Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜 - Chapitre Douze Des Light 〜立ちはだかる壁〜
Quatre-vingts-quatre 早急性を要する事案
 Sideライト



 『シルク!
 『…―っ! 』

  ライト…!

 これで本当に、終わったんだね…。何とかエンテイを解放する事に成功し、戦場となったタンバに平穏が訪れ始める。戦ってる時は目の前の事に集中して全然気づけなかったけど、脱走したわたしを追ってシルクとフライ、それからカナちゃん達まで来ていた。それだけじゃなくて、多分フライかコルドのどっちかが連絡したんだと思うけど、ユウキ君にオルト、リーフ、スーナ…、全員揃って駆けつけてくれていた。
 それで決着からしばらくして、別の場所で戦っていたラフ、ラグナ、フルロとも合流した。今はティルも含めてカナちゃん達と話してるから、ラフ以外は傍にいない。それにこれはラグナから聴いた事だけど、アルファと幹部のゼータは、ユウキ君、フライ、オルト、スーナの四にんで捕えたらしい。わたし達の上層組織の国際警察に連絡済みみたいだから、あとは身柄を引き渡すだけだと思う。
 で今は、組織のトップが囚われたって事で、プライズの戦闘員たちは戦意を失ってへたり込んでいる。それでわたしはというと、まだメガ進化の効果時間が続いている。だけど“癒しの波動”を発動させたから、相変わらず全く身動きがとれないけど…。そんな中わたしは、やっとシルクを見つけることができた。だからわたしは、出せる限りの大声でその彼女の名前を呼んだ。するとすぐに聴きとってくれたらしく、わたしの方に駆け寄ってき…
 『痛っ…
 ぺチンッ! わたしの元に駆け寄ってくるなり、親友は自身の左前足を上げる。かと思うと、彼女は濡れた砂浜で横たわるわたしの右頬を強めに叩く。代償で物理技が封じられている関係で全然痛くなかったけど、後ろめたい事があるから、別の何かに重く突き刺さる。雨に紛れて、乾いた音が辺りに響き渡った。
 『―――、―――っ! 』

  ライト…、なんで…、何で研究所を抜け出したりなんかしたのよ!

 『ごっ…、ごめん…

  ただでさえまともに動けない状態なのに…。それになんで…、行くなら…、私…、私に一言…、相談して…、くれなかったのよ!

 『だっ、だって…、話したら…
 わたしの頬を振り抜いたシルクは、涙ながらにこう語りかけてくる。喋れなくなっちゃってるから分からないけど、もし今まで通り喋れたら、嗚咽が混ざってると思う。涙が滝のように流れてるし、この短時間で目の周りがが赤く晴れはじめてる。
 『シルク…、絶対に止めてたでしょ?
 『――…、――! 』

  そうだけど…、これとそれでは話が違うわ!

 『シルク…

  ライトがいないと、今回の作戦は成功しない事は分かってたわ…。分かってたけど…、分かってたけど! …もうこれ以上ライトには傷ついてほしくなかったのよ!

 『…ごめん

  これ以上ライトが傷ついたら…、今度は本当に…、ライトが逝ってしまいそうで…、怖かったのよ! だから…、だから…!

 『本当に…、ごめん…
 『―…』

  ライト…

 『シルク…!
 涙ながらに訴える親友に、わたしは何も言い返すことができなかった。雨で濡れてる、っていうのもあるけど、わたしの右目元も、暖かい光で湿ってくる。遂に感情が抑えきれず、白衣を羽織った親友は顔を寄せてくれる。砂地に横たわった状態だから、シルクも体勢を低くし、伏せるようなかたちで寄り添ってくれる。ずぶ濡れだから少し肌寒いけど、かけがえのない親友(シルク)がいてくれるから、ちっとも寒くはなかった。


――――






――――



 Sideライト



 「ライト…、よかった。…あぁ…、殆ど出払ってたかぁ…」
 あれから何時間も経って、今は陽も傾きかけた夕方。シルクと語り合ってからのわたし達は、ひとまずタンバシティのセンターへ。わたしは全く動けないから、ティルに浮かせてもらって、だったけど…。その時はまだ早すぎる時間帯だったけど、シルクに頼んで、部屋の確保をしてもらった。テレパシーを使う事になるから少し心配だったけど、何故か普通に事が済んでいた。直接聴いてないから分からないけど、シルクとユウキ君の出身の地方だから、もしかすると普段から、シルクはこうして話していたのかもしれない。…よく考えたら、シルクは特例でオーリックの地位に就いているみたいだから、わたしの知らないところで話が通ってるのかもしれない。一応わたしの状態もセンターの人に診てもらったけど、あれだけ動けたから、左目以外は軽い打撲だけで何ともないらしい。
 そして今は、センターの部屋でゆっくり体を休めている。ジョウトに来てからずっと忙しかったから、気付かないうちに疲れが溜まってたのかな…? わたしはいつの間にか居眠りしていて、気付いたらこの時間…。まだ自由に体は動かせないけど、姿を変えれるくらいまでは回復した。まだ起きてから三十分も経ってないけど、このタイミングで、わたし達が泊まる部屋に誰かが訪ねてきた。その人物は…。
 「ユウキ君、それからシルクも。プライズの方は良かったの? 」

  ええ。プライズの件に関する報告書も全部ウエに渡して、アルファとゼータの身柄も今引き渡せたところなのよ。

 「ベータに関しては事情が違うから、今晩にでも方針を検討するつもりだよ」
 「そうなんだ。…セイジさん、さっきまでいたんだけど、多分今頃はカナちゃんの部屋の方に行ってると思うよ」
 『多分ラグナとフルロも、そこにいるんじゃないかな? 』
 起きた時にはフルロはいなかったから、いるとしたらそこかもしれないね。訪ねてきたユウキ君とシルクに、わたしはすぐに質問。すぐにふたりとも、手短に答えてくれる。ユウキ君はこの感じだと、多分今回の事件についてまとめて、書類にしていたんだと思う。シルクは昔から、色々と推敲したり纏めたりするのが得意だから、その事に関しては手伝ってもらってたのかもしれない。何しろわたしが就いていた任務以外に、シルク達自身とかユウカちゃん達のもあるから、資料の数がもの凄いことになっているはず…。それを半日足らずでまとめ上げているんだから、ほぼ確実、かな?
 それで出逢った時はプライズ側だったセイジさんの事も話題に出たから、わたしはついさっきの事をシルク達に話してあげる。ユウキ君達が来る五分ぐらい前にはこの部屋にいたけど、夕飯時だからって事で食堂に行った。その時カナちゃん達も一緒にいたから、今回の事件の事も含めて色々と話すんじゃないかな? これは話してた時に小耳に挟んだことだけど、カナちゃんとセイジさんは、何かしらの関係があるみたいだし、そもそもそれぞれのメンバーのヘルガーが親子って、ラグナが言ってたから…。

  そうね、ティル君の言う通り、フルロ君ならヘクト君と話し込んでるかもしれないわね。

 『そうだね。ラグナも、組織にいた頃の思い出話とかをしてるかもしれないしね』
 「フルロ君達ならあり得るかもね。…あっ、そうそう。プライズの事もだけど、ライト、二つ話があるんだけど、いいかな? 」
 「話? うん」
 プライズの事じゃなくて? なら、何なんだろう…。ヘクト君とフルロの事ならふたりとも知ってるから、シルクは納得した笑顔を見せながら言葉を伝えてくれる。直接聴いた訳じゃないけど、フルロとヘクト君は野生時代、リーフとかシルク達からバトルのコツとかを教わっていたらしい。だからユウキ君も、確かにね、って表情を緩めながら呟いていた。
 そのユウキ君は何かを思い出したらしく、短く声をあげてから話題を切り替える。わたしはてっきりプライズの事を伝えに来た、って思ってたから、無意識のうちに首を傾げていた。
 「一つ目は…、ライトの事だよ」
 『ライトの、事? 』

  ええ。

 「ライトは元々、ホウエン支部の所属。ジョウトに助っ人で来てもらってるけど、僕達の管轄内にいる事に変わりない…。…当然、ライトとユウカを含めたメンバー全員の、全ての責任は、支部長の僕にある。…だけど今回、偶然だったとはいえ来てくれたライトに、失明、っていう重大な怪我を負わせてしまった。…これじゃあ、要請に応じてくれたダイゴさんにも申し訳ないよ…。…だからライト、今日で任務は終了することになるけど、ライトにはしばらく、ジョウトに残ってもらうよ」
 「ジョウトに…? 」

  そうよ。報告書を渡した時にウエには伝えたけど、本部とダイゴさん、ユウカにも私達から伝えておくわ。…ユウキと私の権限で、長期の療養休暇を取らせる、ってね。

 『療養…、シルク? ライトの左目の事だよね? 』

  ええ。今はウツギ博士の協力で、応急的な鎮痛剤が効いてるけど、それも二、三日で切れるらしいのよ。だから、もう一度投与するのと、ちゃんとした施設、コガネの病院で治療に専念してもらうわ。

 「コガネ…、って事は、シルクとユウキ君達の近くで、って事だよね? 」
 「うん。病院の方にはこれから話をつけることになるけど、早ければ明後日になる、かな? 」

  そうなるわね。

 って事は、私は入院する、ってことだよね? 神妙な様子で話してくれたユウキ君は、わたしの事で凄く責任を感じているらしい。わたしの不注意で起きた事だから、ユウキ君には何の非も無いんだけど…。…だけどやっぱり、オーリックっていう管理職だから、かな…。右目で見ただけでも、今までにないくらい思い悩んでいるようにわたしには見えた。ユウキ君がこんな感じだから、シルクが代わりにわたしの治療に関する事を話してくれた。

  それとその事に関してもう一つ。これはライトの意思次第なんだけど、入院する前に、本試験、うけてみない?

 「本試験って…、エクワイルの昇格試験の、だよね? 」
 『ついジム巡りと被って忘れそうになるけど、本試験に進むためには、八か所のジムで予備試験を合格しないといけないはずだけど…』
 わたしもそう聴いてるよ。
 「そうだよ。…だけど入院するとなると、そうはいかなくなるんだよ」
 「そうはいかない、って…」

  本試験に進むためには、ティル君の言う通り、八か所の予備試験を合格する必要がある。…だけど、殆ど影響する事はないんだけど、もう一つ、条件があるのよ。

 『条件? アージェントからオーリックに昇格するには、予備試験を一発で合格しないといけない、って聴いてるけど…』

  そうよ。…私は特例で、私ひとりでカロス中のジムを巡って、そこでジムリーダーと本部長を相手に戦っ…。…っと、そうじゃなくて、予備試験の期間は、アージェントへは三週間以内、オーリックは一週間以内、って決まってるのよ。

 「さっ、三週間…。三週間って、入院するってなったら、絶対に間に合わないよね? 」
 確か申請してからの日数だから、ホウエンからの移動を含めると、もう一週間は経ってる。だから、どう考えても…。
 「だからだよ。…本当はプライズ関係の任務で最前線で頑張ってくれたから、すぐにでも昇格してあげてもいいところだけど…。決まり、っていうものがあるからね…。ジムリーダー伝いで話は聴いてるけど、六ヶ所しか合格してないけど、予備試験の特例を採用する事が出来るんだよ」
 「特例って…」

  ライトはオーリックの権限で、今回の為だけに作った決まり、って思ったかもしれないけど、本当にこの決まりが存在するのよ。…私は本部の方に直談判(じかだんぱん)して証明したから話は別だけど、ライトみたいなケースは、これまでに二回ぐらいあった、って前任者から聴いているわ。条件はかなり厳しいけど、試験規約第三条“試験に関する特例”、第二項に、“半数以上の予備試験合格し、かつそのすべてを一発合格した状態で、試験期間以上の日数をやむを得ない事情で受験する事が出来ない場合、残りの予備試験を免除する”、っていう記述があるのよ。

 『ええっと、っていう事は、キキョウはテトラが一発で、ヒワダはラグナ。コガネは俺でエンジュはシアさんが突破して…。チョウジがフルロが戦って、フスベがライト…。ラフはタンバで戦う、って事になってたけど…』
 「うん。わたしは危なかったけど、一応全部、一発で合格してるよ」
 「…だから、どうかな? これを逃すと、規定で一年以上、受験資格を失うことになるけど…」

  最初に言った通り、強制とは言わないわ。今はティル君と寝てるラフちゃんしかいないけど、みんなで相談してみて。…それで、私達は明日までなら時間が空いてるから、朝に相談した事を、教えてくれないかしら?

 「明日の朝…。うん」
 シルクとユウキ君が話してくれた、この決まりは知らなかったけど、ちゃんとそう決まってるなら、今のわたしでも何とかなりそう。三週間以内しか受験できない、って聴いて諦めかけたけど、それならみんなの頑張りも、無駄にはならずに済む。表情的にティルはわたしと考えが同じだと思うけど、あとのみんなはこの場で訊いたわけじゃないから、実際に相談しないと分からない。…多分、みんな同じことを言ってくれると思うけど。…とにかく、シルク達にこう頼まれたから、今晩にでも話し合おう、わたしはそう心に決めた。


  Continue……

Lien ( 2017/06/05(月) 00:04 )