Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜 - Chapitre Treize de Cot 〜灯台が示すその先へ〜
Cent-deux 浜辺に響く氷冷の唄(中堅)
 Sideネージュ



 「ネージュ、相性的に不利だけど、絶対に勝つよ! 」
 『うっ、うん! 電気タイプだから…、そうだね』
 確かそのはずだから、あまりダメージを食らわないようにした方がいいよね…? ヘクト君が倒されたみたいだから、三番手の私が砂浜に出場する。このバトルに顔を出すのはこれが初めてじゃないけど、ヘクト君の袋叩きの時に見た感じだと、向こうは今ふたり目のメンバーだと思う。元々のにんずうが違うから宛にならないけど、まだ私を入れて三にん残ってるから勝ってるんだと思う。…だけど今から私が戦う相手は、電気タイプでパチリスのユリンちゃん…。だから水、氷タイプの私にとっては、油断できない相手、かな…。
 「あれカナちゃん? ネージュでたたかってだいじょうぶなの? 」
 「だってカナちゃん? ラプラスって、水タイプだよね? 」
 「うん。…でも大丈夫。ちゃんと考えがあるから」
 ちょっと前までならそうも言ってられなかったけど、今はあの技があるからね。ユリンちゃんの相手が私だから、相手のエレン君、それともう一人の女の子も、心配そうにカナさんに尋ねていた。だけど私たちにはちゃんとした作戦があるから、心配しないで、っていう感じで答えていた。
 『…そう言ってるけど、本当にいいの? 』
 『うん。上手くいくか分からないけど、たっ、多分、大丈夫』
 今までも何とかなってるから、今回もいつも通りいけば…。ユリンちゃんもこんな風に訊いてきたから、私は自信がないけどとりあえず頷く。正直言ってどうなるか分からないけど、それをどうにかしないと後が大変になる。だから私は、ユリンちゃんを倒して、出来たらニド君にもダメージを与えよう、そう強く心に決めた。
 『大丈夫なら…、私も手加減なんてしないからね! 』
 『わっ、私だって、相性が悪くても負けないよ! …水の波動! 』
 『いっ、いきなり? エレキネット! 』
 先手必勝だ、ってヘクト君が言ってたよね、確か…。これだけで分かってくれたらしく、ユリンちゃんは納得したように頷く。だから私は、一回だけ返事してから、喉元にエネルギーを溜め始める。それを水属性に変換して、それに音波も混ぜ合わせる。ある程度溜まったから、私はリング状にしてそれを撃ち出した。
 何の前触れもなく発動させたから、ユリンちゃんは慌てて私から距離をとる。十メートルぐらいの距離で技を発動させ、黄色い塊として発射する。ネット…、っていう名前だからこの後で何かあるのかもしれないけど、距離が近かったから、私のリングとぶつかって消滅してしまっていた。
 『私のエレキネットが、防がれた? 』
 『きっ、君達もそうだと思うけど、私達だって、沢山戦ってきてるからね』
 水の波動で防げるなら…、案外五分の戦いができるのかも…。牽制のつもりで発動させたから、私はまさか完全に打ち消せるとは思ってなかった。だから前鰭で勢いをつけて左に跳び退いていたけど、無駄に終わったのかもしれない。だけどその分収穫もあって、何とか勝てそう、私は率直にこう感じた。それならっていう事で、私はもっと有利に闘うために、喉にエネルギーを送り込みながらユリンちゃんが言った事に返事した。
 『だからユリンちゃん、こっ、これでちゃんと戦える、って分かったでしょ? 』
 『うん。それじゃあ、遠慮しなくていいって事だよね? 』
 『うん! 』
 『じゃあ…、私も全力でいくから、後悔しないでよね! …雷! 』
 この感じだと、ちゃんと効果が出て来てる…、かな? 私は対戦相手のユリンちゃんに対して、混乱状態にさせる技、超音波を密かに発動させ続ける。毒状態とか麻痺状態と違って判断が難しいけど、その分相手に本来の実力を出させなくすることが出来る。その効果が出始めてるらしく、ユリンちゃんはいきなり大技の雷を発動させる。確かこの技は高い位置から電撃を落とす技だから、砂浜を這って前進し、同時に別の技の準備に入った。
 『そうじゃないと、ちゃんとしたバトルにならないでしょ? …サイコキネシス! 』
 『えっ…、また防がれた? 』
 空の方から黄色い稲妻が凄い速さで降りてきたから、私はイメージを膨らませながら、溜めたエネルギーを解放する。落下点は今いる場所から少しずれてるけど、私はそれでもその稲妻を強く意識する。その状態で鰭で強く弾くようなイメージをすると、私の右斜め後ろに落ちようとしていた雷がカクッ、と急に進路を変える。私の超能力に弾かれて、ユリンちゃんの方へと突き進んでいった。
 『もう一回サイコキネシス! 』
 『きゃぁっ…! …草結び…!』
 『ぅっ…っく! 』
 やっ、やっぱり…、混乱状態になってなかったのかな…? 私はもう一度、すぐに同じ様にイメージする。ほんの一瞬だったから間に合うかは分からなかったけど、私の動きに合わせてバックステップを取ってくれていたから、三メートル分遅れても命中させることが出来た。雷は威力が高い最上級技だけど、元々がユリンちゃんの技で相性的にもいまいちの技だから、大ダメージっていう所までは言って無いと思う。
 そんな予想をしながら這って距離を詰めようとしていると、ユリンちゃんは悲鳴をあげながらも反撃を仕掛けてきた。歯を食いしばりながらエネルギーのレベルを高め、その場で砂を踏みしめてそれを解放する。私はそんな行動に本能的にマズイ、って案じたけど、気付いた時には遅かった。後ろに押した前鰭を前方向に戻した時、急に砂から生えてきた蔓に足元をすくわれ、頭から派手に転んでしまった。
 『私の技を…、撃ち返したみたいだけど…、これ以上思い通りには…、させないんだから…! かみな…』
 『吹雪…! 』
 それなら…、その前に倒れてもらうよ! 当然私のカウンター攻撃では倒しきることが出来ず、ユリンちゃんは負けじと大技を発動させようとする。少しふらついてるから、案外限界が近いのかもしれない。そう思ったから、私は倒れた状態のまま多めのエネルギーを体中に分散させる。間に合うかどうかは分からないけど、ユリンちゃんが喋っている間ギリギリまで溜め、発動させる直前に解放する。すると間一髪のタイミングで、雪が混じった突風が勢いよく吹き始めた。
 『…ぃっ…! 』
 『水の波動…! これで…! 』
 『くぅっ…。…威力…、高すぎる…、でしょ…』
 何とか、間に合ったね…。ギリギリユリンちゃんの技も阻止できたらしく、私の突風で吹き飛ばすことが出来た。ユリンちゃんは小さくて狙いが定めにくいから、砂浜に落ちてから、溜めていた水のリングを撃ちだす。結構なダメージが入ったのか、ユリンちゃんはすぐには起き上がれていない…。だから私は、そこを狙って音波を乗せた水輪を解き放った。もちろんユリンちゃんはかわすことが出来ず、まともにそれが着弾する。その後何とか起き上がろうとしていたけど、力が抜けて崩れ落ちてしまっていた。
 「…ユリンありがとう…ニドここでたえていっきにぎゃくてんするよ! 」
 『うん! …だけど、まさかヤライとユリンがこんなに早く倒されるなんて、思わなかったよ』
 ニド君…、久しぶりだけど、どんな技を使ってくるんだろう…? 戦闘不能になったユリンちゃんを控えに戻すと、エレン君はすぐにニド君を出場させる。相変わらず早口で聞き取りにくいけど、焦ってるからなのか、いつも以上に聞き取りにくかった。
 ニドキングに進化しているニド君も、追い込まれているって事を何となく察したらしい。…だけど落ち着いた様子で、エレン君に向けてこう言っていた。
 「たしかにね…ニドなんとなくきづいてるかもしれないけどヤライとユリンがやられてるからだからニドさいしょからとばしていくよ! 」
 『だって相手はカナさん達だからね。…もちろん、僕はそのつもりだよ。…ネージュちゃん、待たせたね』
 『うっ、うん』
 『…じゃあ、立ち話もあれだし、早速はじめよっか』
 『そう、だね…』
 ユリンちゃんと戦ったばかりだから、完全な状態じゃないけど…。でも、一発か二発ぐらいなら…、耐えられるよね…? ニド君は進化しても変わらず、自分のペースで話始める。一応こんな感じで受け答えはしたけど、自分のタイミングでバトルを始めそうな感じだった。だから…。
 『そっ、それなら、私から行くよ…! 水の波動…! 』
 『…いきなり来たね。…冷凍パンチ! 』
 先を越される前に、私が先手を打つ。さっきみたいに最大までは溜めてないけど、私はそれなりの量のエネルギーを水の属性に変換する。喉に力を入れて解き放ち、身構えているニド君を狙う。だけど十メートル以上距離があるから、ニド君はすぐに対抗してくる。右手に水色のオーラを纏わせ、内側から外側に払うように、私の水輪を払いのけていた。
 『…ネージュちゃん、急すぎてびっくりしたよ。…地震! 』
 『えっ…、吹雪…! 』
 にっ、ニド君も、いきなり過ぎない? 私の牽制を防いだニド君は、のんびりした様子で私の方に走ってくる。こんなニド君を見ると拍子抜けしちゃうけど、バトル中、それもエレン君のパートナーだから、私は何とか気を持ち直して次の行動に備える。いつでも技を発動できるようにエネルギーレベルを高めていると、ニド君は何の前触れもなく、五メートルぐらいの位置で砂浜を豪快に振動させる。慌てて私もエネルギーを解放し、同じ最上級技でそれに対抗し…。
 『うぅっ…! 』
 『…っく…っ! 』
 『…ネージュちゃん、流石だね』
 『ニド君…、こそ…』
 やっぱり、ニド君の技は強烈だよ…。大技に大技で対抗し、お互いの技はほぼ同じタイミングで命中する。私にとっては地面、ニド君にとっては氷タイプは弱点だから、距離は開いてるけどそれなりにダメージを受けてしまう。…だけど私は完全な状態じゃないから、激しい揺れに辛うじてしか耐える事が出来なかった。危うく意識が飛びそうになったけど、出来るだけダメージを与えたいから、頑張ってその攻撃を耐え切った。
 『…あははは。…だけど一番手はニアロに抜かれちゃったからなー。…気合いパンチ! 』
 『さっ…、サイコキネシぃ…っ! 』
 やっぱり、ニド君の発動のタイミング、分からないよ…。ニド君は私の吹雪にも耐えて走って来ていて、いつからかは分からないけど、同時に力も溜めていたらしい。だから倒れる寸前で動けない私に接近してきて、力を溜めた右の拳を振りかざしてきた。
 トドメの一撃にすぐにでも対抗したかったけど、ニド君のタイミングが独特過ぎて、ほんの少し遅れてしまった。咄嗟に超能力で拳を止めようとしたけど、発動する寸前で、ニド君の拳が私の首元を捉えてしまう。あまりの衝撃の強さに、私は耐え切れずに思いっきり殴り飛ばされてしまった。
 『…イグリー君…、コット君…、…ごめん…。…後は、…頼んだ…、よ…』
 そのまま私は、起き上がる事が出来ず、前のめりに倒れてしまった。



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Lien ( 2017/08/14(月) 22:01 )