Quatre-vingts-dix-neuf 雨の提案
Sideコット
『これでトドメだぁっ! 』
『っぐぁぁっ…! 』
多分これで倒せた、かな? ジム戦はカナ達が不利な状況で進んでいたけど、ヘクト、ヤライさん、ブースターの頑張りで何とか五分の状態まで戦況を動かせていた。…ただミカンさんのひとり目、ルカリオで手こずったって事もあって、ヤライが危機的な状態になっていた。だけどそこはヘクトが機転を利かせて、ヤライさんが耐えられるような作戦を立ててくれていた。途中からブースターも退避していたけど、特性を上手く利用して戦えていたと僕は思う。
それでバトルも大詰めになり、ヘクトがメインで相手のハガネールを追い込んでいた。ルカリオ戦で勢いに乗ったっていうのもあるかもしれないけど、ブースターのフレアドライブで強化していたから、その威力で相手を圧倒していた。今も全体技の熱風を発動させて、弱点属性でハガネ―ルを圧倒している。全体技だからヤライさんとブースターにもダメージが入るけど、影響が少ない離れた場所にいるから、多分大丈夫だとは思う。
『…よぅし、終わったな。ヤライ、ブースター、大丈夫だな? 』
『ええ…、何とかね…。…にしてもヘクト、あの状況で…、よく無双できたわね…』
『俺も正直驚いているが…、あそこでブースターがフレアドライブを発動したおかげだな。そうだよなぁ? 』
『うん…。本当はあのフレアドライブをハガネ―ルに命中させるつもりだったんだけどそれだと耐えれなそうだったから…』
「ブースターは毒状態だったし、フレアドライブは反動がある技だからね」
確かにね。ヘクトの渾身の一撃が効いたらしく、ハガネ―ルは激しい地響きと共に崩れ落ちる。砂埃が舞い上がったけど、それが収まった頃には、既に意識を手放していたらしかった。
それでバトルの決着が着いたから、率先して戦っていたヘクトはふぅ、と一息つく。緊張を解いて振り返り、離れた場所で警戒していたヤライさんの方へ駆け寄る。三にんとも砂嵐で砂まみれになってたけど、三にん…、特にヤライさん達は辛うじて耐える事が出来ていたらしい。ヤライさんは意識が朦朧としてるみたいだけど、何とか駆け寄ってきたヘクトにこくりと頷いていた。
ブースターはブースターで顔色が悪いけど、彼は彼で何とかなったらしい。毒々でなった毒状態は時間経過で受ける体への負担? 症状? が大きくなるけど、回復技でつないでいたから、一応意識ははっきりしているらしい。ヘクトの問いかけにもちゃんと答えていて、安心したような笑顔を彼に見せている。そこへ僕も参加して、三にんにこんな風に声をかけてあげた。
『まぁな』
「うん。…三にんとも、お疲れ様」
『ありがと…。…けどまさか、追い込まれた状況から…、勝てるとは思わなかったわね…』
『確かにね』
僕も正直言って無理かと思ったけど…、三にん揃って勝てたんだから、良かったんじゃないかな? フラフラで座り込んでいるヤライさんに、ヘクトはとびっきりの笑顔を見せる。それにヤライさんも、弱々しいけど何とかそれに微笑んでいた。それからヘクトは腰を下ろした状態で右の前足をさし出し、激戦を戦った戦友達と握手を交わす。ブースターもヤライさんの呟きに、だよねー、って頷きながら答えていた。
『…そういえば途中でサンダース君達も乱入してきたけどあれも技の効果? 』
「うん。袋叩き、っていう技で、戦闘不能になってない全員で攻撃する技なんだよ」
『全員で、ねぇー。ニドからはそういう技を使える、って訊いてなかったから、エンジュで会った後に…』
『いいや、袋叩きはオヤジから受け継いだ技だ。…まぁあの時は敢えて使わなかった、っつぅー感じだなぁ』
『なるほどね…。…にしてもヘクト、あんたって、ものまねといい、変則的な技が多いわね…』
『そんなの決まってるだろぅ? そういう技なら相手から読まれにくいし、何よりその方が面白いだろぅ? 』
「確かにね。それがヘクトらしさでもあるしね」
戦法を考えるのも上手いから、僕も割と頼ってるところもあるからなぁ。ジム戦が終わったって事もあって、三にんはこのバトルの事を振り返り始める。ブースターとは初対面だから仕方ないけど、ヘクトの技に興味があるらしく、思い出したように訊ねている。ヤライさん自身も知らない技みたいだったから、アタイも気になるわね、っていう感じでブースターに便乗していた。
それにヘクトは、得意げにその技の事を話し始める。彼が言う前に僕が少し説明したけど、それでも嫌そうな顔は全然していなかった。むしろ待ってました、と言わんばかりに、矢継ぎ早に二つの技について喋り通していた。何しろヘクトの技は、バトルではあまり使われない、ヤライさんの言葉を借りると、変則的な技が殆ど。それに毒々は割と知られている技だけど、ものまねはヘクトが使うまで僕も知らなかったくらいマイナーな技。…だけどその分読まれにくいと思うし、何しろ使い方によっては色んなことが出来る。それにタイミングが合いさえすれば、ヘルガーが覚えられない技だって使う事ができる。…バトル好きなヘクトにとっては、最適な技だね!
『まぁな。毒々とか袋叩きで戦況をかき乱…』
「ヘクト、みんなも、お疲れ様」
「みんなすごくよかったよ」
「カナちゃんのヘルガー、凄く強かったもんね」
「あっ、カナ。エレン君にミヅキちゃんも」
カナ達が来たって事は、もうジムリーダーと話し終わったのかな? 僕達…、殆どヘクトとヤライさんだけど、話しているところに、カナ達三人が入ってきた。三人ともまだしまってないらしく、手元にはちゃんとアサギのジムバッジが握られていると思う。三人はそれぞれで話しながら、戦ってくれていた三にんの方へ…。
『…アタイはボロボロだけど…、ヘクトとブースターのお蔭ね、勝てたのは』
『確かにそうだね。僕もそう思うよ。…誰かひとりとかなら勝てたかもしれないけどヘルガー君の作戦があったから』
「そうだね。ヘクトのお陰だ、ってふたりとも言っ…」
「あっそうだ。カナちゃんかいふくしてもらってからいったいいちでばとるしない? 」
「えっ、ばっ、バトル? 」
「だってコガネであったときはかあさんにじゃまされたしエンジュではひきわけだったでしょ? 」
たっ、確かにそうだけど…。ふたりともそう言ってるよ、ヘクト達が言った事を通訳して、最後にこう締めようとしたけど、その前にエレン君に遮られてしまう。彼は何かを思い出したように声をあげ、左にいるカナにバトルを申し込んでいた。いきなり過ぎて僕もビックリしたけど、彼の言う通り、エレン君とのバトルで決着がついたのは、初めてワカバで戦った一回だけ…。一応キキョウでも戦ってるけど、あの時はミヅキちゃんとのトライバトルで、一対一のバトルじゃなかった。だから…。
「そうだね。僕もリベンジしたいし、いいと思うよ」
僕はエレン君の提案に賛成。あの時は右も左も分からない状態だったけど、今ならエレン君達に勝てる自信はある。この旅で色んなことを経験してきて、色んなことを乗り越えてきた。もちろんエレン君、一緒にいるミヅキちゃん達もそうだと思うけど、それでもやっぱり、僕はそう思う。
「でしょ? ヘクトくんならぜったいにそういうとおもうしカナちゃんどうかな? 」
「カナちゃん達の本気? 私も見てみたいよ」
『そうね。アタイもそう思ってた所よ。…いいじゃない。ヘクト、あんた達とは一度本気で戦いたいわ。もちろん、コット、あんたもね』
「うん! ヤライさん、僕もだよ」
『サンダース君達の本気? うん僕も気になるよ』
やっぱりそう思うよね? 僕の答えがよっぽど嬉しかったのか、エレン君は凄く喜んでくれた。あとはカナ次第だけど、ヘクトは…、訊くまでもないかな? オークスはオークスでユリンに勝ちたい、って思ってるかもしれないし、イグリーとネージュも、また戦いたい、って思っているはず…。ブースターは、僕の戦法とかが気になってるだけかもしれないけど…。
『やっぱそうだよなぁ? 流石エレンだ! ヤライ、俺達はお前らに負ける気なんて更々ねぇーからな! 』
『それはアタイのセリフよ! …いいわ、ヘクト。アタイらが最強だって事、見せてるわ! 』
ヘクトとヤライさんも乗り気みたいで、まだ戦い終わったばかりだけど、それでも待ちきれない、って言った感じ。回復してもらってないけど、早々に火花を散らせている。
「うっ、うん! 」
カナも頷いてくれたし、決まりだね! …という訳で、カナも納得してくれたから、みんなを回復してもらってから、僕達は一対一で戦うことになった。
Continue……