Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Deux Des Light〜草連の塔〜
Quinze 急げ!
Sideライト



 「…もしかすると、巻き込まれてるかもしれない」
 『その可能性は、十分高いな…』
 「…とにかく、すぐにティル達と合流して、いくよ。最悪な結果にならないためにも」
 技の調整の最中、塔から昇る黒煙を目撃したわたし達は、焦りながらもこう言葉を交わし合う。焦っているなりにある事を思い出したわたしは、その子の事を思い浮かべながら塔の天守閣に目を向ける。カナちゃん、どうか無事でいてよね! 届かないと分かっていながらも、わたしはそう心の中で叫ぶ。見る先をラグナとラフに戻し、わたしはすぐに現場…、の前に、ティルとテトラがいる二十メートル先に向けて走り始めるのだった。
 当然、わたしと同じ思いに駆られているふたりも、慌てて続く。最年長のラグナは、見た感じでは平生を保っている。流石ラグナ、とは思ったけど、やはり彼も相当慌てているらしい。僅かではあったけど、彼の表情にその色が見え隠れしていた。
 ラグナの特訓につき合っていた関係でメガ進化しているラフは、冷静なラグナとは対照的。見るからに爽快、とは言い難い汗を流し、わたし達の真上を滑空していく。この状態だと浮遊できるけど、彼女はいつもの癖で綿状の翼を素早く羽ばたかせている。やっぱりラフも、相当焦ってるね、そう推測するのに、ほとんど時間はかからなかった。
 しかし現場の状況は、疾走するわたし達を待ってはくれない。
 『らっ、ライ姉! 上、見て!
 「うえ? 上が…っ! 」
 『こっ、これは…、本当にマズいな』
 真っ先に状況の変化に気付いたのは、目線だけ黒煙に向けていたと思われる、メンバーでは最年少のラフ。彼女は何かに気付いたらしく、今まで以上に声を荒らげる。
 彼女に促されたわたし、ラグナも、走る足を止めずに、その方をハッと見る。情報量が少なかったので、わたしの頭上には疑問符が浮かび上がる。でもそれはすぐに感嘆符に変貌を遂げ、駆けるわたしに思考を巡らせるのだった。
 その、目線の先にあったのは、相変わらずの黒煙。でも、今回はそれだけではなかった。天守閣にある窓のうちの一つから、何かが飛び出す…。いや、飛ばされた、と言った方が正しいかもしれない。小さくて茶色い影が、そこから外へ放り出される、まさにその瞬間だった。
 『あれは…、イーブイ、か? 』 
 『イーブイ…? イーブイって、まっ、まさか、コット君?
 ラフが気づいてから、駆ける歩数にしておよそ三歩分後。目を凝らしていたラグナが、茶色い影を何とか捉え、その名前を口にする。本人に訊かないと分からないけど、彼はおそらく、そのシルエットで判断したらしい。確かめるように唱え、ラフにも意見を求めるのだった。
 その彼女はというと、彼の推測を受け、何かを考える。すると検索に引っかかったらしく、さらに声をあげる。結果、心当たりがあったらしい。そのイーブイのものと思われる名前を口にし、慄く(おののく)のだった。
 コットっていうイーブイ? イーブイと言えば、カナちゃんが連れていたメンバーにもいたっけ? って事はまさか…。…ぜっ、絶対に、そうだよ! カナちゃん、センターで逢った時、「マダツボミの塔に行く」って言ってた。時間的に考えても、まだそこにいる可能性が高い。そんな状況で、塔から煙が上がって、イーブイが外に投げ出されている。火事か何かはまだ分からないけど、これだけは確実に言えてる…、事件に、巻き込まれてる、って。
 なら、わたし達はどうする? 一秒でも早くティル達…、もう目の前にいるけど…、合流してから天守閣に向かわないといけない。でもそうしてると、投げ出されたイーブイを助けられない。…なら、姿を元に戻して、わたしが助けに行って、ラグナ達に後から来てもらう…? …いや、それじゃあダメだ。飛ぶスピードではラフよりわたしの方が早いけど、姿を戻す時間がロスタイムになる。なら、揃って天守閣に向かう? …いや、そんな事、間違ってもしたらダメだ。いくらポケモンの身体は人間よりも丈夫、って言っても、流石にあんな高い所から落ちたらタダでは済まない…。じゃあ、どうすればいい? 飛ばされたイーブイを助けれて、かつ一秒でも早く合流し、天守閣に向かう方法…。…そうだ、あの方法がある!
 あれからさらに、四歩分、弧を描いて空を貫く影は、勢いを失い下降し始めていた。そのはるか下を駆けるわたしは、気がつくと、信じられない速さで自問自答を繰り返していた。ごくわずかな時間で答えを導き出したわたしは、それを伝えるべく、喉に力を込める。結論を短く要約し…、
 「ラフ! ラフはあのイーブイを助けに行って! ラグナはわたしについて来て! ティル達と合流するよ!
大声で指示を飛ばす。
 『最初からそのつもりだよ!
 『ラフ、任せたぞ! 』
 『もちろんだよ。ラグ兄たちも、ね!
 ラフ達も自分たちなりに考えていたらしく、二つ返事で応えてくれる。ラフは自信満々に声を響かせ、大きく頷く。ラグナからの激励を貰ってから、彼女は翼で思いっきり空気を叩く。同時に体を逸らす事で進行方向を変え、急上昇する。空を貫くように、直角に浮上していった。

  ティル、テトラ、聞こえてるよね?

 その間に、わたしも次の行動に移る。まず初めに、向けていた目線を正面に戻し、走る足に更に力を込める。直後、わたし達よりも塔の近くにいるはずの、ティルとテトラに、テレパシーで呼びかける。同じく使えるティルからの返事は、ない。それは、分かり切っていた。何故なら、いわゆる伝説の種族のわたしと、普通の種族のティルとでは、言葉を伝えられる距離が違うから。伝説の場合、個人差はあるけど、その距離は大体五十メートル。それに対し、エスパータイプは二十メートルが限界。
 二十メートルなら、十分届くんじゃないか、読者の皆さんはそう思ったかもしれない。クドイかもしれないけど、状況は刻一刻と変化している。当然、少し離れた場所で技の調整をしていたふたりも、あの煙に気がついていたらしい。わたし達とほとんど変わらないタイミングで、彼らも行動を開始していたから、二十メートルでは届かなかった。
 届かない、とは言ったけど、彼らとはあまり離れていない。今のわたし達の位置関係を言うと、三十メートルぐらい先に、ティルとテトラがいる。彼らも同じく、事件の現場に急行している。そのさらに五メートル先には、例の塔の入り口。立ち込める黒煙とは対照的に、整然と鎮座していた。

  ラフは先に行ったから、ティル達もすぐに行って! わたしとラグナもすぐ追いつくから!

 立て続けに、わたしは彼らに直接語りかける。分かってはいると思うけど、一応、念じる言葉に力を込め、手短にこう伝えるのだった。
 『ライト、急ぐぞ! 』
 「分かってるよ、そんなこと。だからラグナ…」
 『わたしの背中に乗って! 』
 焦りから、自然と返す言葉も荒くなってしまう。キツく言い過ぎたかな、そういう想いにも駆られる。でも、そんな事を考える暇なんて、一秒たりともない。この考えを頭の中から追い出し、わたしも更なる行動に移るのだった。
 脚の力を緩めずに、わたしは元の姿を強くイメージする。するとわたし自身から強い光が発せられ、覆い尽くす。包み込んだわたしもろとも、形をかえていく。そのなかでわたしは、足の力を緩め、代わりに翼へとシフトさせる。光がおさまると、そこには本来の姿、ラティアスとしてのわたしが姿を現す。走っていた時の速度のまま、地面スレスレまで高度を落とした。
 わたしの変化を確認し、隣を走っていたラグナは、ターン、と地面を蹴る。左斜め上に跳び、わたしの背中に着地する。そのままでは安定しないので、彼は前脚でしっかりしがみつき、安定させる。
 最後に、この事を確認したわたしは、急激に進路を変える。見上げるように体を上に向け、軌道を上に向ける。先に向かったラフ同様、真っ直ぐ塔の頂上を目指した。


  Continue……

■筆者メッセージ
シルク『“絆のささやき”第三十三回は、@の近況報告をお送りするわね。

新学期が始まって早くも二ヶ月、大学生の方は一ヶ月半経ったけど、いかがお過ごしでしょうか? @はというと、夏休み前と同じで、化学実験のレポートと課題に追われる毎日だ、って言ってたわ。でも、一週間のうちにある実験の数が減ったからまだマシ、だそうだわ。前は化学と物理の実験が重なって、ヒーヒー言いながら仕上げてたのが、印象深かったわ。相変わらずレポートに追われるのは変わらないけど、もしかすると、この作品の更新ペースが上がるかもしれないわね。@、頑張ってね。

本編の更新から二週間以上経ってからの放送になってしまったけど、今回はこの辺で終了かしら? また次回、お会いしましょう! お楽しみに!
Lien ( 2016/04/15(金) 23:51 )