Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































小説トップ
Chapitre Deux De Cot 〜帰する郷里〜
Vingt et deux エスケープ
  Sideコット


 『じゃあ、あの窓まで走るよ。サイコキネシス』
 『うん』
 テトラさんの提案で、ぼく達は逃げ場のない天守閣から跳び下りる事になった。ティルさんのサイコキネシスで降ろしてもらう事になってるけど、お父さんはそれに反対、らしい。ぼくはテトラさんの案に納得したけど、お父さんはまだ首を縦には振っていない。ティルさんの属性を勘違いしているらしく、必死で止めようとしていた。
 でもお父さんの主張は、言い切る間もなく遮られてしまう。問答無用でティルさんに技をかけられて、フワフワと宙に浮かされていた。
 その後彼の合図で、ぼく達はいくつかある窓のうちの一つに目を向ける。すぐに足に力を込め、勢いよく駆けだした。
 『コット君、このくらいのスピードならついてこれそう? 』
 『うん。テトラさん、もう少し早くても大丈夫だよ』
――走るのには自信があるけど、さすがに余裕、とは言えないかな――
 右と左、両方を同時に着きながら走るぼくに、テトラさんはこう訊ねてくる。丁度スピードに乗ったタイミングだったから、ぼくはそれに小さく頷く。室内だけど、走ってるから耳元で風がヒュウヒュウと音をあげている…。ぼくのフサフサの毛を靡かせながら、爽快感を与えてくれていた。
 そこそこの速さで走っているけど、ぼくの速さはまだ八割ぐらい。息も、まだ上がってない。距離はたぶん二十メートルぐらいだから、全力を出しても走りきれると思う。だからぼくは、訊いてきたテトラさんの方を見上げ、こう答えた。
 『それなら、もっと速く走る姿をイメージして』
 『…なるほどね。コット君、全力で走ってる時を想像すれば、やりやすいと思うよ』
 『本当に走るんじゃなくて、ですか? 』
――もっと早く走るなら、足に力を入れたほうが良いと思うんだけど――
 走る事は得意だから、ぼくは自信をもって答えた。だからぼくは、スピードを上げて、って言われると思っていた。だからテトラさんの提案に、言葉にならない声を小さくあげてしまった。それはティルさんも同じだったみたいだけど、すぐにテトラさんの考えが分かったらしい。何のことかさっぱり分からないけど、テトラさんの提案に助太刀していた。
 当然ぼくは、何で、って彼らに聞き返す。ハテナを風に乗せ、それをふたりに届けた。
 『訳は後で話すから、騙されたと思ってやってみて』
 『後で、って…。…うん、やってみるよ』
――まだ納得はできないけど、あんなに強かったティルさんが言ってるんだから…、とりあえずやってみようかな――
 ぼくが訊ねてから、大体三歩分ぐらいの間、ティルさんは走る足を緩めず、目線を上に向ける。何かを考えていたらしく、すぐにぼくに視線を落とす。何でかは言ってくれなかったけど、彼はこう説得してくる。あんまり乗る気にはなれなかったけど、彼の実力は本物だ、ってことはぼくは知っている。実際、あれからぼくは少しだけ走るスピードを速くしたけど、ティルさんはもちろん、テトラさんも平然とついてきている。九割まで出したから息が切れてきたけど、ティルさん達はそんな様子は全くない。だからぼくはとりあえず、言う通りにしてみる事にした。
――力を入れるんじゃなくて、イメージ…。前に全力で走ったのは、カナのスクールの卒業式の日。あの時は校門に入ってから、砂まみれになりながら走った…。そのお陰でギリギリ間に合ったけど、五分ぐらいは咳が止まらなかった。だから、その時をイメージすれば――
 『あっ、いい感じだね』
――なんだろう、この感じ。力が湧いてくるような…――
 テトラさんの言う通りにイメージすると、何故か不思議な感覚がぼくを包み始める。何て例えたらいいのか、いい言葉が見つからないけど、ぼくはそれに身を委ねてみる。もちろん、走る足を止めずに。すると心なしか、ぼくに向かってくる風が少しだけ強くなったような気がした。
 『そのままイメージ通りに力を入れて』
 『うん』
 それだけでなく、ぼくの中に別の、はっきりとしたイメージが流れ込んでくる。そんなぼくの様子に気付いた、か、エスパータイプの勘でぼくの状態を察したのか…。どっちかは分からないけど、ティルさんが続けてこう助言をしてくれた。
 だからぼくは、言う通りに前足、後ろ足の両方に力を入れてみる。四歩分ぐらい遅れて、ぼくは彼にこう頷く。このときにはもう、イメージする事への疑問は風で吹き飛ばされてしまっていた。
 『うわっ』
――なっ、何? ぼっ、ぼくって、こんなスピードが出せたの――
 両方の前足が同時についた時に、思いっきり床を押し込んでみる。いつも通りしただけだったけど、今回はそうじゃなかった。ぼくの走る時の一歩は、大体からだ二つ分くらい。だけど今回は、一瞬だったから測れてないけど、たぶんその倍ぐらい。加減して走ってたと思うけど、この一歩で少し前にいるテトラさんを追い抜いた。予想外だったから、ぼくは小さく声をあげ、危うく顔から転びそうになってしまう。でもそこは何とか堪え、次の一歩に繋ぐことができた。
 『やっぱり、思った通りだったよ』
 ぼくが走る速さが速くなったから、ティルさんはもちろん、テトラさんもスピードを上げる。後ろを駆ける二つの足音が、次第にぼくに近づいてくる。七、八歩走る間にそれらは追いつき、ぼくを挟むように並ぶ。半ば賭けだったのか、ぼくの左で風になっているテトラさんが、ホッとしたように声をあげる。横目で見上げると、彼女の表情は、結構明るかった。
 『コット、いつの間に電光石火を使…』
 『電光…、石火。これが、電光石火、なの』
――お父さん、それって本当なの? ぼくはまだ使えなかったから、もしかしてテトラさん、そのために…――
 ぼくのこの現象に心当たりがあったらしく、ティルさんに浮かされているお父さんが声を荒らげる。スピードスターは知らないと思うけど、それ以外は、ぼくが使える技を知っているはず。だから、お父さんはその技の名前を言おうとしていた。
 だけどそれを、ぼくが遮ってしまった。まさか使える、これがそうとは思ってなかったから、実感が無かった。この時ようやく、テトラさんは何でぼくにああするように言ったのか分かった気がした。よく考えてみると、テトラさんのニンフィアの進化前は、ぼくの種族のイーブイ。テトラさんも使っていたはずだから、それを教えてくれたんだと思った。
 『そうだよ。これが、電光石火だよ。…サイコキネシス』
 そうこうしている間に、結構距離があった天守閣の反対側に辿りついていた。当たり前の事だけど、技を発動していた時間、ほぼ全力で走っていた時間が短かったから、生きは弾んでいない。電光石火を使うことになったぼくなら解るけど、ティルさんとてとらさんも、ほとんど息は切れてなかった。
 ぼくの質問に答えてくれたティルさんは、うん、って大きく頷く。それから彼はこう続け、視線を前に戻す。この時ようやく、本当に電光石火を使った実感が出てきたのだった。
 『さぁ、いくよ』
 『うわっ』
 目線を前に向けたティルさんは、お父さんにかけていたサイコキネシスを、ぼくにもかける。何の予告も無かったから、浮いてから五、六歩ぐらい、空を駆けてしまう。身体の中から持ち上げられたから、ぼくは思わず言葉にならない声を解き放ってしまった。
 テトラさんはこの感じに慣れているらしく、技がかかる直前に斜め上に跳んでいた。ぼくみたいに声をあげず、平然としていた。
――これで二回目だけど、やっぱり慣れないなぁ…。サイコキネシスをこんな風に使える事も、知らなかったし――
 速度を緩めず、三メートル四方の窓に突っ込もうとしているティルさんは、一度ぼく達に呼びかける。振り向いてはいたけど、目線だけは別の方を見ていた。これはぼくの予想だけど、たぶんティルさんは、カナ達がいるところを見ていたんだと思う。何を確認したのかは分からないけど、すぐに次の行動に移っていた。
 窓から二メートルぐらいの地点、彼は左足で踏み込み、そこに力を溜める。後から続く右足を振り上げ、同時に溜めていた左足で跳びあがる。振りあげた右足のつま先を左手で触るようなイメージで、さらに勢いを乗せる…。ハードル走さながらのフォームで、ティルさんは天守閣の窓枠を飛び越した。
 『ティルさん! 』
――すっ、凄いけど、この後はどうするの――
 だけど、当然この先に着地する床は無い。あるのは、角度が急な瓦屋根だけ。彼の超能力で窓をくぐったぼくは、こう声を荒らげる。どうするのかは全く聴いてなかったから、こう叫ばずにはいられなかった。
 『大丈夫。見てて』
 塔の四層目から飛び出したティルさんは、もちろん九・八の作用に引かれて落ちていく。ティルさんの種族のマフォクシーは、飛行タイプじゃないし、ドラゴンタイプでもない。だから、重力に抗う事は出来ない。
 こんなとんでもない状況なのに、ティルさん、それからテトラさんも、何故か落ち着いている。至って冷静に、取り乱しているぼくとお父さんに、こう言う。首元のヒラヒラで指し、そうするよう頼んで? きた。
 言われるままに見てみると、彼はもう重力対抗し始めていた。ぼくが取り乱している間に、たぶんどこからか木の枝みたいなステッキを取り出していた。それを使って炎をおこすのかなぁーって思ったけど、そうじゃなかった。彼はそれから手を放し、同じく落下させる。
 『サイコキネシス』
 手放すとすぐに見えない力で拘束し、宙に浮かせる。ほぼ同時に、その離した手を上に掲げる。丁度その位置にステッキがくるように、超能力でそれを移動させる。二層目の高さぐらいまで落ちた地点で、彼は再びそれを掴む。落下する彼の重さがかかったから、杖はちょっと地面に近づいたけど、三十センチぐらい下がっただけでそこに留まった。
――こっ、これって、助かった、んだよね――
 『よし、っと。ティル、あとはライト達を待つだけだね』
 『うん』
 一度掴んだステッキを放し、足を屈めて着地すると、ティルさんはぼく達を見えない力から解放する。地面から四十センチぐらいのところで解除してもらったから、小さいぼくでも楽に着地する事ができた。
――やっぱり、地面に脚がついていたほうが落ち着くよ――
 ほんの一瞬の事だったけど、ぼくにはこの脱出作戦が何十分にも感じられた。フワフワと浮きながら降りるのは楽しかったけど、やっぱりぼくはノーマルタイプ。今日だけで二回体験したけど、何か慣れれる気がしなかった。
 『ティルさん、ありがとうございます。サイコキネシスって、あんな使い方もあるんですね』
 『まぁ、技をちょっと応用しただけだから。俺は俺のステッキを使ってるけど、友達のエーフィは特殊技を使ってるからね』
 『エーフィって、シルクの事だね』
 『うん。サイコキネシスの扱いには自信あるけど、シルクには勝てないよ。…サイコキネシス』
 だけどぼくは、そんな考えを頭の端っこの方に追いやって、ティルさんの方を見上げる。ティルさんが気づいてくれるのを待ってから、ぼくはぺこりと頭を下げる。それにティルさんは、ちょっと笑みを浮かべながら、やさしく答えてくれた。多分謙遜だと思うけど、彼は右手を小さく左右にふり、そんな事ないよ、と付け加える。それからティルさん、あとテトラさんは、例のエーフィの事を思い浮かべているらしい。会った事は無いけど、時々ティルさん達の口から出る、シルクっていうエーフィ。今まで忘れてたけど、この発言がきっかけで、従兄弟と同じ種族の彼女の事を思い出す事となった。
 『あれ、ティルさん? さっき脱出したはずですけど、何でまた発動させたんですか』
 ちょっとビックリしたけど、今度は変な声をあげずに済んだ。ティルさんがまたサイコキネシスを使った理由が分からないぼくは、彼に目を向けたまま、こう訊ねる。すぐに答えてくれる、って思ってたけど、彼からの返事は無い。技を発動させてから彼は、ずっと青い空の方を見上げている。実際に訊いてないから分からないけど、彼は集中して何かを操っている…、そんな感じだった。
 『上の方を見てみて』
 『うえ? …かっ、カナ! 』
 技に集中しているティルさんの代わりに、テトラさんが応えてくれた。彼女は一度、にっこりと笑いかけ、そのまま上を見上げる。見たらすぐに分かるから、って付け加えてから、ぼくも見るよう促した。
 どういうことか分からなかったから、ぼくはこくりと首を傾げる。テトラさんが言うとすぐに上を向いたから、とりあえずぼくもそうしてみる事にする。その視線の先には、ある意味予想通りの光景…。透き通るように蒼い空と、そこに漂う白い雲。それから、ぼく達がいるところに向け、かなりの速さで落ちてくる二つの人影…。二つとも手足を大の字に広げ、目一杯に空気抵抗を高くする体勢になっている。二つの影のうち、一つはセンターで会った、ティルさん達のトレーナーである女の人。それからもう一つは、その彼女と手を握り合っている、今日旅立ったばかりの新人トレーナー。ぼくのパートナーが、かたく目を瞑り、同じく九.八の作用に引き寄せられている。ぼくが見たのはちょうどその瞬間だったけど、二人が三層目と二層目の間ぐらいまで落ちると、急にスピードが緩くなっていた。これがティルさんの技によるものだと分かるのに、ほとんど時間はかからなかった。
 「あれ? 止まった」
 「ティル、ありがとう。カナちゃん、もう大丈夫だよ」
 落ちる速さがゆっくりになったのを感じたらしく、カナは恐る恐る目を開ける。不思議そうに首を傾げながら、首を傾げていた。
 それに対して、ティルさんのトレーナーの彼女は、その彼にこう声をかける。予想通りだったらしく、彼女は冷静に感謝の言葉を呟いている。それからカナにも優しく声をかけ、彼女の頭の上のハテナを一つずつ消し始めていた。
 「本当、です…、コット! 無事だったんだね」
 『うん』
――カナのほうこそ、何となくて良かったよ! ティルさん達から聴いてたけど、やっと安心したよ――
 ティルさんの技でゆっくり下してもらっている間に、カナはぼくの事を見つけたらしい。地面に足がつき、技が解除されてから、彼女はぼくの方に駆けだしてきた。この時、降りてきていた時には強張っていた表情に、一気に光が宿っていった。
 ぼくも我慢できず、気付いた時にはカナの方に走りだしていた。頼りないけど大切なパートナーの顔を、やっと見る事ができた。だからぼくは、その彼女に思いっきり飛びついた。カナには声では分かってもらえないけど、この想いだけは伝わっているはず。話したいことが沢山あったけど、まずはこの瞬間を胸に焼き付ける事にする。
 ぼくの安堵が伝わったのか、ぼく達のいるこの場に、温かな風が吹き抜けていく。この事件がきっかけで、新しい技だけでなくて、もっと大きなものも確認できたような気がした。



  Chapitre Deux  〜帰する郷里〜   Finit

■筆者メッセージ
ラグナ『“絆のささやき”第四十七回目、今回はグラエナの俺、ラグナがお送りしよう。今回の内容は、久々のゲストとのトークだ。

今回のゲストは、主人公のひとり、イーブイのコットだ。本編では直接話す事は無かったが、よろしくな。
コット『うん、よろしくお願いします。ラグナさん、ラグナさんって、変わった戦い方するんですね。技がメインじゃないなんて、初めて聞いたよ。
ラグナ『まあな。今のところ、俺ぐらいしかいないからな。…俺の事はこのぐらいにしておくとして、何か聴きたい事はあるか。
コット『はい! ぼく方だとその後しか分からなかったんだけど、カナ達って、どうやって脱出してきたの?
ラグナ『それはな…、すまないが、次回の更新を待ってくれないか。
コット『えっ?
ラグナ『@から直接聴いたんだが、ライト側の二十二話目は、まだ書いている最中だそうだ。
コット『そうなんだ。なら、それまでのお楽しみ、ですね。
ラグナ『そうなるな。

すまないが、今回はここまでだ。またな。
Lien ( 2016/04/15(金) 23:45 )