絆と魔法の王国〜Encore La Vie〜










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第三章 リヴァート トゥ
第八話 格子間の遭遇(Indide)
 「……あっ、団長! 」
 「元、だがね。しかしビアンカ、こんな時間に私の元に来るとは、珍しいな」
 「ちょっと用事があったからね。……あっそうだ! さっき潜入してる情報屋がいる、って別の情報屋のオオスバメから聞いたんだけど、どうなってるの? 」
 「あぁリツァの事――」
 「ええっ? 今、リツァって言った? 」
 「そう言ったが、知り合いか? 」
 「知り合いも何も、ぼくの友達だよ! でも何でリツァが――」





――




 「……、起きて」
 檻に戻されてから、何日経っただろう……?ここにいると日にちの感覚がわからなくなるけど、多分三日ぐらいは経ってると思う。日にちの事なんて脱走する前はなんとも思わなかったのに、この二、三日ぐらいはすごく気になってる。そう思うと外であったことは、生物兵器の私を普通のイーブイに変えたのかもしれない。向こうでの事は全部捨ててきたはずなのに、思い浮かぶのはルミエールとかドロップ達……、騎士団のみんなのことばかり。……だけどベベに私のことはバラされたから、もうあそこには戻れない。戻るとまた、みんなが傷つくから……。
 それにこっちの方でも、私は……。03の言うことだから本当かはわからないけど、私が脱走したせいで、02が解体された。02だけが私の味方だったのに、02が私を逃がしてくれたのに、その恩を仇で返した……。その仇を償いたくても、それはもうできない。02はもう、ここには……、この世にはいない、私のせいで殺されたんだから……。
 「うぅっ……。誰……? 」
 それで今日も03達にサンドバッグにされて、いつもみたいにボロボロの状態で寝てたけど、私は檻の外から誰かにたたき起こされる。たたき起こされたっていうよりは懐中電灯か何かで照らされた、っていった方が正しいけど、眩しかったけど薄目を開けてそっちを見てみる。右の前足で目元を隠したから、さすがに気づいて光を弱くしてくれたけど……。
 「SE01……、いえ、マリー、って呼んだ方がいいかしら? 」
 「え……、何で私の名前を……」
 光を弱くしてくれたから、ここでやっと誰なのか見ることができた。檻の外から私を起こしたのは、02が進化させられたらしい種族と同じ、エーフィ。一種02かな、って期待しちゃったけど、そんな希望はすぐに打ち砕かれる。私なんかが期待したらいけないのは当然のことなんだけど、そのエーフィは02とは別個体……。女のひとで社員証をつけてるから、私が脱走してる間に入った研究員なんだと思う。
 だけどそんなことを考えてる間に、私はこのエーフィに驚かされてしまう。多分このエーフィはそんな気は無いんだと思うけど、私の……、ルミエールにつけてもらった名前を呼んできた。何でこのエーフィが知ってるのか訳がわからなかったから、私は思わず訊き返してしまう。
 「私は“ルヴァン”の社員じゃなくて、“リフェリア”の情報屋。あなたの味方よ」
 「リフェリア……」
 すぐに話してくれたけど、私はこの人に余計に驚かされてしまった。
 「でも何で……」
 “リフェリア”で私の事を知ってるのは、ルミエールとか……、騎士団の仲間だけ。もう仲間だなんて言えないけど、ここの研究員、03達の誰一人として、私が貰った、コード番号じゃない名前を知らないはず。……っていうことはもしかすると、このエーフィは騎士団員なのかもしれない。今気づいたけど、透明な“記録水晶”も持ってるから……。
 「少し前から潜入してるんだけど、そこにあなたが戻された、って感じね」
 「だけど何で、私なんかのことを……」
 それなら余計に、このエーフィが私のことを知ってる訳がわからない。食料の配給の回数からすると、私が戻されてから三日ぐらいしか経ってないはず。そのうちの一日は睡眠薬を飲まされて眠ってたから、私のことを知れる訳がない。一昨日と昨日も檻から出てないし、そもそもここにいたエーフィは02しか知らない。“リフェリア”の情報屋って言ってるけど、私を騙す嘘かもしれないし……。
 「調査中に元騎士団の子から聞いた、って感じかしらね」
 ほんとうにこのエーフィ私を騙そうとしてるって思ったけど、真剣に話してるこの人をみると、そうじゃないって思えてくる。それによく考えたら、このエーフィは就業時間外に地下に降りてきてることになる。ここでは時間外に研究区画に降りる事は、絶対に犯してはいけない重罪って事になってるらしい。そんな危険を冒してまでここに来ている理由は、今の私には何も考えられない。っていうことはやっぱり、この人の言うことは本当なのかも知れない。
 「騎士団……。もしかして……、フロルっていうチコリータだったりする……? 」
 それに元ってことは、もしかすると行方不明になってる仲間かもしれない。少しだけ期待しながら、私はエーフィに尋ねてみる。その騎士団の人がいつからいるのかわからないけど、その人のことならドロップから聞いてる。確か何ヶ月か前……、私がまだ脱走する前、02が生きてる頃に行方不明になったらしい。
 「そう、だけど――」
 「よかった……、ここにいたんだ……」
 本当にそうだったらしく、エーフィは驚いたみたいに口が開いたままになってる。だけどそんなことより、私は今すごくホッとしてる。もう伝える方法なんて無いけど、これでドロップのパートナーの居場所がわかった。……確かにここにいるって事はすごく危険だけど、どこにいるのか分からないよりは大分マシだと思う。最悪の場合、改造されて出荷されてる、ってことも考えられるけど……。
 「だけどフロ――」
 「そういえばエーフィさん――」
 フロルのことは分かったけど、それでもやっぱり分からないことがある。それはやっぱり、このエーフィの事。フロルの事を伝えるためだけに危険を冒してるなら、目的とリスクが釣り合わなすぎる。情報屋だから個人的な興味って事も考えられるけど、見つかったら最期、自我も奪われて私達みたいな生物兵器にされる、って聞いたことがある。だからなんでこんな事をしてるのか訊きたかったけど、そういえばエーフィさんの名前を聞いてない。ちゃんと目を見て話――
 「リツって名乗ってるけど、リツァって呼んで」
 それでエーフィさんに名前を聞こうとしたけど、まごついてる間に感づかれたのかもしれない。エーフィさんは私の言葉を遮り、にっこりと表情を緩ませて名乗ってくれる。
 「うん。リツァさん、何で私なんかのために……、あぶないことするの? 」
 「何でって言われたらちょっと困るけど――」
 それでやっとエーフィさんの名前が分かったから、ずっと気になっていたことを質問してみる。危険を冒してまで侵入してるってことは、それなりの理由があるんだと思う。“記録水晶”を持ってるから“リフェリア”の騎士団で間違いないけど、例え知らなくてもこんな危険なことをさせるはずがない。そのそもあの日、“ルヴァン”に待ちが襲撃されて壊滅させられてるはずだから、任務はもちろん情報屋に調査を頼む余裕なんて無いはず。襲撃前に侵入してたらそんなことは無いと思うけど、それだったら騎士団は“ルヴァン”の事を知らない。ということはやっぱり……、リツァさんの興味……?
 「――情報屋だから、かしらね」
 リツァさんは私の質問に少しビックリしてたけど、私から視線をそらして何かを考える。多分答えを探してるんだと思うけど、帰ってきたのはさっき聞いたこと。情報屋だから、って言われても、それだけで調べてるなんて私は全然考えられない。ちゃんとした答えになってないから、私にも言えない理由があるのかもしれない。
 「あっ、そうだ。マリー、ちょっといいかしら? 」
 「ん? 」
 本当に言えない理由があるらしく、私はリツァさんに適当にごまかされてしまう。だから余計に怪しい気がするけど、やっぱりリツァさんに……、嘘をついてるような感じは全くない。私のまっすぐ見て訊いてきてるから、本当にリツァさんに私を騙そう、っていう気は無いのかもしれない。そう思うと疑うのが申し訳なくなってくるから、後ろめたさもあって耳をピンと立てる。
 「確証は無いけど、私の言うとおりにしてくれないかしら? 」
 「いいけど……、何で? 」
 すると私に頼みがあるみたいで、強引だけどこう訊いてくる。もちろん私はすぐに訊き返し、こくりと首をかしげる。
 「マリー、あなたのためになることだから、ね? 」
 するとリツァさんは私をまっすぐ見下ろし、にっこり笑いかけてくる。何させられるのか分からないから怖いけど、無理矢理させられるのは慣れてるつもり。脱走する前はそんな事毎日だったから、実験されるのは私の日常。……だけど今回は、いつもとはちょっと違うと思う。いつもは私の意思とは関係なしにさせられたけど、リツァさんは私なんかのため、って言ってくれてる。多分断ればしなくてもいいと思うけど――。
 「わかった」
 どう断っていいか分からず、つい頷いてしまった。今更後悔しても遅い気がするけど、何で頷いちゃったんだろう、私はこういう考えに満たされる。だけどいいよって言っちゃったから、もう後戻りはできないと思う。
 「じゃあ、試しに目を瞑って、心を落ち着かせてくれるかしら? 」
 「……うん」
 リツァさんは待ってましたと言わんばかりに、私にしてほしいことを話し始める。相当自信があるらしく、まっすぐとした目で説明してくる。……もうこうなったらするしかなさそうだから、私はされるがままに目を閉じてみる。すぅーって長く息を吸って、ふぅーって深くはく。
 「次は……、好きな色を強く思い浮かべてくれるかしら? 」
 「すきな……色? 」
 「そうよ。騙されたと思って、やってみて? 」
 「うん……」
 息を吐ききってまた吸ったところで、リツァさんは次の指示を出してくる。急にこんなこと言われても困るし、そもそも好きな色なんて考えたことも無い。目を瞑ったままだからどんな顔をしてるのか分からないけど、私が渋ってるから、リツァさんは苦い顔をしてるような気がする。訊き返すとまた念を押してきたから、私は仕方なく、パッと思いついた色、私の翼と同じ黒をイメージしてみることにした。
 「……」
 「……! 」
 すると何でかは分からないけど、体の奥の方から力が湧き上がってくる。同時に気持ちが黒一色に満たされ、それが大きく膨れ上がっていく。翼を出したときとはちょっと違うから、私に何かが起きてるのは確かだと思うけど……。
 「マリー、目を開けてみて」
 ある程度すると力が治まり、いつもの感じに戻る。結局何が起きたのかは分からないけど、リツァさんはうれしそうに声を上げてるから、確かに何かがあったんだと思う。それに声が弾んでるような気がするから、リツァさんの目論見は、成功。私の実験がうまくいったんだと思う。だから言われるままに目を開けてみると――。
 「……あれ? 」
 リツァさんの顔が、私と同じ高さになってる。一瞬リツァさんが縮んだのかな、って思ったけど、そうじゃなさそう。横の方で寝てる03達も小さくなったように見えるし、気のせいかも知れないけど天井が近くなったような気もする。下に目を向け――
 「私って、こんなに……えっ? ええっ? 」
 地面からも高くなってるけど、それよりも先に、私は信じられないものが目に入って声を荒らげてしまう。本当なら茶色いはずなのに、なぜか今の私の前足は黒い。それに足の真ん中ぐらいには、黄色くて丸い模様まである。こういう特徴がある種族は、実験中に画像を見せられて知ってる。
 「そう。もう気づいたかもしれないけど、今のマリーはブラッキーになってるわ」
 ……うん。今のこの姿は、私の進化先の一つらしい、ブラッキーっていう種族。
 「うそ……、それじゃあ私……そう――」
 進化したって事は、私はもうイーブイには戻れない。リツァさんは何がしたかったのか分からないけど、私はブラッキーに進化してしまった。もし03が言うことが本当なら、私は実験に失敗した02みたいに解体される。大分前に聞いたことだけど、実験に失敗した生物兵器は最期、尻尾を切られたり頭を切り落とされたり……、体中をバラバラに切断されて殺処分されるのを待つだけ……。私にとっては大失敗だけど、何故かリツァさんは満足そうにしてる。こんなエーフィを見ると、私の味方で情報屋なんてことは嘘。逃げ出した私を処分するために、ココの上層部が下準――。
 「マリー、ビックリしてるかもしれないけど、次行くわよ」
 「えっ……」
 絶望し沈みかけている私を余所に、リツァさんは勝手に話を進めてしまう。私はてっきりこれでおしまいって思い込んでいたから、意表を突かれて変な声をあげてしまう。
 「さっきと同じように、今度は白色を強くイメージして」
 リツァさんは本当に何考えてるのか分からないけど、この感じだと、目論見はまだ途中だったのかも知れない。私が絶望していても構わずに、さっきと同じ事を頼んでくる。だけど今度は、好きな色じゃなくて白、っていう指定付きで……。何で白なのか分からないけど、もしかすると今度も、同じ事をする気なんだと思う。
 「白を……? 」
 「そうよ」
 白といえば、真っ新……。何にも染まってないって事だから、元に戻す気なのかもしれない。
 「……本当に、戻れるんだよね? 」
 「……ええ」
 そう思ったからダメ元で聞いてみたら、少し間を置いて頷いてくれる。だけどさっきみたいに自信満々じゃないから、私は余計に不安になってしまう。何しろ戻るって事は、私達SE型のメイン研究目的……。進化先から“退化”することになる……。殺された02が初めての実験体になったけど、“ルヴァン”ではまだ退化は成功してない。機械とかの設備があってもそんな状態だから、何も無いのに成功するはずがない。……だけどこのまま成功しなかったら、私はブラッキーのままだから殺されて解体される。そうなるけど、リツァさんは今、規則を犯してまで私を退化させる実験をしようとしてる。
 「……」
 だから私は、すがるような思いで目を閉じる。確かに機材が何も無くて心細いけど、やらないよりはやって失敗する方が気持ち的にはマシ。意識を集中させ、イメージを白一色に染め上げると――。
 「……」
 「……」
 「あっ……! 」
 何かが起きたらしく、エーフィは短く声をあげる。実験されてる私は特に何も感じないけど、恐る恐る目を開けてみる。
 「……どう? 」
 「……戻ってるわ、ええ、戻ってるわ! 」
 すると前にいるリツァさんが、今度は大きくなったように見える。大きくなった、じゃなくて私が小さくなってるから、まさかとは思ったけど、実験は成功。リツァさんも成功するなんて思ってなかったらしく、声をあげて喜んでいる。つい大きな声を出しちゃってたから、慌てて前足で口を押さえて噤んでたけど……。
 「本当に……、ほんとうに、戻れたんだ! 私って……」
 「ええ! 私も上手くいくって思ってなかったけど、確かにイーブイに戻ってるわ! 」
 「……でも何で、何でイーブイに戻れたんだろう……? 」
 イーブイに戻れたのは凄くうれしいけど、分からないことが一つだけある。機材とかがちゃんとそろっていて成功しなかったのに、何で何も無いのに成功したのか……。それも“ルヴァン”の研究員じゃなくて、“リフェリア”の情報屋……、部外者が一人だけで、何も私に処理をせずに……。
 「私も分からないけど、機械じゃなくてマリーが自分で能力を使ったから、じゃないかしら? 」
 「私が、自力で? 」
 「そうよ」
 本当に何で退化できたのか分からないけど、リツァさんは満足そうに大きく頷いていた。




  続く

Lien ( 2019/07/06(土) 16:50 )