Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Un De Cot 〜芽生える若葉〜
Six 上級者のバトル
  Sideコット



 「ふぅー、やっと着いた」
 『バトルとかしてたら、やっぱり時間もかかちゃうもんね』
 あの後ぼく達は、野生のひとたちと戦いながら、次の町を目指した。「エレン君から聴いた」っていうアドバイスを元に戦ったぼくは、予想以上に好調…、一回も負けずにここまで来れた。そのお蔭でぼくは、バトルのコツを掴み、新しい技を使えるようにもなった。
――カナが言うには、攻撃技だけじゃなくて、尻尾をふるみたいな、補助技も使うといいみたい。ただ使うだけじゃなくて、相手によって使い分けたほうが良いらしい。一応使えたけど、流石にそこまでは知らなかったなー。それから、これは後で聞いた事なんだけど、ぼくが初めて戦った時、ニド君、三つの技以外に、睨みつけるも使ってたんだって。だから、二発目の方が痛かったのかもしれないね。睨みつけるって、守りを下げる技だから――
 そうこうしているうちにぼく達は、ワカバの隣町、小さな港がある、ヨシノシティに辿りついた。この町はワカバとは違って、スーパーとか喫茶店みたいな店が多い。人通りもそれなりにあって、地方都市に相応しいくらい賑わっていた。人が多いって事はもちろん、トレーナーの数も多い。している数は疎らだけど、二、三組ぐらいが、自分のメンバー同士でしのぎを削っていた。
 「ねぇコット、初めてわたし達だけでヨシノに来たんだし、ポケモンセンターに寄ってみない」
 『えっ…、センターにいくの? センターは、ちょっと…』
 カナは早速、って感じで、目を輝かせながらぼくに訊いてきた。でもぼくは、カナに申し訳ないと思いながら、語尾を濁す。ぼくには絶対に譲れない事があるから、絶対にイヤ、っていう意味を込めて、ぶんぶんと首を大きく横に振った。
――センターに行くって事は、ぼくの回復をしてくれるってことでしょ? それなりにエネルギーを使ったから嬉しいんだけど、ボールの中に入らないといけない。モンスターボールの中に入るのだけは、嫌だ、絶対に! ボールに入るぐらいなら、マトマの実をニ十個食べて、倒れる方がマシだよ――
 「ごっ、ごめん」

  ぼくがボールぎらいになったのはカナのせいなんだから、わすれないでよね。

 ぼくの反応を見たカナは、その事をハッと思い出し、慌てて謝ってきた。でもぼくはちょっとでも忘れられた事が気に入らなかったから、彼女の事を睨みながら、こう書き加える。そしてぼくは、自分の気持ちを伝えるために、プイッとそっぽを向いた。
――カナが忘れっぽいのは十分心得てるけど、パートナーとして、これくらいは覚えていて欲しかったよ――
 怒りの感情に満たされてたぼくは、そう考えたら、急に熱が冷めた。怒と入れ替わるように、失望感で満たされたぼくは、はぁー、と、一つのため息をつく。その時、ぼくの耳と尻尾は力なく下がっていた。
 「コット、本ッ当にごめん! 次からは絶対に忘れないから、ね」
 『…絶対、だよ』
――絶対だよ――
 彼女は、感情を顕わにするぼくに、土下座をする勢いで謝る。あまりにも大きな声だったから、周りにいた人達のうちの何人かが、驚いでこっちに振りかえっていた。
 その彼女に対して、ぼくは少し申し訳ない、と思った。色んな想いに満たされながら、ぼくはチラッと、彼女の方に振りかえった。
 『忘れないでよね』
 ぼくは微かな願いもこめて、こう呟いた。
 「だからコット、元気出して」
 『うん』
 完全に沈み込んでいるぼくに、彼女は優しく語りかけてくれた。それにぼくは二、三秒ほど間を置き、小さく頷いた。
 「あそこでバトルしてるみたいだし、見ながら気持ちを切り替えよ! ねっ」
 『えっ、あっ、うん』
 彼女はぼくを励ますように、明るくこう言う。それと同時に、大体三十センチぐらいのぼくを、突然抱き上げた。ぼくはいきなりだったから戸惑ったけど、されるがままに空返事で、それに応じた。
 そして、ぼくを両手で抱えたカナは、バトルをしていると思われるその方向、ポケモンセンターの前を目指して歩き始めた。





―――――

  Sideコット



 「ニトル、いつも通りお願いね」
 『うん、とりあえず、やってくるよ』
 「最後のチャンスだ。パチリス、いけ」
 『うん…。私、頑張るよ』
 カナに抱えられてセンターの前まで来たぼくは、バトルをしている人たちの威勢のいい声を聴き取った。何匹か戦った後なのか、女の人の方には、三匹のポケモンが控えている。ワカバとヨシノ、キキョウでもあった事が無いから、何ていう種族なのかは分からないけど、彼らは、自分達の仲間にエールを送っていた。その言葉に答えたのが、見た感じ仲間達の中では一番小さい…、とはいっても、ぼくよりも大きな彼が、気合十分といった様子で躍り出た。その彼の種族は、ぼくの種族、イーブイが進化できる種類のうち、水タイプに派生したもの…、シャワーズ。ニトルと呼ばれた彼は、信頼したように自分のトレーナーの方に振りかえっていた。
――シャワーズってぼくも進化できる種族だから、親近感が湧くなぁー――
 それに対し、厳つい感じの相手トレーナーは、見た目とは正反対の、個人的には可愛い分類に入るパチリスを繰り出した。
 「電光石火で攻めろ」
 『足の速さだけは負けないんだから! 電光石火』
 先手を打ったのは、パチリス。声からして彼女は、二、三歩ぐらい助走をつけてから、四肢に力を込める。ターンっと思いっきり踏み込むと、目にも留まらぬ速さで駆け出した。
 それに対し相手のトレーナーは、何も指示を出さない。それどころか、手に抱えていたスケッチブックを広げ、持っていた筆で何かを描き始めた。トレーナーの行動に反して、シャワーズのほうは、相手との距離を測り、タイミングを見極めている様子…。正面から迫るパチリスを目で追い、出方を伺っていた。
――えっ? 指示、出さなくていいの? このままだと、やられちゃうよ――
 ぼくはこの光景を、ハラハラしながら見守った。
 『狙いが甘いよ』
 『えっ、かわされた』
 「ちっ。 放電だ」
 『ほっ、放電』
 ニトルっていう彼は、相手のスピードから計算して、タイミングを合わせた。二メートル手前まで迫った時に少しだけ前かがみになり、前足に力を溜める。一メートルになると、それを解放し、左斜め前に飛び出した。その甲斐あって、彼は何事もなく先制技を回避した。
――すっ、凄い――
 それもただかわすだけに留まらず、尻尾を右向きに振って勢いをつけ、向きを百八十度変えていた。
 一方のパチリスはというと、かわされたことに対して戸惑いの声をあげる。でもすぐにトレーナーの指示を聞き、ほっぺのあたりからパチパチと火花を散らした。それを一気に解き放ち、半弧状に電気の壁を造りだした。それは前に進むごとに長くなり、水タイプの相手に襲いかかった。
 こんなピンチなのに、彼のトレーナーは、まだ指示を出さない。目の前をチラチラ見ながら、絵を描くだけだった。
――本当に何してるの? あの人、相性とか、本当分かってるの? 水タイプに電気技は効果抜群。だから倒されちゃうよ――
 ぼくはいても経ってもいられなくなり、カナの腕の中から跳び下りた。我慢の限界になりぼくは遂に…、
 『シャドーボール連射』
 『あぶ…、えっ』
声をあげて危険を知らせようとした。でもその前に、シャワーズはトレーナーの指示を待たずに行動に移った。まず初めに、前足が地面に付いたのと同時に、黒いエネルギーを口元に蓄える。一センチにも満たない大きさなのに、それを前に撃ちだした。間髪を入れずに、もう一個球をつくる。今度はさっきよりも大きく、五センチぐらいまで溜めていた。その大きさになると、一発目からほんの少しだけ左斜め下にずらし、発射した。驚いた事に、ここまでかかった時間は、わずか二秒。ぼくはあまりの早業に、思わず声をあげてしまった。
 その間にも、一発目の黒い球が、黄色い壁と接触する。大きさにかなりの差があるのに、色が濃い方が勝っている…。それが触れた部分と、その周り七センチぐらいが、一瞬にして消滅していた。
――あんなに小さかったのに、放電を打ち消した? 嘘でしょ――
 ぼくはこの瞬間、このバトルに釘づけになった。
 『えっ、防がれた? きゃぁっ! 嘘…、だよね』
 予想外の光景に、パチリスは驚きで声を荒げる。声を完全にあげ切る間もなく、第二波が彼女にヒットした。為す術が無かった彼女は、派手に吹っ飛ばされ、五メートルぐらい離れた場所に落下する。歯を食いしばって立ち上がろうとしていたけど、それが叶わず、崩れ落ちてしまった。


――凄い…、凄すぎる…。相性が悪いのに、たった一発で倒すなんて…。こんなに強いひと、初めてかも――



 Continue…

■筆者メッセージ
シルク『“絆のささやき”第十二回目は、ちょっとした裏話をお送りするわ。

薄々気づいてると思うけど、今作、Chance Des Infinitudeでは、コット君側とライト側で、文体を少しだけ変えてるのよ。さっき、何でそうしたのか@に訊いてきたんだけど、「折角主人公がふたりいるんだから、そうした方が違いが分かるから」だそうだわ。言われてみると、そうかもしれないわね。キャラが変われば話し方も変わる。小説では絵は使えないから、逆に文体で表現すれば、読者の皆さんに違った印象を与えられる…。こんなところかしら?

あっ、そうそう! @は自分のサイトを持っていて、そこでココとは違う小説も公開しているそうよ? 中にはポケモンの二次創作もあるみたいだから、探してみたらどうかしら?

最後は告知になったけど、今回はこれで終了。次回をお楽しみ!
Lien ( 2016/04/14(木) 21:43 )