第七話 捨てたはずの悪夢
※諸事情により、アラン様執筆分のマリー編をLienが執筆していきます。
マリー編、第1〜6話↓
http://pokenovel.moo.jp/mtsm/mtsm.cgi?mode=novel_index&id=alan&nvno=289&view=1
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「……父さん」
「ん、なんだ? 」
「やっぱり俺には……、マリーを見捨てるなんてできない。したらいけないんだ」
「気持ちは分かる。だが……」
「分かってる。分かってるよ。今はラクシアの復興が優先、でしょ? 」
「……すまない。だが――」
「だけど父さん。俺は諦めないから」
――――
「――い、起――ろ」
「――、――なか――ねぇな」
「……ぅん……」
いつの間にか眠っていた私は、急に何かに揺すられ呼びかけられる。だけどちょっと前まで聞いてた声と違いすぎて、まだボーとしてるけど訳が分からなくなってしまう。
「――、前みたいに――」
だから私は、目を閉じたままあの後のことを思い出してみる。“ルヴァン”に“ラクシア”が襲われて、騎士団のみんなが人質に取られた。だけど“ルヴァン”の目的は襲撃じゃなくて、施設から逃げ出した私を捕まえること……。海を渡ったから大丈夫だって思ってたけど、私が思ってたほど甘くは無かった。逃げてきた私のせいで街が攻撃され、そのせいで騎士団のみんなが捕まった。私のせいでみんなが傷ついたから、もうこれ以上だれも傷つけたくない、そう思ったからあの研究員、ベベの要求に従った。何とかみんなは解放してもらえたけど、その見返りに私が生物兵器だって事をバラされた。騎士団のみんな、特にルミエールにだけは知られたくなかったのに……。
「――、04、いい考えだなぁ」
「んじゃあ――んだ、試運転――ぜ」
それでべべ達に連れられた私は、船に乗せられて“ヒュードル大陸”を出た。船の中で食事を出されたけど、正直に言って食べる気になんてなれなかった。だけど喉は渇いてたから、出されてた水を飲んで……、そこからどう――。
「おい01、いい加減起きろよ! 」
「っ痛ぁっ! 」
何とか思い出そうとしたけど、いきなり叩かれてそれが出来なくなってしまう。本当は少し前から聞こえてたけど、ずっと無視してたからしびれを切らしたんだと思う。声の主が私を思いっきり叩き、堅い壁に私を叩きつけた。
「うぅっ……」
「やっと起きたか。久しぶりだなぁ、01」
体中の痛みに耐えながら目を開けてみると、そこには見慣れた……、もう見たくは無かった本来の光景。堅く冷たいコンクリートの壁に、無機質な鉄格子……。何となくそんな気はしてたけど、私が居……入れられてるのは、“ルヴァン”の“大保管庫”、のはず。それから満足そうに私のことを見下ろすのは、私と同じイーブイ。
「03、久し……ぶり」
「俺たちも忘れるんじゃねぇぞ」
にやりと笑みを浮かべる彼の後ろのは、同じく取り巻きでふたりのイーブイ。
「忘れてなんか……っないよ。04と、05も……」
しっぽで叩かれたせいでクラクラするけど、取り巻きのふたり……、04と05にも声をかける。気づいた時には一緒だったかよく知ってるけど、このふたりは03がいるときだけ態度が大きい。世間知らずの私が見ても03の子分そのもので、03が言ったことは何でもしてくる。そのせいで、私は何千回も酷い目に遭ってきた……。
「だよなぁ、01さんよぉ」
「まっ、俺の顔を忘れたなんて言わせねぇけどな! 」
相変わらずしゃべり方が荒いけど、03は挨拶代わりって感じで私に飛びかかってくる。体を捻りながらだから多分またしっぽで私を殴るつもりなんだと思う。
いつも03はこうだけど、今の私は守られてばかりの私じゃない。凄く短い間だったけど、戦い方だってルミエールとか団長達から教えてもらった。そもそも私は、戦うためだけに作られた生物兵器。あの時盗賊に襲われて気づいたけど、私だけの戦い方だってある。右の前足に力を入れて、それをすぐに実体化させる。黒紫色のそれを細長い刃状にして――。
「03っていつもそうだ――」
しっぽを振りかざしてきた03に突きつけ――。
「っきゃぁっ! 」
突きつけたけど、私の刃が力負けしてしまう。振り上げるようにして迎え撃ったんだけど、それ以上に03の力の方が強い。ちゃんとしっぽを狙ったはずなのに、何故か私は頭からコンクリートに叩きつけられてしまった。
「うぅっ……」
「お前も変わったようだけど、それはお前だけじゃねぇんだぜ? 」
思いっきりぶつけて鼻血が出てきたけど、03は構わずに、得意げに話しかけてくる。逃げ出す前から03の力は強かったけど、鼻血が出たり叩き飛ばされるぐらいじゃなかった。
「だよな。お前が消えてから、03は甲型への転換が決まったんだ」
「甲……型? 」
04は大きく頷くと、03の事をしゃべりはじめる。まさか私がいない間にこうなってるなんて思わなかったけど、甲型なら異常なぐらい力が強くなってるのも分かる気がする。元々私達探査型のベースは戦闘甲型だけど、力の強さは乙型ぐらい、って聞いたことがある。
「そうだ。お陰で俺のしっぽも四本になったんだ。いくら性能試験でトップでも、お前なんか屁でもねぇよ! おるぁっ! 」
「くぅっ……! 」
待ってましたって言うかのように、ふらふらと立ち上がった私に自分のしっぽを見せびらかしてくる。ふさふさで分かりにくかったけど、よく見たら脱走する前と違って四本生えてる…。改造されてしっぽが四本あるのは甲型の特徴だから、何となく納得できた気がするけど……。だけど納得したのもつかの間、03は立て続けに三回、連続で私の顔をしっぽで殴ってくる。
「っ大体何でお前ごときが成績トップなんだ……。お前なんかあのまま死んでいれば――」
「03、流石にやり過ぎなんじゃあ……」
「新入りは黙ってろ! 」
「お前もコイツみたいになりたいのか、06? 」
本当に前からそうだったけど、03は私のことをよく思ってない。私が何かした覚えは無いけど、心当たりはあると言えばある。とてもじゃないけど訊けないから分からないけど、多分原因は私達の性能試験。何でこうなってるのかは分からないけど、私は力、早さ、能力、機能の親和性……、性格以外で五にん中一位。総合成績も一位で、03は二位。だからもしかすると、このことを根に持ってるのかもしれない。
「0……6? 02……は? 」
まだ頭がガンガンするけど、そんなときに自信無さそうな声が止めに入ってくれる。だけど聞き覚えが無い声だったから、私は痛みに耐えながら尋ねてみる。
「02? あぁ、アイツなら
解体されたぜ? 」
「解……体……」
だけど04から出た言葉に、私は言葉を失ってしまった。
何でいないのかは分からないけど、02は唯一、私によくしてくれてたイーブイ。試験の成績はほぼ最下位だったけど、03と04、05と違って凄く優しかった。今みたいに私がサンドバッグにされた時も、02だけはボロボロになってでも止めてくれたりもした。そして何より、私がこの施設から逃げる手助けをしてくれた。どんな風にしてくれたのかは分からないけど……。だから無理矢理実験されたり殴られたりして凄く辛かったけど、もし02がいなかったら、今の私はここにはいないと思う。
「そうだ。んだけどあれは見物だったよなぁ。お前が消えてから02に実験が移った」
「え……」
「だけどアイツ、エーフィになってから戻れなくなってたな。それで解体処分が決まって、今頃バラバラにされて向かいの“保管庫”仕舞われてるだろうなぁ」
「そん……な……。02……が……」
「弱いくせに生意気なアイツ解体されて清々した、なぁ、05」
「嘘……でしょ……」
「んだからお前が消えなければ、02は解体されなかった。……
お、前、が、02を殺したんだ」
03達が02の事を教えてくれたけど、03の事だから、絶対に嘘に決まってる。これは多分、私を虐めるための嘘。私を貶めるためについた嘘。だから02が解体されたはずが無い……。あの02が、廃棄処分されたなんて、あり得ない。でも……。
「そうだそうだ! それに死に際にアイツ言ってたぜ? 」
ここにいるのは私と03、04と05と、初めて会う06……。隠れるところなんてどこにも無いけど、そもそも私達の檻は決まって五にんしか入らない。
「01なんか逃がすんじゃなかった、あんな奴に会うんじゃなかった、ってなぁ! 」
信じたくはないけど、03達が言うことは、事実。事実――。
「嘘だ……嘘だあぁぁぁぁぁ! 」
事実なんて、信じたくない! 私が、私が……、02を殺したなんて……! そんなの、嘘に決まってる! うそじゃないと、いけないんだ……!じゃないと私は、私は――。
続く