Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































小説トップ
Chapitre Douze Des Light 〜立ちはだかる壁〜
Quatre-vingts-neuf 雷磁に駆ける漆黒の言霊(第肆戦)
 Sideラグナ



 「ラグナ、絶対に勝って! 」
 『…となると、負け越しているという事だな? 』
 あまり状況は良くないのか…。ここまでの戦況は把握できていないが、俺はライトの様子から何となくそれを察する。直接表情を見た訳ではないが、声にどこか焦りがあるような気がする…。
 「うーん、ラグナさんなら…。シルク、試験監督、頼んだよ。…うん、そのつもりだよ」
 「ユウキ君が? 」

  ええ。私が戦ったら正確に実力が計れないから、自粛する、って感じかしら?

 なるほどな。彼は俺の問いかけに、腕を組んで一瞬考える。おそらく属性相性云々を考えているのだとは思うが、この短さは流石と言ったところだろう。俺とライトの間を視線で行き来させる間に、すぐ結論を出す。横で控えるシルクに視線を送り。彼は戦う間の代役を頼んでいた。
 シルクの声が聞こえてこないという事は、おそらく彼女は彼だけに語りかけているのだろう。この様子を見たライトの問いかけの直前にも声が響いてこなかったので、ほぼ確実。遅れて訳を説明していたが、彼女のいう通りだと俺は思う。シルクはチカラで威力が強化され、更に使用できる技の数が六つとなっている。
 「だね。…じゃあラグナさん」
 『ラグナさんは僕が相手するよ』
 『お前がか』
 『うん』
 どういう考えかは知らんが、残りのメンバー的に、という感じだろうな、おそらくは。シルクの言葉に頷くと、彼は俺を一度見る。自然な流れで目を閉じ、精神を統一していく。一秒と経たないうちに姿が歪みはじめ、彼はもう一つの姿、ピカチュウとしての姿で、それを安定させた。
 『…そういえばラグナさんとは、一回だけ戦った事があったっけ? 』
 『ああ。ホウエンの御触れの石室、だったか』
 『あの時は敵同士だったよね、懐かしいよ』
 御触れの石室でしか戦った事はないが、あの時は俺の惨敗だったな。…そう言う作戦だった、とういう理由もあるが…。彼は俺と向き合った事で、嘗てあった事を思い出したらしい。彼らとはホウエンで何回も遭遇した事はあったが、実際に戦ったのはその一回のみ…。仮に勝つ気で戦ったとしても、あの頃の俺では恐らく勝てなかったと俺は思っている。彼のメンバーは傍にシルクしかいなかったが…。
 『だな。…それと…、一つ訊いてもいいか? 』
 『ん、いいけど? 』
 『セイジの処分はどうなった? 』
 『セイジ…、あぁ、ベータの事だね』
 直前に裏切ったとは言っていたが、プライズとして活動していたのには変わりないからな…。思い出話が一段落したところで、俺は気になっていた事を、彼に問いかけてみる。彼にとっては一幹部に過ぎないかもしれないが、俺にとってはそうではない。反社会的組織とはいえ、その中でアイツも含めて入団当初から仲良くしてきた奴だ。今回は敵側として関わることになったが、その後の動向は是非とも知っておきたい。
 『昨日の夜に本人と直接話したことだけど、ベータには僕達の監視下で、罪を償ってもらうよ。…だけど、猶予…、っていうのかな? ライト達に強力してくれてたみたいだから、国際警察には引き渡さなかったよ。その代わりに、壊滅的な被害が出た、ヨシノの復興に最前線で当たってもらう事にしてるよ。プライズの元幹部として、その責任を取らせることでね』
 『そうか』
 ヨシノの復興なら、あいつも奉仕し易そうだな。彼はオーリックの幹部として、例の人物の処遇について説明する。最悪なケースも考えたが、それならセイジも熱心に取り組めることだろう。ジョウト内での奉仕となれば、パートナーのエクサ自身も、再会した息子と会いやすい事だろう。彼がどこまで知っているのかは定かではないが…。
 『ラグナさん、このくらいで大丈夫? 』
 『ああ、すまんな』
 『いいよいいよ。…とりあえず、そろろそ試験、再開しようか』
 『だな』
 セイジの処遇について全て話してもらえたので、彼は気を取り直して本題に入る。一応こう問いかけられたので、俺はすぐにこくりと頷く。ピカチュウの姿の彼気にしないで、という感じで声をあげる。ひとまず一区切りつけ、俺に対して高らかに呼びかけた。
 『…ユウキ、俺はあの時の俺とは違う。全力でいくぞ! 』
 『そう来ないと、僕としても戦い甲斐が無いよ。…それに久しぶりに全力で戦えるんだ、言われなくても、そのつもりだよ! 』
 当然だ! 語る声に力を込め、俺は彼に対して宣戦布告する。あれからかなりの月日が経っている故に、俺はもちろん、彼も今までの彼とは違うだろう。大学で教鞭と取っているとはいえ、元は四つ星のベテラントレーナー。トレーナーとしてもポケモンとしても…、両者で極めた彼は、ある意味メンバーの中ではかなりの曲者かもしれない。
 もちろん彼自身も、この様子だと俺の事をある意味警戒しているのだろう。力強く言い放つ彼は、真っすぐ俺に言い放つ。職業柄今日という日を楽しみにしていたらしく、力強さの中に期待の二文字も含まれていたような気もする。
 『ああ! …影分身! 』
 『電磁浮遊』
 俺の宣言と共に、ライトにとっての第四戦目が開始される。即座に俺は、左右に一体ずつ、分身を作りだす。ほぼ同じタイミングで、彼も戦闘のための準備に入る。八メートルほど離れた俺にも、ビリビリと痺れる感覚が微かに伝わってくる。毛が逆立つほどではないが、おそらく彼は自分の戦い易い様にフィールドを創り出したのだろう。
 『悪いけど、僕からいくよ! 』
 『なっ…』
 『目覚めるパワー! 』
 あっ、あの動きは何だ? 彼は技の効果で、僅かに浮かぶ。かと思うと彼は、どういう原理化は分からないが、地面を滑るように俺に迫ってくる。滑る、というよりは滑空する…、と言った方が正しいだろうか。何かに弾かれたように、手元に紅蓮の球体を生成しながら急接近してきた。
 『悪の波動! 』
 咄嗟に俺自身は、斜め左後ろに跳び下がり、分身二体に前に踏み出させる。バックステップで距離をとり、全身に邪悪なエネルギーを分散させる。一気に解放し、波紋として撃ちだした。
 『っ! 』
 分身の一メートル手前で、彼は手元の炎球を撃ちだす。左側の分身に立ちはだからせた事もあり、その球体は左の分身と共に雲散する。その間に俺自身の波紋も、ユウキに到達する。
 『もう一発目覚め…』
 『先取り…、目覚めるパワー! …なるほどな、俺はこの属性なのか』
 しかしユウキは、予め張り巡らせている磁場の反発を利用し、ほぼ直角の軌道で跳びあがる。そのせいでもう一体の分身も消滅したが、そもそも囮だったので問題ない。実質空中に投げ出されたユウキは、空中で一度エネルギーを溜め、紅蓮の球体を創り出そうとしていた。
 この予備動作で俺は、すぐに彼の次の行動を予測する。あの構えからすると目覚めるパワーなので、俺は彼を強く意識しながらエネルギーを高めていく。すると技を通してそのイメージが流れ込み、鮮明な情景が脳裏に浮かんでくる。その通りにエネルギーを口元で変換し、薄青色の球体として撃ちだした。
 『くっ…。この感じは、水タイプかぁ』
 『影分身。今度は俺からいくぞ! 』
 赤と青は中間で衝突し、相性の関係もあって後者が前者を消滅させる。そのまま空気をかき分け、黄色い発動者を捉える。俺は色だけでは判別できなかったが、炎タイプとの関係、それと被験者からすると、おそらくそうなのだろう。ちょっとした収穫に満足しながら、俺は次なる行動に移った。
 軽く真上に跳び、元いた場所に一体の分身を作りだす。その分身の鼻先に両後ろ足を乗せ、その状態で分身にリフトアップさせる。ユウキ自身が空中にいるので、それなら俺自身も空中へとフィールドを移すのみ…。三メートルほど跳びあがったところでもう一度繰り返し、下降し始めた彼との距離を詰めていく。
 『臨むところだよ! 十万…』
 『先取り、十万ボルト! 』
 彼の次の技を先読みし、発動段階でそれをコピーする。流れ込んできたイメージ通りに技を発動させ、俺は即座に高圧の電気を纏う。俺自身も痺れそうになったが、このくらいなら耐えられる。彼も一歩遅れて同じ行動をし、俺同様目の前に放出しながら襲い掛かってきた。
 『くっ…』
 『っく…』
 地上から五メートルの高さで、俺達は衝突する。それもただぶつかるのではなく、それぞれがそれぞれの方法で追加ダメージを狙う。ユウキは電気を纏いながら横回転し、ギザギザの尻尾で俺を叩きつけようとする。俺自身は大口を開け、上から迫る彼に噛みかかった。
 結果、俺の牙が彼の尻尾を捕え、彼の身動きを一瞬封じる。首を左に振るように向きを変え、この勢いも乗せながら彼を地面に投げ飛ばす。直接彼に噛みついたので、多少は痺れたが問題ないだろう。彼は真っ逆さまに、地面…。
 『…電磁浮遊! 流石にこれは…、効いたよ』
 しかし彼は、地面に叩きつけられる事は無かった。地面スレスレで磁場をコントロールし、自身の体を強く弾く。そうする事で急激に減速させ、その勢いも利用して軽く跳ぶ。弧を描く様に宙返りをし、二メートルほど跳び下がる。だが俺の追撃が効いたらしく、着地でほんの少しふらついてしまっていた。
 『影分し…、くっ…』
 俺も少し遅れ、地上に着地する。分身を踏み台にし、衝撃を緩和…、しようとしたが、それは出来なかった。技をイメージし、エネルギーを解放しようとしたところで、急に俺の中に電気が駆け抜ける。それで痺れて発動する事が出来ず、俺は砂浜に叩きつけられてしまった。
 『これはまさか…、麻痺か』
 『そうだよ…。僕もうかり忘れそうになるけど…、僕の特性は…、静電気だからね』
 そうだった、ピカチュウの特性は静電気…、完全に忘れていた。
 『厄介だな…。…だが…』
 『十万ボルト…! 』
 おいおい、一体何を考えているんだ? 体中の痺れが引いたので、俺は四肢に力を込め、一気に駆け出す。四メートルの距離があるので、その間に悪の波動の準備をする。彼自身も俺に対抗すべく、さっきの電気を体に纏わせる。しかしその電を放出したのは、俺がいる正面ではなく、彼にとっての左側…。海に向けて、高圧の電気を流…。
 『くっ…、なっ…、何だ…? 』
 俺は彼との距離を詰め、至近距離で波紋を解き放とうとする。…しかし俺は、見えない何かに突き飛ばされ、元来た方向に弾き飛ばされてしまう。弾かれるというよりは、壁にぶつかり、圧し返される、そう言った方が正しいだろう。その間も彼は明後日の方向に電気を流し続けていたので、俺は訳が分からないまま飛ばされる事しか出来なかった。
 『フレミングの法則は…、知ってるかな? 磁場が発生してるところに…、電流を流すと、力学的なエネルギーが発生する…、現象だよ』
 『…となると、化学か? 』
 『ううん…、物理学、かな…。今回は、真上に磁場が発生している…、状態で、左向きに電流を流した。…すると、フレミングの法則に…、従って、垂直方向に…、力が働いて…、ラグナさんが弾き飛ばされた…。こんな感じ…、かな』
 …悪いが、さっぱり分からんな。彼は俺に説明してくれたが、あまり理解する事が出来なかった。学問の類というのは察せたが、それっきり…。そもそもスクール時代のアイツは、文系だった。理系の事だとは思うが、そういう訳で全く頭に入ってこなかった。
 『…よく分からんが…、解説、すまんな』
 『あははは…、つい…、ね。職業病、かな』
 『ふっ…、だろうな』
 バトルの真っ最中だが、俺達からは少しの笑いが零れる。学者のユウキらしいな、俺はこういう事が可笑しく、思わず吹き出してしまった。
 『…さぁ、そろそろ…、決着をつけさせてもらうよ…! 』
 …次の一発で、雌雄を決するという訳か。となると、恐らく次は…。ふぅ、と心を地つかせ、彼は一言、こう呟く。若干ふらついているところからすると、さっきのやりとりでそこそこのダメージが通っていたのだろう。彼は両手も使って四足で走りだし、決定的な一撃を与えるべく俺に迫ってきた。
 この行動に俺は、次に仕掛けてくる行動を予想し始める。今回彼が発動させた技を振り返り、それを基に対策を練る。これまで彼が発動させた技は、三つ。目覚めるパワーと十万ボルトと、補助技の電磁浮遊。残りの一つはまだ発動させていないが、彼ならあの技に違いない。なので俺は、彼の一手を確信し、そのための対抗措置に入る。彼を強く意識しながらエネルギーを活性化させ…。
 『気合いパンチ…! 』
 『先取り、…気合いパンチ! 』
 彼の技をコピーし、同じ技で迎え撃つことにした。その結果は…。


  Continue……

Lien ( 2017/06/13(火) 22:27 )