第十二話 今後の方針
「――それからもう一つ」
「まだ何かあると言うのかね」
「ええ。“ルヴァン”の生物兵器には、型番の例外なく小型の機械が埋め込まれているわ」
「機械……」
「そうよ。いわば強制的に執行させる受信機みたいなもの。頭の中に直接埋め込んでいるから、流石にそれだけは摘出できない……」
「ということは、一生――」
「そう思っておいて構わないわ。ベイリーフの彼女とリツ、それからSE01も――」
―
――
「結局戻ってきたけど、この後はどうする? 」
「うーん……」
まさかまた話せるなんて夢にも思ってなかったけど、私はリツァさんの一部? になったらしい02と何十分も話し込んだ。その間ルミエールとビアンカ達を待たせる事になったけど、事情を知ってたみたいで、ずっと待っていてくれてた。リツァさんはどうかは分からないけど、02は私以外にも話している感じがあったから、もしかすると同時に喋っていたのかもしれない。
それで思う存分話した後で、私達はとりあえずその場所から歩き始める事にした。リツァさん達といたオオスバメは途中でいなくなってたけど、ビアンカは今も一緒にいる。それで特に予定は決めてなかったみたいだから、私達は気づいたら騎士団のギルドの前に戻ってきていた。ルミエールも何も考えていなかったらしく、建物を見上げながら私に尋ねてきた。
「……うん。リツァがファルツェア? っていうフライゴンと話したい、って言ってるんだ、けど、どう? 」
すると私が考えつくよりも早く、尻尾が三本あるエーフィが提案する。ファルツェアさんも昨日研究所に来てたけど、戦ってる時に一言言っただけで全然話せてない。そもそも何で02……、とリツァさんが知ってるのか分からないけど、もしかすると昨日知り合った仲なのかもしれない。
「あぁファルツェアさん? それなら地下のラボにいると思うよ? 」
「地下に? 」
するとビアンカが居場所を知ってるみたいで、すぐに話してくれる。そういえばビアンカの医務室も地下にあったような気がするけど、地下にもう一部屋あるなんて知らなかった。……ただ私もルミエールも用事が無くて行かなかっただけだけど……。
「地下……、うん、そうだ、よね? 僕ってずっと地下にいたことになる、んだよね」
私も最初に逃がしてもらうまで知らなかったけど、研究所も檻も、どっちも地下にあった。だから02に言われるまで気づけなかったけど、私も02も、作られてからずっと地中にいたことになる。この様子だと02も今気づいたらしく、頭の中で響いているらしいリツァさんに返事している。こうして改めて見てみると変な感じがするけど……。
「だよね……」
「うん。あっそうだ。丁度ファルツェアさんのラボにフロルも寝かされてるんだけど、会ってみる? 」
「……えっ、フロルと? 」
それで何かを思いついたらしく、ビアンカがふと声をあげる。私は予想外すぎて声をあげちゃったけど、この感じだと多分、ルミエールもそうなのかもしれない。そもそもフロルも“ルヴァン”に捕まってたはずだけど、あの時フロルは居なかったはず……。だから私、それからルミエールも、揃ってビアンカに訊き返してみる。
「そう、だね。――ええ。私もそう聞いてるわ」
「あっ、リツァに変わったね? 」
すると頷いた02は、顔を上げるとすぐに目を閉じる。何でかは分からなかったけど、それはすぐに分かった気がする。今までエーフィの目の色は濃い緑色だったけど、今目を開けたら、左だけ元の紫色に戻ってる。確か今日最初にあった時もオッドアイ……っていうのかな? 左右の目の色が違うし声も高かったから、多分そうだと思う。
「リツァさんって、本当に自由に代われるんだね」
「私も今日知ったばかりだけど、そうらしいわ」
「えっ、今日? 02から聞いてなかったの? 」
「実はね」
私はてっきり何日も前から知ってたって思ってたけど、どうやら違ったらしい。リツァさんの機能みたいだから知ってても良さそうだけど、この感じだと本当に知らなかったらしい。……そういえば今思い出したけど、リツァさんが改造……“狂化”処理されていたのは昨日で、その途中で起きてエラーを発生させた、って言ってた気がする。“狂化”処理の途中でエラーが起きるなんて聞いたことが無いけど、02なら何となく起こせそうな気がする。私もさっき知ったばかりだけど、解体される前の02は、“思念”を移したり出来たみたいだからね。
「じゃあ、いこっか」
それでひとまず私達は、ビアンカの案内でファルツェアさんがいるらしい地下の研究室に行くことにした。私は特に、用事は無いけど……。
――
――
「――ルミエール、こんなところにいたか」
「ん? 」
ギルドに戻った私達は、四人揃って地下への階段に向かおうとする。だけどその途中で、私達の班の団長、ルミエールのお父さんが通りかかる。生物兵器として生み出された私と02に親なんていないけど、二人親がいることが普通らしい。丁度フィナルさんも地下に降りようとしていたらしく、階段の踊り場の辺りから私達に話しかけてくる。
「それとトゥワイスと言ったか、マリーと三人揃っているなら丁度いい。一緒に下に来てくれるか? 」
「えっ、私も? 」
私とルミエールなら分かり気がするけど、何故か団長はリツァさん……じゃなくて02の事も呼び止める。この感じだと私達を探してたみたいだけど、やっぱりどう考えても02達も探していた理由が分からない。リツァさん本人も予想外だったらしく、呼ばれて思わず変な声を出してしまっている。横目で見てみるとビアンカも意外そうにしてるから……、私は余計に訳が分からなくなってしまった。
「そうだ。“ルヴァン”の件といえば、分かるな? 」
「“ルヴァン”……、うん」
私達がいる一階まで降りてきたフィナルさんは、私達四人に短くこう訊いてくる。最初はいまいちピンとこなかったけど、少し考えたらすぐに分かった。ルミエールとリツァさんは私よりも早く気づいたみたいで、私が見た時には真剣な表情をしていた。ビアンカはビアンカで、ちょっと違う意味で気持ちを切り替えたような気がするけど……。
「ということは、昨日の事? 」
「それもあるが、今後についてだな」
分かったって事で、私はすぐにフィナルさんに訊き返してみる。“ルヴァン”なら私達が凄く関わってくるから、フィナルさんが私達を探していたのも分かる気がする。そもそも私と02……とリツァさんもそこで作られた……? 改造された生物兵器だから、切っても切れない関係にある。だから私達の機能の事についてかと思ったけど、この感じだと違うのかもしれない。フィナルさんは私達の前を歩きながら、階段を一段ずつ降り、その訳を話し始めてくれた。
「これから? 父さん、どういうこと? 」
「“ルヴァン”からマリーとリツァ、フロルを連れ戻したよな? つまりそれで何が起こるか分かるな? 」
「うーん……」
まずはじめにフィナルさんは、ルミエール……というより当事者の私とリツァさんに向けて問いかけてくる。私が“ラクシア”に連れ戻されたことになるから、見方を変えると“ルヴァン”の外に――
「もっ、もしかして、私が脱走した時と……同じ? 」
ピンときた私は、恐る恐るフィナルさんに訊き返してみる。よく考えなくても、今は出そうした時と状況が似てる。あの時は私だけだったけど、今は私だけじゃなくて、戦闘型のリツァさんとフロルまで脱走したことになる。だから今回は、私だけの時以上に酷いことになる。
「そうだ」
「そっ、そうなるわね? って言うことは、また“ラクシア”が……」
「その可能性は十分高いな。先回は何とか全壊は免れたが、次襲われたら壊滅は避けられないだろう」
自分でも変わったつもりだけど、こうして改めて聞くと、凄く怖くなってくる。あの時は私を捕まえるのが目的だったけど、流石に今度はそれだけでは済まさなさそう。秘密厳守の研究所だから、私達みたいな生物兵器を使ってでも消そうとしてくるはず。だから私だけじゃなくて、リツァさんとフロルだけじゃなくて、潜入してるルミエール達も狙われることに――。
「そこで今回は、俺たちが先手を打とうと考えている」
「先手って……、もしかして父さん? 俺たちが先に“ルヴァン”に攻める、ってこと? 」
「あぁそうだ」
「でっ、でもそれって、危険じゃない? 」
狙われることになるけど、その前に相手を攻撃する、フィナルさんはそういう考えなんだと思う。確かに一理あるかもしれないけど、正直言って、死にに行くようなものだと思う。昨日は02の機能で脱出できた、って聞いてるけど、次も上手くいくとは限らない。だからビアンカの言うとおり、危険以外のなにもでのも無いと思う。
「ああ、何もしなければな。……だが今回は違う。リツァ」
「わっ、私? 」
けどフィナルさんは何の考えもなしに言った訳じゃ無いらしく、何故か三本の尻尾があるエーフィの方を見る。当然リツァさんもそうだけど、私は訳が分からなくなってしまう。
「そうだ。ファルツェアの“レコードクリスタル”、こう言えば分かるな? 」
「“レコードクリスタル”……。そっか、その手があったわね! “Rehydle”」
だけどリツァさんだけは分かったらしく、はっと声をあげる。かと思うとリツァさんは何かを呟き、首元に何かを出現させる。急に出てきて凄くビックリしたけど、リツァさんの首元には、さっきまでは無かった透明な水晶が提げられている。
「リツァ? もしかしてそれって、ファルツェアさんの“魔法”? 」
「ええ。……フィナルさん、言いたいことは分かったわ。幸い私はエーフィを辞めさせられた、“ルヴァン”の生物兵器。失敗作だけど、“ラクシア”を守るためなら、好きに私の体を使って構わないわ。トゥワイスも、それでいいかしら? ……ありがとう」
ビアンカの質問に頷いたリツァさんは、何かを悟ったような表情になる。紫と緑の目でフィナルさんをまっすぐ見て、力強く言い放つ。本当はリツァさんは普通のエーフィのはずだけど、体をぐちゃぐちゃにされてショックを受けてるはずなのに……、そんな様子が全くない。それどころか体を張るつもりみたいだから、私はそんなリツァさんに驚かされてしまう。おまけにこの感じだと、02もリツァさんと同じ考えなのかもしれない。だから私も――
「なっ、なら、私も……。私も生物兵器だけど、私も戦う! 」
声を大にして言い放つ。リツァさんが戦うって事は、02もいっしょってことになる。もちろんそれもそうだけど、今の私は自由に進化して退化もできる。今度こそ街のみんなを守る事が出来るはずだから、私もフィナルさんに訴えかけた。
続く