Cent 浜辺に轟く岩壁の力(先鋒)
Sideコット
「…またのご利用をお待ちしています」
「はいありがとうございます」
このやりとりも、もう慣れたものだね。ジムを出てから、僕達はすぐにセンターに向かった。まだそれなりに早い時間だったから混んでたけど、僕達はふたりずつだったから、四十分ぐらいで回復してもらえた。その間の待ち時間は、ここまでの旅の事で凄く盛り上がっていた。流石にエレン君は伝説とかそういう関係の事は伏せてたけど、それでも話しきれずに時間が来てしまっていた。ミヅキちゃんはミヅキちゃんで消化不良っていう感じで、二つのボールを受けとっても物足りなそうにしていたけど…。
「カナちゃん、カナちゃんはもうリーグに挑戦するだけだね」
「うん。…でもその前に、エレン君とのバトルだね」
「そうだね。すぐに挑戦しに行くのかは分からないけど…。カナ、どうするつもりなの? 」
「うーん、まだちょっと迷ってるよ…」
だってそうだよね。僕だって、まだ迷ってるし…。センターの出口に向けて歩き出してから、ミヅキちゃんはカナにこんな風に訊いてくる。僕はあまり実感が無いけど、さっきのジム戦で、僕はジョウト中のジムで全部勝ったことになる。普通ならこれからアサギの近くにあるリーグに挑戦するところだけど、ヨシノの一件で家を飛び出してきてるから、カナはそうはしないと思う。一応タンバに着いてから連絡は入れてるけど、心配をかけてしまっている。…もちろん僕はリーグに挑戦したい、そう思ってるけど、ヨシノの復興とか避難所になってるワカバの事も心配なのも事実。上手く言葉に出来ないけど、プライズの事が落ち着いたから、そっちの手伝いもしたい、そう思ってるのも確か。訊いてみた感じだと、カナもそうみたいだし…。
「ニュースで見たけど、ヨシノの大火事のこと? 」
「うん」
「だってそうだよね。僕達って、あの時はたまたま家に寄ったから何ともなかったけど、もしヨシノに行ってたら、巻き込まることになってたからね…」
そっか。ミヅキちゃんにとっては、ただの大火災、っていう風になるんだよね? ミヅキちゃんはカナの様子で何となく察したのか、最近頻繁にニュースでやってる事を訊いてくる。僕達にとっては他人事じゃないから、カナはすぐにこくりと頷く。その彼女に続いて、僕も色んな想いに満たされながらこう呟く。ライトさんがそれ…、というより操られたフラムさんの攻撃で、だけど、あの火事で左目が見えなくなっちゃっているし…。
「そういえばそういってたね。…とりあえずいまはいってたバトルしよっか」
「あっ、うん」
だけどエレン君はあまり実感が無いのか、適当に返事して話題を切り替えていた。急すぎて変な声を出しちゃったけど、そういう事になってるから、僕は圧倒されながらも頷いた。
「オイラはよにんでカナちゃんはごにんだからルールはかちぬきばとるでいいよね? 」
「わたしはそれでいいよ。コットも、これで良いよね? 」
「うーん…」
勝ち抜きバトルだと、四対五でエレン君の方が不利だけど…、全員だから…。
「…っと、バランス的にも、いいと思うよ」
エレン君が四にん、って言ってるから、そういう事だよね? 僕は一瞬、エレン君の提案に疑問を感じたけど、彼のメンバーを思い返したら、すぐに納得できた。エレン君の方は属性に偏りがあるけど、僕達ではその弱点を突くことができない。…確かに頭数では僕達の方が有利だけど、エレン君達にはルギアのニアロさんがいる。それに地面タイプのニドもいるから、逆に僕達の方が不利になる事だって考えられる。だから僕は、エレン君の提案に大きく頷いた。
「…それじゃあカナちゃんかいふくしてもらったばかりだけどじゅんびはできてるよね」
「うん! …エレン君、旅立ったあの時は負けたけど、今度は負けないよ! 」
「じゃないとオイラもたたかいがいがないよ」
「それにエレン君、昨日は一緒に戦ったけど、あの時の僕はまだ全力を出してない。…だから僕だって、全力でいくよ! 」
「もちろんだよ! 」
あの時は何も分からなかったからね…。だけど、今日はそうはいかないよ! エレン君がこんな風に訊いてきたから、カナは当然だよ、っていう感じで即答する。それに僕も続き、エレン君に対して威勢よく言い放つ。昨日はエレン君と組んで戦ったけど、正直言ってあの時は本気を出しきる前に終わったから、十分に戦えたとは言えない…。それにあの時のぼくは、エレン君達と初めて会って、初めてバトルをして、ニドに手も足もだ出ずに大敗した。だから僕は、いつかあの時のリベンジをしたい、ずっとこう思ってきた。だから絶対に勝つ! 僕、多分カナも、心の中でもエレン君に対してこう言い放った。そしてカナ、それと対戦相手のエレン君は、ほぼ同じタイミングで一つのモンスターボールを手に取り…。
――――
Side オークス
「ヤライいちばんてはたのんだよ! 」
「オークス、出だしが肝心だよ。だから、最初から飛ばしていくよ! 」
『当然じゃない! 相手はあのコット達…。ジムリーダーとプロテージよりも強い、ってアタイは思ってるわ。…それに先鋒がいつものアタイのポジション。だから、負ける気なんて更々ないわ! 』
『当然だぁっ! 俺にそ…、おいおい、嘘だろ? この種族が俺の相手だなんて聞いてねーよ! 』
おい待て! この種族、こうしてトレーナー就きになるようなもんじゃねーだろぅ? 俺は勢いよくボールから飛び出したが、その対戦相手の種族に思わず元ばを失ってしまう。その種族からして相手は全力だってのは分かるが、流石にこの俺でも度が過ぎていると感じる。…何しろ俺の対戦相手は、このジョウト地方では伝説の種族として知られているルギア…。上から見下ろされて腹が立つってのもあるが、想定外の事に、俺は思わずこんな反応をしてしまった。
『あんたはそう思ってるかもしれないけど、アタイも一ポケモンに変わりないんだから、いいじゃない? それに折角伝説の種族とやり合えるんだから、寧ろ誇りに思うべきだとアタイは思うわ』
『ちっ…、誇り、か。伝説だか何だか知らねぇが、俺にその口の利き方をするとは、度胸があるじゃねぇか』
『あんたこそ、アタイの前でも臆さない辺り、大したものだと思うわ』
これまで何回か戦ってきたが、こういう奴は初めてだな。流石伝説と言うべきか。コイツは俺に対して上から目線でこう言い放ち、俺に喧嘩を売ってくる。まさか伝説の種族からこう言われるとは思わなかったから、俺は当然、高額でこの喧嘩を買い取る事にする。野生時代の俺をコイツは知らないから仕方ないが、地元のワルを束ねていた俺に対してこう言ってくる辺り、相当な自信家なんだろう。コイツの態度には腹が立つが、嫌いではない。そもそも、俺が思う存分暴れれば、大して問題ではない。だから…。
『当たり前だ。この俺を誰だと思ってる? …
昨日は敗れたが、メガ進化した俺に不可能なんて無いからなぁ! 』
カナが左腕を高く掲げるのがチラッと見えたから、俺は目を閉じ、体の奥の方にある力に身を任せる。するとその力が大きく膨れ上がり、俺の姿さえも変えていく。激しい光と共にそれが弾け、俺は難なくメガ進化をし終える。高らかにこう言い放ち、俺はこれから始まる喧嘩のために身構えた。
『不可能はないね…。…だけど最強のアタイの戦略の前では、そうはいかないわ! 影分身! 』
『
それならまとめて砕いてやるまでだぁっ! 岩雪崩! 』
戦略? そんな小細工、俺の力には効かねぇよ! 俺に対してコイツは、楽しみね、という感じで悪戯っぽい笑みを浮かべる。そのまま俺に負けない強さで言い放ち、四対の分身を作りだす。ルギアっていうデカい種族で視界が埋まりそうになるが、そんな事、俺には関係ない。分身と合わせて五にんで滑空してきたが、俺は構わず岩石で撃ち落とすことにした。
『全体技を使えるのね? …だけど、アタイには通用しないわ! 影分身! 』
『
んなもん知るかぁッ! 噛み砕く! 』
俺の落石が三体に命中したが、それは全て分身だった。残りは右に左にと体を捻りながらかわし、十メートル以上あった距離を一気に詰めてきた。更にコイツは八メートルの位置でまた創り出し、合わせて三体同時に俺に飛びかかってきた。それならって事で俺は、右手の爪で切り裂いたり、思いっきり噛みついたりしてそれに抗…。
『背中がガラ空きよ! 辻切り! 』
『
なっ…っ! 』
うっ、後ろから? だが俺はそれだけに気が逸れていて、後ろから迫るもう一つの陰に全く気付かなかった。コイツは大きな翼を羽ばたかせて俺の後ろに急降下し、浮上するのと同時に右の翼を打ちつけてきた。悪タイプの攻撃で大して痛くはなかったが、不意の攻撃で俺は思わずのけ反ってしまった。
『
背中を攻撃するとはひき…』
『卑怯だ、って言いたいのね? だけど、これも戦略のうちよ? 』
『
うるせぇ! バトルってもの、正面から正々堂々とするものだぁっ! 岩雪崩! 』
ちっ…、俺の言いたい事はお見通しって訳か。俺に一泡吹かせていい気になったのか、コイツは満足げに俺に挑発してくる。そんな態度、それから卑怯な手を使った事に腹が立ち、俺はエネルギーを蓄えながら駆けだす。溜めたエネルギーに岩の属性を纏わせ、解放する事で空中で羽ばたく相手の上の方に沢山の岩石を出現させる。そこから一斉に落とす事で、コイツを下の方へ引きず下ろそうとした。
『所詮超突猛進ってところね…。ナイトバースト! 』
『
暴れる! 』
そう言いながら、お前も正面から来てるじゃねぇか。それなら、喜んで打ちのめしてやろうじゃねぇか! 俺の岩石群から逃げるように、コイツは急降下してくる。地面スレスレで体勢を起こし、滑空しながら技を発動させていた。エネルギーを両方の翼に集め、同時に前に打ちつける事で黒い衝撃波を放ってくる。しかし俺は構わず、全身にありったけの力を溜めて右手をつき出…。
『っく…。辻切り! 』
『
っく…! 』
『ナイトバースト! …まさかここまで早く解かれるとは思わなかったわ』
何ッ? 種族が、変わった? 突き出した俺の右の拳は、浮上しようとしていたコイツの腹を捉える。勢いが乗っていたので止まる事は無かったが、その瞬間、コイツの姿が歪み始める。完全に俺の後ろにまわったせいで目で追えなかった、そいつは身を翻し、一瞬のうちに俺に斬りかかってきた。更にそいつは俺の体を蹴り、すれ違うように距離をとる。しかし空中で体を捻って向き合ったコイツは、俺が今まで戦っていたルギアではなかった。
『
ぐぅっ…。…お前は、誰だ! 』
『あら、今までずっと戦ってたじゃない? 体が大きいだけで、その目は節穴かしら? 』
『
その腹立つ喋り…、まさかこの俺を騙していたのか! 』
『ようやく気づいたようね? それとも、暴れるを発動させて、頭に血が昇っていて気付かなかっただけかしら? 』
『
知るかぁっ! 暴れる! 』
勝ち誇ったようにほくそ笑むコイツは、ルギアではなくゾロアーク…。だがルギアと喋り方が全く同じなので、同一人物、そう気づくのに殆ど時間はかからなかった。それどころかコイツは調子に乗ったのか、俺を弄ぶように次々と言い放ってくる。なので俺は、その減らず口を黙らすために、走りながら右の拳をぶつ…。
『それに騙したも何も、口で相手を騙して攻めるのが、悪タイプの上等手段じゃない。…辻切り! 』
『
ぐぁっ…! 』
『それとも筋肉だけのその頭に、この事が入ってなかっただけかしら? もう一発! 』
『
っく…! 』
ちょこまかと…、目障りだ…。…だが…。小さく身軽になったコイツは、俺をいたぶるように周りを駆けだす。俺の周りの囲うように走り抜け、時々切り返して俺に爪で斬りかかってくる。俺自身体のタフさには自信があるが、流石にここまでの素早さにはついていけない…。おまけに連続で斬りかかってくるから、防ぐ事さえ出来ない…。
『だからよく覚えておく事ね? …トドメのナイトバースト! 』
『
…っ! 』
『あんたも悪タ…』
頭では分かっていたが、体が重くていう事を聞かない…。だから俺は、至近距離からの黒い衝撃波をかわすことが出来ず、まともに食らってしまう。何十回も辻切りを食らっていたと言う事もあり、俺は耐え切れずに崩れ落ちてしまう。コイツは何かを言ってた気がするが、訊く前に俺は意識を手放してしまった。
Continue……