Six 上級者のバトル
Sideコット
「ふぅー、やっと着いた」
『バトルとかしてたら、やっぱり時間もかかちゃうもんね』
あの後ぼく達は、野生のひとたちと戦いながら、次の町を目指した。「エレン君から聴いた」っていうアドバイスを元に戦ったぼくは、予想以上に好調…、一回も負けずにここまで来れた。そのお蔭でぼくは、バトルのコツを掴み、新しい技を使えるようにもなった。
――カナが言うには、攻撃技だけじゃなくて、尻尾をふるみたいな、補助技も使うといいみたい。ただ使うだけじゃなくて、相手によって使い分けたほうが良いらしい。一応使えたけど、流石にそこまでは知らなかったなー。それから、これは後で聞いた事なんだけど、ぼくが初めて戦った時、ニド君、三つの技以外に、睨みつけるも使ってたんだって。だから、二発目の方が痛かったのかもしれないね。睨みつけるって、守りを下げる技だから――
そうこうしているうちにぼく達は、ワカバの隣町、小さな港がある、ヨシノシティに辿りついた。この町はワカバとは違って、スーパーとか喫茶店みたいな店が多い。人通りもそれなりにあって、地方都市に相応しいくらい賑わっていた。人が多いって事はもちろん、トレーナーの数も多い。している数は疎らだけど、二、三組ぐらいが、自分のメンバー同士でしのぎを削っていた。
「ねぇコット、初めてわたし達だけでヨシノに来たんだし、ポケモンセンターに寄ってみない」
『えっ…、センターにいくの? センターは、ちょっと…』
カナは早速、って感じで、目を輝かせながらぼくに訊いてきた。でもぼくは、カナに申し訳ないと思いながら、語尾を濁す。ぼくには絶対に譲れない事があるから、絶対にイヤ、っていう意味を込めて、ぶんぶんと首を大きく横に振った。
――センターに行くって事は、ぼくの回復をしてくれるってことでしょ? それなりにエネルギーを使ったから嬉しいんだけど、ボールの中に入らないといけない。モンスターボールの中に入るのだけは、嫌だ、絶対に! ボールに入るぐらいなら、マトマの実をニ十個食べて、倒れる方がマシだよ――
「ごっ、ごめん」
ぼくがボールぎらいになったのはカナのせいなんだから、わすれないでよね。
ぼくの反応を見たカナは、その事をハッと思い出し、慌てて謝ってきた。でもぼくはちょっとでも忘れられた事が気に入らなかったから、彼女の事を睨みながら、こう書き加える。そしてぼくは、自分の気持ちを伝えるために、プイッとそっぽを向いた。
――カナが忘れっぽいのは十分心得てるけど、パートナーとして、これくらいは覚えていて欲しかったよ――
怒りの感情に満たされてたぼくは、そう考えたら、急に熱が冷めた。怒と入れ替わるように、失望感で満たされたぼくは、はぁー、と、一つのため息をつく。その時、ぼくの耳と尻尾は力なく下がっていた。
「コット、本ッ当にごめん! 次からは絶対に忘れないから、ね」
『…絶対、だよ』
――絶対だよ――
彼女は、感情を顕わにするぼくに、土下座をする勢いで謝る。あまりにも大きな声だったから、周りにいた人達のうちの何人かが、驚いでこっちに振りかえっていた。
その彼女に対して、ぼくは少し申し訳ない、と思った。色んな想いに満たされながら、ぼくはチラッと、彼女の方に振りかえった。
『忘れないでよね』
ぼくは微かな願いもこめて、こう呟いた。
「だからコット、元気出して」
『うん』
完全に沈み込んでいるぼくに、彼女は優しく語りかけてくれた。それにぼくは二、三秒ほど間を置き、小さく頷いた。
「あそこでバトルしてるみたいだし、見ながら気持ちを切り替えよ! ねっ」
『えっ、あっ、うん』
彼女はぼくを励ますように、明るくこう言う。それと同時に、大体三十センチぐらいのぼくを、突然抱き上げた。ぼくはいきなりだったから戸惑ったけど、されるがままに空返事で、それに応じた。
そして、ぼくを両手で抱えたカナは、バトルをしていると思われるその方向、ポケモンセンターの前を目指して歩き始めた。
―――――
Sideコット
「ニトル、いつも通りお願いね」
『うん、とりあえず、やってくるよ』
「最後のチャンスだ。パチリス、いけ」
『うん…。私、頑張るよ』
カナに抱えられてセンターの前まで来たぼくは、バトルをしている人たちの威勢のいい声を聴き取った。何匹か戦った後なのか、女の人の方には、三匹のポケモンが控えている。ワカバとヨシノ、キキョウでもあった事が無いから、何ていう種族なのかは分からないけど、彼らは、自分達の仲間にエールを送っていた。その言葉に答えたのが、見た感じ仲間達の中では一番小さい…、とはいっても、ぼくよりも大きな彼が、気合十分といった様子で躍り出た。その彼の種族は、ぼくの種族、イーブイが進化できる種類のうち、水タイプに派生したもの…、シャワーズ。ニトルと呼ばれた彼は、信頼したように自分のトレーナーの方に振りかえっていた。
――シャワーズってぼくも進化できる種族だから、親近感が湧くなぁー――
それに対し、厳つい感じの相手トレーナーは、見た目とは正反対の、個人的には可愛い分類に入るパチリスを繰り出した。
「電光石火で攻めろ」
『足の速さだけは負けないんだから! 電光石火』
先手を打ったのは、パチリス。声からして彼女は、二、三歩ぐらい助走をつけてから、四肢に力を込める。ターンっと思いっきり踏み込むと、目にも留まらぬ速さで駆け出した。
それに対し相手のトレーナーは、何も指示を出さない。それどころか、手に抱えていたスケッチブックを広げ、持っていた筆で何かを描き始めた。トレーナーの行動に反して、シャワーズのほうは、相手との距離を測り、タイミングを見極めている様子…。正面から迫るパチリスを目で追い、出方を伺っていた。
――えっ? 指示、出さなくていいの? このままだと、やられちゃうよ――
ぼくはこの光景を、ハラハラしながら見守った。
『狙いが甘いよ』
『えっ、かわされた』
「ちっ。 放電だ」
『ほっ、放電』
ニトルっていう彼は、相手のスピードから計算して、タイミングを合わせた。二メートル手前まで迫った時に少しだけ前かがみになり、前足に力を溜める。一メートルになると、それを解放し、左斜め前に飛び出した。その甲斐あって、彼は何事もなく先制技を回避した。
――すっ、凄い――
それもただかわすだけに留まらず、尻尾を右向きに振って勢いをつけ、向きを百八十度変えていた。
一方のパチリスはというと、かわされたことに対して戸惑いの声をあげる。でもすぐにトレーナーの指示を聞き、ほっぺのあたりからパチパチと火花を散らした。それを一気に解き放ち、半弧状に電気の壁を造りだした。それは前に進むごとに長くなり、水タイプの相手に襲いかかった。
こんなピンチなのに、彼のトレーナーは、まだ指示を出さない。目の前をチラチラ見ながら、絵を描くだけだった。
――本当に何してるの? あの人、相性とか、本当分かってるの? 水タイプに電気技は効果抜群。だから倒されちゃうよ――
ぼくはいても経ってもいられなくなり、カナの腕の中から跳び下りた。我慢の限界になりぼくは遂に…、
『シャドーボール連射』
『あぶ…、えっ』
声をあげて危険を知らせようとした。でもその前に、シャワーズはトレーナーの指示を待たずに行動に移った。まず初めに、前足が地面に付いたのと同時に、黒いエネルギーを口元に蓄える。一センチにも満たない大きさなのに、それを前に撃ちだした。間髪を入れずに、もう一個球をつくる。今度はさっきよりも大きく、五センチぐらいまで溜めていた。その大きさになると、一発目からほんの少しだけ左斜め下にずらし、発射した。驚いた事に、ここまでかかった時間は、わずか二秒。ぼくはあまりの早業に、思わず声をあげてしまった。
その間にも、一発目の黒い球が、黄色い壁と接触する。大きさにかなりの差があるのに、色が濃い方が勝っている…。それが触れた部分と、その周り七センチぐらいが、一瞬にして消滅していた。
――あんなに小さかったのに、放電を打ち消した? 嘘でしょ――
ぼくはこの瞬間、このバトルに釘づけになった。
『えっ、防がれた? きゃぁっ! 嘘…、だよね』
予想外の光景に、パチリスは驚きで声を荒げる。声を完全にあげ切る間もなく、第二波が彼女にヒットした。為す術が無かった彼女は、派手に吹っ飛ばされ、五メートルぐらい離れた場所に落下する。歯を食いしばって立ち上がろうとしていたけど、それが叶わず、崩れ落ちてしまった。
――凄い…、凄すぎる…。相性が悪いのに、たった一発で倒すなんて…。こんなに強いひと、初めてかも――
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