絆と魔法の王国〜Encore La Vie〜










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第五・五章 討たれる前に
第十七話 潜入開始
 あれからどのくらい時間が経ったんだろう……。

 真っ暗で体が動かないせいで……。

 全然分からない……。

 何故か耳だけは聞こえるようになってるけど……。

 これじゃあ眠ってるのと……。

 同じだよね……。

 「フロル、今日騎士団で――」

 ドロップ、きみだけが……。

 この真っ暗な世界に音をくれる……。

 「――大きな任務があるみたいなんだ」

 だからドロップ、きみのお陰で何とか……。

 おかしくならずに済んでる……。

 「それでフロル。この作戦が成功したら、フロルが元に戻るかもしれないんだ」

 ……えっ?





――




 「よし、全員揃ってるな」
 あれから結構な時間が経ち、私達は目的地の“ルヴァン”に向かう。タダチさんと合流してからは凄く忙しくて、時間があっという間に過ぎていった。まず私達情報屋との三人だけで、作戦での段取りの打ち合わせ。タダチさんと行動する事は無いけど、彼の裏で行動する訳だから、入念に口裏を合わせておかないといけない。タダチさんの今回の予定では、顔バレしてない“騎士団”長の一人と深夜に訪問し、ある程度監視の目を緩めてもらう。建前上は政府の工場の視察って言う事になってるから、流石の上層部も彼を洗脳して“ルヴァン”に取り込む事は無いと思う。もしそうなったとしても、同行している役人役の団長さんが止めに入ってくれる事になってる。……だから私達が気にする事はないかもしれないわね。……それで私達の方は、リフェリス、ウールの三人で、潜入する“騎士団員”達を中に案内する。普通の情報屋の二人は研究区画には入らないけど、私は置きっぱなしになってる荷物を回収してから、一歩遅れて地下に降りる。洗脳している上層部はもちろんだけど、戦わせられる生物兵器……、団長達の手に負えない“戦闘乙型”の殲滅をするのが私の役目。“狂化”が四十五パーセントで止まってる私の方が凶暴性、殺傷能力に劣るけど、その代わりに自我とトゥワイスの“探査型”としての能力がある。私の能力でトゥワイスと入れ替われば、遠距離攻撃と近距離攻撃を入れ替えれる。私のアイアンテールがどこまで同型に通用するかは分からないけど、最初から生物兵器として作られたトゥワイスの“気刃”は期待してもいいと思う。“催眠”で眠らせたら早いんじゃないの、って言われたら何も言い返せないけど……。
 それでフィナルさんとは別の団長さんと引率していた私は、“ルヴァン”の守衛小屋の前で立ち止まる。今はタダチさんの勧めで右目は眼帯で隠してるけど、私は引率している八人……、マリー達の方に振り返り、全員に目を向ける。私はマリーとルミエール君しか面識が無いけど、一応他の人のランクと所属ぐらいは覚えてきたつもり。もちろん口外するつもりは無いけど、多分どれが誰なのかは当てられると思う。
 「これより作戦を開始するが、“キルトノ”でも伝えたとおり、ここからは彼女に託す。リツァ、頼んだ」
 と適当に八人に呼びかけた団長さんは、早々に挨拶を切り上げて私にこの場を任せてくる。こうして人前で話すのは緊張するけど、今回の任務は私のためでもあるから、そうはいってられない。早鐘を打つ鼓動を何とか抑えながらも、私は一歩前に出る。
 『リツァ、いよいよ、だね』
 「ええ。……紹介にあずかった、情報屋のリツァ。“騎士団”のあなた達なら、例の件で名前ぐらいは聞いた事があるかもしれないわね」
 団長さんとほぼ同じタイミングでトゥワイスも話しかけてきたから、私は二人に対し、こくりと頷いて返事する。一応“騎士団”のメンバーは私も生物兵器だ、ってことは知ってくれてはいるけど、流石に私の中にもうひとり……、トゥワイスがいるって事はマリーとルミエール君以外知らないと思う。だから本当はトゥワイスに直接返事したかったけど、そうする訳にいかないから、それとなく団長さんの方と兼ねてみた。それでこうして正式に“騎士団員”の前で話すのは初めてだから、私は簡単に自己紹介する。三本ある尻尾も紐で縛ってるからパット見普通のエーフィに見えるかもしれないけど、生憎私はエーフィを辞めさせられてる。だからいつもならエーフィだ、って事も言ってるけど、そうじゃないからそこだけは省いた。
 『リツァ? ちょっと前から思ってた、んだけど、街から出た、から、もう外してもいい、んじゃない? 』
 と私もここまでうっかりしてたけど、トゥワイスが眼帯と尻尾の事を気づかせてくれる。私はこの場を仕切る事で頭が一杯だったから、凄く助かった。そういう事もあり、私は心の中で彼にお礼を言いながら
 「……と、街から離れたから、もう隠す必要もなさそうね」
 テレキネシスで浮かせるようにして、右目の眼帯を外す。同時に尻尾を縛ってる二本の紐もほどき、少し振って感覚を確かめる。何時間も縛りっぱなしだったから少し筋肉がこわばってるけど、三本とも、全部を別々に振ったら、何とか解消できた。普段ならもう少しかかりそうな気がするけど、これも生物兵器として異常なぐらい治癒力が高められているからなのかもしれない。
 私の尻尾が三本も生えてるからマリー達以外はどよめいたけど、緑色の右目でも八人を見ながら、私は話を進めていく。
 「改めて言わせてもらうけど、見ての通り私は“ルヴァン”に捕まって生物兵器に改造された。中途半端な状態で抜け出した失敗作だけど、それでも他人を簡単に殺めてしまう事もあるかもしれないわ」
 中途半端な状態で終わらせたつもりは無いけど、私は三本の尻尾を見せながら、“戦闘乙型”としての自分の紹介をする。多分乙型とかそういう事を言っても伝わらないと思うから、敢えて簡単な事だけどこの場で伝える。周りは真っ暗で殆ど何も見えないけど、“ラクシア”で配られたらしいファルツェアさんの“レコードクリスタル”の光で照らされてるから、顔だけはしっかりと見る事が出来る。
 それと自己紹介ではこんな風にぼかしたけど、生物兵器の私は、簡単に誰かを殺める事が出来る。もちろん私にそんなつもりは全くないけど、いつも通りアイアンテールで攻撃したら、軽くても普通の人相手なら、前足とか背骨を簡単にへし折ってしまうと思う。
 「だから、リツァじゃなくて私の機体番号、“AB588”って呼んでくれても構わないわ。……それで今回の作戦だけど、訊いての通り戦闘は避けられない。研究員なら戦ってもらっても構わないけど、型に限らず生物兵器に出逢ったら、彼か私に一報を入れてから、すぐに逃げて」
 それに私が直接組み合って試した訳じゃ無いけど、ファルツェアさんが前に対峙してるから、その事を元に伝えてみる。ファルツェアさんとフィナルさんはマリーを鳩首しに潜入した時、“戦闘丙型”を戦った、って言ってた。だけどフィナルさんが言うには、“AC型”でも簡単には倒せなかった、って言っていた。今回は顔バレしてるからって事で参加してないけど、フィナルさんでも苦戦したって事は、他の団員達なら尚更勝てそうもない。私が同行しているB班の団長さんは、私の調査不足でどのくらい戦えるか分からないけど……。
 「以上だけど、質問はあるかしら? 無さそうだから、そろそろ行きましょ」
 それで最終確認も済ませたから、私は一応、マリー達を含めた八人に問いかけてみる。こういうときって質問しづらい空気になるけど、もしかすると本当に質問したい人がいるかもしれないから、最低限訊かないといけない。だけど私の予想通り、私の目で見える範囲では誰も手とか前足を挙げていない。だから私は一度団長さんに目で合図を送り、視線を前に戻す。
 「入り口まで案内するから、ついてきて」
 そして私が先頭に立って歩き始め、まずは目の前に見えている守衛棟の前まで案内する。だけど当然、私達はこのままでは通れない。建前上私達は夜中に訪問する事になってるけど、それはタダチさんと他の団長さんの二人だけ。だから当然私達は、敷地内に案内されるどころか近寄る事さえ許されてない。だけど守衛に声をかける事ぐらいは出来るから、私は緑色の右目を見せたまま、守衛室の中をのぞき込む。
 「すみません、ちょっといいかしら? 」
 するとそこには、眠そうに目を擦る一人のコロトック。彼は昼勤か夜勤務のどっちかは分からないけど、時間的に考えると夜勤の終盤かもしれない。
 「ん? こんな時間に珍しい。国の役人なら“一課棟”のはずだけど――」
 すると当然私に呼ばれた彼は、気怠そうに私がいる窓際の方まで歩いてくる。確か私が初めて来た時はアーマルドだったような気がするから、もしかするとその人と交代で見張ってるのかもしれない。その彼は私を見るなり不審そうに問いかけてから、側に置いてあるらしい名簿のような者に視線を落とし……、てると思う。
 「……トゥワイス、準備は良いわね? 」
 彼が余所を向いている間に、私は小声で、裏にいる彼に呼びかける。街を出る前に彼を作戦は練ってあるから
 『うん、僕はいつでもいけ、るよ』
 すぐに彼の声が響いてきた。もし彼が目の前にいたら、多分大きく頷き任せて、と張り切っていると思う。
 すると確認できたらしくコロトックが視線を上げたから
 「ええ、知ってるわ」
 「――っ! 」
 彼を目を合わせ、トゥワイスが能力を使うのを待つ。すぐに目に意識が集中するような感覚に包まれたから、彼が私の裏で“催眠”を使ったと感じる事が出来た。その証拠に目の前のコロトックは、すーっと力が抜けるように眠りに落ちた。こんな風にさりげなく相手を眠らせたりするのは悪役っぽいけど、潜入っぽくて少し憧れたりもしてた。小説の読み過ぎ、って言われたら何も言い返せないけど、よく考えたら、こういうのって“探査型”のトゥワイスらしい事なような気がする。私の勝手なイメージでしか無いけど、“探査型”だから今みたいな潜入とか、誰かを探したりするために作られてるんだと思う。だから彼の“催眠”とか、マリーの変装って言う意味での“自由進退化”が研究されているのかもしれない。……命を粗末に扱ってる、非人道的な研究だけど……。
 「さっ、行きましょ」
 それで監視の目もなくす事が出来たから、私は待たせていた団員達にこう呼びかける。ぱっと見た感じだとマリーとルミエール君以外唖然としてるけど、これは多分、今に始まった事じゃないと思う。
 『そういえばリツァ? 』
 「ん? なに? 』
 それで門の脇の小さなゲートか忍び込んで、私達十人は“ルヴァン”の敷地への侵入に成功する。不法侵入みたいで罪悪感があるけど、それに相応……、いや、それ以上の事を“ルヴァン”にはされてる。罪の重さで天秤にかけるつもりは無いけど、私を捕らえて生物兵器に改造してるし、“ラクシア”の街も壊滅的に破壊してる。それにフロルの事でそんか気がしてるけど、定期的に一般の人を拉致、監禁、挙げ句の果てに腕とか尻尾を切り落としたり、私みたいに兵器に改造したりもしている……。……けど改造されてなかったらトゥワイスとは出逢えてなかったから、私に限っては、悪い事ばかりじゃないんだけど……。
 『僕の故郷、って、この研究所なの、かな? 』
 で私が潜入してた“三課棟”まではしばらく歩く事になるから、その間にトゥワイスが話しかけてきた。一応私は団長さんに話しかけようかと思ってたけど、彼の事を知らなさすぎてどう話しかけようか困ってた。だからここだけの話、裏にいるエーフィの彼には少し感謝してる。その彼はずっと気になってたのか、こんな事を訊いてきた。
 「どうなのかしら? トゥワイスって生きてる時、“ルヴァン”から出た事無かったのよね? 」
 『うん。外から連れてこられた人から、聞いてはいた、けど、リツァと出逢ったあの日が、初めてだよ』
 「あの日よね? 」
 『そう、だよ。だから僕って生まれた、のも死んだのも、研究室の中、なんだね』
 「そうなるわね」
 そういえば私も聞かれるまで考えた事無かったけど、彼は人工的に作られた命だけど、見方を変えたらここで生まれた事になる。確か“ルヴァン”の地下、更に深いどこかにある“生産課”で作られた、って言ってたけど、そういう事なら“生産課”が彼、それからマリーの故郷なんだと思う。
 「ここがそうだな? 」
 「ええ」
 と離している間に通用口に着き、後ろを歩く団長さんが私に尋ねてくる。流石にもう暗闇に目が多少離れたけど、首元に提げている“レコードクリスタル”で照らしてみると、そこにはごく普通の扉が一つ。セキュリティカードで管理されてるから、カードが無いと絶対に入る事が出来ない。……だけど社員として潜入していた私は、その限りじゃない。私がホムクスに捕まった日、その二日前にファルツェアさんから“魔法”を教わってなかったら、多分今回の作戦自体、決行されなかったかもしれない。これは一昨日シャサから聞いた事だけど、私のセキュリティカードが“ルヴァン”内に無いから、私のセキュリティカードを無効化する処理が出来ていないらしい。そのシャサのカード自体も気になるけど、コレも多分大丈夫。私が今日の任務で荷物を回収する、って言ったら、シャサの荷物も取ってきて欲しい、って頼まれた。だから今は“収納魔法”で見えないところに仕舞ってあるけど、シャサのカードも預かってきてる。捕まる前の自由時間に部屋で会ったりもしてたから、シャサの居住スペースも把握してる。だからその分私の体は重くなるけど、きっとなんとかなるわね。
 「リフェリス、ウール、こっちは着いたわ。二人は? 」
 それで進入口の前に着いたから、私は一度、クリスタルを握って通話を試みる。私が話したい相手、情報屋仲間のオオスバメとチルタリスのことを思い浮かべると
 『俺は五分前には配置についてるよ』
 『僕は三分前だね』
 トゥワイスとは少し違う感じで、二人の声が頭の中に響き渡る。発明したファルツェアさんの話によると、クリスタルを通して魔法が作動し、その効果で声とか画像のやりとりが出来るらしい。
 「そう。なら私達が最後だったのね」
 『いいや、私が最後だ。リフェリスには伝えたが、今扉を破壊し、制御盤を確認したところだ』
 すると私達に連絡を取ろうとしていたのか、元騎士団長のフライゴンの声も聞こえてきた。多分彼が一番時間がかかるような気がしたけど、私とほぼ変わらない辺り、流石だと思う。彼は単独で敷地内に侵入し、私達が前室に入ってから、制御盤を破壊して停電を起こす事になってる。
 『ってことは、全員揃っていつでも侵入できるって事だね? 』
 『そのようだな。……私はあと一つ準備があるが、三人は前室への侵入を開始してくれたまえ』
 「ええ。ファルツェアさんも、準備できたみたいね」
 まだ完全には準備し終わってないみたいだけど、この感じだとすぐに完了するのかもしれない。
 「じゃあ……、“Rehydle”」
 だからって事で私は、例の呪文を唱えてセキュリティカードを出現させる。紐を首に提げた状態で仕舞ったから、そっくりそのままの状態で姿を表す。すぐに私はソレをテレキネシスで浮かせ、扉横の認証端末にカードをかざす。ピッっていう音がしたから、これで扉のロックの解除は成功。私のカードの権限が生きてる事も確認できたから、私達は足を忍ばせ、小さな前室へと足を踏み入れた。




  続く

Lien ( 2019/09/15(日) 22:20 )