめる。
そこに異界より現れし黒き竜あり。
黒き竜これを晴らし、国の繁栄を取り戻す。
―
――
「うむ、全員揃ったようだな」
団長のフィナルさんと合流した私達は、そのままファルツェアさんのラボに向かう。途中でこれからの方針を伝えられたけど、この感じだと私とリツァさん……02が中心になりそう。今の状況は私が最初に脱走した時と似てるけど、規模で言うと今の方が凄く大きい。私と02はもちろんだけど、今回はフロルも一緒に脱出してきている。だからこれはフィナルさんの予想でしか無いけど、近いうちにまた襲撃されるかもしれないから、その前にこっちから攻撃を仕掛けることになった。
それで成り行きでここまで来てるけど、私達四人は地下にあるファルツェアさんの研究室に来てる。元々リツァさんが会いたい、って言ってここに来てるけど、この感じだとこのまま作戦会議になりそうな気がする。
「うん……えっ? なっ、何でエネコロロがいるの? 」
だけど私は、この部屋に集まっていた人物に目を疑ってしまう。何故ならそこに居たのは、ここに居るはずがない研究所のエネコロロ……。私と02で散々実験していたはずの研究員……。
「私が人質として連れてきたからだけど……」
「色々と事情があるみたいだけど、僕の下についてリツァとマリー、フロルの事をサポート――」
「捕虜として働かされるようなものね」
リツァさんが何かを言おうとしてるけど、その前にビアンカが事情を教えてくれる。サポートとか何とかって言ってるけど、多分ここでも私達の事を好き勝手実験する気なんだと思う。申し訳なさそうにしてるのが気にくわないけど、それはそれで……。……でも私の気持ちなんて多分知らないと思うけど、エネコロロは捕虜とかって言い出してきた。多分私達を追って連れ戻そうと――
「捕虜だなんて……。シャサがいたから、リツァに埋め込まれた機械を取り出せたんだよ? それにマリーだって、能力とかいろんな事を教えてくれた。リツァ達のこと一番知ってる専門家なんだから」
専門家……、見方を変えたら、ビアンカの言うとおりになるんだと思う。それにエネコロロがリツァさんに何かしたのも、向こうではリツァさんがエネコロロの下に就いてたから……。リツァさんも生物兵器に改造されてるけど、それ以前の関け――
「マリー? マリーは許せないかもしれないけど、シャサさんも被害者なんだって」
「……どういうこと? 」
本当に私はエネコロロの事が許せないけど、私はルミエールが言ったことに耳を疑ってしまう。この感じだとリツァさんもそうだと思うけど、私はエネコロロが被害者だなんてとてもじゃないけど信じられない。それも私が信頼してるうちの一人……、パートナーのルミエールから言われたから、尚更信じ――、信じたくない。多分私が眠ってる間に、ルミエールは言いくるめられたんだと思う。
「私も驚いたのだが、シャサは夫と子供を人質に取られているらしい」
「ひっ、人質? そんなこと一言も言ってなかったわよね? 」
もちろん私もそうだけど、リツァさんは特に声を荒らげてしまう。今に始まったことじゃないと思うけど、“ルヴァン”の事だからどんな手を使ってでも何かをしてくるのは目に見えてた。……だけど研究員、それもベテランのエネコロロにまでするとなると、話は違ってくると思う。
「……言える訳ないじゃない……。刃向かったら刃向かったで、
大元に家族が殺される。相談しようにも殆どが洗脳されてるから、従うしか無かったのよ……」
「せっ、洗脳? まさかシャサ? 生物兵器を使って――」
「いいえ」
何を言い出すのかと思えば、エネコロロはそれらしいことを言い始める。何か凄く辛そうな表情をしてるけど、そうして同情を買おうとしてるのは目に見えてる。リツァさんは信じられない、って言う感じで騙されそうになってるけど、私はそうはいかない。リツァさんの中の02も同じ事を思ってるはずだから、私は自信を持っ――
「リツァなら分かると思うけど……、ヒプニオ、殆どが彼の術に堕ちてるわ。“ルヴァン”に来た初日、ヒプニオと一対一で話してるわね? 」
「えっ、ええ……。だけどシャサ? そんな感じは全くなかったわ」
「それが不思議なのよね……。何故かリツァは堕ちなかったけど、三課だけじゃなくて他の課員も殆どが堕ちてるわ。……で途中で解けたりした私達は、人質を取って言うことを聞かせる。それでも聞かなかったら、リツァみたいに生物兵器にして処理する……。何でリツァは丙型じゃなくて乙型にしたのか分からないけど……」
この感じだと、リツァさんは完全にエネコロロの口車に乗せられてる。話してる間に他のみんなを見た感じだと、既にフィナルさんとファルツェアさん……、ルミエールまで信じてそうな感じはある。もし本当に人質を執られてるなら同情するけど、それは普通の人だったらの話し。人質に取られてるのはこの……、自分達のためだけに作り出した研究員だから――
「そんなこと言っても、私は騙されないよ」
信じそうになってるこの場に異議を唱える。
「えっ、マリー? 」
「そう言って信じ込ませて、研究所に私達を連れ戻すつもりなんだよね」
エネコロロがしようとしてることは大体分かるから、他のみんなに驚かれても、私は声をあげる。前に私を連れ戻しに来た時だって、このエネコロロも“ラクシア”にいたに決まってる。普通の研究員ならここまでは思わないけど、02が生きてる時、エネコロロはベテランの研究員だ、って言ってた。それにエネコロロは、私達の研究のリーダーを務めて事だってある。それに実験中だって、私がボロボロになってもお構いなしに戦わせてきた。個人的な恨みもあるけど――
「……01、エネコロロの言うこと、本当、だよ」
「……え? 」
私以外エネコロロの言い分を信じてるみたいだけど、ここで一人が、私の助太刀に入ってくれる。リツァさんが何かを話してるところだったけど、言いたいことがあるらしく彼女の左目が緑色になる。リツァさんと入れ替わって02が出てきてくれたから、これで嘘を言ってる研究員を言い負かすことが出来るかもしれない。
……だけど私の期待とは正反対で、02は思ってたこととは逆のことを言う。リツァさんとは思ってることは共有してないって言ってたはずだから、私は思わず声をあげてしまう。02はいつも私の事を助けてくれたから今回も、って思ってたけど、まさか今回に限って裏切られるなんて思わなかった。……だけど02が本当って言うなら、少しは聞いても良いのかもしれない。02はいつも正しいから……。
「僕はリツァに見せてもらって初めて知ったんだ、けど、エネコロロが言うことは本当、だよ。リツァが捕まる直前まで調べてた事、なんだけど、洗脳されてるか人質を取られてるか、っていうリストがある、んだよ」
「……そうなの? 」
02も知ったばかりみたいだけど、彼はいつもの、まっすぐとした緑色の目で私に話しかけてくれる。02は話す時必ず目を見て話すから、それが嘘でも信じちゃう。……それに02といえば、絶対にしれないはずの脱出経路を教えてくれた。その通りに走ったら本当に出れたし、建物を出るまで誰にもバレずに脱出も出来た。そのせいで02は解体されたけど……。
「そうだ。マリーには後ほど見せるが、リツァに渡した“レコードクリスタル”の記録に、確かにその記録が残されていた。私が見た時マリーとリツァは気を失っていたのだが、見てみるかね? 」
「うっ、うん……」
正直に言って気が乗らないけど、02が言うなら少しは聞いても良いのかもしれない。“レコードクリスタル”はファルツェアさんが作った“記録水晶”の事だけど、確か見たことを記録して映像を送れる、って言ってたような気がする。ファルツェアさんは多分その映像のことを言ってるんだと思うけど、だからといって証拠になるとも思えない。だけどこの流れだと、その映像を見ることになるのかもしれない。
「パソコンの画面の映像が出ると思う、けど、肝心なのはそこじゃない、よ。見て欲しいのは、その後のランクルス。一瞬だから見逃すかもしれない、けど、注意してよく見てて」
さっきからずっと出しっぱなしだったけど、02は首から提げている透明のクリスタルを前足で触りながら、私に話してくれる。それを右側の尻尾で持ち替え、そのままひもの部分を私にかけてくれる。多分このクリスタルのことはリツァさんから教えてもらったんだと思うけど、02は右の前足でそれを握る。そうして作動させると、私の頭の中に映像が流れ始めた。
――
―――
「おい貴様! ここで何している? 」
「っ? 」
気づくと私は、どこかの部屋の中にいた。多分リツァさんが見た景色なんだと思うけど、さっきの話からすると、多分ここは“ルヴァン”の情報室。入ったことは無いけど、多分そうだと思う。だけどこの感じだとリツァさんは何かに見つかったのかもしれない。画面に向いていた視界がハッと上を向き、入り口が映る。そこに六人居るんだけど、そのうちの四人がリツァさんを取り囲む。
「あ、アイアンテール! 悪気はないの……、ごめんなさい! 」
このときリツァさんはすぐに逃げだそうとしたみたいで、左側から一気にかけ出す。だけどその途中で邪魔が入ったから、跳びかかるようにして倒していく。リツァさんの尻尾はまだ一本しかないから、これは多分、リツァさんが捕まる前の光景なんだと思う。
何とか立ちはだかる二人を気絶させたリツァさんは、間髪を入れずに一気に駆け出す。
「リツ、君には期待していたが、がっかりだ」
だけどあとちょっとのところで、入り口の前にランクルスが立ちはだかる。このランクルスは、私達の研究の責任者で間違いない。……だけど実験中とは別人みたいに、キレたサザンドラみたいな表情をしてる。
「え……くぅっ……! ホムクス……さん? 」
何とか隙をかいくぐって逃げだそうとしてたけど、リツァさんは抵抗も虚しく取り押さえられてしまう。“レコードクリスタル”で見ている映像だから痛みは無いけど、首元を抑えられているから、凄く痛かったのかもしれない。
「リツ、お前は隠れて行動していたつもりのようだが、我々“ルヴァン”を侮っていたようだな」
ランクルスは勝ち誇ったように言い放ち、怯んでしまっているリツァさんを説き伏せようとする。
「侮る……? それってどういう……」
「ここ数日は泳がせていたが、“大保管庫”に侵入し何を企んでいる? 」
「何をって……、言える訳……ないじゃない……」
不気味な笑みを浮かべるランクルスは、勝ち誇ったようにリツァさんに揺さぶりをかける。だけどあまり聞いてないのか、リツァさんは全く同じない。多分情報屋だからだと思うけど、このときリツァさんは、何をされても口を割る気なんて無かったのかもしれない。
「言おうがお前の末路は変わらんがな。……やれ」
リツァさんは黙秘を貫いていたけど、ランクルスにとってはどうでも良かったのかもしれない。大して興味なさそうな感じで呟き、まだ意識のある二人に指示を出す。このとき一瞬ランクルスが押さえる手の力が緩んだらしく、この隙にリツァさんは立ち上がって逃げようとする。だけど――
「っ! くぅっ……。何……で……分……」
リツァさんは急に崩れ落ち、視界もだんだん暗くなっていく。
「……あれ? 」
だけど完全に真っ暗になる間際に、私はランクルスに対してちょっとした違和感を感じてしまう。多分見間違いだと思うけど、ランクルスの背後に、ドククラゲのようなそうじゃないような……、見たことない陰が浮かび上がってたような気がする。だけどもう一度それを確認するよりも早く、リツァさんの視界は完全に暗転してしまった。
―――
――
続く