Dix-Sept 戦線復帰
『…それで、外に飛ばされちゃったって感じかな』
『
うん、大体分かったよ』
絶体絶命のところをラフさんに助けられたぼくは、背中から落ちないように必死にしがみつく。行く先を彼女に委ねた状態で、頼まれるままにさっきの状況を話す。上手く伝えられたかは分からないけど、天守閣の高さまで直角に上がる間に、話し終える。そうこうしている間に、バトルでうけたダメージが、少しだけ回復していた…、ような気がした。
メガ進化、っていう状態になってるラフさんはというと、手短に話すぼくに、うんうん、と頷きながら聴いてくれた。彼女は聴きながら何かを考えていたらしく、相づちを打っていた時のトーンからすると、たぶん真剣な表情をしていた。
―――ラフさん、本当に、
本当に、ありがとう! もう、感謝してもしきれないよ! もしあの時、ラフさんが近くにいなかったら、ぼくは…。…助かったんだから、今はこの事を考えるのは止めておこう! 悪い事、じゃなくて、今、どうするべきかを考えないとね―――
天守閣の高さまで直角に高度を上げていたラフさんは、身体を逸らすように進行方向を変える。結果的に宙返りするような形で、ぼくを乗せたまま二百七十度旋回。地面と平行になると、目の前の塔…、ぼく達が戦っていたマダツボミの塔へと、一直線に滑空し始めた。
『
とにかく、密猟者とか言う社会のクズがいる以上、急がないとね。…“エクワイル”として、クズを野放しにしないためにも…』
『うっ、うん』
―――社会のクズって…、そこまでは言ってないんだけど―――
ちょっと言いすぎな気もするけど、ラフさんは横目でぼくを見、こう呟く。その後すぐに、まるで自分に言い聞かせるように、こう言う。決心したかのように、彼女は両方の翼に力を込め、一つ羽ばたく。すると、それだけでは出なさそうなスピードが出て、口を開ける天守閣の窓へと突っ込んでいった。
『
なるほどね。あのイニシャルは、“プライズ”。ざっと戦闘位がニ、三人ってところかぁ…。竜の波動』
『お父さーん! 』
思わず目を瞑っちゃったけど、ラフさんは全然怯まずに小さい窓に突っ込む。あと数センチずれてたら、もしかするとぶつかってたかもしれない…、そう思ってしまうほどスレスレで、彼女はそこを通り抜けた。
その直後、ラフさんは一瞬のうちに天守閣の中を見渡す。お父さんを捕まえようとしてきた密猟者を見つけたらしく、その組織の名前を口にする。技のイメージを膨らませながら敵の数を数えると、そのニ、三人が集まってる方へ青黒いブレスを放っていた。
一方のぼくはというと、迫る壁にビビッて閉じていた目を、恐る恐る開ける。内心ほっとしながら、ぼくも辺りの様子を探り始めた。でも、ラフさんの背中にしがみつくのが精一杯で、カナとお父さんを見つける事は出来なかった。それでもぼくは、聞き取ってくれると信じて、こう声をあげた。
「なっ、何ななんだ、いきなり」
「何? あのポケモン、初めて見た…」
『カナ! 』
もちろん、急に割り込んできたラフさんに、元々いた人たちが驚かないわけがない。真っ先に驚きで声を荒らげたのは、密猟組織のうちの一人。彼は後ろから響くラフさんの声に、ハッと振り返っていた。次に、ぼくのパートナーのカナ。手を広げて何かを守るように立っていた彼女は、ラフさんを見るなり、こう呟く。完全にメガ進化したラフさんに目を奪われていた。
―――この時にやっと見つけられたのは、ここだけの話しだけど―――
『ふっ、不意打ちとは卑き…、っく』
『
卑怯なのはどっち? 不意打ちを仕掛けるのと、女の子一人に大の大人三人がかりで襲うのとでは』
ラフさんが牽制で放ったブレスは、狙ってかどうかは分からないけど、密猟者の周りで飛び回っていたズバットに命中する。その彼が捨て台詞を言い切る前に、木製の床に撃ち落としていた。
撃ち落とした敵に対して、ラフさんはこう問いただす。相手が力尽きていたから答えは返って来なかったけど、彼女は構わずこう続けていた。
―――うん。確かに、ラフさんの言う通りだよね。カナが十四歳に対して、密猟者が、多分三十歳ぐらい。こう言っていたラフさんも、十四なんだけど―――
『
社会のクズなんかに、良い答えは期待してないけど…。そんな事より、コット君、どんな技が使えるか教えてくれる』
『えっ、ぼっ、ぼくの』
ぼくを背中に乗せたラフさんは、そこそこの広さの天守閣で小さく旋回する。ボソッと呟き、後ろをチラッと見る。横目のまま、ぼくにこう尋ねてきた。
まさか話をふられると思っていないぼくは、思わず変な声をあげてしまう。ラフさんの毒タイプの口撃もそうだけど、急な展開にビックリしてしまった。
『
うん』
『ぼっ、ぼくが使えるのは体当たりとスピードスター、それから手助けとす…』
『
ならまずは、手助けを発動してくれる? ムーンフォース』
何故かフワフワ浮いているラフさんは、ぼくの疑問に大きく頷く。若干戸惑いながら技を挙げていくぼくの言葉を聴きながら、何かを考えている様子。その最中、いい案が浮かんだらしく、途中で遮る。ぼくの返事を待たずに、彼女はさっきとは別の技を発動させた。
空中に浮いている彼女は、空いた両方の翼を前に掲げる。そこにエネルギーを集中させる。すると、彼女の翼と翼の間に、薄いピンク色で丸いエネルギー体が出来上がる。それが五センチぐらいの大きさになると、さっきとは別の敵に向けて撃ちだす。ここまでにかかった時間は、たった三秒。あまりの早業に、ぼくは圧倒されてしまった。
『
コット君』
『あっ、うん。手助け』
その場で浮遊するラフさんは、突然大声をあげる。それは唖然として意識が逸れていたぼくを連れ戻すのに、十分すぎるぐらいの威力を発揮した。
彼女の呼びかけで現実に引き戻されたぼくはというと、中途半端にだけど、こう返事する。半ば慌てながら、ラフさんに指示された補助技、手助けを発動させる体勢に入った。
まず初めに、右の前足にエネルギーを集める。同時に、仲間のサポートをしたい、援護したい、そういう想いをエネルギーに込める。すると、ぼくの右前足は少しだけ熱を帯び、淡い光に包まれる。これで、発動する準備が終わった。次に、効果対象の仲間、ラフさんに意識を向ける。左の前足で強くしがみつき、右を真上に振り上げる。すると、ぼくだけでなく、乗せてくれているラフさんも、微かな光に包まれる。瞬きをするかしないか、そのくらいの短い時間で、光は消え去る。そこにはパッと見、発動させる前と全く変わらないぼく達、それだけがあった。
―――見た目では何も変わらないけど、これでオッケー。だって、補助技だもんね―――
『
じゃあ、そっちは頼んだよ。コット君、次はスピードスターを撃ち続けて』
『スピードスターを』
―――って事は、ぼくも戦う、ってことだよね―――
『うん、分かったよ! スピードスター』
ぼくは自分なりにこう考えて、納得する。まだ回復しきってないから体が重いけど、そのつもりだったから、すぐに技を発動させた。
口を開いて、そこにエネルギーを集中させる。するとそこに、白いエネルギー体が作り出される。それを、咳をするような感じで喉に力を入れ、放出する。その後、ぼくの口元から離れる。ぼくから離れたそれは、ほんの数十センチぐらい進むと、三つぐらいの小さな弾に分裂する。十センチぐらい進むころには、星型に変形。すぐに、いつの間にか増えていた敵に向かって、軌道を変えて飛んでいった。
『
なら私は、敵の殲滅だね。竜の波動』
―――そういえばラフさん、さっきからひとりで何か言ってるけど、誰と喋ってるんだろう―――
彼女は大きな独り言? を呟きながら、もう一度青黒いブレスを放つ。そんな彼女に首を傾げながら、ぼくも黄色い流星を放ち続けるのだった。