Des Pluie Deuxieme 独特な空気
Sideユリン
『やっぱりジム、閉まってたねぇー』
「うん。カナちゃんからきいてはいたけどまさかほんとうにしまってるなんておもわなかったよ」
―――一度はトレーナーに捨てられ、一日で絶望の底に突き落とされた私。前のトレーナーから酷い事をされ続けてたから、捨てられて内心ホッとしたのもあった。一度は信頼して、ついて行こうと思った相手。いくら仲間からも酷い事をされても、いつかは良くなる、そう信じていたから…。そう信じていた中で捨てられたから、もちろんショックも尋常じゃなかった。だから、私はたった一日…、いや、一時間足らずで、自分以外の誰も信じられなくなっていた。私の事をゴミ屑の様に捨てた人間はもちろん、私以外のポケモンも…。
そんな中、その私は同じ日、今日に新人トレーナーに拾われた、出逢いは最悪だったけど…。捨てられてボロボロだった私を手当てしてくれた彼らに、私は攻撃してしまった。しちゃったけど、それでも彼らは私をなだめてくれた。…正直、私は驚いたよ。普通、野生のポケモンに攻撃されたら、それに抗ってくるのが普通。でも彼ら…、いや、新しく私のトレーナーになったエレンは、そうじゃなかった。だって、私に対して攻撃の指示をしなかったのは、もちろんそう。でもエレンは、取り乱す私を、言葉でなだめようとしてくれた。それだけならよくある事だけど、エレンは、私達と同じ、ポケモンの姿になっていた。しかも、私の故郷のシンオウ地方でよく見かけたブイゼル。人間がポケモンになるなんて聞いた事なかったから、目を疑ったよ…。その後で聴いた事だけど、仲間のニドラン♂、ニドから聞いた事だけど、エレンはカントーの伝説に関わってるらしい。しかもそれにちょっとだけ首を突っ込んだとか、そういうのじゃなくて、当事者。その関係で、エレンはポケモンになれるみたい。ポケモンになれるから、人間の姿でも私達の言葉が分かる。だから、私の事とか聞いてもらえて、凄く良くしてもらってる…。
私、エレンとニドと一緒なら、何とかやっていけるかも―――
この一日であった事を回想していた私は、何となくふたりの会話を聞く。ジョウトに着いた数時間前からは考えられないような気持に満たされながら、こんな事を考えていた。
今私達がいるのは、ジョウトの観光地としても有名な、キキョウシティ。ジムもあるみたいで、エレン達は挑戦するために来たらしい。それだけじゃなくて、ここに来たのは、トレーナーカードを受けとる為でもある。でもそれは明日みたい。
―――トレーナーカードが無いと、ジムに挑戦出来ないと思うんだけど―――
そう思って行ったんだけど、運悪く今日のジムは休み。今日はジムに挑戦するつもりだったから、結局する事が無くなって、今に至る、って感じかな。
『知ってたなら、何で行ったの』
―――その、カナ、って人から聴いてたなら、わざわざジムに行く必要なんて無かったよね―――
そう疑問に思った私は、すぐに彼の方を見上げる。私達の言葉が理解できる彼に、直接こう訊ねた。
「ごめんごめん。はやくちょうせんしたくてそのことわすれちゃってたんだよ」
『忘れてたって、どれだけ挑戦したかったの…』
『エレンは昔からせっかちだからねぇー、したい事があると、つい忘れちゃうんだよぉー』
―――確かにその気持ちも分かるけど、大事な事を忘れるのも、ちょっとね―――
私の問いに、エレンは軽ーくこう答える。相変わらず早口で聞き取りにくかったけど、彼はあっけらかんに笑い飛ばしていた。
その彼に、私は思わずため息を一つ、ついてしまう。まだ出会ってから数時間しか経ってないけど、呆れにも似た気持ちで、こう言う事しか出来なかった。
一方のニドは、彼とは正反対に、のんびりとこう呟く。早口なエレンを特に気にしている様子は無く、自分のペースでついて行っていた。
―――まだそこまで深くは知らないけど、エレンとニドって、真逆だよね。凄くせっかちなのと、凄くのんびりしてるのって…。バランスが取れてるって言えば、そうなるんだけど―――
『でもいつもの事だから、気にしないでー』
『うっ、うん』
その彼は気に留める事なく、のほほーんとした様子でこう言う。心なしか、私達の傍を通り抜けていく風が、少しだけ暖かくなったような気がした。
小さい時から一緒だったっていう彼らの、独特な雰囲気に、私はなかなかついていけなかった。そのためニドの言葉に、私は空返事しかできなかった。
―――一言で言うなら、見知らぬ世界に迷い込んだ、って感じかな? 馴染むのにどれだけ時間がかかるか分からないけど…。それにしても、もうひとりのメンバーの彼は、どうやって馴染んだんだろう…。みんな私よりも五歳ぐらい年上、っていうのもあるけど、気になるよ―――
―――
Sideユリン
「ねぇきみ、君も、トレーナーだよね」
「えっうん」
所変わって、今私達がいるのは、キキョウシティの南側。ちょうどセンターとかがあるあたり。あれから私達は、時間が出来たから技の特訓をしよう、ってことになった。町のなかでするのもアレだから、って事で、広い場所がある三十番道路に向かっていた。
他愛の無い雑談をしながらその方へ歩いていると、私達の真ん中を陣取っていたエレンに、誰かが話しかけてきた。内心ビックリしながらその方に振り返ると、そこには三人の女の子たち…。そのうちの一人が、様子を伺う様に話しかけてくる、その瞬間だった。
突然話しかけられたけど、エレンは私と違ってビックリしなかったらしい。でも短くこう言いながら、不思議そうにその方へ振り返っていた。
「なら、私とバトルしてくれる」
その彼女は、エレンがトレーナーだと分かると、こう頼んでくる。その目は力強く、自信…、いや、自信じゃなくて、何か強い決意を含んでいる。下から見上げる私には、そう見えたような気がした。
「うんオイラでよかったら。オイラもちょうどだれかとたたかいたかったんだよ」
「本当に? やったー! 」
その彼女は、あまりにも早すぎるエレンの口調にビックリしていたけど、何とか聴きとれたみたい。ニ、三拍置いてから、うれしそうにとびあがっていた。
―――前のトレーナーの時は自信が無かったけど、今なら、いけそうな気がする…。私もちょうど戦いたかったし―――
「せっかくだしトリプルバトルにしない? さんにんいるんだし」
「えっ、わっ、わたしたちも? 」
「うん」
「でも君って、二匹しかポケモン持ってないよね」
『エレン、トリプルバトルって事は…』
何を思ったのか分からないけど、エレンはその三人にこう提案する。当然申し込んだ彼女、残りの二人、てっきりシングルバトルをするものだと思っていた私も、驚きで声を荒らげる。いかにも学級委員長、っていう感じの彼女が、わたし、それからニドの事を見るなり、こう呟いていた。
―――トリプルバトル、って事は、そう言う事だよね―――
そのすぐ後に、私はこう悟る。エレンが何でこう考えたのかは分からないけど、トリプルバトルが意味する事だけは、理解する事ができた。
「ボールからだしているメンバーはね」
『でもエレン、出しちゃっていいの』
「ボールから、出している? 」
「うん。ニアロもたまにはトレーナーのメンバーともたたいたいっていってたし」
『カントーではいつも出てたし、問題ないと思うよぉー』
―――問題ないって、ニアロなら大問題なんだけど! ―――
どっちに答えたのかは分からないけど、たぶんエレンは二つの意味で頷く。空いている左手を腰のベルトの方へ伸ばしながら、私に向けてこう呟く。いつもの事、っていう感じで気にも留める事なく、自然な動きでそれを手に取っていた。
―――ニアロは、シンオウ出身の私でも分かる、そう言う種族だから、ちょっと考え直した方が…―――
平然とそうする彼を、私はそう言って止めようとした。止めようとしたけど、言いはじめる前に、彼はそのメンバーをボールから出していた。
そのボールから出てきた彼の種族は…。
Continue……