Douze 光の一行
Sideコット
「自己紹介も終わったし、とりあえず外に出よっか」
『だってキキョウって、見るところ沢山あるもんね』
『そうなの? 』
『うん』
仲間になったイグリーの自己紹介も一通り終わり、ぼく達は外へと続く自動扉に向けて歩き始めた。まずはじめに、カナがぼく達を見下ろし、こう提案する。次にぼくが高らかに声をあげ、その後、イグリーが首を傾げる。最後にぼくが、彼に向けて大きく頷いた。
――やっぱり、仲間がいるのといないのとでは凄く違うね! 今までは相手がカナしかいなかったから、筆談をしないといけなかったけど、今はイグリーがいる。直接声と声で話せるから、楽だよ。それにイグリーも、カナとの会話を楽しんでくれてるみたい。二人分書かないといけないから大変だけど、それでも楽しさの方が勝ってるかな――
受付と出口との丁度中間ぐらいまで来たところで、カナは後ろ向きに歩きはじめる。そんな彼女にぼくは、こう注意する。
「折角キキョウに来たんだから、買い物とかしたいなぁー。コット達は、どこか行きたいところある? 」
『カナはショッピングがしたいんだね。…そんな事より、ちゃんと前、見たら? 』
『ぶつかってもオイラは知らないよ』
内心ヒヤヒヤしながら、ぼくはこう声をかけた。それはイグリーも同じだったらしく、心配そうに目を向ける。ぼく達にペースを合わせて羽ばたきながら、彼女にこう言うのだった。
――ゆっくりキキョウを観て巡れるからカナの気持ちも分かるけど、もうちょっと周りに気をつけてほしいよ。イグリーの言う通り、誰かにぶつかるかもしれないし――
「やっぱり買い物じゃなくて、スクールに顔を出しに…」
『だからカナ! ちゃんと前を見て! 』
明らかに舞い上がってるカナは、次々に要望を挙げていく。完全に自分の世界に旅立ってるらしく、辺りへの注意力が散漫になっている。そのせいか、まだ少し距離があるのに、自動扉が独りでに開いた事に気付いていなかった。
当然ぼく達は、目一杯の声量で彼女に注意を呼びかける。こっちの世界に呼び戻そうと頑張ったけど、戻ってきてはくれなかった。
「塔の近くのカフェも…きゃっ」
「うわっ! 」
『おおっと…』
――だから言ったのに…、ちゃんと前を見て、って――
ぼく達が一番恐れていた事が、本当に起きてしまった。楽し気に話すカナは、案の定足が縺れて後ろに倒れる。そこに運悪く、大人の女の人が入ってきてしまう。突然の事に驚いたその人は、慌てて左に跳び退く。そのために、カナはさらに倒れていった。
この瞬間、ぼくは今日何回目か分からないため息を、一つつく。この想いが伝染してしまったのか、イグリーも右の翼を頭に当て、『あーあ…』と呟いていた。
しかし彼女は、まだ止まらない。その人がどいたため、彼女は次にその人のメンバーと思われるポケモンに襲いかかる。なんていう種族かは分からないけど、背が高くて毛が長いポケモンにもたれかかって? しまった。当然そのポケモンも対応する事が出来ず、されるがままに受け止める事しか出来ていなかった。
『なっ、何か急に倒れてきたけど、大丈夫? 』
『あっ、はい。ちょっと躓いただけだから、大丈夫だと思います』
『なら良かった。私達の方も、話に夢中で気づかなかったから…』
この光景に、カナが倒れ込んだポケモンも含めて、その人のメンバーと思われる四匹のうち、二匹が真っ先に口を開いた。もう一匹のは無理だったけど、全体的に青くて、綿みたいな翼を持った彼女の言葉なら、聞き取る事が出来た。彼女も凄く驚いた様子で取り乱していたけど、何とかカナの事を心配してくれる。この彼女に若干圧倒されながらも、ぼくはこう言ってから、『だから心配ないよ』と付け加えた。
ぼくの言葉を聞いてか、別の一匹が安堵の表情を浮かべる。ぼくはその彼女に若干の違和感を覚えながらも、『そんな事ないですよ』と、首を振った。
――ええっと、このひとの種族は、ぼくの進化先の一つのニンフィア…、で、あってるよね? 確かニンフィアって、白にピンクだったような気がするけど――
『だってよそ見してたのはカナ…、ぼく達のトレーナーなんだから』
『オイラ達が注意したんだけど、聞こえてなかったみたいで』
『ううん、そんな事ないよ』
ぼく達はカナの代わりに、彼女達に頭を下げる。でも青いニンフィアの彼女は、ぼく達の思っていたのとは真逆の反応をした。彼女は『気にしないで』と、にっこり笑いかける。その笑顔は建前とかではなく、心からそう思っているみたいだった。
『だから、ねっ! …見たところ君達、今日旅立ったばかり、って感じかな』
『えっ、うっ、うん。そうだけど』
――というか、何か、ぼく達と大して離れてないような…。気のせい、だよね、きっと――
もう一匹の彼女も満面の笑みで笑いかける。その笑顔には、どこか幼さが残ってるような気がした。その彼女は、トレーナーと話しているカナの方をチラッと見、ぼく達に視線を戻す。それから何でそう思ったのかは分からないけど、急に話題を変えてきた。ぼくとイグリー、ニンフィアの彼女も、まさか話題が変わるとは思ってなかったので、揃って頓狂な声をあげてしまった。
『何か初々しいなぁー、って思ったんだけど、やっぱりそうだったんだね』
『えっ…はぁ…』
『旅立ったばかり、って事は、ラフと同い年ぐらいかもしれないね』
予想が当たったのか、その彼女は何か嬉しそう。弾けるような声をあげ、その思いを存分に表現していた。
彼女の様子に、ぼくは再び言葉を失ってしまう。当てられたから、って言うのもあるけど、予想以上の反応に唖然としてしまう。何かを確認するように声をかけられたけど、ぼくは空返事しか出来なかった。
それにニンフィアの彼女は、もう一匹を横目で見る。彼女とは違って落ち着いた様子で、こう話し始める。推測したことを、そのまま口にしていた。
『だよね。テト姉とかティル兄と同じ、っていうのは違う気がするし、ライ姉とラグ兄では離れすぎてるもんね』
『…』
『…』
この光景にぼく達は、再び言葉を失ってしまった。
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