Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜 - Autre Un
Des Pluie Premier 憂鬱の火花
  Side???



 「…、ありがと」
 「ちっ、ガキのくせに…。俺様に勝てたからって、図に乗るんじゃねぇーぞ」
 トレーナーとのバトルが終わり、オイラは戦ってくれた仲間にボールの中に戻ってもらう。その彼は、赤い光に包まれる寸前にオイラの方を見下ろし、『どういたしまして』と言いたそうに笑いかけてくれた。彼が治まったボールを左手に持ち替えて、オイラはそれを定位置…、ベルトの左側のうち、一番手前にセットした。
 その間に相手…、人相が悪い大人のトレーナーは、負け惜しみとも言える言葉を、盛大な舌打ちと共に吐き捨てる。近くに転がっていた石ころに八つ当たりしながら、その人は何かをブツブツ呟き、立ち去っていった。
 「ニドもおつかれさま」
 声を荒らげるトレーナーに冷ややかな視線を送っていたオイラは、彼が聞き取れないぐらいの距離まで離れたのを確認する。その視線をオイラのすぐそば、パートナーのニドラン♂に変えてから、こう労いの言葉をかけてあげた。
――大人のトレーナーと戦うのは初めてだったけど、あの人、ワンパターンだったから、凄く楽だったよ――
 オイラの声に気付いてくれた彼、パートナーのニドは、のんびりとした様子で顔を上に向ける。そして、
 『エレンとニアロと比べたら、ぼくはまだまだだよぉー』
若干欠伸を抑え込みながら、こう呟いた。
 「そんなことないよ。オイラはふたつしかわざはつかえないししんかもできないから…」
 『でもエレン、エレンはぼく達と話せるんだから、それだけでも十分すごいよぉー』
 それにオイラは、右手を顔の前で左右に勢いよく振りながら、こう否定する。でも、オイラの声は、他の人には鳴き声としてしか聞こえない彼によって遮られてしまった。
――実はオイラ、ちょっとした特異体質で、ポケモンの言葉がわかるんだよ。分かるようになったのは…、ええっと…、いつだったかな…。覚えてないけど、小さい時からニドと話せてたんだよ。そのせいで、オイラのお父さんとお母さんが過保護すぎてね…、凄く鬱陶しい(うっとうしい)かった。オイラが他人とは違うから、気持ちも分からない事もないけど…。…そんな事は置いといて、今更だけどオイラ達の紹介をさせてもらうね。オイラはエレン。今日旅立ったばかりの新人トレーナー。…スクールに通ってた時からたくさん戦ってたから、全然実感ないけど…。で、オイラのパートナーはニドラン♂の二ド。ニドとは小さい時からの親友…、いや、それ以上かな。ずぅっと一緒だから、家族同然の存在だよ――
 「ポケモンのことばがわかるのはでんせつにかかわってるひとだけだから」
 『それと、“テレパシー”を使えるひとがメンバーにいる、人間とねぇー』
 話に戻ると、オイラはその当事者だけが知っている事を言い、彼に答える。それに彼は、同じくごく少数しか知らない情報を並べていた。オイラ達の声はカントー地方から吹いてく風に乗り、遠くまで響いていく…。それらは次の目的地に思いを馳せながら、何回も共鳴していった。
 「そういえばそうだったね。さぁニドそろそろいこっか」
 『そぉーだねぇ。キキョウまで、まだまだかかりそうだもんねぇー』
 オイラは彼に頷きながらこう答える。それから、盛り上がり始めていた話題を早々に切り上げた。見上げながら話してくれている彼に、こう提案してみた。すると彼は、オイラの言葉を聞き流しながら、一度視線を降ろす。キキョウシティがある北の方をチラッと見てから、こう答えた。
 「うん」
 そしてオイラ達は、バトルで止めていた足取りを、次の街に向けて進め始めた。ちなみに、今、オイラ達がいるのは、西側の三十番道路。“チカラ”のお蔭で発達している聴覚が、色んな音を捉える。草木を弄ぶ風、飛行タイプの種族が羽ばたく音、バトルで鎬を削るコラッタとオタチ…。あちこちから聞こえる…

  …なんて…

 「ん? 」
 『エレン、どうしたの』
囁きに、オイラは耳を傾けていた。そんな中オイラは、気のせいかもしれないけど、消え入りそうなくらい小さな声を捉えた。その声に、オイラは思わず七、八歩歩いていた足を止める。聞こえてきた方に、軽く首を傾けながら振り返った。そんなオイラの行動に、ニドも不思議そうに見上げる。
 「なにかきこえたようなきがしてね」
 『気のせいじゃない? 』
 「ううんたしかにきこえ…」

  …んなんて、に…、…いだ!

――やっぱり、気のせいじゃなかった! ――
 頭の上にハテナを浮かべながら訊いてくるニドに、オイラはこう答える。『エレンは耳がいいから、そうなんじゃないのぉー?』と付け加えた彼に、オイラはブンブンと横に振りながら、そう言い放った。そして、「たしかに聞こえたんだよ」って言おうとしたとき、同じ声がオイラの聴覚を再び刺激した。この瞬間、オイラは確信し、完全にその声がした方に向きを変える。そしてオイラは、
 「きのせいじゃないよ! ニドいくよ」
 『えっ、ちょっ、ちょっとエレン、待ってよぉー』
何かに導かれるように、そっちへと駆けだした。
 そのオイラを、ニドは慌てて追いかけてる。たぶん頭の上のハテナの数を増やしながら、彼も走りだした。
――何故かはわからないけど、何かあるような…、そんな、気がする…。上手く言葉に出来ないけど――


――――


  Sideエレン


 『どう? あれから何か聞こえる? 』
 「ううんきこえなくなっちゃったけどたぶんこのあたりのはずだよ」
 あれから数分後、微かに聞こえた小さな声がした方に駆けていたオイラ達は、ある一点で立ち止まった。元来た道を戻っている間に、その声は何事もなかったように聞こえなくなってしまっていた。
――もしかすると、気を失ってるのかもしれない…。だから、早く見つけてあげないと――
 若干焦りながら、オイラはあたりをキョロキョロと見渡す。勘を頼りに耳を澄ませ、その声の主の行方を探る。その甲斐あって、何とかオイラ達はその声がしていたと思われる地点に辿りついていた。
 『この辺ー? 結構林の中に入っちゃったけどぉー…。…あっ、エレン、もしかして、あの子じゃないかなぁー? 』
 「えっどこ? 」
 『ほら、あそこの茂みの中』
 ニドは多分、『結構林の中にはいちゃったけど、本当にこの辺なの? 』ってオイラに訊こうとした。でもその最中に何かを見つけたらしく、頭の小さな角でその方向を指していた。そっちにはたくさんの低い木の群れがあってどれか分からなかったから、彼にもう一度聞いてみた。するとニドは、指していた茂みのうちの一つ、オイラから斜め左に三メートルぐらい離れたそれにむけて駆けていった。
 『この茂み…、エレン、大変だよぉー! 』
――なっ、何があったの? ――
 目的の茂みで何かを見つけたらしく、彼は急に大声をあげる。ニドにしては珍しく、切羽詰まった様子で、追いかけるオイラを呼んでいた。
 「ニドどうしたのそんなにあわてて…」
 ただならない彼の様子に、オイラも急いで走る足に力を込める。
 『この子、気絶してるよ! 』
 「っ!! 」
 急いで向かったそこで、オイラはようやくその姿を捉えた。茂みの中で倒れるその影は、この地方では多分会う事ができない、パチリス…。しかもただ気絶しているだけでなく、小さな体のあちこちに痣、傷がみられる…。あまりにも痛々しいその姿に、オイラは言葉を失ってしまった。
――こっ、こんなに傷だらけになるまで、攻撃されてたのかな…。酷い…――
 『エレン! 確かエレンって復活草、持ってたよねぇー』
 「えっあっうん」
 唖然としていたオイラは、大声をあげるニドの言葉で、ようやく我に返る。彼はオイラのズボンの裾を前脚で引っ張りながら、こう必死に訴えかけていた。
 それにオイラは慌てて返事し、その物をエナメルのバッグから探り始める。慌てて探したから中がぐちゃぐちゃになっちゃったけど、それを何とか探り出せた。透明なビニールの袋にしまっていたそれを取り出し、小さくちぎっていく…。倒れてるパチリスに使いやすい大きさまで小さくしてから、それをその口の中に流し込んだ。
 「ヨシノもキキョウもここからだととおいから…」
 それからオイラは、スクールで習った手当の方法を思い出す。ポケモンに使えるかどうかは分からないけど、それを応用して応急処置をし始めた。まず初めに、消毒液の代わりに、傷薬を取り出す。それを傷口に使い、そこを非常用に持ち歩いている包帯で保護した。
――とりあえず、これで、大丈夫、かな――


――――


 Sideエレン


 『…ぅぅっ』
 『あっ、良かった。気がついたみたいだよぉー』
 気を失ったパチリスを見つけ、手当てをしてあげてから数分後、使った復活草が効いたのか、意識を取り戻した。この事にいち早く気づいたニドは、ホッとした様子で声をあげる。その視線を、荒らした鞄の中を整理しているオイラに向け、こう言い放った。
――よかった、何とかなって――
 『うぅっ…、きみ…は…? 』
 声からしてパチリスの彼女は、朦朧とした意識のまま、何とか体勢を起こす。最初に目に入ったニドに、切れ切れにだけど、こう訊ねていた。
 『ぼくはニドラン♂のニド。意識も戻ったみたいだし、本当によかったよぉー。ええっと、きみは? 』
 背が近いニドは、彼女に優しく自己紹介する。ホッとしたように微笑みかけながら、こう質問した。
 『わっ、私は…、パチリスの…、ユリン…。きみは…どうして…、こんなとこ…、にっ…、人間!? 』
 まだ傷が痛むのか、ユリンっていう彼女は、歯を食いしばりながら名乗る。おそらく彼女は、優しく語りかけるニドに、『どうしてこんなところにいるの』って聞こうとした。でも、オイラの事をチラッと見た瞬間、急に声を荒らげる。
――びっ、ビックリした――
 『どっ、どうしたの』
 『にっ、人間なんて、嫌い! だから、こっちに来ないで! スパー…くっ…! 』
 「だっだめだよきゅうにうごいたら。まだなおってないんだから」
 驚きでとびあがるオイラ達に対して、彼女は慌てて後ろに飛び退く。何があったのかは知らないけど、怒り、恐れ…、色んな感情を顕わにしながらオイラを睨んできた。こう言い放つと、彼女はすぐに体中に電気を溜め始める。でも、急に激しく動いたから、全身に痛みが駆け抜けたらしく、その場に崩れ落ちてしまった。
 『にんげんなんて…、人間なんて…』
 『おっ、落ち着いて! 』
 『キミもトレーナー就きのポケモンなんだから、きっと…! 放電! 』
 『うわっ! 』
 「おおっと」
 何かに取りつかれたように声をあげる彼女。それを、ニドが慌てて宥めようとする。しかし彼の対応も虚しく、彼女は溜まっていた電気を、感情に身を任せて放出してきた。それを何とか、ニドは右に、オイラは左に跳んでかわす。咄嗟の事だったから、オイラは顔から地面に滑り込んでしまった。
――何か、落ち着いてもらえそうにないかもなぁ…。なら、あの方法を、試すしか、ないかもしれない――
 「ニドちょっとこのこをみてて」
 『えっ、うん』
 オイラは意を決し、パートナーに手短にこう伝える。凄く端折ったけど、それだけでニドはオイラの意図を察してくれた。
――ニド、少しの間だけ、頼んだよ――
 オイラはそう心の中で言うと、一度辺りを見渡す。周りにオイラ達以外に誰もいないのを確認すると、すぐに目を閉じた。
――“チカラ”を持つ者として…、この子を落ち着かせるために…! ――
 閉じた瞼の中で、オイラはある姿を強くイメージする。するとオイラの姿は、レンズの焦点がズレていくように、ぼやけていった。それもある一点で止まり、元の様に鮮明になってゆく。姿がハッキリした時には、トレーナーとしてのオイラはそこにはいなかった。
 『オイラはわけあってはんぶんポケモンみたいなものだから…。だからおちついて』
 元の姿からある程度小さくなり、後ろには種族特有の二本の尻尾が風に揺れている…。ジョウトにはいない水タイプ、ブイゼルの姿のオイラは、今にも電撃を放とうとしている彼女の前に飛び出した。
 『スパーク! 』
 『うわっ…! 』
 『エレン! 』
 感情のままに技を連射するパチリス、その彼女をなだめようと至近距離からの攻撃をかわすニドラン…、その間に、オイラは割って入る事になった。無防備に身を投げ出したオイラに、苦手な電撃が直撃する。そのせいでオイラは、大ダメージをうけてしまった。
 『なっ、なに? ブイゼルが何で急に』
 『訳は後で話すから…』
 オイラが突然飛び出したことで、ユリンっていう彼女は攻撃の手を止めてくれた。訳が分からない、って言う感じで取り乱す彼女に、ニドがこう声をかけた。
――やっぱり、何の備えも無かったから、結構効いたな…――
 『よかった…。こうげきを…、やめてくれ…』
 何とか手を止めてくれた事に安心して、オイラはこう切れ切れに呟く。しかし言い切る事も叶わず、オイラの意識は暗闇の中に沈んでしまった。

――ニド、あとは、頼んだよ――


  Continue……

■筆者メッセージ
シルク『“絆のささやき”第十七回目は、ゲストの方とのトークをお送りするわ。今回のゲストは、特別企画をきっかけに駆けつけてくれた、パチリスのユリンちゃんよ! ユリンちゃん、今回はよろしくお願いするわね。
ユリン『toeistarsが「行ってきていいよ」って言ってくれたから、来ちゃった。うん、よろしくね!
シルク『じゃあ早速、聞いてもいいかしら?
ユリン『うん、いいよ。私は元々トレーナー就きのポケモンだったの
シルク『ん、だった?
ユリン『そう。でも私、弱いからね、シャワーズに負けたら捨てられちゃってね…
シルク『そんな事が…
ユリン『うん
シルク『…。
ユリン『…あっ、もう文字がないから、続きはまた今度ね!
Lien ( 2016/04/15(金) 23:23 )