Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Treize de Cot 〜灯台が示すその先へ〜
Quatre-vingts-quinze 訪れる平穏
 Side コット



 『…さすがにこれだけとんだらもうおいかけてこないよね』
 「多分そうだと思うよ。渦巻島から結構距離があるし…」
 絶対にそうとは言い切れないけど、大丈夫だね、きっと…。浸水が始まった渦巻島から脱出した僕達は、水中を進んでアサギシティを目指した。ルギアのニアロさんに乗せてもらっていたから、空を飛んだほうが速い気がしなくもなかったけど、それだとプロテージの組員に見つかって戦闘になる事も考えられた。ただでさえ幹部との戦闘で疲れが溜まっている上に、空中、それか水上で戦えるのは、僕、イグリー、ネージュの三にんぐらい。エレン君も入れると四にんだけど…。
 そんな訳で僕達は、一時間ぐらいもの時間を密猟組織から逃げ切る。浅瀬に近づいてから空に変えたけど、その時には追いかけられてはいなかった。だから少しだけ警戒しつつも緊張を解いて、浜辺に上陸してから一息つく。ブイゼルの姿のままのエレン君は、海の方に目を向けながら、こう呟いていた。
 「海の中を泳いでたから、大丈夫だね」

  そこそこ深い場所を泳いでいましたからね。

 「うん」
 お蔭で体中がずぶ濡れだけど、その事はもうどうでもいいかな? カナはニアロさんを見上げながら、だよね、って話しかける。カナ自身も服とか荷物が全部濡れちゃってるけど、この何日かで慣れているらしく、大して気にしていなさそう。ニアロさんはニアロさんでカナの方を見下ろし、丁寧な言葉でこう答える。改めてこうして見てみると凄く大きいけど、姿勢とか態度は対照的にあまり大きくはなかった。
 『…それとエレン? 無事逃げ切った訳だから、そろそろ姿を戻してもいいと思うんだけど…』
 『あっうんそうだね』
 「…にげるのにむちゅうですっかりわすれてたよ」
 そういえばエレン君、渦巻島に逃げ込む前からずっとその姿だったもんね。ニアロさんは思い出したように口を開くと、脱力して腰を下ろしているエレン君にこう提案する。彼自身もその事を忘れていたらしく、ニアロさんに諭されてようやく気付いたらしい。ちょっとだけ声をあげてから姿を歪ませ、元々の人間としての姿で笑顔を見せる。相変わらず早口だけど、彼の笑顔を僕は久しぶりに見た気がした。
 「エレン君も? わたしもだよ! 」
 「あははは…。こういうのは慣れてるつもりだったけど、やっぱりそうはいかないね」
 『組織に追われる事は、そうありませんからね』
 「ちょっと僕達の感覚がおかしくなっちゃってるけど、普通はそうだからね。…ひとまず、無事に逃げ切った訳だし、アサギもすぐそこだから、センターに行ってみよっか」
 「そうだね」
 僕達は途中からだったけど、結局今日も戦いっ放しだったからね。カナもエレン君につられるように笑い声をあげ、僕も思わずそんな気分になる。この旅の半分ぐらいは密猟組織と戦ってきたけど、やっぱり今回も似たような感じだった。…けど僕はそのつもりだったけど、乗り切ったって分かった瞬間、一気に疲れが体にのしかかってきた。よく考えたらヨシノの一件からまともに休めていないから、気付かなっただけで疲れが抜けきっていなかったのかもしれない、僕は率直にそう感じた。
 だから僕は、トレーナーの二人にこんな風に提案してみる。ニアロさんが海から出た時にしか見てないけど、僕達はアサギシティの西側の浜辺に上陸しているはず。街からもそれほど離れていないはずだから、今日の宿をとるためにも、早めに行動した方が良いかもしれない。…本音を言うと早く休みたいんだけど、名目上はみんなを回復してもらうため、だね。そんな訳で、僕達は疲労で重くなりつつある体を引きずりながら、その港町を目指した。


――――



 Side コット



 「…エレン君、大丈夫? 」
 「あははは…なんとかね」
 うーん、僕はそうは見えないけど…。あの後部屋を取ってからは、ずっと部屋でゆっくりしていた。混んでたけど二人部屋をとれたから、僕はみんなといろんな話をして過ごしていた。流石にニアロさんは大きすぎて出てなかったけど、その分ニドとかヤライさんとか…、旅の思い出話に華を咲かせていた。ニアロさんが僕の二つ年上、ヤライさんはまたその二つ上って事にはビックリしたけど、充実した時間を過ごすことができた。
 そして一夜明けて、僕達は本来の旅を再開するため、揃ってセンターを後にしている。色んなことがあり過ぎてつい忘れそうになるけど、元々はジョウト中のジムを巡る事が旅の目的。だから僕達は、これからアサギのジムに挑戦するつもり。時間も九時半ぐらいでそこそこ早いから、多分一番乗りで挑戦できると思う。…だけどエレン君は昨日のバトルでの疲れが出ているのか、肩とか腕を揉みながらこう答えていた。
 「だけどあんなにおよいだのはひさしぶりだからしっぽがきんにくつうだよ」
 「尻尾が? …あっ、そっか。昨日は尻尾を高速回転させて泳いでたもんね」
 「ぼくのしょぞくはそういうおよぎかただからしかたないんだけどね」
 やっぱり姿が違っても、その影響が出るのかもしれないね。エレン君は強張った体を解しながら、若干苦笑いを浮かべる。元の姿なのに尻尾っていわれると、一瞬戸惑っちゃうけど、よく考えたらどっちもエレン君だから、納得は出来ると思う。どっちの姿でも、ユウキさんは右のほっぺに火傷の痕があるし、ライトさんに至っては左目が見えなくなっている。人間には尻尾なんて無いけど、エレン君にとってもそれが当てはまるのかもしれない、僕はこう思った。
 「だよね。…そういえばカナ? アサギのジム戦は誰でいくつもりなの? 」
 「うーん。ちょっと変わったルールみたいだけど、まずはオークスかな? 」
 「かわったルール? 」
 そっか。オークスならメガ進化できるから、地震を連発さえしなければ、大抵は何とかなるからね。僕はここで話題を変え、パートナーの彼女に問いかけてみる。結局ニド達と話し込んでたから相談できてないけど、多分カナはカナなりに考えていたんだと思う。詳しいルールと属性までは覚えてないけど、僕達の中では一番パワーがあって大きいオークスなら、どの属性でも何とかなると思う。
 「うん。僕も詳しくは分からないんだけど、マルチバトルとは違うルールで四人同時に…」
 「あっ、カナちゃん! 久しぶり! 」
 「んっ? あっ、うん! ミヅキちゃんも、久しぶりだね! 」
 びっ、びっくりした…。四人同時に戦うんだよ、僕はエレン君に説明してあげようとしたけど、その途中で誰かに遮られてしまう。もの凄く久しぶりですぐには思い出せなかったけど、カナに気付いた彼女の事は、僕は良く知っている。合うのは初めてのジム戦の後にエレン君とトライバトルをして以来だけど、その彼女は、カナとはスクールの同級生のミヅキちゃん。相変わらずのパッと明るい声で、背を向けているカナにこう呼びかけていた。
 「ええっときみはたしか…キキョウでたたかった…」
 「うん! きみは、ニドランを連れてたエレン君だよね? 」
 「そうだよ」
 「って事は、カナちゃん達って一緒にジム巡ってたの? 」
 「ううん、わたし達も昨日会ったばかりだよ」
 「だからべつべつだね」
 ミヅキちゃんと別れてから何回も会ってるけど、一緒に旅してた訳じゃないからね。再会した彼女はカナとエレン君の間で視線を行き来させ、そのまま後者にこう質問する。エレン君に会ってたのかは分からないけど、彼女は僕達の道中の事は全く知らないはず。だからカナ、それからエレン君は、揃って彼女の質問に首を横にふっていた。
 「そうなの? 」
 「うん」
 「じゃあカナちゃん? カナちゃんって何個バッジ持ってる? ちなみに私は六個だよ」
 六個なら、きっと残りはこことタンバだね。
 「オイラはごこだよ」
 「わたしは七。アサギのジムで最後だよ」
 「えっ、もう七個なの? 」
 「うん。僕達、ワカバの方から海を越えてきたから…」
 「えっ、だっ、誰? 」
 「あっ、そういえば、ミヅキちゃんはコットの事は知らなかったんだよね」
 僕もうっかりしてたけど、僕って、普通だと考えられない事してるもんね。三人は自分のバッジの数を教え合い、それぞれの事を話しはじめようとする。僕達は一般的なルートで巡らなかったけど、この数なら、ミヅキちゃんはエンジュからチョウジに抜ける経路で進んでると思う。途中までは僕達もそうだったけど、ヨシノから海に出たから、僕達の順番は少し違う。エレン君達は色々あってそれどころじゃなかったと思うけど…。
 で、僕はいつものように話そうとしたけど、その途中で驚きに満たされた声に遮られてしまう。エレン君といたからすっかり忘れてたけど、僕はサンダースだから、普通なら人の言葉は喋れない。当然ミヅキちゃんは今までにないくらい取り乱してしまい、その声の主を探すため、キョロキョロと辺りを見渡す。カナ自身も忘れていたらしく、思い出したようにこう話しはじめていた。



  Continue……

Lien ( 2017/07/30(日) 15:05 )