第二十一話 叩きつけられる性能差
「――SE01、貴様には実験台になってもらおうか! 」
「グルァァァァァッ! 」
「ルミエール、来るよ! 」
「うっ、うん! 」
「ルミエール! ルミエールはあのルカリオをお願い」
「わかったよ! マリーも、無理はしないでね」
「分かってる」
―
――
「……どう? 出来てる? 」
「ええ、完璧よ! 」
トゥワイスの提案で06を解放してから、私達は環状の通路を駆け抜ける。もちろん途中で洗脳された研究員、それから“狂化”処理が済んだ丙型とも戦ってたけど、それと並行して06に“進化”の方法を教えていた。多分マリーがしてるのを見てたからだと思うけど、私が思った以上にスムーズに言ってるような気がする。彼女とは違って彼はオレンジ色の霧を纏ってたけど、“進化”だけじゃなくて“退化”にも成功していた。……それで今は念のためもう一回グレイシアに姿を変えてもらってるけど、彼自身あまり実感が無さそうな気がするわね……。
「本当に? 」
「ええ、本当――」
「グルルァァ――ッ? 」
「……? 」
それで再三彼に言い聞かせる事になってるけど、やっぱり彼は変わらず首を傾げてる。本当は鏡か何かで今の姿を見せてあげるのが一番早いと思うけど、生憎今はそんな暇は無さそう。丁度今相当のパルスワンと鉢合わせになったから、私達二人は慌てて戦闘態勢をとる。私は大きく跳び下がって距離を取りながら、テレキネシスでパルスワンを浮かせる。今日初めて使って見せたから06は驚いたような表情を見せてたけど、すぐに気持ちを切り替えて攻撃を仕掛けてくれる。薄いオレンジ色の翼を首元から生やし、私とは正反対で距離を一気に詰める。彼の翼は体の二倍ぐらいはありそうなぐらい大きいけど、結構扱い慣れてるのか壁とか床に擦らせてる様子は無さそう。滑空してフリーになっている前足に意識を集中させ、三本ずつ橙色の爪をそこに生やす。
「06! 」
「うん! 」
その爪で下から上に思いっきり引っ掻き、身動きのとれない生物兵器の左の頭を大きく切り裂く。手加減なしで切り裂いてるから縦に真っ二つに裂け赤い血飛沫が噴き出してるけど、06は全く気にする事なく宙返り……、そのまま天井スレスレの高さを維持してくれている。
「グルァァっ……? 」
「リツァさん! 」
「ええ! 」
そこで私は切り落とされ転がっているパルスワンの生首の隣を駆け抜け、一つ首になった丙型に急接近。態勢を低くして浮かせている相手の下に潜り込み、硬質化させた三本の尻尾を思いっきり振り上げる。このタイミングで相手をテレキネシスから解放したから、AC型は06の方まで打ち上げられる。
「これで決める! 」
コレを合図に、06は橙色の爪を生やした前足を前に突き出しながら、パルスワンにむけて急降下してくる。すれ違いざまに相手の二つの首の真ん中に爪を突き立て、そのまま爪を先頭に切り開く。スッ、と着地した彼の後に、パルスワンの開きがドスッ、と鈍い音をあげて落下してきていた。
『06、もしかするとAA型で、も通用する、んじゃないかな? 』
「かもしれないわね。……06、行きましょ」
「うん」
ひとまず目に付く一体は破壊出来たって事で、私は06に呼びかけて一気に駆け出す。すぐに飛び退いたから多少はよけれたけど、真上で06が斬り倒したから、私も06も返り血を浴びて赤く染まってしまってる。なら何で真上に打ち上げたの、って言われたら何も言い返せないけど、戦闘では避けられない、って私は思ってる。……とは言っても、この間脱出した時はトゥワイスの“催眠”で眠らせただけだったし、今日が初めてまともに戦い始めたばかりだけど……。
「そういえばリツァさん? 」
「ぅん? 」
それで十何メートルか走った辺りで、大きな翼で羽ばたく06は思い出したように私に問いかけてくる。多分さっきまでは戦いに夢中だったからだと思うけど、聞きたかった事を忘れかけてたのかもしれない。何となく何を聞かれるのか想像出来るから、私は隣で滑空する彼を横目で見ながら、その言葉を待つ。
「さっき敵が浮いてたような気がするんだけど、リツァさん、何か機能使ったの? 」
すると私の予想通り、テレキネシスの事を訊いてきた。戦う前もそうだったけど、06はトゥワイスとかマリーよりも好奇心旺盛なのかもしれない。単に見た事無い能力が気になってるだけかもしれないけど、これだけ目を輝かせて聞いてきてるから、もしかすると彼は生物兵器として以外にも、情報屋としての素質があるかもしれない。ただ仕事仲間を増やしたいだけ、って思われそうな気がするけど……。
「さっきのはテレキネシス、って言って、私が生物兵器にされる前から使える技。“セレノム王国”の人には“魔法”ってよく間違われるけど――」
ひとまず新手がいない今のうちに、私はマリーの兄弟機の彼に技の事を教えてあげる。彼はグレイシアとしての両耳をピクリと動かしながら辺りを警戒してくれてるけど、ちゃんと私の話しも聞いてはくれていると思う。……多分私の説明が下手だからだと思うけど、彼はいまいちパッとしない表情で首を傾げてしまってる。……マリーとトゥワイスの時は余裕があったから、一から説明できたけ――
「ここにいたか。……殺れ」
「はぁ、だから俺様に指図するなっつぅの」
「え……くぅっ……! かはぁっ……」
「うわっ! 」
だけど私がどうにかして技の事を教えてる最中、丁度一課の通用口側の通路から重い一撃が飛んでくる。私が気を抜いていて、外側を走ってたって事もあるけど、急な事でその一撃を食らってしまう。幸い急所は避けられたと思うけど、多分相手の太い尻尾が私の脇腹に命中する。重すぎる一撃に思わず吐きそうになったけど、体の中で嫌な音がしたから肋骨の二、三本は逝ったかもしれない。おまけに滑空してた06を巻き込みながら飛ばされたから、私は彼を通路の壁に叩きつけてしまう。……けどまともに攻撃された訳じゃないから、ふらつく私と違ってなんとも無さそう。
「……うぅっ」
『リツァ! だっ、大丈、夫? 』
「何とか……ね……」
「ちっ……仕留め損ねたか」
「……っ! あなた……は……! 」
06に翼で支えてもらいながら立ち上がれたけど、思った以上にダメージが大きいかもしれない。さっきはAC型一体だったから難なく倒せたけど、あの体の奥深くまで響いてくるような衝撃は……、少なくともAC型ではないと思う。おまけにAB型の私でもこの有様だから、仮に洗脳された幹部役員だとしても、ココまでの威力はでないと思う。それで息を吸うたびに襲ってくる激痛で歪めながらも正面に目を向けると、そこには――
「……ホム……クス……」
「えっ、このランクルスって……」
潜入していた私を捕らえ、改造するよう指示した因縁の相手。隣にもう一人ジャラランガが腕を組んで舌打ちしてるけど、彼はこの間逃がした私に一泡吹かせ、満足そうににやりと笑みを浮かべている。
「フッ。リツ……いや今はAB588か。どうだ、コイツの一撃は」
「……流石に……ケホッ……堪えたわね……」
「いいザマだな。……その翼、SE06か。01といい02といい、貴様等試験機如きに何が出来る? 」
「リツァさんと01から全部聞いたよ。そんなの、やってみなきゃ分からないでしょ」
勝ち誇ったように言い放つホムクスは、右目をつり上げながら私を煽ってくる。洗脳されてるとはいえ隠す事なく本性をさらけ出してる彼は、その後高笑いを上げ、血を吐き咳き込む私にこう語りかけてくる。……やっぱり何度見てもこの笑みは腹が立ってくるけど、油断してた私にも非があると思ってる。隣のジャラランガには見覚えが無いけど……。
で、例のジャラランガに対しては、ほぼ無傷の06が言い返してくれる。彼には私達が“ルヴァン”に攻め入った理由、ここの本質や正体を包み隠さず話してあるから、完全に私達の側に引き込めてる。でもそれは彼が06だったからで、もし04とか05だったら、味方になってくれずに今この瞬間に寝返ってたかもしれない。
「06、所詮貴様も02の後継機か。まぁいい。AA078」
「だ、か、ら、俺はリヴァナっつぅてるだろ! ……チッ……、聞いちゃいねぇか……」
『えっ、AA型? リツァ! さっ、流石にマズ、いよ! 』
「……」
今になってやっと脇腹の痛みが引いてきたけど、ホムクスは余裕といった感じでジャラランガの彼に指示を飛ばす。最初は彼も洗脳された役員か、“狂化”処理される前のAB型かと思ってたけど、それは悪い意味で外れてしまう。ホムクスの影に隠れて全部は見えなかったけど、生えてる尻尾の角度から予想すると、ジャラランガの彼の尻尾は三本じゃなくて四本。すぐに型番を言ってくれたけど、彼は私の上位互換、マリーとトゥワイス、06のベースにもなってる戦闘甲型。たった一発で戦闘兵器の私をここまで弱らせた意味がようやく分かりはしたけど、今はそんな事考えてる暇は一秒もないかもしれない。
だからって事で、裏でトゥワイスが凄く慌てた様子で声を荒らげてるけど
「トゥワイス、気刃の準備、しておいて」
『……えっ? リツァ、今何、て……』
そんな彼を無視して、こう呼びかける。それだけじゃなくて
「06。06はランクルスの方を頼んだわ。私がジャラランガ……、AA型を仕留めるから」
強敵二人から目を離さずに、味方のグレイシアに声をかける。本当は性能的にも06に四尾のジャラランガの相手をして欲しいところだけど、戦闘に巻き込んでる手前、そこまでしてもらう訳にもいかない。だからといって今ここで逃げると、“ルヴァン”の主力である戦闘甲型を野放しにすることになるし、折角見つけたホムクスを逃がす事にもなる。……少し前に“レコードクリスタル”を通して連絡が入ったけど、精鋭揃いの騎士団員達でも、怪我人が続出しているらしい。幸いトドメを刺される前に撤退できてるみたいだけど、半数以上が腕とか足を食い千切られたり、酷いと下半身を切り落とされて昏睡状態になってしまってる人もいるらしい。フィナルさんとかルミエール君達の情報はまだ何も入ってきてないけど……。こういう状況だから、AA型のジャラランガをここで倒さなければ、今以上に怪我人……、確実に死人も出てしまう。
「え……でも……」
「分かってるわ。だから06、トゥワイスも、先に06にはホムクスを気絶させてもらって、研究員の洗脳を解く。それまでの間私がAA型を食い止めるから、すぐに加勢して」
だからって事で思いつく限りの最善策を話してから、私は相手のAA型に一歩遅れて駆け出す。本当は06、それからトゥワイスの反応を待つべきだけど、手負いな上に相手はAA型だからそうも言ってられない。そんな中ジャラランガが大きく息を吸うのが見えたから、私も精神レベルを高めながら攻撃に備える。
「トゥワイス! 」
「三尾のクセに、
四尾の俺に叶うなんて思うんじゃねぇぞ! 」
「うっ、うん! くっ! 」
「うぅっ……」
彼に短く呼びかけてから、私は裏で控えているもう一人のエーフィに体を譲る。これは私だけ攻撃を避けるためじゃなくて、少しでも06がホムクスに近づきやすくするため。本当は攻撃される前に私が一撃加えても良いけど、距離があるから間に合わなそうだった。だからって事で、あらかじめトゥワイスには言ってあったから、彼の“気刃”で牽制する。
入れ替わってすぐに三本の尻尾で飛ばしてくれはしたけど、私の考えは失敗したかもしれない。視界の隅で06は動き出してくれはしていたけど、裏にいる私でさえ耳を覆いたくなるような爆音が私達に襲いかかってくる。咄嗟にトゥワイスは前足で耳を押さえてくれたから何とかなってると思うけど、彼が見てる視界で確認した限りでは、音の衝撃波で三つ叉の刃が三つとも打ち落とされてしまっていた。
『トゥワイス! 』
「死ねぃっ! 」
身がすくんでるの隙にジャラランガは一気に攻めてきたから、裏で控える私は慌てて彼に呼びかける。だけど彼はまだ怯みから立ち直れてないから――
「っ! 」
慌てて私が表に出て、力任せに耳を押さえていた前足で床を押し込み、その場から退避しようとする。だけど――
「っきゃぁぁぁっ! 」
相手はそれを見越していたのか、それをも上回った性能差で見切られていたのか……、どっちかは分からないけど、急接近した勢いを乗せて右足で蹴り上げてくる。それも06と同じ“気爪”を足に作りだした状態で、私を切り裂こうとしてくる。……正直言って間に合うか際どいタイミングだったけど、私の浅さかな望みはあっけなく崩れ去ってしまう。右に跳び退いたから青黒いエネルギー体の爪が私の右の前足に食い込み、私の体から切り離されてしまう。その途端尋常じゃ無い激痛が私に襲いかかり、意識を飛ばそうと狙ってくる。足を一本失って着地できなくて転げてしまったせいで、私は今度は自分の血で全身が真っ赤に染まってると思う。
「うぅぁぁっ……あぁぁぁっ……」
『リツァ! あっ、足が……! 今代わる、か――』
私はこの世の物とは思えないほどの激痛で悶えながら、左の前足で右足があった場所を鷲掴みにする。それで痛みが和らぐ訳じゃないけど……。……そもそも今こうして足を切り落とされてみると、自我が無かったとはいえ、こんなに酷い事を平気でしていたなんて……、自分で自分が怖くなってくる。もしかすると、途中で“狂化”処理が中断されてるとはいえなんとも思わなかったから、私も自我と精神が壊滅的な状態まで破壊されているのかもしれない。
「くぅっ……トゥワイ……ス……代わらない……で……」
『え……、でもリツァ? 僕の方が切、断される痛みに慣れ、てるから――』
「チッ……。外したか。三尾のクセにちょこまかと……」
普通ならこれで気絶しそうなものだけど、私も生物兵器だからなのか、ひと思いに意識を飛ばしてくれそうに無い。裏でトゥワイスがこう言ってくれてはいるけど、最初からトゥワイスじゃなくて私が戦ってさえいれば、私達は右前足を失わずに済んだと思う。だからトゥワイスは意識を活性化させて表に出てこようとしてるけど、私は蹲りながらも意識を鎮めていく。
「私……のミス……くあぁぁっ……っだから……」
「……何をブツブツと。さては命乞いか? んだけど俺様は聞き入れるほどの優男じゃねぇからな」
何とかトゥワイスを押しとどめる事は出来たけど、この感じだと多分、四尾のジャラランガが私の側まで来てしまってると思う。
「そういゃあ乙型は俺様より心臓が一個少ないんだってなぁ? 」
「くぅぁぁがぁっ……」
かと思うと甲型の彼は、多分右手に“気爪”を作りだし思いっきり私の背中に突き立てる。ぐしゃりと肉と骨が潰れる音がしたような気がするけど、何かもう……、痛いのか何なのか分からなくなってきてる……。この感じは多分、初めてだから分からないけど、三つあるうちの一つの心臓が潰されたと思う。
多分血まみれになってる右手を私から引き抜いた彼は――
「だけどよぅ? 二回までなら死ねるんだ。殺る側の俺も三倍楽しめるってもんだ」
「っあがぁぅっ……」
『何で……、何でリツァ! 代わってくれ、ないの……! このまま、じゃあリツァ! いくら心臓、が三つあって、も、命が足り、ないよ! 』
すぐにもう一度、ほんの少しずれた私の背中を派手に抉る。多分私の体には大穴が開いてると思うけど、それでも私をあの世へと旅立たせてくれそうにない……。よく考えたらまだ一つの心臓は動いてるから、二回屠られたとはいえ、生きてる事に変わりない。
「これで二つ目。さぁ三尾のエーフィ。次で最期だ。何か言い残す事はねぇか? 」
『ほんと、何考えて、るの? 足とか耳ぐらいなら三日、もあればまた生え、てくるけど、心臓はそう簡単に、は治らない、んだよ? そもそ、も三つとも潰すされ、たら、いくら生物兵器、でも、もう二度と戻せ、ない! 』
それならいっそのこと――
『その事は、知って、るよね? な――』
「……っぁぅうあぁぁぁっ! 」
体がバラバラになってでも、命に代えてでも、この戦闘甲型の生物兵器を、止める。そのために私はなけなしの意識を無理矢理つなぎ止め、暴れ出したい衝動を増幅させる。中途半端な“狂化”を発動サセて――
「っくぅっ! 」
力任せニ三本の尻尾、全テを振り上ゲル。流石に相手モ想定外ダッタらしク、確カニ尻尾ニ手応エガアッタ。“狂化”サセタカラ痛ミハ感じナクナッテキタカラ――
「うぅあぁぁッ……。アナタを……グルルゥッ……倒ス……! 」
三本ノ足デ立ち上がル。足ガ一本足リナイカラバランスガ取リニクイケド、今ハソンナ事、ドウデモイイ……。タダ目の前ノ獲物サエ仕留めラレレバ、ソレデ十分……。
「ッ痛いじゃねぇか……。“狂化”したところで、俺様に勝てると思うな! 」
『そっ、そんな体で“狂化”したら……! 』
体ニポッカリト空イタ穴、切断サレタ右前足カラ、大量ノ赤イ液体ガ流れ出ル。
「ゥガァァァッ! アガァァァッ」
三本ノ足ニ力ヲ込め、床ニ紅イ線ヲ描きナガラ甲型ヲ追撃スル。起キ上ガリ両手を構エタ敵機ニ、私ハ勢イヨク跳びカカル……。
『止めて……頼むから、もうやめ、てよ! リツァ! お願いだから! 』
「チッ……」
ソノ勢いヲ乗せナガラアイアンテールヲ発動サセ、三本ノ尻尾ヲ思イッキリ振りかざす。
「グるァッ? ガァッ! コレデ……ドウ……? 」
何カ尻尾ノ一本ガチクリト痛んだ気ガスルケド、ソンナ事私ガ気ニスルコトジャナイ。タダ相手の肉ヲ裂き食ラエサエスレバ、私ハソレダケデ十分。私ハ生物兵器ナンダカラ、戦イ殺メレサエスレバ、他ニ何もイラナイ――。
「……三尾如きに、右腕をやられたか……」
「グルルルゥッ」
「んだが二尾になって言葉も忘れたか? 」
『リツァ! ……だめ、だ……。完全に暴走……してる……』
獲物ハ右腕ヲ庇いハジメタカラ、多少のダメージは与えラレタト思う。ダケドタダ腕ヲ破壊シタダケジャア……マダマダタリナイ……。
「ゥガァァァ! アァッ……! 」
「ぐぅっ……。このエーフィ……本当に乙型……なのか……くぁっ……」
もう一度尻尾ヲ叩きツケテ噛みツイタラ、今度は尻尾ヲ一本喰い遅千切れた――。ダカラ立て続ケニ、足ニモ食らいツイタケド……、今度は私ノ尻尾ガ一本切り離サレタ。
『そうなると、“狂化”が終わらない、と、リツァは止まらない、のかな……。……だけど次、僕の尻尾、を切り落とされたら、流石に……』
「ゥアァァッ! ガルルルゥゥッ……」
「……んだが尻尾は一本まで減らせた。心臓もあと一つ潰せば破壊できる……。チッ……、甲型の俺様が乙型如きに尻尾食い千切られるとはな。フッ、無様だな」
ケドマダ動ケル。尻尾一本無クナッタグライデ、何も変ワラナイ。タダタダ奴ヲ殺めル――。ソレダケ……。
『……そうだ。このジャラランガを眠らせて、僕が入れ替われば……! 』
「……だが面白い。こうなりゃあとことんやってやるぁっ! 」
「ゥグルァァッ? 」
左前足マデ持ッテカレタ……。コレジャア、殺ロウニモ、殺レナイワネ……。
『左まで切り落、とされた……。だけど仰向け、にされた今なら……っ! 』
「これで……っんな? 何……が……」
「グルルル……」
……? 死ンダ? ナラ……次ソコのグレイシアカシラネ――。ケド……コレジャア歩ケナイ……。マサカ切り落トサレタラコウナルナ――ッ?
『今なら……! リツァ……! リツァは僕、が止める! だから待っ、てて! 今助け、るから! 』
ナ……何? 意識……ガ――
―・―・―・―
『――今助け、るから!』
僕は何とかして止めよう、とはしたけど、“狂化”したリツァは全然止まってくれなかった。何回呼びかけても答えてくれ、なかったから、自我まで呑まれ、てしまってる、と思う。そのせいなのかリツァ、は、生えてる三本の尻尾のうち、僕の以外切り落とされても、全然気、にしてなかったし、前足が両方無くなっ、ても全然止まってはくれなかった。
だから僕は最後の手段、として、“催眠”で甲型のジャラランガを強制的に眠らせる。偶々仰向けに転がった、から何とかなった、けど、もしそうじゃ、なかったら、僕もリツァ、も、本当の意味で殺されていたと思う。それで狙う相手がいなくな、って気がそれてる隙に、僕は今度こそ意識を活性化させ、暴走した殺戮兵器から体、を取り戻す。
「……くぅぁっ……っ! ……何……とか……。リツァ……? 」
『……』
すると無事成功したらしく、全身に激烈な痛みが襲いかかってくる。多分普通の人なら絶叫し、て悶えてると思、うけど、このぐらいなら、生来てる間毎日のようにされてた。だから慣れ、てるといえば慣れてるけど、久しぶりすぎて、僕は思わず声、をあげてしまう。だけど僕、が表にはでれた、から、これで暴走したりツァ、は止まってくれたと思う。試しに呼びかけ、てみたけど、裏から彼女の声、が返ってくる事は無、かった。
続く