絆と魔法の王国〜Encore La Vie〜










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第一・五章 調査に向けて
第一話 活動申請
 「ここに来るのも、もう慣れたものね」
 活動申請するために国の主要機関、騎士団の本部を訪れた私は、息を弾ませながらその建屋を見上げる。五層構造の建屋だから、エーフィとしては平均的な体格な私でも、見上げ続けると首が痛くなる高さがある。そのうち騎士団員じゃない私が利用できるのが、一階の任務とかの受付窓口。ビアンカによるとほかのフロアは騎士団のための施設になってるみたいだから、今後も私が利用することはないかもしれないわね。
 そんな中私はいつものようにエントランスをくぐり、まっすぐ受付窓口へと向かう。
 「あらリツァちゃん、いらっしゃい。今日もいつもの申請かしら? 」
 すると私の姿に気づいたのか、受付のマリルリが笑顔で手招きしてくれる。彼女とは一応顔なじみで、いわば仕事上の付き合いをしている関係。だから私がカウンターの方についてからも、いつもの笑顔で応対してくれた。
 「ええ。気になることがあって隣国のキルトノに行きたいんだけど、いいかしら? 」
 そこで私も同じように笑顔で返し、手短に用件を伝える。この機関は騎士団のためのものって言っても過言ではないけど、情報屋も少なからず関係はしている。いくら騎士団で依頼を受け付けているといっても、その情報収集力には限界がある。そこで登場するのが、私達フリーの情報屋。リフェリア内や隣国、遠方の困りごとや情勢を提供する見返りとして、それ相応の見返りや報酬をもらっている。あくまで私の場合だけど、内容によっては数週間暮らせるぐらいの報酬金がもらえるから、かなり助かってる。依頼自体は騎士団の団員たちが遂行するけど、成功すれば仲介料として五パーセントをもらうことができる。そのための活動申請だから、めんどくさくてもやるに越したことはないのよね。
 「キルトノに? リツァちゃんが外国に行くなんて珍しいわね。ということは何かいい情報を掴んだのね? 」
 「今はまだそうとは言い切れないけど……、そんなところかしら? 」
 私の頼みを聞いてくれた彼女は、不思議そうに首を傾げる。確かに彼女のいうとおり、私は情報収集のために国外に行くことは少ない。調査の申請には頻繁に来るけど、その殆どが国内の情勢とか、騎士団の依頼の基になる事が殆ど。だから興味本位で調査するって決めたけど、もしかしたらいい収入になるかもしれない、って思ったから申請しに来た、って感じかしら? だから内容については濁したけど、とりあえずは彼女の問いかけに対して大きく頷いた。
 「わかったわ。じゃあいつもの書類と併せて、こっちの出国許可証の方にサインしてくれるかしら? 」
 「ここね? ……テレキネシス。法的な書類だから、足形もあった方がいいのかしら? 」
 「頼むわね」
 すると彼女は二、三枚の書類をカウンターの下から取り出し、重ねて私に手渡してくれる。そこで私は他人や物を浮かす事ができる技、テレキネシスを発動させ、一緒に添えられた羽ペンでサラサラと書き記す。……といっても記名と簡単な必要事項だけだから、右前足の足形も含めて一分もかからずに書き終える事ができた。
 「おや、君はここでは見かけない顔だな? 」
 「ひゃっ! 」
 書き終えてペンをカウンターに置いたその瞬間、私は後ろの方から急に呼びかけられる。あまりに急だったから変な声を出しちゃったけど、なんとか私はそっちの方に振り返る。ビックリしすぎて鼓動がうるさいけど、そこにいたのは……。
 「という事は情報屋だな? 」
 「隻眼のフライゴン……、ってことは騎士副団長のファルツェアさんね? 」
 右目の赤い部分に大きな亀裂が入ったフライゴン。騎士じゃない私の事を一瞬だけ不審そうに見下ろしていたけど、消去法ですぐに私の職業がわかったらしい。だから私はそうよ、って頷いてから、噂で聞いている彼の名前を出して確認してみる事にした。
 「元、だがね」
 「元でも何でも、副団長に会えるなんて光栄よ! 」
 「ファルツェア様の逸話は有名ですからね。……あっ、そうだ。ファルツェア様、リツァちゃん……、情報屋の彼女にアレを試してもらったらどうかしら? 」
 まさか有名人に会えるなんて思わなかったから、私の声は自然と弾む。彼の言い方からすると引退した身ってことになるけど、これは多分右目のけがが原因なんだと思う。これは私の推測の域を超えない話しだけど、任務中に敵に攻撃されたり、流れ弾が当たったりして負傷したのかもしれないわね。
 それで何を思ったのかはわからないけど、受付の彼女はふとファルツェアさんに提案する。いわゆる部外者の私にはさっぱり分からないけど、情報屋仲間からも聞いた事がないから、秘匿事項なのかもしれない。
 「彼女に、か? だが何故――」
 「彼女の事なら私が保証するわ。団の中にも知り合いは多いから」
 「えっ、ええ。中でもビアンカとデュランにはよくしてもらってるわ」
 情報屋の私に秘匿事項を託すのもどうかと思うけど、それだけ信用してくれているならそれ以上に嬉しいことはない。特に後者との出逢いはあまりいいものじゃなかったけど……。
 「でゅっ、デュランランとか……。ならば託しても問題ないか」
 後者が私の騎士団内の知り合いで一番地位が高いはずだから、それで彼も納得したんだと思う。腕を組んで考え事をしていたけど、それを解いてマリルリの提案を了承する。正直言って出入りしているだけで、騎士団にとって私は部が――。
 「確かリツァといったな? 」
 「ええ」
 「存じているとは思うが、これは団内の者しか知らん極秘事項だ。開発者が私だから特例で認めるが、他言無用で頼む」
 「そんな気はしていたけど、情報は情報屋にとって命の次に大切なこと……。分かったわ」
 また急に名前を呼ばれてビックリしたけど、今度はなんとか頓狂な声を出さずに済んだ。するとファルツェアさんは間髪を開けず、再三私にこう確認してくる。秘匿事項ってことは想定済みだったから、私もすぐに了承の意を伝える。情報の黙秘は情報屋の鉄則。漏洩させたら取り返しのつかない事になる場合だってあるからね。
 「さすがと言ったところだな。……で、これが例のモノだが」
 「きっ、綺麗ね」
 感心したようにうんうん、と頷くと、ファルツェアさんは懐から一つの石を取り出す。ぱっと見五センチぐらいの透明な石で、ロビーの照明の光で煌めいて見える。秘匿って言ってたけど宝石の類かしら、私は率直にそう感じたけど、あえて口に出さずに別の感想を伝える。
 「私は“レコードクリスタル”と呼んでいるが、音声や画像の記録、送受信ができる代物だ」
 「れこー、ど……」
 「情報屋なら“記録水晶”の複製版、って言ったらわかるかしら? 」
 「“記録水晶”って、あの? 」
 私は彼の説明ではいまいち分からなかったけど、マリルリの彼女が言ってくれて初めてピンときた。私は別件の調査で知ったけど、確か“記録水晶”は何百年か前の史実にも出てきた代物だったと思う。調べたのがずいぶん前だからノートを見返して見るつもりだけど、言われてみればファルツェアさんが言って事をできたような気がする。
 「そうだ。クリ――ん? 」
 続けて彼は詳しい説明を始めようとしていたけど、何を思ったのか急にその言葉を止める。すぐに彼は首から提げている水晶を握り……。
 「私だが、どう……分かった。すぐ向かう。はぁ……」
 独り言のように何かをつぶやく。多分これがクリスタルの通信機能の使い方だと思うけど、私はまさか行動で教えてくれるなんて思わなかった。偶然連絡が入っただけだと思うけど、ベストすぎるタイミングだったから、私はただその一部始終を見ることしかできない。
 「すまんがリツァ、詳しい使い方は彼女から聞いてくれるか? 」
 「えっ、ええ」
 これだけを言い残すと、彼は半ばあきれた様子で羽ばたいてこの場を立ち去ってしまった。




  続く

Lien ( 2019/03/24(日) 16:03 )