Quatre-vingts-dix-huit 最後のジム戦(影火の陣)
Sideヘクト
『…じゃあ、いくぜ! 』
俺が考えた作戦なんだ。このメンバーなら、いけるはずだ! 戦況的に追い込まれた俺達は、コットの提案で共闘する事になる。相手がまだふたり残っているが、鋼タイプだからおそらくは問題ないだろう。幸いブースターの特性が少数派と言う事もあり、俺の毒々も無駄にならずに済むだろう。…まぁ残りのひとりの種族は知らねぇーが…。…兎に角、俺のかけ声を合図に、カナにとっての最後のジム戦、最後のメンバーによるバトルが幕を開けた。
『それでは、お手並み拝見といきましょうか。…神速』
…早速、先制技で来たか。真っ先に行動を開始したのは、ジムリーダー側のルカリオ。彼は瞬間的に筋力を活性化させ、爆発的にそれを解放する。その後の攻撃に繋げるつもりなのか、ルカリオが見据えるのは、俺。真正面にいる俺に向けて、目にも留まらぬ速さで迫ってきた。
『あんたの狙いはヘクトだろうけど、そうはさせないわ! 影分身! 』
コットから相手の技構成を訊いていたので、当然俺達はこの行動を想定していた。がからニドに化けているヤライが俺と彼の間に立ちはだかり、同時に二体の分身を作りだしていた。
『…ブースター、俺達もいくぞ! 』
『うん! …フレアドライブ! 』
さぁ、俺達も行動に移るとするか! その間に、俺達は先頭に備えた準備に入る。俺はブースターに向き直り、彼にこう呼びかける。すると彼はすぐに頷き、思いっきり俺に向けて駆けてくる。二メートルぐらいの距離で炎を纏い、渾身の一撃を食らわせようと、俺に突っ込んできた。だが…。
『…っ。ブースター、大丈夫か? 』
『僕は平気だよ。じゃあ、ヘルガーも頼んだよ! 』
『おぅ! 毒々…』
フレアドライブが炎タイプなのに対して、俺の特性は貰い火。物理技なのでぶつかった衝撃はあるが、それ以外は俺にダメージが入らない。俺に正面からぶつかると、ブースターが纏っていた炎は一片も残さず俺に吸収される。その瞬間、俺は体の奥底から膨大な力が溢れてくる。その状態で俺は、炎タイプではなく毒タイプのエネルギーを蓄え、活性化させる。バックステップでスタンバイしているブースターの足元に紫色の物体を出現させ、彼を毒状態にさせた。
『…ヤライ、待たせたな! 』
『辻斬り! …その様子だと、終わったようね? 』
『逃がしませんよ。波動弾! 』
『空元気…! ここからが…、本番だよ! 』
特性で強化されるらしいが…、本当に大丈夫なんだろうなぁ? 十メートル以上離れている距離を駆け抜けながら、俺はヤライの元へと駆け寄る。この間ずっとルカリオの相手を任せっきりになってしまったが、分身が全て消滅していただけで、彼女自身のイリュージョンはまだ解けていなかった。俺が呼びかけたのは丁度ゴツイ腕で斬りかかったところで、俺の呼びかけを聴きとると、すぐに後ろに後退し始めていた。
だが相手もタダでは逃がそうとはせず、手元に気弾を造りだし、ヤライに向けて解き放つ。本来なら神速で追撃するところだと思うが、おそらくヤライの特性を警戒して、特殊技にしたんだと思う。…だがこれは俺にとっては好都合。ルカリオが手元にエネルギーを集め始めた瞬間から、彼の事を強く意識する。密かに俺のエネルギーとリンクさせることで、ものまねの効果でその技をコピーした。
しかしこのままでは誰かしらダメージを食らう事になるので、そこへ手が空いているブースターが駆けこむ。毒状態なので顔色が悪いが、それでも構わず、力を溜めて放たれた気弾に突っ込む。多少ダメージを食らっていたかもしれないが、技の効果、特性とかけ合わせている事もあり、おそらくは最小限に抑えれられているだろう。
『本番、ですか。そちらのお二方で争っていたようですが、そのような事をして良かったのですか? 跳び膝蹴り! 』
『お前が心配する事はねぇーよ! これが俺達の作戦だからなぁ! …波動弾! 』
『なっ…』
『アタイが認めたヘクトの戦法、食らうがいいわ! ナイトバースト! 』
『…っ! 』
ヤライ、ブースター、一気にいくぞ! 相手の波動弾は失敗してしまったが、それでも彼は構わず攻撃を続ける。丁度気弾を防ぐために接近していたブースターを狙い、軽く跳び上がる。そのまま体重移動で勢いをつけ、斜め上方向から蹴り飛ばそうと跳びかかっていた。
流石にこの技までは把握していなかったが、向こうからわざわざ接近してくれるのなら、俺達としては願ったり叶ったりな展開だ。俺はブースターの右斜め前に移動し、さっきコピーした技を発動させる。一時的にではあるが格闘タイプのエネルギーを口元に集め、それを丸く形成する。咳をするような…、コットの目覚めるパワーのような感じで撃ちだし、空中から跳びかかるルカリオを狙撃する。慣れない系統の技と言う事もあって狙いは外れたが、相手の気を一瞬逸らす事には成功した。
俺の攻撃は外れたが、そもそも俺は牽制が目的だった。俺と同じタイミングで反対側に移動していたヤライが、得意の黒い衝撃波で俺の方に飛ばしてくれた。
『まだまだこれからだぁッ! 袋叩き! 』
『まさか…、これが作戦…? 』
『コット! 』
「うん! 」
ヤライ、ナイスだ! 作戦通りにヤライが飛ばしてくれたので、俺は狙い通りに十八番の連携技を発動させる。狙いを定めながらタイミングを測り、まずは頭を低くして体勢を低くする。俺の数十センチ斜め上に来たタイミングで、俺は斜め上に跳び出すようにヘディングを食らわせる。
『っく! 』
「イグリー、オークスはいないけど、いつも通り頼んだよ! 」
『もちろん! その方が俺もやりやすいからね』
相手をボールのように扱いながら、仲間達との連携でじわじわとダメージを与えていく。俺が飛ばした先にコットがまわり込み、頭を振り上げる事でルカリオを打ち上げる。体格差があって苦労するとは思うが、流石に慣れているから問題はない。打ち上げた先にイグリーが出場し、右の翼を打ちつけてルカリオを叩き落としていた。
『ネージュ! 』
『次はヤライにパスしてくれ! 』
『うっ、うん! 』
その下にはネージュが待ち構えていて、左に頭を振りながら打ちつける事で、ボールを俺から見て奥へと飛ばす。ここで俺の技の効果は終わるが、その寸前に飛ばす方を言い放ったので、ネージュは俺の期待通りの場所にかっ飛ばしてくれた。
『ネージュ、後はアタイらに任せときな! ヘクト、中々良い作戦じゃない! …ギガインパクト! 』
『…跳び膝蹴り…っ! 』
『っあぁっ…! 』
まさか、ここで反撃されるとはな…。ネージュが飛ばした先で待ちかまえていたヤライは、ありったけの力を溜めてルカリオに向かう。タックルで大ダメージを与え、タイミングを伺っているブースターの方へ送ろうとする。…だが流石にここまで来ると、ルカリオも黙って攻撃を食らう事はしなかった。飛ばされながらも体勢を整え、右足を突き出してヤライに対抗…。互いに最高速度でぶつかった事もあり、ヤライはイリュージョンが解かれ、ルカリオも反対方向に弾かれてしまっていた。
『えっ大丈ぶ…』
『ヤライはたかが一発でやられる程弱くはねぇー。相性的には不利だが、俺が認めた強者だ! ヤライは絶対にやられはしねぇーよ! …だから心配するな! 』
『そっ、それなら…、フレアドライブ! これでトドメ! 』
流石に心配だが…、ヤライなら耐えるはずだ! 予想外のタイミングでヤライが大ダメージを追ってしまったが、そこでやられるような奴じゃないって俺は信じている。もしここでヤライが意識を手放したら、ヤライだけでなく俺、それからブースターもバトルに敗れてしまう。そもそもヤライの事だから、意地でも耐えてこの後の戦闘にも絡みたいと言い出すだろう。俺はこう思っているが、ブースターはそう思ってないらしいので、俺は彼にこうはき捨てて作戦を遂行するよう促した。
『…っく…。…お見事…、です…』
俺に説き伏せられたブースターは、慌てて炎を纏う。全身に力を蓄え、地面に叩きつけられたルカリオに捨て身で突っ込む。今度は相手に直撃し、弱点属性と言う事もあり大ダメージを与える事に成功する。俺達の連携技が地味に効いていたのか、ブースターの渾身の一撃で、ルカリオは意識を手放していた。
「…流石、ここまで勝ってきた事だけはありますね。ルカリオ、ご苦労様です」
『とりあえず…、ひとりは倒せたね』
『あぁ』
『だけど…ゾロアーク…で良いんだよね? キミは…大丈夫なの? 』
『…あんたは、アタイがこの一発で倒れる…、って思ったようね。…だけどその質問…、愚問ね…。…確かにアタイは…、守りに関しちゃ脆いけど…、しぶとさに関しちゃあ…、チーム内で最強を…、うたってるわ…。…あんたこそ…、進んで毒状態になって…、限界が近いんじゃ…、ないかしら? 』
『確かにね…。だけどこれが…僕の戦い方…。特性が“根性”だから…もう慣れたものだ…』
『ヤライ、ブースター、次来るぞ! 』
どっちも限界が近いだろうが、そうも言ってられねぇ―よ! だから、気を取り直していくぞ! 何とか相手のひとりめを倒し、ヤライとブースターは一息ついているらしい。…だが俺は、まだ緊張の糸を解かない。ふたりはこうして皮肉を言いあっているが、その間に相手は出場し終えている。ここでやられては元も子もないので、ふたりの会話を遮り、俺は強めにこう言い放った。
『…砂嵐。どうやら、ふたりは限界みたいだな』
『熱風! その方が、スリルがあって戦い甲斐があるってもんだろぅ? お前こそ、有利だからと言って油断するんじゃねぇーぞ! 』
なるほどな。ここで三にん揃って勝とうと思ったら、即行で決着を着けないといけないという訳か。ジムリーダー側のふたりめ、ハガネールは高い位置から俺を見下ろし、勝ち誇ったように言い放つ。それを表すかのように、彼はエネルギーを解放し、砂交じりの風を吹かせる。それに対して俺は、炎のエネルギーを全身に行き渡らせ、すぐに開放する。そうする事で、後ろから焼けつく突風を吹かせながらこう言い放った。
『そう…だね…』
『ヘクト…、この後の作戦は…? 』
『ヤライ、お前は後方支援だ。ブースターのお前は、俺と攻める。…当然、まだ動けるよなぁ? 』
『うん。願い事で回復しながら戦ってるから…、まだまだいけるよ』
それなら問題ないな。パッと見た感じ、ヤライはふらついていて今にも倒れそうだが、この砂嵐ぐらいなら辛うじて耐えてくれるだろう。…だがそれでももってあと数分、そんなところだろう。だから俺は、ここからは俺とブースターで一気にケリをつける、そうする必要があると強く感じる。だから彼の状態の確認を含め、こう訊ねた。
『それなら、ヤライは影分身でかわし続けてくれ。ブースターのお前は、フレアドライブと特殊技で、一気に攻めるぞ! …波動弾! 』
そうしないと、最悪同時に三にん倒される可能性があるからな。手短に作戦を伝え終えると、俺は先陣を切って行動を開始する。ルカリオからコピーした気弾を口元に創りだし、デカいハガネールに向けて二発解き放つ。
『それなら…、せめて遠距離から…、攻撃するわ。…ナイトバースト…! 』
『特殊技なら…シャドーボール! 』
『…っ! 目障りだ! ストーンエッジ! 』
『もう一発熱風! 』
…接近戦ならそうも言ってられないが、あのヤライだ。きっとうまくやってくれるだろう。倒れる寸前の彼女に対して、俺は期待と心配、二つの感情に挟まれてしまう。だが後がない以上そうも言ってられないので、後者を無理やり心の奥底に圧し込み、その想いを掻き消す。彼女は彼女で精いっぱいの事をしてくれるらしく、はハガネールから最も離れた位置から、黒い衝撃波を飛ばしてくれる。ブースターも合わせて漆黒の弾を四発放ってくれたが、それは相手のせり上げる岩石群に阻まれてしまっていた。
『っく…! 熱風、ここまで強かったか…? 』
『さぁな? これでお前も、余裕でいられなくなるよなぁ? 』
『フレアドライブ…! …ヘルガー君…後は任せたよ』
『おぅ、任せろ! お前の炎、しっかり受け取った! だから、後はヤライを守ってやってくれ! 』
『うん…! 』
ブースターの方も、耐えてあと数分といったところだろうな。ブースターの炎技で強化されていると言う事もあり、距離はあったがそこそこのダメージを与える事が出来たと思う。この威力に流石にマズイと感じたのか、ハガネールから余裕の笑みが消える。俺は俺でこんな風に答えていると、真後ろから熱と共に衝撃が俺に襲いかかってくる。だがそれは、ブースターからの援助。時間的にも回復が追いつかなくなる頃だと思うので、俺は炎が吸収されるのを待たず、次の攻撃の準備に入った。
『確かに、そうだな…。地し…』
『攻撃はさせねぇーよ! 波動弾連射! 』
ここまで使うと、流石にコツが掴めてきたな。この構えからすると、相手はおそらく地震で一掃しようとしているのかもしれない。…確かに地震なら、倒れる寸前のヤライだけでなく、相性的に有利な俺とブースターも倒すことができるだろう。だがそうされては、俺達が負けてしまう。本来なら四にんとも敵同士だが、仮に手を組んで戦っても反則にはならない。ここまで来たなら、俺だけでなくヤライとブースターも勝たせたい、そういう思いが、俺の中に強く根付いていた。
『…っ! だが、一度でも発動さ…』
『そう上手くいくと俺は思わないけどなぁ? 熱風! 』
『ぐぅっ…』
そう思ってるかもしれねぇーが、種族上無理なんじゃねぇーの? ハガネールはまだ諦めていないらしいが、俺はムダな足掻きだと思っている。オヤジの仲間にハガネ―ルがいたから知っているが、確か物理的な攻撃には強いが、特殊技に対する守りは脆かったはず…。そこへ俺の強化された熱風が襲いかかっているから、相当のダメージが通っている事だろうる。その証拠に、ハガネ―ルは俺の攻撃を為す術無く食らう事しか出来なくなっていた。
『これでトドメだぁっ! 』
本当はもっと駆け引きを楽しみたいところだが、そうしているとヤライは砂嵐、ブースターは俺の毒に耐え切れず、間に合わなくなる。だから俺は、送り込むエネルギーをさらに増やし、突風の温度を上げていく。こうなると俺自身のエネルギーがもつかが心配だが、三にんで勝つためなら、背に腹は代えられない…。半ば賭けになるが、俺はありったけのエネルギーを炎の属性に変換していった。
Continue……