Seize 議論からの説得
Sideライト
『ライト、これはタダの火災ではなさそうだな』
『…そうみたいだね』
駆けるラグナを背中に乗せたわたしは、黒煙が治まりつつある塔、マダツボミの塔の天守閣を目指す。青い空を目指すように高度を上げ、同時に中の様子を確認する。わたしの背中にしがみついているラグナも、同じことをしていたらしく、こう口を開く。神妙な様子でこう語り、わたしの意見も伺うのだった。
『柱とか壁でよく見えないから何とも言えないけど、この時間帯の塔にしては騒がしい気がする。時期的に修学旅行とか、そう言うのは考えられないし…』
これが夏とか秋なら、団体で来ててもおかしくないけど、今は春。しかも、まだ始業前だから、尚更だね…。限られた情報だけで推測したわたしは、彼の言葉にこう答える。あと数メートルまで迫った天守閣に目を向け、さらにこう考える。
『仮に火災だとしても、俺達で鎮火させるのは無理だ。せめて、中の観光客を外に誘導する、それだけだな』
だよね…。わたしが冷凍ビームで氷を作って、ティルに溶かしてもらう、っていう手もあるけど、それだと効率が悪すぎる…。だから、とにかく今は、中の人を避難させるのが最優先だね。
『うん』
確かにその通りだよ。彼の分析に納得し、わたしは頷く。その頃には、わたしの高度は目的の天守閣まで達していた。中が騒がしいのは、きっとこの火災で逃げまどっているからだろう。そう結論をだしたわたしは、天守閣の窓と高度を合わせるように、反時計回りに旋回する。翼をたたんで滑空し、突入する体勢に入った。
『ラグナ、いく…』
『ライト、まだ待ってくれ』
『えっ? 待つって、何で』
いくよ、だから、しっかり掴まってて! そう言おうとしたけど、言い切る前にラグナに遮られてしまった。彼はまるで、今は行くべきじゃない、そう言うかのように、わたしを制止させるのだった。
それにわたしは、慌てて急停止する。その場で浮遊しながら振り返り、疑問符を浮かべながらその真意を問いただした。
『匂いを探って分かった事だが、これは恐らく、自爆の煙だ』
『じっ、自爆? でも何で自爆を発動させる必要が…』
自爆の? バトルだったとしても、そこまでして勝ちにこだわる必要がある? いや、そもそも、こういう木造の建物の中では、炎タイプとか、爆発するような技を使うのは禁止になっているはず。だったら、何故…? 考えられるとしたら、自爆を使わざるを得ない状況になった…。普通に考えると、そのくらいしか思い浮かばない。でも、これはまずあり得ない。自爆を使うぐらいだから、どこかに閉じ込められた…。そのレベルじゃないと使わない。そもそも、自爆は、使ったら戦闘不能になっちゃうから、好んで使うトレーナーなんて、滅多にいない。第一に、今日旅立ったばかりだ、っていうカナちゃんのメンバーが、自爆を使える段階に達しているはずがない。もっと言えば、メンバーのイーブイとポッポ、両方とも、自爆を覚える事ができない…。
っていう事は、自爆を発動させたのは、カナちゃん以外の誰かのメンバー、って事になる。常識的に考えると、ここで使うはずがない。だとしたら、こう考えるしか…。
『ラグナ、まさか…』
彼の言葉で、わたしは短い時間でこう思考を巡らせる。案を挙げては否定し、別の可能性を考えては取り下げる…。その繰り返しで、自分なりの答えを導き出していく。その結果、何とかそこに辿りつくことが出来た。出来たけど、それは決して良いものではなかった。
だから、わたしは恐る恐る、それを口にし始める。できれば、そうであって欲しくない、そう、願いながら…。
『“プライズ”か“プロテージ”、どっちかの仕業…』
『そうでなければ、救出して、ラフが出てきていてもいいはずだ。だが、まだ中…。そう考えるのが、自然…だ』
やっぱり、そうなるよね…。彼の発言で、わたしの結論は、悪い意味で確信に変わってしまう。それはラグナも同じだったらしく、チーゴの実を何十個も食べ終えた直後のような表情をしている。こう考えざるを得ない、そい言いたそうに、言の葉を絞り出していた。
『なら、すぐにでも助けに…』
『だからライト、待つんだ! 』
『待つ? 待ってられないよ! “エクワイル”として、助けに…』
『“エクワイル”以前に、ライト、お前は伝説の種族…。ジョウトにもラティアスとラティオス、両方がいる可能性がある以上、ライトも捕獲対象になる可能性が高い。よく考えてみろ、“プライズ”と“プロテージ”、どちらも密猟組織。“グリ―ス”がそうであったように、目的の為なら手段を選ばない。予定を変えて、ライトを捕まえようとするのは目に見えているだろぅ? 』
『たっ、確かに、言われてみれば』
ひたすらわたしをいかせまいとするラグナに、わたしは猛反論。でもそれは、吐き捨てるように説得する彼に遮られてしまった。
その彼は、おそらく焦りながら根拠を挙げていく。でもそれを表には出さず、続けていく。わたし達に加わる以前…、三年半ほど前まで、今は解散した密猟組織の幹部のパートナーだった彼…。それ故に、彼の言葉にはかなりの説得力があった。
彼の経歴を知るわたしは、この説得に反駁する事ができなかった。それどころか、筋の通った主張に、納得していたのだった。
『そうだろぅ? だからライト、お前は…』
『わたしはステルスで潜入して、敵を殲滅する。テレパシーで、気付かれないようにみんなに指示を出す…。それでいくよ』
わたしも対象になる可能性があるなら、姿さえ見せなければいい。折角わたしはラティアスなんだから、使わないと。同時に、わたしは“エクワイル”の一員でもある。わたしがいない今、イーブイを連れてるカナちゃんが狙われているに違いない。だから、それを阻止するためにも…。
今度はわたしが彼に割り込み、主張する。言うや否や、自らに言い聞かせ、意を決する。正面に視線を戻し、彼にこう呼びかけた。
『だがライ…、はぁ、これ以上言っても聞かないか…。…ライト、くれぐれも掴まるなよ』
『当たり前でしょ! 』
とうとう彼は、わたしの考えに折れてくれた。意気込むわたしにこう忠告し、彼も気持ちを切り替える。
当然わたしは、それに大きく頷く。その後すぐに加速し、彼を降ろすために目的地へと接近し始めた。
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